主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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私は、独り、流される

あのこをころしたきしさま

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パレードは当然中止となり、会議室らしい部屋で今後の対策などの話し合いが行われた。そこで聞かされた話に、私は驚きを隠せなかった。
あぁどうして、どうしてそんなことが出来るのだろう。

「…どういう、事ですか。」

やっと絞り出せた声はみっともなく震えていた。

「魔物、魔族は全て倒す。そうするべきだと決められている。切り捨てて何が悪いというのだ。」

「っ貴方は…!」

言葉が続かない。怒り、悲しみ、嫌悪、色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざって吐き気を催した。この人は何を言っているんだろう。貴方が切ったのは、『人間の子供』だというのに。

「むしろ悪い芽を早めに摘めてよかっただろう。感謝して欲しいくらいだ。」

その言葉に、私は感情が抑えられなくなった。視界が赤く染まる。人は振り切れるとどこか冷静になるものなのだと初めて知った。

「…人殺し。」

「なんだと?」

「人殺しだと言ったんです。あの子は人間でした…!魔族に育てられただけの、普通の子供だった!!!」

「ふん、魔族と共にいたのならばもうそれは人間ではない。醜い魔族だ。」

そういう自分の顔が余程醜く、魔族じみていることをこの人は分かっているのだろうか。

「いいえ!彼は普通に笑い、普通に泣き、普通に兄を慕う、何処にでもいる子供でした!ただ一生懸命生きる子供を貴方は殺した!!」

「魔族に育てられてまともに育つはずがない。子供のフリなどお手の物だろう!姫様に危険が及ばぬよう魔は全て倒す。それが姫様の護衛騎士としての誇りだ。」

「騎士としての誇り?子供を殺す事が誇り…?兄である魔族を殺さず戦う術のない弟だけを狙う事が、誇りだと言ってるの?騎士とは臆病で卑怯な人の事を言うのだとは知らなかった。」

「貴様…っ!」

吐き捨てるように言った私に、騎士が立ち上がる。切られるだろうか。殺されるだろうか。あの子のように。

脳が勝手に血濡れで倒れるあの子を想像する。どれだけ痛かっただろう。どれだけ怖かっただろう。騎士になりたいと笑っていたあの子は、どれだけ絶望しただろう。それが許せなかった。

「…今日、貴方のせいで何人の人が死んだでしょうか。貴方があの子を殺さなければ、ソレントは戦いに参加することはなかったでしょう。貴方の行動が、多くの誰かの命を奪った。」

「言わせておけば…、いいか、働くしか脳のない民などどうでもいい。俺は尊きお方を守るためにいるのだ!薄汚い愚昧な下民には分からぬかもしれぬがな、「黙りなさい。」」

「…姫様?」

姫様が立ち上がり、ゆっくりと騎士へ近づく。その目は冷ややかに、しかし呆れとも悲しみともつかない色をもっていた。

「ギリュー。わたくしの言葉を覚えていますね。」

「は…、」

「『次はない』と言ったはずです。」

「姫様、しかしこれが、」

騎士の言葉に被さるようにして、ドアが大きく開かれる。

「世界を救った英雄様をこれ呼ばわりですか。なんともまぁ随分偉くなったものですね、ギリュー。」

「っお、王妃、様…。」
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