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君が、私を、目覚めさせた

目が、覚める

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「マリー?」

「どうしたヴィオ。」

目の前の魔物を切り捨てたヴィオレットが何かに反応したように動きを止める。
トールが声を掛けるも、ヴィオレットは虚空を見つめ、何も答えない。

「ヴィオー?」

レーシアが心配そうにその肩をぽんぽんと叩く。反応は無い。
皆、ヴィオレットの様子がおかしいことに気付き、ヴィオレットの近くへと集まる。

「ヴィオレット。何が見えておる。」

ジャヴィが微かにその目を細めた。
開かれたままのヴィオレットの目から、涙が零れ落ちる。瞬間、ヴィオレットの口が戦慄き歪む。

「嫌!ダメよマリー…!」

ヴィオレットの手が宙へと伸ばされる。空を切ったそれは勢いのままヴィオレットの身体を進ませる。

「主!?」

「急がなきゃ!マリーが危ない!!!」

突然走り出したヴィオレットを追って、仲間達も駆ける。

「マリーの身に何が…?」

心配を多分に含んだエミリーの声に答えられる者は誰もいなかった。

























「マリー!!!」

2度目の来訪。しかし閉じているはずの扉の鍵は開いていた。ヴィオレットはそのまま中へと入る。

「…マリー?」

部屋の中央奥。
薄暗い視界の中に、それはあった。

マリーゴールドだ。

目を閉じ、ただただ眠っているようにも見える。しかし、それを否定するのは両手両足に絡まる黒い蔓の様な何かと、肌をじわじわと塗り替えていく、黒。

「マリー!!!!」

ヴィオレットが駆け寄る。そして、その手が、マリーゴールドに触れた瞬間。

「…っあぁ!!!」

ヴィオレットの身体が崩れ落ちた。手足が痺れ、息が浅くなる。ヴィオレットは途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止め、ステータス画面を開く。ヴィオレットが己の欄を確認すると、次の表示が目に入った。

『ヴィオレット  HP 1/8678  MP 1/420』

やられた、とヴィオレットはマリーゴールドを見る。
ふるりとその瞼が震えた気がした。

「ヴィオ!」

「! 彼の者の傷を癒したまえ。この祈りを願いを聞き届けたまえ。«プライムヒール»」

レーシアの驚く声と、続くようにしてエミリーの回復魔法が掛けられる。トールから投げられた魔力回復薬を受け取り、ヴィオレットは立ち上がる。

「マリー!」

ヴィオレットの声に呼応するように黒い蔓が解かれていく。
そしてそれは禍々しい、黒い棺へと変貌した。
その傍らに座り込んだマリーゴールドがゆっくりと、その目を開く。

「あぁ、君が楔か。」

そう言って微笑むマリーゴールドの瞳は、まるで、血を固めたような、赤黒い色に変貌していた。
大丈夫だ。こんなの、想定内のこと。

ヴィオレットは落ち着く為に大きく深呼吸をする。
しかし、嫌な予感が拭えない。

「マリーは今眠っているよ。目覚めることはないけれど。」



…ふざけるな。



その瞬間、ヴィオレットが中で何かが切れた。

ずっとずっと、ヴィオレットは努力してきた。このゲームが、世界観が好きだったから。だから、生まれてすぐに閉じ込められようとも、捨てられようとも、石を投げられようとも、生きてこられたのだ。
そりゃあ何で私がと何度も思ったし、死にたいと思ったことも数え切れないほどある。でも、それ以上に、愛する人が出来たから。愛する人が、マリーゴールドが愛してくれたから。
ヴィオレットはこうして勇者になれた。
なのに。
こんなの、許されるわけがない。



「マリーを………マリーを、返せぇぇぇぇ!!!!!!!」


マリーゴールドは、ただただ、微笑んでいた。
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