15 / 122
私は、独り、流される
ぐうぞう
しおりを挟む
昼近くに町を出発し、また王城を目指す。
女性からのありがとうの言葉は、私にはなんだか重くて、俯いて首を横に振る事しか出来なかった。
それからは繰り返される明らかに弱体化した魔物退治と、感謝の言葉。少しずつ噂になっているようで、増える依頼の数が、期待の眼差しが、苦しかった。
…1度言われた言葉が頭から離れない。
「そんなになってまで助けてくれてありがとう。」
片腕がないと言うのはやはり目立つのだろう。ましてや成人したかしてないかぐらいの女の子だ。同情と憐憫と、それから賛美が与えられ、私にレッテルを貼り付けていく。
きっともうすぐ私という虚像が出来上がる。ヴィーのように。姫様のように。
お城までの道に私がいる意味は、多分そういうことなのだと思った。
ヴィーは笑って受け止めてた。仕方ないことだと。勇者に求めるのは清廉潔白で自分の味方であることだけなのだからと。
悪態をつかれても、理不尽に責められても、石を投げられても、ヴィーは笑って、けれど影で泣いていた。何も出来ない私は、それに寄り添うだけで。
「大丈夫ですか。」
相変わらず私は1人で馬に乗れないから、今日も侍女さんの前に乗せてもらっている。後ろから掛けられた声は心配そうで、それが私には不思議だった。
「はい。問題ないです。」
「…そうですか。疲れたら言ってくださいね。道中寝ていても構いませんし。」
「いえ、そんな迷惑はかけられないです。あの、そんなに気を遣わないでください。私は大丈夫ですから。」
「差し出がましい振る舞い、気に触りましたか。」
落ちたトーンに動揺する。侍女さんはこれほど感情を声に載せる人だっただろうか?1年一緒に旅をしていた時はそんなこと思った事もなかった。確かに仕事は丁寧だし、気遣いの出来る人ではあったけど。そこに付随する気持ちはなかったように思う。それほどまでに今の私は惨めに見えるのだろうか。
「あ、えっと、そういう訳じゃなくて、ですね。…そんなに、私は疲れて見えるのでしょうか?」
「そう、ですね。無礼を承知で言わせていただくならば、今にも儚くなりそうに見受けられます。」
言い淀んだ侍女さんを振り返り、首を傾げると、そんなことを言われた。
「儚く…?」
「マリーゴールド様の心は今も右腕と共にヴィオレット様の元にあるのでしょう。」
「ヴィーの、所に。」
フィルターがかかったかのように世界が遠いのは、ヴィーの傍に私の心があるからなのだろうか。もしそうであるのならば、ヴィーが泣いていないといいけれど。ヴィーは優しい人だから。
「私は姫様の護衛です。ですが同時に、皆様のお世話を任された侍女でございます。この1年間、貴女様方の傍に控えておりました。どれほど貴女様がヴィオレット様を大切に思っていたか、間近で見ていたのです。ヴィオレット様を姉のように、母のように慕う貴女様を。マリーゴールド様を妹のように、子のように慈しむヴィオレット様の姿を。…そしてあの日、あの方へ手を伸ばす貴女様を。」
「……。」
「私はあの日、初めて…っと、申し訳ございません。少々おしゃべりが過ぎました。前方に魔物の反応が確認されましたので、お傍を離れます。」
話の途中で侍女さんの空気が変わる。道中の露払いは、基本的に姫様の護衛が行う。それは騎士様方だったり侍女さんだったりするのだが、たまに私にも出撃命令がくる。今回は侍女さん1人で大丈夫のようだ。
「あ、あの、お気をつけて。」
「マリーゴールド様も警戒を怠らないでくださいませ。」
「はい。」
侍女さんが駆けていく。さっき、なんて言おうとしていたのだろう。気になったけれど、後から聞くほどの事でもない。私はすぐに忘れる事にした。
女性からのありがとうの言葉は、私にはなんだか重くて、俯いて首を横に振る事しか出来なかった。
それからは繰り返される明らかに弱体化した魔物退治と、感謝の言葉。少しずつ噂になっているようで、増える依頼の数が、期待の眼差しが、苦しかった。
…1度言われた言葉が頭から離れない。
「そんなになってまで助けてくれてありがとう。」
片腕がないと言うのはやはり目立つのだろう。ましてや成人したかしてないかぐらいの女の子だ。同情と憐憫と、それから賛美が与えられ、私にレッテルを貼り付けていく。
きっともうすぐ私という虚像が出来上がる。ヴィーのように。姫様のように。
お城までの道に私がいる意味は、多分そういうことなのだと思った。
ヴィーは笑って受け止めてた。仕方ないことだと。勇者に求めるのは清廉潔白で自分の味方であることだけなのだからと。
悪態をつかれても、理不尽に責められても、石を投げられても、ヴィーは笑って、けれど影で泣いていた。何も出来ない私は、それに寄り添うだけで。
「大丈夫ですか。」
相変わらず私は1人で馬に乗れないから、今日も侍女さんの前に乗せてもらっている。後ろから掛けられた声は心配そうで、それが私には不思議だった。
「はい。問題ないです。」
「…そうですか。疲れたら言ってくださいね。道中寝ていても構いませんし。」
「いえ、そんな迷惑はかけられないです。あの、そんなに気を遣わないでください。私は大丈夫ですから。」
「差し出がましい振る舞い、気に触りましたか。」
落ちたトーンに動揺する。侍女さんはこれほど感情を声に載せる人だっただろうか?1年一緒に旅をしていた時はそんなこと思った事もなかった。確かに仕事は丁寧だし、気遣いの出来る人ではあったけど。そこに付随する気持ちはなかったように思う。それほどまでに今の私は惨めに見えるのだろうか。
「あ、えっと、そういう訳じゃなくて、ですね。…そんなに、私は疲れて見えるのでしょうか?」
「そう、ですね。無礼を承知で言わせていただくならば、今にも儚くなりそうに見受けられます。」
言い淀んだ侍女さんを振り返り、首を傾げると、そんなことを言われた。
「儚く…?」
「マリーゴールド様の心は今も右腕と共にヴィオレット様の元にあるのでしょう。」
「ヴィーの、所に。」
フィルターがかかったかのように世界が遠いのは、ヴィーの傍に私の心があるからなのだろうか。もしそうであるのならば、ヴィーが泣いていないといいけれど。ヴィーは優しい人だから。
「私は姫様の護衛です。ですが同時に、皆様のお世話を任された侍女でございます。この1年間、貴女様方の傍に控えておりました。どれほど貴女様がヴィオレット様を大切に思っていたか、間近で見ていたのです。ヴィオレット様を姉のように、母のように慕う貴女様を。マリーゴールド様を妹のように、子のように慈しむヴィオレット様の姿を。…そしてあの日、あの方へ手を伸ばす貴女様を。」
「……。」
「私はあの日、初めて…っと、申し訳ございません。少々おしゃべりが過ぎました。前方に魔物の反応が確認されましたので、お傍を離れます。」
話の途中で侍女さんの空気が変わる。道中の露払いは、基本的に姫様の護衛が行う。それは騎士様方だったり侍女さんだったりするのだが、たまに私にも出撃命令がくる。今回は侍女さん1人で大丈夫のようだ。
「あ、あの、お気をつけて。」
「マリーゴールド様も警戒を怠らないでくださいませ。」
「はい。」
侍女さんが駆けていく。さっき、なんて言おうとしていたのだろう。気になったけれど、後から聞くほどの事でもない。私はすぐに忘れる事にした。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ナイツ・オブ・ラストブリッジ【転生したけどそのまんまなので橋を守ります】
主道 学
ファンタジー
転生しても……ごめんなさい。そのまんまでした。
四方を強国に囲まれて激しい戦争状態のラピス城。その唯一の海の上の城へと繋がる橋を守る仕事を王女から言い渡された俺は、ラピス城のあるグレード・シャインライン国を助けることを約束した……だが、あっけなく橋から落ちてしまう。
何故か生きていた俺は、西の草原の黒の骸団という強力な盗賊団に頭領の息子と間違えられ、そこで、牢屋に投獄されていた最強の元千騎士に神聖剣と力を譲られた。知らない間に最強になってしまった俺は盗賊団を率いて再びラピス城へ戻ったのだった……。
これは俺の高校最後の一度切りの異世界転生物語。
誤字脱字、微調整、改稿を度々します。
すみません。聖騎士を千騎士に修正いたします。
本当に申し訳ありません汗 今年のコンテストは既に応募済みなので、参加できないみたいですー汗
来年に続編で参加させて頂きます汗
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる