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君が、私を、目覚めさせた

君を想う

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「マリー!!!」

ヴィオレットが叫んだところで、もう何も映らない。触れても沈黙に座し、ただヴィオレットの魔力を吸収していく。

好きなだけ持っていけばいい。

そう思った。
けれど、触れ続けたところで、なにも応えはなかった。

「…マリー。」

物語は、既にゲームのシナリオを外れてしまっている。それはつまり、ヴィオレットにはもう確信を持って最善を選び取ることは出来なくなったということだ。
これからヴィオレットは先の見えない選択肢を選び続けなければならない。

震える手をギュッと握りしめ、ヴィオレットは考える。マリーゴールドの傍にいたのは恐らくルーク・アリスティレリアだった。マリーゴールドがルークと呼んでいたのに加えて、一つだけある彼の肖像画に顔がよく似ていたのだ。彼は建国者として歴史書に載っているものの、彼に関する文献はほとんど残っておらず、建国した後程なくして退位したとされている。実際には世界の浄化の為に眠りについたのだろう。

あれは過去、ということなのだろうか。どうしてマリーゴールドがそこにいたのだろう。そしてマリーゴールドは何かを成し遂げようとしていたようにも思う。

「マリーは今、頑張っている。」

己を鼓舞するように、ヴィオレットは小さく呟いた。マリーゴールドが命を賭している時に、ヴィオレットが立ち止まっていることなど有り得ない。だってマリーゴールドは、ヴィオレットの大切な幼馴染で妹でそして1番の親友なのだから。

ベッドへと倒れ込みながら、ヴィオレットは『暗闇写し』があの光景を見せた意味を考える。あれはヴィオレットの幻想ではない。なぜならこの世界は、主人公プレイヤーに都合良く出来ているのだから。それはイベントとシステムが証明してくれている。もし先程の光景がヴィオレットの夢想であるのならば、意地が悪いどころの話ではないだろう。

だから、眠っているはずのマリーゴールドが過去に飛んだ。これは恐らく当たっている。けれどそれは現実の過去ではない可能性が高い。夢は、どこまででも繋がっているものだから。
確信を得る為に、明日は魔王城へと行くべきだろうとヴィオレットは決めた。幸い魔王城は移転可能場所だ。

しかし、ヴィオレットが眠っている間の記憶とはだいぶ異なっているのはどうしてなのだろうと不思議に思う。マリーゴールドが浄化の魔力を持っていないからなのだろうか。あの闇の中よりはずっといいと、ヴィオレットは小さく息を吐く。

「マリー。」

何度この名前を呼んだだろう。小さい頃から傍らにあった、その名前を。何時だって返事があったのに。

そう思うと鼻の奥がツンとしてきて、ヴィオレットは慌てて深呼吸をした。泣きたくなんてなかった。次に泣く時はマリーゴールドの腕の中だと決めていたから。

「帰ってきたら、アシェルに叱ってもらうんだから。」

きっと、私も一緒に叱られるんだろうなと、ヴィオレットは小さく笑って目を閉じた。
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