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第2章 正しさの在り方
12 誰かの味方
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「アリスちゃんはさっき、冗談だったとしても私のことを正義の味方みたいって言ってくれたけどさ。それは、あの子の方がよっぽどぴったりな言葉だったんだ」
善子さんは少し嬉しそうに言った。
それは悲しい思い出じゃなくて、大好きな友達を自慢する幸せそうな顔だった。
「真奈実って言ってね。曲がったことが大嫌いで、どんな時も正しい子だった。言っちゃえば委員長気質というか、クソ真面目系。私はよく怒られてたなぁ」
「善子さんでも怒られたりするんですね」
「するよ。私、基本的には結構適当だからさ、四角四面な真奈実とは正反対だった。でも、なんだか気がついてたら仲良くなってた。私は、馬鹿みたいに真っ直ぐな真奈実が大好きだったんだ」
善子さんがシュンとして友達に怒られている姿を想像して、少し可笑しくなった。
いつも溌剌な善子さんに、そんな友達がいたなんて。
「私が魔女になった時も、散々叱られたよ。レイといちゃいけないって。でもその時の私は目の前のことしか見えてなくて、真奈実の言うことを聞かなかった。真奈実はいつだって正しいのに、その正しさを無視しちゃったんだ」
「善子さんでも、悪いことしちゃうわけですね」
「さっきからアリスちゃんも私を神聖視してない? 私は間違いも起こすし悪いことだってしちゃう時あるよ。だから、そんな私を叱ってくれるのが真奈実だったんだ」
私から見れば、善子さんだって十分にすごいと思うんだけどな。
確かに、その真奈実さんって人とは方向性は違うかもしれないけれど。
でも人のためになるという意味で、善子さんはいつだって正しいと思う。
その優しさと思いやりは、絶対に間違ってなんかいない。
「真奈実が殺されて、ようやく私は自分の過ちに気付いた。真奈実の忠告をちゃんと聞いてたら、こんなことにならなかったんだって。真奈実のように正しく生きていればって。だからその時決めたんだ。真奈実のようにはできなかったとしても、私も、私が正しいと思ったことだけをしようって」
「だから善子さんは、そんなに良い人なんですね」
「こらこら、おだてないの。私がつけ上がってもしらないぞ?」
「どうぞどうぞ。私は善子さんの正しさに救われた一人ですからね。つけ上らせてあげましょう」
「なんじゃそりゃ」
善子さんは困ったように笑う。
なんだか少しだけわかった気がした。
どうして善子さんといると、心が和らいで楽しい気分になるのか。
善子さん元来の優しさや思いやりに、真奈実さん由来の正しさが合わさって、包み込む温かさになってるんだ。
正義の味方じゃなかったとしても、誰かの味方ではあるように。
善子さんは、きっとそういう形を目指しているのかもしれない。
それはきっと、正くんに対しても。
「話してもらえて嬉しいです。善子さんのこと、もっと好きになった気がします」
「今の話で? 私は、自分のロクでもなさを話したつもりだったんだけどなぁ。アリスちゃんも物好きだ」
全ての事情を話すには、まだ善子さんの中で消化されていないんだと思う。
私も、そこまで深入りして聞くつもりはない。
でも、善子さんが抱えていたものを少しでも聞かせてもらえたことは、素直に嬉しかった。
それだけ私のことを信頼してくれてるってことだし。
「それに、善子さんが同じ魔女で心強いです。私まだなりたてだから、わからないこと多くて」
「私もあんまり多くのことは知らないけどね。どうやらこことは違う世界があって、そこにも魔女がいるってことは、なんとなく聞いたけど」
魔女だとしても、あちらの世界の事情とかをみんなが詳しいわけじゃないのかな。でも、それもそうか。
『魔女ウィルス』に感染したからといって、いきなり異世界の知識がつくわけじゃないし、善子さんはあんまり魔女間の交流がないのかもしれない。
多分の昔の件以降、故意に絶っているのかもしれない。
ということは、私がお姫様云々ということも知らなさそう。
自分から話すようなことでもないし、特別私から色々話さなくても良いかもしれない。
そもそも、私も知らないことばっかりだし。
「でも困った時はいつでも頼りなさいな。私にできることなんて、たかが知れてると思うけどさ」
「頼りにしてます!」
ポンと胸を叩く善子さんに、私は元気よく答えた。
元から仲は良かったけれど、今はより身近に感じる。
やっぱり同じ境遇というのは心強い。それが善子さんともなれば尚更だった。
気がつけば、サッカーの練習試合は終わっているようだった。
得点は遠くて見えないけれど、校庭の雰囲気的にどうやら勝ったみたい。
黄色い声が飛び交う中、正くんは一瞬こちらを見て微笑んだ。
まるで、私が恥ずかしがって遠くから眺めているみたいになってしまった。
なんだかとても気分が悪くなったけれど、でも仕方ない。
善子さんの話を聞いた後だし、ほんの少しだけ正くんに対する嫌悪感は薄れたような気が、しなくもないから。
善子さんは少し嬉しそうに言った。
それは悲しい思い出じゃなくて、大好きな友達を自慢する幸せそうな顔だった。
「真奈実って言ってね。曲がったことが大嫌いで、どんな時も正しい子だった。言っちゃえば委員長気質というか、クソ真面目系。私はよく怒られてたなぁ」
「善子さんでも怒られたりするんですね」
「するよ。私、基本的には結構適当だからさ、四角四面な真奈実とは正反対だった。でも、なんだか気がついてたら仲良くなってた。私は、馬鹿みたいに真っ直ぐな真奈実が大好きだったんだ」
善子さんがシュンとして友達に怒られている姿を想像して、少し可笑しくなった。
いつも溌剌な善子さんに、そんな友達がいたなんて。
「私が魔女になった時も、散々叱られたよ。レイといちゃいけないって。でもその時の私は目の前のことしか見えてなくて、真奈実の言うことを聞かなかった。真奈実はいつだって正しいのに、その正しさを無視しちゃったんだ」
「善子さんでも、悪いことしちゃうわけですね」
「さっきからアリスちゃんも私を神聖視してない? 私は間違いも起こすし悪いことだってしちゃう時あるよ。だから、そんな私を叱ってくれるのが真奈実だったんだ」
私から見れば、善子さんだって十分にすごいと思うんだけどな。
確かに、その真奈実さんって人とは方向性は違うかもしれないけれど。
でも人のためになるという意味で、善子さんはいつだって正しいと思う。
その優しさと思いやりは、絶対に間違ってなんかいない。
「真奈実が殺されて、ようやく私は自分の過ちに気付いた。真奈実の忠告をちゃんと聞いてたら、こんなことにならなかったんだって。真奈実のように正しく生きていればって。だからその時決めたんだ。真奈実のようにはできなかったとしても、私も、私が正しいと思ったことだけをしようって」
「だから善子さんは、そんなに良い人なんですね」
「こらこら、おだてないの。私がつけ上がってもしらないぞ?」
「どうぞどうぞ。私は善子さんの正しさに救われた一人ですからね。つけ上らせてあげましょう」
「なんじゃそりゃ」
善子さんは困ったように笑う。
なんだか少しだけわかった気がした。
どうして善子さんといると、心が和らいで楽しい気分になるのか。
善子さん元来の優しさや思いやりに、真奈実さん由来の正しさが合わさって、包み込む温かさになってるんだ。
正義の味方じゃなかったとしても、誰かの味方ではあるように。
善子さんは、きっとそういう形を目指しているのかもしれない。
それはきっと、正くんに対しても。
「話してもらえて嬉しいです。善子さんのこと、もっと好きになった気がします」
「今の話で? 私は、自分のロクでもなさを話したつもりだったんだけどなぁ。アリスちゃんも物好きだ」
全ての事情を話すには、まだ善子さんの中で消化されていないんだと思う。
私も、そこまで深入りして聞くつもりはない。
でも、善子さんが抱えていたものを少しでも聞かせてもらえたことは、素直に嬉しかった。
それだけ私のことを信頼してくれてるってことだし。
「それに、善子さんが同じ魔女で心強いです。私まだなりたてだから、わからないこと多くて」
「私もあんまり多くのことは知らないけどね。どうやらこことは違う世界があって、そこにも魔女がいるってことは、なんとなく聞いたけど」
魔女だとしても、あちらの世界の事情とかをみんなが詳しいわけじゃないのかな。でも、それもそうか。
『魔女ウィルス』に感染したからといって、いきなり異世界の知識がつくわけじゃないし、善子さんはあんまり魔女間の交流がないのかもしれない。
多分の昔の件以降、故意に絶っているのかもしれない。
ということは、私がお姫様云々ということも知らなさそう。
自分から話すようなことでもないし、特別私から色々話さなくても良いかもしれない。
そもそも、私も知らないことばっかりだし。
「でも困った時はいつでも頼りなさいな。私にできることなんて、たかが知れてると思うけどさ」
「頼りにしてます!」
ポンと胸を叩く善子さんに、私は元気よく答えた。
元から仲は良かったけれど、今はより身近に感じる。
やっぱり同じ境遇というのは心強い。それが善子さんともなれば尚更だった。
気がつけば、サッカーの練習試合は終わっているようだった。
得点は遠くて見えないけれど、校庭の雰囲気的にどうやら勝ったみたい。
黄色い声が飛び交う中、正くんは一瞬こちらを見て微笑んだ。
まるで、私が恥ずかしがって遠くから眺めているみたいになってしまった。
なんだかとても気分が悪くなったけれど、でも仕方ない。
善子さんの話を聞いた後だし、ほんの少しだけ正くんに対する嫌悪感は薄れたような気が、しなくもないから。
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