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私は、独り、流される

とうぞく

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頭がガンガンと打ち付けられているように痛い。いつまでも揺れているような感覚が気持ち悪くてベッドの中で丸くなるも、何も変わらず寒気まで感じる始末だ。

苦しい。怖い。寂しい。苛立つ。寒い。熱い。痛い。

勝手に零れる涙を拭うのは諦めた。どうしたって抑えられない感情の渦に飲み込まれて、私はただ荒い息を吐き出すことしか出来ない。

歪む視界の向こうで、誰かが私を撫でる。冷たい手だ。誰だろう。前にもこんな事があったような気がする。ヴィーの風邪が私に移ってしまって2人して寝込んでしまった時、こうして誰かに撫でられて、それから、それから、

「盗んでやろうか、お前ごと全部。」

そうだ、そう言われた。ヴィーと私を抱え込んで、彼はそう言った。言ってくれた。

「トー、ル。」

名前を呼ぶと、彼が笑う気配がした。それから、私を毛布ごと抱き込む。親猫が子猫を守るように、その腕の中にしまい込まれる。力強い腕とゆったりとした心臓の音が、ここは安全だと教えてくれた。

「魔王の城にあった財宝は粗方いただいたぜ。ったく辺鄙なとこに飛ばしやがって。戻るの面倒だったじゃねぇか。」

「…ごめん。」

「おめーが謝んのかよ。やったのはヴィオだろ。」

笑う振動がくすぐったい。まるで子供に戻ったような気持ちになって、私も釣られて笑う。

「…お前もあいつも、なんでこんな重てえもん背負わなきゃいけなかったんだろうな。まだガキだってのによ。」

私の頭を撫でていた手が目元へと降りてくる。冷たい、けれど優しい手だ。

そうだよ。私は本当は嫌だった。痛いのも、怖いのも、大嫌いだ。逃げ出したかった。でもヴィーは私よりもずっと辛いって分かってたから、辞めたいなんて、言えなかった。言いたくなかった。

今もきっとヴィーは1人で戦ってる。だから私も、1人で役目を果たさなきゃいけない。私が、ヴィーを取り戻すために。私のために。

「なぁ、盗んでやろうか。何もかも全部。お前ひとり養うぐらいなんでもねぇよ。元々俺はお尋ね者だしな。罪状が1個ぐらい増えたところで痛くも痒くもない。どうだ、マリー。」

軽い口調でトールが言う。分かってるくせに、私に聞くのだ。

「ダメだよ。」

「ダメか?」

「ダメ。」

「ダメか。」

ゆらゆら揺れる暖かいゆりかごの中で、私は目を閉じる。

「トールは優しいから、ダメ。」

一瞬揺れが止まる。どうしたのだろうと目を開ける前に、また、ゆらゆらとゆりかごは揺れる。

「盗賊団のリーダー捕まえて優しいとは、目出度ぇ頭だな。…まぁいい。気が変わったらいつでも言え。まずはその熱を、俺が盗んでやる。」

おでこに冷たい手が乗せられる。トールの魔法は特殊だ。なんでも奪えるし、なんでも与えられる。トールだけの魔法。トールしか使えない、不思議な魔法。

あれほど痛かった頭の痛みが、すっと引いていく。

「ありがとう、トール。」

「盗まれてありがとうなんて言うもんじゃねぇよ。いいから寝とけ。次に起きた時は何もかも良くなってる。」

髪を梳かれると、途端に眠気が増していく。トールの前だと素直に甘えてしまう。兄がいたらこんな感じなのかな、と毎回思いながら、口に出したことは無いけれど、きっとトールにはバレているのかもしれない。

「…うん。おやすみなさい。」

「…おやすみ。」

優しいゆりかごの中で、私は久しぶりに安心して眠りについた。



















「…どうして勇者はヴィオだったんだろうな。神様ってのはほんと嫌な奴だぜ。」
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