上 下
102 / 984
第3章 オード・トゥ・フレンドシップ

14 恋敵?

しおりを挟む
「まー、別に私の妹の話はどうでもいいんだよー。探してるって言ってもついでだしさ。それよかさ、恋の話でもしよーよ! ガールズトークってやつ!」

 身を乗り出すようにて、興味津々で私たちにキラキラとした目を向けてくるアゲハさん。
 胸元が開放的なせいで、身を乗り出されるとどうしてもくっきりとした谷間が強調されて目がいってしまう。
 本人は特に気にしている様子はないけれど、見ているこっちはドギマギしてしまう。

「アリスは好きな人とか、彼氏とかいないの?」
「い、いませんよそんなの……!」
「えーなんだつまんないなぁ。あ、でもそっか。アリスには霰がいるもんね。それは男いらないわなぁ」
「な────」

 アゲハさんの意味ありげな視線に反応したのはまさかの氷室さんだった。
 ニヤニヤというかどこか見守るような表情を向けられて、氷室さんはハッと目を開いた。

「私たちは、別にそういう関係じゃ……」
「えーでも結構いい雰囲気だったと思うけどねぇ。私はそういうのいいと思うよ。応援する応援する!」
「だから違う……」

 ガンガン系のアゲハさんの勢いのある言葉は、氷室さんでは制止しきれていなかった。
 確かにこの二人は正反対の性格そうだし。

「違いますよアゲハさん。私たちただの友達です。アゲハさんが思っているような関係じゃありませんよ」
「ふーん。側から見てるとそうも思えないけどねー。二人とも仲良しじゃん」
「仲良しなのとそれは関係ないですよ。すぐそういう風に見るのやめてください」
「何でも恋愛に絡めて考えるのが恋愛脳ってやつでしょ?」

 ニッと笑ってそういうアゲハさんだけれど、その言葉はそういう使い方で良いのかな。
 少なくとも自分からドヤ顔で言う言葉ではない気がする。

 氷室さんはすっかりアゲハさんに対して、別の警戒モードに入ってしまっていた。
 ワルプルギスの魔女に対するものといよりは、苦手な女子に対する警戒だった。

「でも実際問題、霰がいれば今は男いらないんじゃない? アリス的にはさ」
「べ、別に氷室さんどうこうは関係ないですけれど……まぁ特別欲しいとは思ってないですよ」
「ほらほら兆候はっけーん。新たな恋の予感だね!」
「あーもー茶化さないでくださいよ!」

 私たちをからかって楽しんでいるアゲハさんに非難の目を向ける。
 とりあえず氷室さんと腕を組んで身を寄せて、アゲハさんに対して抵抗の意思を示した。
 二対一だからこっちの方が分があるはず。

「ごめんって。ほらそんな拗ねないでよー」
「意地悪する人は嫌いですー。ね、氷室さん!」
「え、えぇ……」

 ぎゅっと身を寄せて言う私に、氷室さんは少し戸惑いながも頷いた。
 そんな私たちを見てアゲハさんは苦笑した。

「わかったわかった。もう言わないから解散解散」

 降参ですというように手をあげるアゲハさんに、私は渋々氷室さんから少し離れた。
 でも氷室さんがどこかもの寂しそうに腕を引いたから、取り敢えず腕を組んだままにしておいた。

「まぁでも、こんな仲良しならあのレイでも入り込むのは難しそうだねぇ」
「今その名前を出しますか……」

 レイくんには散々歯の浮くようなことを言われたなぁ。
 それでも決まってしまうあの綺麗な顔の作りは本当にずるいと思う。
 どんなに臭いセリフも、レイくんが言えばなんでも完璧な口説き文句に仕上がってしまう。

「アイツけっこう悔しがってたよ。他人に『寵愛』取られたってさ。アイツあんなやつだから、女の子に振られることなんてないんだよ」

 ざまあみろとでも言う風に、楽しそうに笑って氷室さんを見るアゲハさん。

「レイくんはいつもあんなことばっかりしてるんですか?」
「まぁ概ね? でも別にアンタに対して軽い気持ちってわけではないと思うけどね。アイツはアイツで、一応ちゃんと誠意を持って接するタイプだよ。レイのことは正直気に食わないけど、そこは確かだよ」
「花園さんは、ダメ……」

 どこか恨みがましくジト目で氷室さんは言った。少し腕に力が入った気がする。
 それはお姫様を守っているというよりは、とても個人的なものに感じた。

「わかってるよ、私はね。でもレイはあれで結構執心するタイプだからね。最後はゲットする気満々だよ。アリスが大事ならしっかり捕まえておかないとね」

 人の恋路を面白おかしく噂話する女子のようにアゲハさんは気軽にそう言って、氷室さんは無言で頷いた。
 なんだか私を置いてけぼりにして話が進んでいうる気がする。

「いいねーアリス。モテモテだ。ま、私はレイなんかに口説かれても嬉しくないけどさ」
「そうやって意地悪ばっかり言ってると、お喋りしてあげませんからね」
「あはは。わかったよー」

 悪びれなんてなく笑って流すアゲハんさん。
 ホント、気が良いというか調子が良いと言うか。
 別に話していて嫌なわけじゃないけれど、年上のお姉さんとしては些か信用にかける気がする。

 というかこの人は、本当にただお喋りをするためだけに声をかけてきたんだな。
 それ以外の意図が全く感じられないもん。ただのお喋り好きというか、人懐っこいというか。
 本当に調子が良いなこの人は。

「さてと、私はそろそろ行こうかな。あんまりぷらぷらしてると二人がうるさいからさぁ」
「まぁアゲハさんは怒られポジションそうですもんね」
「言うなぁアリスは。ま、良いんだけどね。怒りたいやつには怒らせとけば良いんだよー」

 その原因を作っているのは自分だろうに、とても人ごとのように言うアゲハさん。
 立ち上がると大きく伸びをして、にこやかに私たちを見下ろした。

「一応教えといてあげるけど、私たちワルプルギスは一枚岩じゃないからさ」
「え?」

 唐突にそんなことを言い出しされて、私は思わずそんな間抜けな声を出してしまった。
 今さっきまでの意味の全くないお喋りの時間が吹っ飛んでしまうほどに、それは本当に唐突だった。

「ワルプルギスのメインの活動は、お姫様が本来の力に目覚めたときのために、それに相応しい世界を整えること。そしてお姫様を見守るっていうのが今のリーダーの方針。けど中には過激なやつもいんのよ。積極的にアンタにちょっかい出そうって輩もさ」
「えっと、それはそっちの方で統制取ってないんですか……?」
「表面上は統率してるけどさ、ワルプルギスは向こうの世界では結構人数も増えてきて、目は行き届かなくなってきてる。レジスタンスという大義名分で好き勝手やってるやつも少なくないのよ」

 それはなんだか意外だった。ホワイトはその思想は偏っていたけれど、それでも正義を掲げる人だったはず。そんな勝手を許すような人には見えなかった。

「リーダーはワルプルギス本来の目的が第一だから、それ以外のことにはあんまり目を向けてないの。最終的に目的に到達できれば良いってさ。まぁそれでも、お姫様にちょっかい出そうとするやつらを放置するのはどうかと思うけど」
「ちょっかいって、具体的にどんな……」
「まぁ場合によって殺しにかかってくるかもね。強引に力を引き出させようとしてさ」
「そんな……!」

 ただでさえ魔女狩りに最優先で狙われているのに、挙句に同類の魔女にも狙われたんじゃたまったもんじゃない。

「多分リーダーは、そんな奴らにアンタが殺されることはないって踏んでるんだろうけどさ。私たちがこっちにいるのも、そんな過激な連中を見張る意味合いもあるわけ」
「勘弁してくださいよ。私は平和に生きたいのに」
「まぁ、私はその考えに賛成の部分もあるけどね」

 そう言ってアゲハさんは不敵に微笑んだ。それは、私を試すような鋭い目つき。
 大人びたその顔から向けられる鋭い瞳は、私を品定めするようでもあった。

「焦れったいのは好みじゃないの。早く決着するならそっちの方がいいしね。もしかしたら私がちょっかいかけちゃうかも」
「ちょ、ちょっと……やめてくださいよ」

 アゲハさんはそっと手を伸ばして私の頰に触れた。
 優しい手つきでふわりと撫でて、愉快そうに微笑む。

「だから、精々気をつけなよ。いつ誰がアンタを狙いにくるかなんてわからないんだからね」

 そう言い残して、アゲハさんはにこやかに手を振って行ってしまった。
 言いたいことを言って、したいことをして、本当に気ままに。
 搔き回すだけ掻き回して、最後はあっさりと。

 束の間の平和も私には許されないのかなぁ。
 ちょっぴり不安になって組んでいた腕に力を入れると、氷室さんも同じように力を込めて身を寄せてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...