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第2章 正しさの在り方
15 似ているから
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「中二の時だったかな。やたら正くんがアリスのこと聞いてくる時があってさ」
私が固まっているのを少し可笑しそうにしながら、晴香は話し始めた。
「結構とりとめのないことばっかりだったから、大抵のことは答えてあげたんだけど……」
「ちょっと待って。何教えたの!?」
私は慌てて突っ込んだ。
晴香のことだから変なことは話していないと思うけれど、それでも正くんに何を知られているのか気になった。
「本当にとりとめのないことだよ。アリスの好きな食べ物は何かとか、どんな本読んでるのかとか、何をするのが好きなのか、とか」
「……正くんって、そんなこと聞くんだ」
正くんがそんな初々しい質問をしているところが、全く想像できなかった。
どこまで聞いたのか知らないけど、その質問の成果が彼の言動に全く反映されていない気がするのは、気のせいなのかな。
彼が私に合わせた誘いをしてきたことなんて、一度もなかったんだから。
「流石にスリーサイズとかは教えてないよ。あくまで当たり障りのないことだけ」
「もしスリーサイズなんて教えてたら、流石の晴香でもしばらくは口聞かないと思う」
それは相手が正くんとか関係なしに、そんなプライベートを吹聴されたらたまったものじゃない。
晴香がそんなことしないのは知っているけれど。
「でね、あんまり色々聞いてくるからさ、それなら本人に聞いてみたら? って言ってみたんだけど。正くんなんて言ったと思う?」
全く思い当たらず私は首を横に振った。
「『あいつは姉ちゃんに似てるから苦手なんだ』だって。私は思わずニヤニヤしちゃったよ」
「ごめん。意味が全くわからないんだけど……」
私が善子さんに似てる? どこが?
私は善子さんみたいな優しさはないし、気も利かなきゃあんな包容力もない。
全く似ても似つかないはずなのに。
「うーん。私はなんとなくわかるけどね。別に見た目とか性格が似てるってことじゃないと思う。なんていうか、きっと正くんに対する態度とかだと思うよ?」
「別に、特別変わったことしてないと思うけど……」
「そこだと思うよ。正くんってやっぱり、世間的にはイケメンだからモテるし、普通の女の子なら、声をかけられたら多少なりともそれなりの反応をすると思うんだよね。でもアリスは、そういうの全くないし」
いまいち納得がいかなくて、私は首を傾げた。
晴香はそんな私を未だに可笑しそうに笑う。
「もし私がアリスみたいに、正くんからあんなにしつこく声をかけられ続けてたら、付き合うまではいかなくても、一度か二度くらいは渋々遊んでたかもしれない。そういうのってさ、自分の気持ちだけじゃなくて、相手の気持ちも考えた上ですることでしょ?」
「私は気が利かない女ってこと?」
「違う違う。拗ねないで」
ジト目で言ってみると、晴香は苦笑いで慌てて否定した。
まぁ、少し意地悪で言ってみただけだけど。
「正くんに対して少なからずなびく素振りを見せる人ばっかりの中で、アリスは自分の意思を曲げなかった。好意は全くないって姿勢を崩さなかった。正くんにそんな風に自分の意思を明確に貫く人なんて、善子さんくらいだったんだよ」
確かに、善子さんは正くんに対して常に厳しくしていた。
普段二人が実際どういうコミュニケーションをしているのかはわからないけれど、少なくとも私たちの前での正くんへの姿勢は、とても厳しく決然としている。
自分のせいでああなってしまったと言いつつも、彼のあの在り方を良しとはしていなかった。
彼のフォローをしながらも、いつも窘めていた。
「そんな、自分の思い通りにならない所とか、物怖じしないところに、善子さんが重なったんじゃないかな。私もそう思う時あるよ。アリスはブレないし自分の気持ちに正直。それはとっても素敵なことだって、私は思うよ」
顔が少し赤くなるのを感じた。
いきなりそんなこと言われても困る。そもそも意識してやってることじゃない。
善子さんみたいに、正しさを貫くと決めて生きてるわけじゃない。
私のそれは、ただのわがままみたいなものなんだから。
「苦手なんていいながらアリスのこと色々聞いてくるなんてさ、もう好きだって言ってるようなものでしょう? 苦手なんだったら近寄らなきゃいいし、関わらなければいいのに。そうしないでアリスのことを知ろうとするなんてさ」
「それはそうかもしれないけど……でも正くんがそう言ったわけじゃないんでしょ?」
納得できずに苦し紛れの言葉をこぼすと、晴香にデコピンされた。
ジンジンする。
「いたい」
「往生際が悪いからです」
おでこを押さえる私に、晴香はまったくもうと溜息をついた。
「だって、正くんが私のこと好きだったとしても、私どうしていいかわんないもん」
「別にどうもしなくていいでしょ。嫌なら嫌でそれで終わりだよ」
「えー」
ここまできて予想外に適当な返答に、私は思わず不信の目を向けた。
「アリスはいつも通り、アリスらしくしてればいいんだよ。そうすればそのうち、向こうから行動を起こしてくるでしょ。その時またアリスらしくしてあげればいいんだよ。ま、今日のことで懲りてなかったらだけどね」
「それが一番いいんだけどなぁ」
今更告白とかされても挨拶に困る。
だからといって、このままずるずる絡み続けられるのも迷惑だけど。
どこかで決着をつけたいと思うけれど、それを自分から切り出すのは嫌だった。
私がこんなことで悩む日が来るなんて。
色恋沙汰……とは言いたくないけれど、その類は私に縁のないことだと思っていた。
どちらにしても今日は一悶着あったわけで、しばらくは別の気まずさがあるかもしれない。
それは粛々と受け入れつつ、その後の向こうの出方を見るしかないのかな。
お願いだから、誰か代わってくれないかなぁ。
私が固まっているのを少し可笑しそうにしながら、晴香は話し始めた。
「結構とりとめのないことばっかりだったから、大抵のことは答えてあげたんだけど……」
「ちょっと待って。何教えたの!?」
私は慌てて突っ込んだ。
晴香のことだから変なことは話していないと思うけれど、それでも正くんに何を知られているのか気になった。
「本当にとりとめのないことだよ。アリスの好きな食べ物は何かとか、どんな本読んでるのかとか、何をするのが好きなのか、とか」
「……正くんって、そんなこと聞くんだ」
正くんがそんな初々しい質問をしているところが、全く想像できなかった。
どこまで聞いたのか知らないけど、その質問の成果が彼の言動に全く反映されていない気がするのは、気のせいなのかな。
彼が私に合わせた誘いをしてきたことなんて、一度もなかったんだから。
「流石にスリーサイズとかは教えてないよ。あくまで当たり障りのないことだけ」
「もしスリーサイズなんて教えてたら、流石の晴香でもしばらくは口聞かないと思う」
それは相手が正くんとか関係なしに、そんなプライベートを吹聴されたらたまったものじゃない。
晴香がそんなことしないのは知っているけれど。
「でね、あんまり色々聞いてくるからさ、それなら本人に聞いてみたら? って言ってみたんだけど。正くんなんて言ったと思う?」
全く思い当たらず私は首を横に振った。
「『あいつは姉ちゃんに似てるから苦手なんだ』だって。私は思わずニヤニヤしちゃったよ」
「ごめん。意味が全くわからないんだけど……」
私が善子さんに似てる? どこが?
私は善子さんみたいな優しさはないし、気も利かなきゃあんな包容力もない。
全く似ても似つかないはずなのに。
「うーん。私はなんとなくわかるけどね。別に見た目とか性格が似てるってことじゃないと思う。なんていうか、きっと正くんに対する態度とかだと思うよ?」
「別に、特別変わったことしてないと思うけど……」
「そこだと思うよ。正くんってやっぱり、世間的にはイケメンだからモテるし、普通の女の子なら、声をかけられたら多少なりともそれなりの反応をすると思うんだよね。でもアリスは、そういうの全くないし」
いまいち納得がいかなくて、私は首を傾げた。
晴香はそんな私を未だに可笑しそうに笑う。
「もし私がアリスみたいに、正くんからあんなにしつこく声をかけられ続けてたら、付き合うまではいかなくても、一度か二度くらいは渋々遊んでたかもしれない。そういうのってさ、自分の気持ちだけじゃなくて、相手の気持ちも考えた上ですることでしょ?」
「私は気が利かない女ってこと?」
「違う違う。拗ねないで」
ジト目で言ってみると、晴香は苦笑いで慌てて否定した。
まぁ、少し意地悪で言ってみただけだけど。
「正くんに対して少なからずなびく素振りを見せる人ばっかりの中で、アリスは自分の意思を曲げなかった。好意は全くないって姿勢を崩さなかった。正くんにそんな風に自分の意思を明確に貫く人なんて、善子さんくらいだったんだよ」
確かに、善子さんは正くんに対して常に厳しくしていた。
普段二人が実際どういうコミュニケーションをしているのかはわからないけれど、少なくとも私たちの前での正くんへの姿勢は、とても厳しく決然としている。
自分のせいでああなってしまったと言いつつも、彼のあの在り方を良しとはしていなかった。
彼のフォローをしながらも、いつも窘めていた。
「そんな、自分の思い通りにならない所とか、物怖じしないところに、善子さんが重なったんじゃないかな。私もそう思う時あるよ。アリスはブレないし自分の気持ちに正直。それはとっても素敵なことだって、私は思うよ」
顔が少し赤くなるのを感じた。
いきなりそんなこと言われても困る。そもそも意識してやってることじゃない。
善子さんみたいに、正しさを貫くと決めて生きてるわけじゃない。
私のそれは、ただのわがままみたいなものなんだから。
「苦手なんていいながらアリスのこと色々聞いてくるなんてさ、もう好きだって言ってるようなものでしょう? 苦手なんだったら近寄らなきゃいいし、関わらなければいいのに。そうしないでアリスのことを知ろうとするなんてさ」
「それはそうかもしれないけど……でも正くんがそう言ったわけじゃないんでしょ?」
納得できずに苦し紛れの言葉をこぼすと、晴香にデコピンされた。
ジンジンする。
「いたい」
「往生際が悪いからです」
おでこを押さえる私に、晴香はまったくもうと溜息をついた。
「だって、正くんが私のこと好きだったとしても、私どうしていいかわんないもん」
「別にどうもしなくていいでしょ。嫌なら嫌でそれで終わりだよ」
「えー」
ここまできて予想外に適当な返答に、私は思わず不信の目を向けた。
「アリスはいつも通り、アリスらしくしてればいいんだよ。そうすればそのうち、向こうから行動を起こしてくるでしょ。その時またアリスらしくしてあげればいいんだよ。ま、今日のことで懲りてなかったらだけどね」
「それが一番いいんだけどなぁ」
今更告白とかされても挨拶に困る。
だからといって、このままずるずる絡み続けられるのも迷惑だけど。
どこかで決着をつけたいと思うけれど、それを自分から切り出すのは嫌だった。
私がこんなことで悩む日が来るなんて。
色恋沙汰……とは言いたくないけれど、その類は私に縁のないことだと思っていた。
どちらにしても今日は一悶着あったわけで、しばらくは別の気まずさがあるかもしれない。
それは粛々と受け入れつつ、その後の向こうの出方を見るしかないのかな。
お願いだから、誰か代わってくれないかなぁ。
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