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君が、私を、目覚めさせた

特殊イベント

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夜、城下町の宿屋に泊まれば、受付のおばさんが私を見て驚いた顔をみせる。

「おや、あんた珍しいものを持っているね。寝る時はそれを取り出して置いておくといいよ。」

「えっ。」

これはアイテム関連の特殊イベント発生時に起こる声掛けだ。ゲームでは宿屋は眠って起きることで体力と魔力を全回復する場所なのだが、この声掛けを聞いた時は眠る前に特定のアイテムを選択することで夜中のイベントが見られるようになる。当然、ヴィオレットはその事を知っていたし、実際イベントを起こしたこともあった。

「さぁ、もう夜も遅い。早くお部屋に行って眠りなさいな。おやすみ、良い夢を。」

「…ありがとう。おやすみなさい。」

鍵を受け取り階段を上る。部屋はいつもと同じように基本2人ずつ取ったが、ヴィオレットの隣にマリーゴールドは居ない。3人ずつでも良かったかなと思いつつ、お金に困っている訳でもないので別にいいかと扉に手をかけた。

「おやすみ、皆。」

「「おやすみ(なさい)」」

旅の最中もこうして見送られたなとヴィオレットは少しだけ口角を上げた。
ドアノブを回す。
部屋は別段変わったところは無い。宿屋は基本的にどこも同じような造りになっているのだ。

ヴィオレットは部屋に入り、前と同じようにテーブルへと近付き、ウィンドウに従いアイテム欄を開く。

「多分、これだよね。」

『【暗闇写し】を取り出しますか?』

はい
いいえ

少しの躊躇いの後、ヴィオレットは『はい』を選択する。『暗闇写し』がテーブルに立て掛けられる。一体何が起こるのだろう。ヴィオレットのゲーム知識には何も情報が無い。…尤も、もう大分忘れてしまっているけれど。

「これからどんどん忘れていくのかな。寂しいような、そうでもないような…。」

ヴィオレットはベッドに腰掛けて『暗闇写し』を見つめる。

このアイテムに関しては、あの部屋から持ってくる事がイベントだったらしく、アイテム欄に入れてみても魔力吸収は行われなかった。やはり所持することではなく触れる事が条件らしい。

今夜きっと、このアイテムの使い方が分かるのだろう。もしくは、このアイテムの本当の意味を知ることになるはずだ。怖くないと言えば嘘になる。けれど、誰かを巻き込む気にはなれなかった。きっとこういう時マリーゴールドならば、ヴィオレットが駄目だと言っても一緒に居てくれるのだろう。手を繋いで眠ってくれただろう。ヴィオレットなら大丈夫だと励ましてくれただろう。

「…マリーと話したいなぁ。」

2人部屋はやっぱり、ヴィオレット1人には広かった。
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