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君が、私を、目覚めさせた
どこまでもやみのなか*
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ぱっと目を開ける。
何も見えない。またあの暗闇の中に戻ってきたのか。
私はどう表現したらいいか分からない感情を持て余し、息を吐いた。空気が揺れる。
「…戻ったか。あれは過去を投影しただけの空間であり本物ではない。残念ながら私が手を加えられたのはほんの些事に過ぎぬ。」
何も無い空間に、声が響く。前に聞いた、初代勇者であろう人の声だ。
「どうして…。」
私の声が聞こえていないと分かっていても、私はそう問い掛けていた。
案の定、その言葉は届かない。
「私は本来ならば勇者に選ばれる筈もない存在であった。しかし結果私は勇者となり、こうして今も漂い続けている。それが良いか悪いかは知らぬが、今こうして繋がったのならば、意味の無いことでは無かったのだろう。…見よ。」
「……?」
見ろと言われても、ここにあるのは闇だけだ。どこを指しているのだろうと辺りを見回してみると、闇の中で一際暗く、何かが蠢いているような場所があった。戦々恐々としながらもそれに近付く。目を凝らしてよく見てみれば、確かに闇が渦巻いていた。
どうなっているのか、呆然とそれを見つめていると、声がまた話し始める。
「見つけたか?すまぬが時間が無い。其方が見付けていることを前提として話を進めるぞ。そこは坩堝。様々な感情が集結し、波となっている場所だ。決して触れるな。触れたら最期、呑まれるぞ。」
ピンと張り詰められた言葉に、慌ててギュッと手を握り込む。
「渦の中心が分かるだろうか。揺れず、ただその場にある目となる部分だ。」
自分の身体すら見えない闇の中で暗闇を眺める作業は困難ではあったけれど、ぐるぐると回り続けるそれを辿っていけばなんとか見つけることが出来た。
「…あれ、かな。」
「見つけたと仮定して続けるぞ。そこに、初代が眠っている。」
「ルークさんが…!?」
思わず大きな声が出てしまったが、声はそのまま話を続ける。聞こえていないのだから当然だけれど。
「初代は自らその場に赴いた。いつの事だったのかはもう覚えていない。私がまだ私の輪郭を保っていた頃ではあったとは思う。」
私はその渦の真ん中を見つめながら耳を傾ける。
「初代はその身に祝福を受け、産まれた。そう聞かされていたが…其方も見たであろう。山奥に2人で生活する初代を。城で1人棺に寄り添う初代を。初代は常に孤独であった。細君を亡くしてからは、その孤独を深めていったのだろう。…神は何故、浄化の力を人に与えたのだろうな。」
誰に問うのでもないその言葉は、数秒の沈黙の中に消えていく。
「其方のおかげで少しは癒えたように思う。…しかし、やはり時が経ちすぎたか。このままではまた元通りになって何も変わらん。」
どうしたものかと悩む声を聞きながら、ぼんやりと渦を眺めていた私の視界で、何かがチカ、と光った。それは明らかに闇とは違う。一面黒の中で圧倒的な存在感を放つものの、しかし頼りなさげにフラフラと揺れる。
「…あれは?」
私はさっきの忠告も忘れて、それに手を伸ばした。
何も見えない。またあの暗闇の中に戻ってきたのか。
私はどう表現したらいいか分からない感情を持て余し、息を吐いた。空気が揺れる。
「…戻ったか。あれは過去を投影しただけの空間であり本物ではない。残念ながら私が手を加えられたのはほんの些事に過ぎぬ。」
何も無い空間に、声が響く。前に聞いた、初代勇者であろう人の声だ。
「どうして…。」
私の声が聞こえていないと分かっていても、私はそう問い掛けていた。
案の定、その言葉は届かない。
「私は本来ならば勇者に選ばれる筈もない存在であった。しかし結果私は勇者となり、こうして今も漂い続けている。それが良いか悪いかは知らぬが、今こうして繋がったのならば、意味の無いことでは無かったのだろう。…見よ。」
「……?」
見ろと言われても、ここにあるのは闇だけだ。どこを指しているのだろうと辺りを見回してみると、闇の中で一際暗く、何かが蠢いているような場所があった。戦々恐々としながらもそれに近付く。目を凝らしてよく見てみれば、確かに闇が渦巻いていた。
どうなっているのか、呆然とそれを見つめていると、声がまた話し始める。
「見つけたか?すまぬが時間が無い。其方が見付けていることを前提として話を進めるぞ。そこは坩堝。様々な感情が集結し、波となっている場所だ。決して触れるな。触れたら最期、呑まれるぞ。」
ピンと張り詰められた言葉に、慌ててギュッと手を握り込む。
「渦の中心が分かるだろうか。揺れず、ただその場にある目となる部分だ。」
自分の身体すら見えない闇の中で暗闇を眺める作業は困難ではあったけれど、ぐるぐると回り続けるそれを辿っていけばなんとか見つけることが出来た。
「…あれ、かな。」
「見つけたと仮定して続けるぞ。そこに、初代が眠っている。」
「ルークさんが…!?」
思わず大きな声が出てしまったが、声はそのまま話を続ける。聞こえていないのだから当然だけれど。
「初代は自らその場に赴いた。いつの事だったのかはもう覚えていない。私がまだ私の輪郭を保っていた頃ではあったとは思う。」
私はその渦の真ん中を見つめながら耳を傾ける。
「初代はその身に祝福を受け、産まれた。そう聞かされていたが…其方も見たであろう。山奥に2人で生活する初代を。城で1人棺に寄り添う初代を。初代は常に孤独であった。細君を亡くしてからは、その孤独を深めていったのだろう。…神は何故、浄化の力を人に与えたのだろうな。」
誰に問うのでもないその言葉は、数秒の沈黙の中に消えていく。
「其方のおかげで少しは癒えたように思う。…しかし、やはり時が経ちすぎたか。このままではまた元通りになって何も変わらん。」
どうしたものかと悩む声を聞きながら、ぼんやりと渦を眺めていた私の視界で、何かがチカ、と光った。それは明らかに闇とは違う。一面黒の中で圧倒的な存在感を放つものの、しかし頼りなさげにフラフラと揺れる。
「…あれは?」
私はさっきの忠告も忘れて、それに手を伸ばした。
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