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第4章 死が二人を分断つとも
46 光が照らす先には
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夜子さんを中心に、見渡す限り一面に影の猫が溢れていた。
薄暗いぼんやりとした夕日の光を飲み込んで、黒々とした闇色の猫たちは、その存在がこの場に夜をもたらしているようだった。
しかしそんな闇そのもののような相手を前にしても、善子さんは臆さなかった。
いや、本当は私たちと同じように気味が悪いと感じているはずなのに。
それでも夜子さんを強く見据えて戦う意思を露わにしていた。
動き出したのは善子さんだった。
ただ悠然と佇む夜子さんに、善子さんから仕掛ける。
善子さんは上空高々と光の球を打ち上げた。
眩く輝くそれは、辺り一面を真昼のように照らすほどの強烈な光だった。
それが天高く昇ると、それは途端に弾けて周囲に光の雨を降らせた。
その光景はまるでショーのレーザー演出のような華やかさ。
しかし見かけの輝きではなく、その光の筋一本一本に確かにエネルギーか込められている攻撃だった。
一面に群れる影の猫たちに、広範囲にわたる光の雨が降り注ぐ。
それは猫たちを一掃してしまうほどの攻撃に見えたけれど、しかし猫たちは微動だにせずその光を吸収してしまった。
ダメージを負ったり消えてしまうのではなく、影そのものである猫たちは、当然のように光を飲み込んでいた。
「そもそも影には形なんてないんだから、のらりくらりするのが仕事なのさ。力尽くで消そうとしたって無駄だと思わないかい? さぁ、次はこっちの番だよ」
夜子さんが不敵に微笑んでそう言った瞬間、影の猫たちが一斉に動き出した。
一面を埋め尽くしていた猫たちが一斉に、そして善子さん一点目掛けて動き出すものだから、それはまるで一つの黒い塊のようだった。
闇が蠢いて、形を成して迫ってきているようだった。
それに対して善子さんがいくら光線を放とうと、同じように飲み込まれてしまう。
それを見て防ぐことを諦めた善子さんは、光を身にまとって高く飛び上がった。
「相手が影だって言うのなら、光の強さで飲み込むまで!」
善子さんが両手を大きくい空に掲げると、上空に大きな光の円が浮かび上がった。
善子さんが空へと上がったことで、猫たちも重力を無視して宙を駆けて善子さんに迫っていく。
その光景はさながら闇が蠢く黒い大蛇、或いは龍のようだった。
そんな猫の群れを覆い尽くすほどの巨大な光の円。
善子さんが力任せに腕を振り下ろすと、その円から太い光の柱が降り注いだ。
まるで宇宙からレーザーでも降ってきたかのような、視界を埋め尽くすほどの極光の柱だった。
地面に大穴を開け、そのまま奥深くまで貫いていってしまうのでは思うほどの高エネルギーの攻撃。
その下にあるものを全て輝きで飲み込み、焼き尽くさんばかりの圧倒的な光。
辺りはその輝きで埋め尽くされて、夕日の光すら圧倒するほどだった。けれど。
「真っ直ぐなのはいいことだけど、もっと頭を使わなくちゃ。影は光があるからこそ生まれ、光が強ければそれだけ濃さを増すものだよ」
猫たちは振り落ちる光の柱に正面から衝突していた。
しかしそれによるダメージはなく、寧ろ飲み込みながら押し返しているようだった。
蛇のように長く連なっていた群れを集結させ、光の柱にも劣らぬ広さに展開して、受け止めながら飲み込んでいた。
どんなに強大な攻撃でも、光である限り影を打ち消すことはできないようだった。
「そんなこと、わかってますよ!」
善子さんの姿は既に上空にはなかった。
影の猫の群れが光の柱とぶつかっている間に、光をまとった光速移動で悠然と佇んでいる夜子さんの元へと移動していた。
夜子さんを囲んでいた猫たちは今全てまとまって光の柱を食らっていて、彼女は今完全に無防備だ。
「光は突き進む力。照らす力。導く力。私が、あの子たちの行く先を照らすんだッ!」
善子さんの体が光輝いたかと思うと、突然夜子さんを取り囲むように善子さんが六人に増えた。
それはまるで鏡に移した姿を実体化させたような、全く同じ姿が六人。
光の屈折、または光そのものによる分身のようだった。
夜子さんを取り囲んだ善子さんたちは、その手に光の剣を握って一斉に飛びかかった。
「やっぱりカッコイイねぇ善子ちゃんは。その正しさ、まっすぐさは実に光り輝いて、私みたい者には眩しすぎるよ。でもさ、やっぱりわかってないよ君は。その光の先に何があるのかを」
光をまとい、そして光の剣を持って夜子さんに周囲から迫る六人の善子さん。
しかしその輝きによって、夜子さんの足元には六つの影が伸びていた。
夜子さんはただ普通に佇んでいるだけ。
いつもと変わらない穏やかで、気の抜けた笑みを浮かべているだけ。
しかし、善子さんたちの剣が振り下ろされる直前、夜子さんの足元から伸びる六つの影が立ち上がってそれを阻んだ。
それは先ほどのまでの猫たちとは違い、夜子さんそのものを象った影。
猫の耳と尻尾を生やした人型の影が地面から剥がれて立ち上がり、光の剣を振り下ろそうとしていた善子さんたちの腹にその拳を打ち込んだ。
完全なカウンターに分身だった五人は霞になって消え、本体である善子さん本人は目を見開いて吹き飛んだ。
「強い光の先には、必ずその対局のものが生まれる。君が正しさを貫きたいのなら、それをもっと学ぶべきだね」
吹き飛ばされ宙を舞う善子さんに、上空で光の柱を飲み込み終えた猫の大群が押し寄せていた。
それ自体が一つの生き物のように蠢いて、猫の軍勢が龍のように迫る。
そして善子さんが地に着くよりも早く到達した猫の群れは、容赦なくその身を飲み込んだ。
影そのものである猫たちの塊の突撃。それは濁流のように善子さんを飲み込んで、闇の海流のようにうねうねと宙を飛び回った。
黒々とした闇の中に善子さんの姿を見つけることはできない。
しかしその身を飲み込んで、まるで引き摺り回すように宙を蠢くその様を見れば、影の奔流の中で善子さんが蹂躙されているであろうことは想像に難くなかった。
やがて猫の群れは勢いそのままに地面へと激突して、ぶつかっていく順に地面へと溶け込んで行った。
影の猫たちが全て地面へと溶け込んでいって、最後に残ったのは、力なく横たわる善子さんの姿だった。
「善子さん!!!」
叫んでも善子さんは動かなかった。
ぐったりとうなだれて、力なく体を投げ出している。
外傷こそ見て取れないけれど、しかし確実に重いダメージを負っているようだった。
「残念だったね善子ちゃん。アリスちゃんの友達である君もまた『庇護』を受けているから、魔女の中ではそこそこ強い部類に入るだろう。でも、相手が悪かった。言ったろう? 正義を掲げるには力が必要なんだよ」
顔色を全く変えることなく夜子さんはそう言うと、その影を善子さんに向けて伸ばした。
するとその影は動けなくなった善子さんにぐるぐると巻きついて、完全に拘束してしまった。
「善子さん……」
晴香が震える声で呟いて、私に抱きつく腕の力を強めた。
きっと晴香は罪悪感を覚えてる。自分のせいで善子さんがあんな目にあったって。
でも、自分を守るために戦ってくれた善子さんを前にそれを口にするのは失礼だと、決して声には出さなかった。
善子さんは自分自身の気持ちで戦ってくれたんだから、守ってもらっているこっちが責任を口にするのはお門違いだ。
けれど、それでも自分を責めたくなる気持ちは湧いてくる。私だってそうだ。
守ってもらおうとしなければって思ってしまう。
でも、それを口にするのは戦ってくれた善子さんの気持ちを愚弄する行為だから、決して言わない。
「大丈夫。大丈夫だから」
恐怖と罪悪感に震える晴香を強く抱きしめ返す。
私も怖い。逃げ出したいくらいに。
でもこれは私が始めた戦いだから。私のわがままから起こった戦いだから。
私が逃げるわけにはいかない。晴香を守れるのは、もう私しかいないから。
「さあ、次はどうしようか」
夜子さんが私たちを見て、にんまりと微笑んだ。
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しかしそんな闇そのもののような相手を前にしても、善子さんは臆さなかった。
いや、本当は私たちと同じように気味が悪いと感じているはずなのに。
それでも夜子さんを強く見据えて戦う意思を露わにしていた。
動き出したのは善子さんだった。
ただ悠然と佇む夜子さんに、善子さんから仕掛ける。
善子さんは上空高々と光の球を打ち上げた。
眩く輝くそれは、辺り一面を真昼のように照らすほどの強烈な光だった。
それが天高く昇ると、それは途端に弾けて周囲に光の雨を降らせた。
その光景はまるでショーのレーザー演出のような華やかさ。
しかし見かけの輝きではなく、その光の筋一本一本に確かにエネルギーか込められている攻撃だった。
一面に群れる影の猫たちに、広範囲にわたる光の雨が降り注ぐ。
それは猫たちを一掃してしまうほどの攻撃に見えたけれど、しかし猫たちは微動だにせずその光を吸収してしまった。
ダメージを負ったり消えてしまうのではなく、影そのものである猫たちは、当然のように光を飲み込んでいた。
「そもそも影には形なんてないんだから、のらりくらりするのが仕事なのさ。力尽くで消そうとしたって無駄だと思わないかい? さぁ、次はこっちの番だよ」
夜子さんが不敵に微笑んでそう言った瞬間、影の猫たちが一斉に動き出した。
一面を埋め尽くしていた猫たちが一斉に、そして善子さん一点目掛けて動き出すものだから、それはまるで一つの黒い塊のようだった。
闇が蠢いて、形を成して迫ってきているようだった。
それに対して善子さんがいくら光線を放とうと、同じように飲み込まれてしまう。
それを見て防ぐことを諦めた善子さんは、光を身にまとって高く飛び上がった。
「相手が影だって言うのなら、光の強さで飲み込むまで!」
善子さんが両手を大きくい空に掲げると、上空に大きな光の円が浮かび上がった。
善子さんが空へと上がったことで、猫たちも重力を無視して宙を駆けて善子さんに迫っていく。
その光景はさながら闇が蠢く黒い大蛇、或いは龍のようだった。
そんな猫の群れを覆い尽くすほどの巨大な光の円。
善子さんが力任せに腕を振り下ろすと、その円から太い光の柱が降り注いだ。
まるで宇宙からレーザーでも降ってきたかのような、視界を埋め尽くすほどの極光の柱だった。
地面に大穴を開け、そのまま奥深くまで貫いていってしまうのでは思うほどの高エネルギーの攻撃。
その下にあるものを全て輝きで飲み込み、焼き尽くさんばかりの圧倒的な光。
辺りはその輝きで埋め尽くされて、夕日の光すら圧倒するほどだった。けれど。
「真っ直ぐなのはいいことだけど、もっと頭を使わなくちゃ。影は光があるからこそ生まれ、光が強ければそれだけ濃さを増すものだよ」
猫たちは振り落ちる光の柱に正面から衝突していた。
しかしそれによるダメージはなく、寧ろ飲み込みながら押し返しているようだった。
蛇のように長く連なっていた群れを集結させ、光の柱にも劣らぬ広さに展開して、受け止めながら飲み込んでいた。
どんなに強大な攻撃でも、光である限り影を打ち消すことはできないようだった。
「そんなこと、わかってますよ!」
善子さんの姿は既に上空にはなかった。
影の猫の群れが光の柱とぶつかっている間に、光をまとった光速移動で悠然と佇んでいる夜子さんの元へと移動していた。
夜子さんを囲んでいた猫たちは今全てまとまって光の柱を食らっていて、彼女は今完全に無防備だ。
「光は突き進む力。照らす力。導く力。私が、あの子たちの行く先を照らすんだッ!」
善子さんの体が光輝いたかと思うと、突然夜子さんを取り囲むように善子さんが六人に増えた。
それはまるで鏡に移した姿を実体化させたような、全く同じ姿が六人。
光の屈折、または光そのものによる分身のようだった。
夜子さんを取り囲んだ善子さんたちは、その手に光の剣を握って一斉に飛びかかった。
「やっぱりカッコイイねぇ善子ちゃんは。その正しさ、まっすぐさは実に光り輝いて、私みたい者には眩しすぎるよ。でもさ、やっぱりわかってないよ君は。その光の先に何があるのかを」
光をまとい、そして光の剣を持って夜子さんに周囲から迫る六人の善子さん。
しかしその輝きによって、夜子さんの足元には六つの影が伸びていた。
夜子さんはただ普通に佇んでいるだけ。
いつもと変わらない穏やかで、気の抜けた笑みを浮かべているだけ。
しかし、善子さんたちの剣が振り下ろされる直前、夜子さんの足元から伸びる六つの影が立ち上がってそれを阻んだ。
それは先ほどのまでの猫たちとは違い、夜子さんそのものを象った影。
猫の耳と尻尾を生やした人型の影が地面から剥がれて立ち上がり、光の剣を振り下ろそうとしていた善子さんたちの腹にその拳を打ち込んだ。
完全なカウンターに分身だった五人は霞になって消え、本体である善子さん本人は目を見開いて吹き飛んだ。
「強い光の先には、必ずその対局のものが生まれる。君が正しさを貫きたいのなら、それをもっと学ぶべきだね」
吹き飛ばされ宙を舞う善子さんに、上空で光の柱を飲み込み終えた猫の大群が押し寄せていた。
それ自体が一つの生き物のように蠢いて、猫の軍勢が龍のように迫る。
そして善子さんが地に着くよりも早く到達した猫の群れは、容赦なくその身を飲み込んだ。
影そのものである猫たちの塊の突撃。それは濁流のように善子さんを飲み込んで、闇の海流のようにうねうねと宙を飛び回った。
黒々とした闇の中に善子さんの姿を見つけることはできない。
しかしその身を飲み込んで、まるで引き摺り回すように宙を蠢くその様を見れば、影の奔流の中で善子さんが蹂躙されているであろうことは想像に難くなかった。
やがて猫の群れは勢いそのままに地面へと激突して、ぶつかっていく順に地面へと溶け込んで行った。
影の猫たちが全て地面へと溶け込んでいって、最後に残ったのは、力なく横たわる善子さんの姿だった。
「善子さん!!!」
叫んでも善子さんは動かなかった。
ぐったりとうなだれて、力なく体を投げ出している。
外傷こそ見て取れないけれど、しかし確実に重いダメージを負っているようだった。
「残念だったね善子ちゃん。アリスちゃんの友達である君もまた『庇護』を受けているから、魔女の中ではそこそこ強い部類に入るだろう。でも、相手が悪かった。言ったろう? 正義を掲げるには力が必要なんだよ」
顔色を全く変えることなく夜子さんはそう言うと、その影を善子さんに向けて伸ばした。
するとその影は動けなくなった善子さんにぐるぐると巻きついて、完全に拘束してしまった。
「善子さん……」
晴香が震える声で呟いて、私に抱きつく腕の力を強めた。
きっと晴香は罪悪感を覚えてる。自分のせいで善子さんがあんな目にあったって。
でも、自分を守るために戦ってくれた善子さんを前にそれを口にするのは失礼だと、決して声には出さなかった。
善子さんは自分自身の気持ちで戦ってくれたんだから、守ってもらっているこっちが責任を口にするのはお門違いだ。
けれど、それでも自分を責めたくなる気持ちは湧いてくる。私だってそうだ。
守ってもらおうとしなければって思ってしまう。
でも、それを口にするのは戦ってくれた善子さんの気持ちを愚弄する行為だから、決して言わない。
「大丈夫。大丈夫だから」
恐怖と罪悪感に震える晴香を強く抱きしめ返す。
私も怖い。逃げ出したいくらいに。
でもこれは私が始めた戦いだから。私のわがままから起こった戦いだから。
私が逃げるわけにはいかない。晴香を守れるのは、もう私しかいないから。
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