主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

ギルドとレシピ

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塔から離脱し、ヴィオレット達はギルドへ走る。空は夕暮れ。あれだけ長く居たというのに、ダンジョンというものは何故か一定時間しか過ぎないのだから不思議なものである。

「受付さん!」

扉を開け、カウンターに叩き付ける勢いでレシピを渡す。いつになくボロボロで焦った様子のヴィオレットを見て、いつもにこやかに対応してくれていたギルドの受付職員は少し驚いたように目を見張った後、プロらしく笑顔で頷いた。

「かしこまりました。素材のアイテムはお持ちでしょうか?」

「あります。あ、あのこれ、触れないし、危なくて。」

慌てて取りだそうとしてはた、と気付く。これは特殊なアイテムだ。狼狽えるヴィオレットに、受付職員は笑顔を崩さない。

「ご心配ありがとうございます。ですが問題ございませんよ。」

促されるままにヴィオレットはアイテムを取り出す。
『白のキャンパス』と『暗闇写し』だ。
確かめるようにじっとそれらを見つめたあと、指を振りレシピを翳す。

「«コンコート»」

2つは光に包まれ、やがて形を変える。ヴィオレット達が固唾を飲んで見守る中、光はゆっくりと小さくなり、1つのアイテムを出現させた。

「はい。完成しました。こちら、『光のキャンパス』となります。レシピはどうなされますか?」

いつも通りの定型文。けれど、その言葉は正確な意味を持ってヴィオレット達へと伝わる。
ヴィオレットの胸が痛い程高鳴った。
これで、きっと。

「レシピはそのままギルドへ。あの、ありがとうございました。」

ヴィオレットはぺこりと頭を下げて、出口へと向かう。

「いえいえ。またお立ち寄りください、勇者さま。」

それはいつもと同じお見送りの台詞であるのに、何だか心強くて、ヴィオレットは堪らず大きく足を踏み出した。






あと少し。

もう少しだよ、マリー。
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