主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

死力を尽くして

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「次全体攻撃!避けて!!!!」

いくらゲームをプレイしていたとて、現実世界では全てがパターン化されている訳ではなく、その面で有利に進めることは出来ない。けれど予備動作で察せることもあるし、避けることだって可能だ。
ヴィオレットはいち早く攻撃方法とそれに付随する動作を覚え指示を出す。

「汝は祈り。希望。光明。冀望。その輝きで彼のものを守りたまえ。«オールプロテクション»」

エミリーが全員に保護魔法をかける。瞬間、広範囲に炎のブレスが放たれる。

「わー!!!ちょっと焦げた!」

「今治療します!汝は安らぎ。和らぎ。労り。彼のものの傷を癒せ。«ヒールモスト»」

「ありがとエミリー!」

最前線で壁役をしているレーシアは、やはりその分傷も多く、疲労も溜まっていく。部屋の半分を覆い尽くすかのような広範囲の攻撃は避けきれなかったようだった。
エミリーが急いで回復させていく。
すぐに治した彼女を隠しボスは煩わしそうに見た。それに気付いたレーシアとトールがマークを外させるためにヘイトを稼ぐ。

「はいはいこっち!!!」

「足元がお留守番だぜ。」

ヒットアンドアウェイを繰り返し、なるべく攻撃に当たらないよう立ち回りながら、敵の体力を削っていく。

「闇より出でて闇より染まれ。«シャドウ»」

「なるべく同じ場所を攻撃して。そっちの方が削れる。」

ジルが暗闇を付与し、ヴィオレットが血の流れる傷へとその剣を振り下ろす。無論、敵もタダでは殺らせてくれそうもない。ヴィオレットを弾き飛ばすようにして巨大な腕が振るわれ、それをしゃがみこんで避けるもヴィオレットは風圧で壁へと激突した。

「主!」

「問題ない!」

「汝は安らぎ。和らぎ。労り。彼のものの傷を癒せ。«ヒールモスト»」

「ありがとう、ごめん油断した。」

滴り落ちる血と汗を拭い、ヴィオレットはまた駆けていく。

「«水弾»」

ヴィオレットに注目していた敵は、逆方向からの不意打ちをまともにくらい、激昂する。雄叫びが大気を震わせた。


























幾度目かのヴィオレットの攻撃。避けようとしたのだろう、しかし後ずさる足がふらついたのを見て、ヴィオレットが叫ぶ。

「ジャヴィ!!!」

「森羅万象、天地万物。凍れ。眠らせよ。«絶対零度»」

ジャヴィの詠唱付き魔法。本気の一撃は、キン、という高い音を鳴らし、みるみるうちに敵を足元から凍らせていく。逃れるように炎を吐くも勢いは止まらず、やがて全てを飲み込みガラスの割れるようなけたたましい音と共に、その巨体は粉々に砕け散った。

一瞬の静寂。

「終いか。」

勝利を告げるジャヴィの声に、緊迫していた空気が一気に緩む。

「~~~っ!!!やったーーー!!!!」

拳を上にあげたレーシアが、どさりと床へと倒れ込む。

「おい!」

慌ててジルが助け起こす。

「大丈夫大丈夫!だけど、ちょっと休憩させてぇ~…。」

そう言ってへらりと笑ったレーシアの隣にエミリーが座り込む。そのボロボロのローブが如何に過酷な戦いであったのかを物語っていた。

「疲労は魔法で回復出来ませんからね。私も流石に限界ですわ。」

「今回ばかりは死ぬかと思ったぜ。」

大きく息を吐いたトールが、そのまま宝箱へと近付く。

「ヴィオ。」

「うん。」

隠し部屋のボスのドロップアイテムを確認していたヴィオレットが緊張した面持ちで駆ける。

「ヴィオレット。幸運を。」

ジャヴィが杖を振り、気休め程度の呪いを施す。

「ありがとう。」

ヴィオレットは静かに深呼吸をして、宝箱へと手をかける。

「…開けるよ。」

祈るようにゆっくりと宝箱が開けられる。
ウィンドウに表示されたのは、















「『光のキャンパスのレシピ』」





これで、ピースは揃った。
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