主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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私は、独り、流される

かんこう、しよう

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何をするでもなく外へ出掛ける。今日の私は勇者一行でも無ければ薬草採取係でも無い。

何をしよう?何処へ行こう?

比較的大きなこの街の広場に出店が出ていたから、それを見て回ろうか。それとも洋服を見に行こうか。武器屋さんを見に行くのもいいかもしれない。

「ねぇ、ヴィー、」

いつもみたいに呼び掛けてしまった事に驚いて、立ち止まる。それ程までに浮かれていたのかと自嘲した。

今まで何時だって一緒だった。街や村に着くとヴィーはいつでも私を楽しい場所に連れ出してくれて、他の人が気付かないような、スルーしてしまうような事も私に教えてくれた。この街ではヴィーならどんな発見をしたのだろう。

きっと私には見つけられない素敵なものを見つけて、笑うのだ。

そんな事を考えながら歩いていると串焼きのいい匂いが漂ってきた。思わず顔を上げる。いつの間にか視線が落ちていたようだ。匂いの元を探してみると、屋台のおじさんと目が合った。

「いらっしゃいお嬢ちゃん。この街の名物だよ、食べるかい?」

「あ、えっと、はい。1本お願いします。」

「あいよ!焼きたてで熱いから気をつけてな。」

「ありがとうございます。」

手渡された串焼きを頬張る。確かに熱いけれど、タレが染み込んでいてとても美味しい。最近あまり食欲がなかったのに、ペロリと食べきってしまった。

「美味しそうに食べてくれるじゃねぇか。ありがとよ。おまけにもう1本どうだ?」

「えっ、でも…。」

「久しぶりにそんな顔のお客が見れたんだ、俺からのお礼だよ。気にせず食べな。」

そう言って串焼きを差し出すおじさんは本当に嬉しそうで、私は思わず受け取ってしまった。

「…ありがとうございます。いただきます。」

もう1本の串焼きも、相変わらず美味しくて、ヴィーにも食べさせてあげたかったなって思った。

「あの、この街の観光場所ってどこでしょうか?」

「ん?そうだなぁ、面白い場所っつうとこの出店が並ぶ広場と、あとは花の泉だな。」

「花の泉?」

「この街の近くに森があっただろう。あそこには花の泉って言われる綺麗な湖があるんだ。運が良ければ精霊に出会えるって話だが、俺はまだ見たことねぇな。」

「精霊…。」

興味を持った事に気付いたのだろう。笑いながらおじさんは教えてくれた。

「もし行くなら甘い物を買っていきな。精霊は甘い物が大好きだからな。俺のオススメは突き当たりのスノーボール屋だ!」

「ありがとうございます。行ってみます。」

おじさんに見送られた後、また出店を回っていく。どれも美味しそうだけれど、私の胃では全部は食べれなくて、それが少し残念に思えた。

最後におじさんのオススメのスノーボール屋さんに向かう。色々な味があって迷っていたら、おばさんが崩れてしまったスノーボールを食べさせてくれて、特に美味しかったプレーンとイチゴとココアを3つずつ購入する。

この街の人は、優しい。それは私が勇者一行だからではないのだろう。多分気づいてもいないと思う。その事になんだかホッとする。腕が無いとどうしても目を引いてしまうけど、その視線は直ぐに外されるし、私を可哀想な子としてではなくちゃんとお客さんとして見てくれる。

ポーチに買った食べ物を詰めて、おばさんに教えられた道を歩いて森へ向かう。お昼頃までには着けるだろう。

久しぶりにワクワクしていて、でもここにヴィーがいてくれたらもっと良かったのに、なんて考えてしまった。ヴィーと話す夢を見たからだろうか。今日はなんだかいつもよりヴィーの事を考える。もう会えないのに。会いたいと思う。生きているのではないかと思う。

無いはずの腕が暖かい気がして、駄目だと思うのに降って湧いた希望が頭から離れなくて少しだけ泣きたくなった。
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