主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

進むために

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あの後情報の擦り合わせをして、私達は王城の前へとやってきた。
マリーが私を助ける為にどれだけ頑張ってきたのかを聞いてから、私はどうしたらそれに報いることが出来るのかをずっと考えている。

「にしても便利だよな、これ。どんな魔法使ってんだ?」

この能力マップ移動が使えることにホッとしていると、トールが感心したように尋ねてくる。

「魔法…まぁそうね。これは私にしか使えない魔法なの。」

「それは鳥のものともまた異なるようだの。ふむ、我らに行使したあの魔法と同類か。」

興味津々といった様子で私を見つめるジャヴィに思わず苦笑してしまう。
魔王を倒した後、私はパーティ状態を解除することで、仲間だった皆を私とパーティを組んだ時の場所へと帰したのだ。たったひとり、鍵をかけていたマリーを残して。

マリーはずっと、それこそ旅に出る前から私のパーティの一員だった。あのチュートリアルの森で出会ってから、ずっと。
彼女がパーティから外れる日が来るなんて思いもしていなかったから、私にしか見えない編成不可の文字が、悲しくて、苦しい。

「えぇ。あれもこれも同じ。それより、ここからはなるべく誰にも会わないようにしなくちゃ。」

辺りを見回しながら私がそう言うと、レーシアが腕を組みながら首を傾げる。

「まぁ最悪私達はバレても問題ないよね。」

「そうですわね。多少訝しがられることはあるでしょうけれど。理由は幾らでもありますもの。」

エミリーの言葉に頷く。
確かに、私の存在が他者に見つかるのが1番マズイ。
主人公はパーティの控えに回ることも出来ないのでどうしたものかと考えていると、トールが私を呼ぶ。

「なら俺の出番か。ヴィオ、こっちに来い。」

「?」

近付けば、トールが魔法を使ったのが分かった。

「トール?」

「お前の存在感を盗んだ。目くらましにはなるだろ。」

「そんなこと出来たの?」

「あぁ。言っとくが、人が多い場所じゃ通用しねぇ。特にお前は勇者として有名だったからな。死んだとされてる今だからこそお前にも使えるんだよ。」

旅の最中も盗んでくれていればと思ったことが顔に出ていたのだろう。トールはそう言って私に釘を刺した。

「ありがとう、トール。」

「盗まれてありがとうなんて言うもんじゃねぇよ。全く…マリーと似た反応しやがって。」

「あらマリーにも使ってくれたのね。ふふ、あの子喜んだでしょ?目立つの嫌いだったし。」

「あぁ。」

「…私の居ない間、マリーのことを守ってくれてありがとう。」

「俺が勝手にやったことだ。それに、俺はお前の代わりとして居た訳じゃねぇよ。」

呆れたように溜め息を吐くトールの言葉にハッとする。確かにそうだ。

「それもそうね。でも、ありがとう。皆も本当にありがとう。マリーはね、1人で居ることに慣れていないの。小さい頃から誰かしら傍にいたし、私と出会ってからは私とずっと一緒にいたから。」

「なら一人旅の間弱ってたのはそれが原因か。」

ジルが眉を寄せる。ずっと1人で生きてきたジルには理解しづらい感覚なのかもしれない。

「そうかもしれないわ。…だから早く起こさなきゃ。」

覚えてないなんて嘘だ。あの恐ろしい闇の中にマリーは1人で居る。そんなの、許せるはずもない。
お前のせいだと私を詰る声がまだ耳元にあった。分かっている。これは私のせいだ。だけど、だから、私は絶対に諦めない。

「行こう。目指すは王座の間よ。」
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