55 / 122
旅に出よう、彼女の元へ、行けるように
しゅくふく
しおりを挟む
クスクスと笑う声が聞こえる。
目を開けば、ライラが私の目の前に居た。
「ライラ。」
前回同様、息が出来る。声が出る。分かっていたけれど、やっぱりどこか不思議で喉に手をあてれば、ライラが真似をして私の喉へとその小さな手を添える。
柔らかな、優しい手だ。
「まりー、いたい?」
耳のすぐ近くで聞こえた声に、私は目をぱちりと瞬いた。
鈴を転がしたような綺麗で可愛い声。その声が翳り、私に届く。知らない声の筈なのに、聞いたことがある気がするのはどうしてなのだろう。
「まりー、いたい、わたし、いや。」
「…ライラ?」
たどたどしく、しかしはっきりと聞こえる声に、私は目の前の存在の名前を呼んだ。分からない。分からないけれど、彼女の声だと、そう思ったから。
喉に手をあてていたライラは、私の問いかけにこくりと頷き、そして頬にキスをしてくれた。
「ライラ、喋れるようになったの?あ、えっと違くて、ええっと、人間の言葉を話せるように、なったってこと?」
どう言っていいか分からない私に、ライラはクスクスと笑いながらもう一度頷く。
「まりー、ゔぃー、わたしのかわいいこ。ことば、まりーのため。」
ライラは私とヴィーを気に入ってくれていた。それはライラのお母さんも言っていて、現にこうして楽しそうに笑うライラを見ればわかる。
ライラが言う私の可愛い子、とはどんな意味を持つのかは分からない。けれどその言葉が嬉しくて、なんだかくすぐったくて、特別なんだと思った。
「私のため?」
ヴィーは精霊の言葉が分かるみたいでライラと会話出来ていた。私は分からなかったから、ライラに初めて会った時はヴィーが通訳をしてくれて、前回会った時はライラが身振り手振りで私に話しかけてくれていた。ライラのお母さんは、まだまだ勉強中だと言っていたけれど。
「わたし、まりー、はなす。まりー、ことば、しらない。わたし、おぼえた。まりー、ゔぃー、わたし、いっしょ。はなす!」
「ありがとう、ライラ。私もいつか、ライラの言葉を勉強したいな。」
私とヴィーと話したいから人間の言葉を覚えたのだと言うライラに嬉しさが溢れる。
だからいつか、ヴィーを取り戻したその後にもし許されるのならば、ライラの、精霊の言葉を覚えたいと、そう思った。
「まりー、はなす?わたし、おしえる!まりー、ゔぃー、わたし、いっしょ!」
「うん…!」
目をキラキラとさせたライラが私の周りを宙返りしながら飛び回る。
嬉しいのだとそう伝えてくれる幸せに、私も頬が緩む。
ライラはヴィーが居ない今も、帰ってくるのだと信じているとわかったから。
「あのね、ライラ。今日はライラのお母さんがくれた祝福について聞きたかったの。」
「しゅくふく?」
「うん。この間、ライラのお母さんが私にくれたって言ってた。」
「しゅくふく。まりー、しあわせ。わたしたち、おくる。」
ライラにお母さんの真似をして、私の額にキスをする。
「幸せ?」
「まりー、いきる。しあわせ、だいじ。しゅくふく、いっかい、しあわせ、つかう。」
「?えっと、私が生きるのに幸せは大事なことで、祝福は幸せのために1回だけ使えるもの、ってこと?」
「にてる。…まりー、おねがい、いっかい、つかう。しゅくふく、きえる。」
ふるふると首を振ったライラが、少し考えた後に言葉を重ねた。
お願い。1回。使う。祝福。消える。
ライラの言葉をそのまま受け取るとしたら…、
「私の願いを1度だけ叶えてくれる…?」
恐る恐るそう口にすれば、ライラは頷いて大きく宙返りをした。
「まりー、おねがい、しあわせ!てだすけ、いっかい!」
「私が自分の幸せのために願うことに対して、ライラのお母さんが手助けしてくれるってこと?」
慣れてきたのか、ライラの言いたいことがちょっとずつ分かってきたように思う。
ライラの言葉を文章として繋げていけば、ライラは笑って頷いた。
「うん!なんでも、しあわせ、いっかい、てだすけ。」
「幸せの為の願いなら、なんでも1回だけライラのお母さんが叶えるための手助けをしてくれる…。」
それは、奇跡と呼ばれるものでは無いだろうか。
驚き震える私に、ライラはその小さな手で、私の指をギュッと握った。
「わたし、ちいさい。おおきい、すぐ、まりー、ゔぃー、しゅくふく、あげる。まりー、ゔぃー、だいすきよ。」
大きくなったら、私とヴィーに祝福を授ける。そう言って胸を張るライラに、私は、ただただ頷いた。
だって、こんなにも嬉しい。
とてつもない力を手にしてしまった恐怖はある。けれど、これは結局私の使い方次第だ。
私の幸せ。
それは、ヴィーが居てくれること。
だから、きっと、大丈夫。
「まりー、しゅくふく。いらない?」
悲しそうなライラに、慌てて首を振る。
「…ありがとう。ありがとう、ライラ。私もヴィーもライラが大好き。」
嬉しそうに大好きだと繰り返してキスをくれるライラに、私もそっとキスを贈る。
今度はヴィーと2人で会いに行く。その時は、ライラとヴィーとライラのお母さんと私で甘いものをお腹いっぱい食べよう。
そう決めて、私はゆっくりと水面の方へと上った。
ライラはふわりと笑って、私に手を振る。それから妖精の言葉で何かを呟いた。
いつかきっと分かるだろうか。彼女の言葉の意味が。
その日が来る事を、祈る。
『マリー、私の愛しい子。貴女の未来に幸あれ。』
目を開けば、ライラが私の目の前に居た。
「ライラ。」
前回同様、息が出来る。声が出る。分かっていたけれど、やっぱりどこか不思議で喉に手をあてれば、ライラが真似をして私の喉へとその小さな手を添える。
柔らかな、優しい手だ。
「まりー、いたい?」
耳のすぐ近くで聞こえた声に、私は目をぱちりと瞬いた。
鈴を転がしたような綺麗で可愛い声。その声が翳り、私に届く。知らない声の筈なのに、聞いたことがある気がするのはどうしてなのだろう。
「まりー、いたい、わたし、いや。」
「…ライラ?」
たどたどしく、しかしはっきりと聞こえる声に、私は目の前の存在の名前を呼んだ。分からない。分からないけれど、彼女の声だと、そう思ったから。
喉に手をあてていたライラは、私の問いかけにこくりと頷き、そして頬にキスをしてくれた。
「ライラ、喋れるようになったの?あ、えっと違くて、ええっと、人間の言葉を話せるように、なったってこと?」
どう言っていいか分からない私に、ライラはクスクスと笑いながらもう一度頷く。
「まりー、ゔぃー、わたしのかわいいこ。ことば、まりーのため。」
ライラは私とヴィーを気に入ってくれていた。それはライラのお母さんも言っていて、現にこうして楽しそうに笑うライラを見ればわかる。
ライラが言う私の可愛い子、とはどんな意味を持つのかは分からない。けれどその言葉が嬉しくて、なんだかくすぐったくて、特別なんだと思った。
「私のため?」
ヴィーは精霊の言葉が分かるみたいでライラと会話出来ていた。私は分からなかったから、ライラに初めて会った時はヴィーが通訳をしてくれて、前回会った時はライラが身振り手振りで私に話しかけてくれていた。ライラのお母さんは、まだまだ勉強中だと言っていたけれど。
「わたし、まりー、はなす。まりー、ことば、しらない。わたし、おぼえた。まりー、ゔぃー、わたし、いっしょ。はなす!」
「ありがとう、ライラ。私もいつか、ライラの言葉を勉強したいな。」
私とヴィーと話したいから人間の言葉を覚えたのだと言うライラに嬉しさが溢れる。
だからいつか、ヴィーを取り戻したその後にもし許されるのならば、ライラの、精霊の言葉を覚えたいと、そう思った。
「まりー、はなす?わたし、おしえる!まりー、ゔぃー、わたし、いっしょ!」
「うん…!」
目をキラキラとさせたライラが私の周りを宙返りしながら飛び回る。
嬉しいのだとそう伝えてくれる幸せに、私も頬が緩む。
ライラはヴィーが居ない今も、帰ってくるのだと信じているとわかったから。
「あのね、ライラ。今日はライラのお母さんがくれた祝福について聞きたかったの。」
「しゅくふく?」
「うん。この間、ライラのお母さんが私にくれたって言ってた。」
「しゅくふく。まりー、しあわせ。わたしたち、おくる。」
ライラにお母さんの真似をして、私の額にキスをする。
「幸せ?」
「まりー、いきる。しあわせ、だいじ。しゅくふく、いっかい、しあわせ、つかう。」
「?えっと、私が生きるのに幸せは大事なことで、祝福は幸せのために1回だけ使えるもの、ってこと?」
「にてる。…まりー、おねがい、いっかい、つかう。しゅくふく、きえる。」
ふるふると首を振ったライラが、少し考えた後に言葉を重ねた。
お願い。1回。使う。祝福。消える。
ライラの言葉をそのまま受け取るとしたら…、
「私の願いを1度だけ叶えてくれる…?」
恐る恐るそう口にすれば、ライラは頷いて大きく宙返りをした。
「まりー、おねがい、しあわせ!てだすけ、いっかい!」
「私が自分の幸せのために願うことに対して、ライラのお母さんが手助けしてくれるってこと?」
慣れてきたのか、ライラの言いたいことがちょっとずつ分かってきたように思う。
ライラの言葉を文章として繋げていけば、ライラは笑って頷いた。
「うん!なんでも、しあわせ、いっかい、てだすけ。」
「幸せの為の願いなら、なんでも1回だけライラのお母さんが叶えるための手助けをしてくれる…。」
それは、奇跡と呼ばれるものでは無いだろうか。
驚き震える私に、ライラはその小さな手で、私の指をギュッと握った。
「わたし、ちいさい。おおきい、すぐ、まりー、ゔぃー、しゅくふく、あげる。まりー、ゔぃー、だいすきよ。」
大きくなったら、私とヴィーに祝福を授ける。そう言って胸を張るライラに、私は、ただただ頷いた。
だって、こんなにも嬉しい。
とてつもない力を手にしてしまった恐怖はある。けれど、これは結局私の使い方次第だ。
私の幸せ。
それは、ヴィーが居てくれること。
だから、きっと、大丈夫。
「まりー、しゅくふく。いらない?」
悲しそうなライラに、慌てて首を振る。
「…ありがとう。ありがとう、ライラ。私もヴィーもライラが大好き。」
嬉しそうに大好きだと繰り返してキスをくれるライラに、私もそっとキスを贈る。
今度はヴィーと2人で会いに行く。その時は、ライラとヴィーとライラのお母さんと私で甘いものをお腹いっぱい食べよう。
そう決めて、私はゆっくりと水面の方へと上った。
ライラはふわりと笑って、私に手を振る。それから妖精の言葉で何かを呟いた。
いつかきっと分かるだろうか。彼女の言葉の意味が。
その日が来る事を、祈る。
『マリー、私の愛しい子。貴女の未来に幸あれ。』
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる