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第2章 正しさの在り方
4 栞
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レイくんが居なくなってようやく、みんなが教室の中に雪崩れ込んできた。
みんなその流れで私に怒涛の質問責めをしてきた。
主には女子陣の「あのイケメンとはどういう関係!?」という感じの質問で、何にも答えられない私は、ただオロオロするしかなかった。
結局何一つとして私から情報が出てこないものだから、みんなも諦めて、いつの間にかやんわりといつも通りの朝の光景に戻っていく。
気が付けば、氷室さんは何事もなかったかのように自分の席に着いて、本を読み始めていた。
まぁ今ここでレイくんの話をするわけにもいかないし、それは仕方ないかもしれない。
「アリス、大丈夫?」
朝からどっと疲れて椅子にへたり込んだ私に、晴香が心配そうに寄ってきた。
優しく頭を撫でてくれる手が気持ちいい。
「うん。私も何が何だかサッパリで、混乱中」
「やっぱり、先生呼んできた方が良かったんじゃない?」
「でも何か実害があったわけじゃないし、あんまり大事にはしたくないし。これ以上何か聞かれても、私答えられないもん」
「アリスがそう言うなら良いけどさ」
明らかに良くなさそうな顔をしているのに、晴香はそれ以上深く追求してこなかった。
二日間も音信不通だった直後にこれだから、心配は増していると思う。けれど私が話さないから晴香も聞いてこない。
本当に申し訳ないけど、今はその気遣いがとってもありがたい。
レイくんが魔女だということは、レイくんの言動からほぼ間違いはないと思う。
疑問なのは、魔女がわざわざなんで私に会いにきたのかってこと。
この街で魔女になったら、先輩魔女に挨拶回りをしなきゃいけないなんてルールはないはずだし、それを怠った私に釘を刺しにきた、とかではないはず。
私のことをお姫様と呼んだのが、とても引っかかった。
それに、ワルプルギスってなんのことだろう。
レイくんの反応を見るに、私は知ってなきゃいけなさそうな感じだったけれど。
「なぁアリス。あいつが何なのか、本当に心当たりないのか?」
創は難しい顔をしながらそう言った。
隣にいる晴香は、止めるべきか止めないべきか悩むように私たちを見た。
「うん。初対面だからサッパリね。私が知りたくらいだよ」
「向こうはお前のこと知ってそうだったけど」
「それが尚更謎。一方的に知られてるなんて、なんか気持ち悪いよ」
あながち嘘は言ってない。
私はレイくんが魔女だろうってことはわかるけど、レイくんが何者かは知らないし、何しに来たのかは知らない。
正直に話そうと思ったとしても、私が説明できる情報はほとんどないんだ。
「…………」
「心配かけてごめんね。でも、多分大丈夫だよ。変な人ではあったけど、危ない人ではなさそうだったし」
眉間にシワを寄せて押し黙る創に、私は言った。
創は晴香とは違うし、男の子だから根本的に考え方が違う。
私が楽観的に思っていることも、創は真剣に捉えて、私よりも気にしてくれたりする。
音信不通の件は、まだ私がケロリと帰ってきたから良いものの、今の件は目の前で起きたことだから、簡単には流せないのかもしれない。
「アリス。何かあったら俺たちに話してくれよ。無理には聞かないけどさ。俺たちのこと、もっと頼ってくれ」
「そうだよ。私たちはいつだってアリスの味方だからね!」
真剣な面持ちで言う創に、晴香もうんうんと頷く。
その気持ちに胸がいっぱいになるのを感じながら、私もまた頷いた。
「ありがとう、二人とも。本当に何かあった時は、真っ先に相談するよ」
何かあると言えば現在進行形で今何かあるわけで、結局私は二人に本当のことは言えない。
それがとても心苦しいけれど、二人の気持ちは本当に嬉しかった。
でもこれからは注意して、二人の前で問題が起きないようにしないと。二人の心配にも限界があるんだし。
私が守りたい日常は本当に掛け替えがなくて、だからこそしがみつきたくなる。
この日々を失いたくないって思ってしまう。できる限り足掻いて、諦めたくないって。
欲張りだって、わがままだって言われたって構わない。私は二人と会えなくなるなんて絶対に嫌だから。
後で落ち着いた時に、氷室さんと話さないとな。
氷室さんなら、レイくんのことを何か知っているかもしれないし。
それにあの口振りだと、また近いうちに現れそうだしなぁ。
悪いことじゃないと良いんだけど……。
レイくんに向けた氷室さんの眼差しは、決して良いものではなかった。
それが一過性のものだったら良いんだけれど、そればっかりは聞いてみないとわからない。
ホームルームを知らせるチャイムが鳴って、二人は自分の席に戻っていった。
私は重い溜息をつきつつ、レイくんが読みっぱなしにした本を机の中にしまおうと手に取った。
その時、本の中から栞がはらりと舞い落ちた。
そこには妙に綺麗な字で、メッセージが書かれていた。
『お昼休みに屋上で待ってます。鍵は僕が開けておくよ』
それがレイくんからのメッセージであることは、一目でわかった。
また会う時、とか言ってすぐじゃん。
みんなその流れで私に怒涛の質問責めをしてきた。
主には女子陣の「あのイケメンとはどういう関係!?」という感じの質問で、何にも答えられない私は、ただオロオロするしかなかった。
結局何一つとして私から情報が出てこないものだから、みんなも諦めて、いつの間にかやんわりといつも通りの朝の光景に戻っていく。
気が付けば、氷室さんは何事もなかったかのように自分の席に着いて、本を読み始めていた。
まぁ今ここでレイくんの話をするわけにもいかないし、それは仕方ないかもしれない。
「アリス、大丈夫?」
朝からどっと疲れて椅子にへたり込んだ私に、晴香が心配そうに寄ってきた。
優しく頭を撫でてくれる手が気持ちいい。
「うん。私も何が何だかサッパリで、混乱中」
「やっぱり、先生呼んできた方が良かったんじゃない?」
「でも何か実害があったわけじゃないし、あんまり大事にはしたくないし。これ以上何か聞かれても、私答えられないもん」
「アリスがそう言うなら良いけどさ」
明らかに良くなさそうな顔をしているのに、晴香はそれ以上深く追求してこなかった。
二日間も音信不通だった直後にこれだから、心配は増していると思う。けれど私が話さないから晴香も聞いてこない。
本当に申し訳ないけど、今はその気遣いがとってもありがたい。
レイくんが魔女だということは、レイくんの言動からほぼ間違いはないと思う。
疑問なのは、魔女がわざわざなんで私に会いにきたのかってこと。
この街で魔女になったら、先輩魔女に挨拶回りをしなきゃいけないなんてルールはないはずだし、それを怠った私に釘を刺しにきた、とかではないはず。
私のことをお姫様と呼んだのが、とても引っかかった。
それに、ワルプルギスってなんのことだろう。
レイくんの反応を見るに、私は知ってなきゃいけなさそうな感じだったけれど。
「なぁアリス。あいつが何なのか、本当に心当たりないのか?」
創は難しい顔をしながらそう言った。
隣にいる晴香は、止めるべきか止めないべきか悩むように私たちを見た。
「うん。初対面だからサッパリね。私が知りたくらいだよ」
「向こうはお前のこと知ってそうだったけど」
「それが尚更謎。一方的に知られてるなんて、なんか気持ち悪いよ」
あながち嘘は言ってない。
私はレイくんが魔女だろうってことはわかるけど、レイくんが何者かは知らないし、何しに来たのかは知らない。
正直に話そうと思ったとしても、私が説明できる情報はほとんどないんだ。
「…………」
「心配かけてごめんね。でも、多分大丈夫だよ。変な人ではあったけど、危ない人ではなさそうだったし」
眉間にシワを寄せて押し黙る創に、私は言った。
創は晴香とは違うし、男の子だから根本的に考え方が違う。
私が楽観的に思っていることも、創は真剣に捉えて、私よりも気にしてくれたりする。
音信不通の件は、まだ私がケロリと帰ってきたから良いものの、今の件は目の前で起きたことだから、簡単には流せないのかもしれない。
「アリス。何かあったら俺たちに話してくれよ。無理には聞かないけどさ。俺たちのこと、もっと頼ってくれ」
「そうだよ。私たちはいつだってアリスの味方だからね!」
真剣な面持ちで言う創に、晴香もうんうんと頷く。
その気持ちに胸がいっぱいになるのを感じながら、私もまた頷いた。
「ありがとう、二人とも。本当に何かあった時は、真っ先に相談するよ」
何かあると言えば現在進行形で今何かあるわけで、結局私は二人に本当のことは言えない。
それがとても心苦しいけれど、二人の気持ちは本当に嬉しかった。
でもこれからは注意して、二人の前で問題が起きないようにしないと。二人の心配にも限界があるんだし。
私が守りたい日常は本当に掛け替えがなくて、だからこそしがみつきたくなる。
この日々を失いたくないって思ってしまう。できる限り足掻いて、諦めたくないって。
欲張りだって、わがままだって言われたって構わない。私は二人と会えなくなるなんて絶対に嫌だから。
後で落ち着いた時に、氷室さんと話さないとな。
氷室さんなら、レイくんのことを何か知っているかもしれないし。
それにあの口振りだと、また近いうちに現れそうだしなぁ。
悪いことじゃないと良いんだけど……。
レイくんに向けた氷室さんの眼差しは、決して良いものではなかった。
それが一過性のものだったら良いんだけれど、そればっかりは聞いてみないとわからない。
ホームルームを知らせるチャイムが鳴って、二人は自分の席に戻っていった。
私は重い溜息をつきつつ、レイくんが読みっぱなしにした本を机の中にしまおうと手に取った。
その時、本の中から栞がはらりと舞い落ちた。
そこには妙に綺麗な字で、メッセージが書かれていた。
『お昼休みに屋上で待ってます。鍵は僕が開けておくよ』
それがレイくんからのメッセージであることは、一目でわかった。
また会う時、とか言ってすぐじゃん。
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