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私は、独り、流される

まものたいじ

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裏の畑に着くと、そこには食い荒らされた野菜と奥の茂みへと続く足跡が残っていた。しゃがんでその足跡をじっと見つめる。

「多分、ホーンラビットかな。」

兎みたいな魔物だと言っていたし、間違いないだろう。魔物の中では比較的大人しい魔物だ。畑のみを荒らすということは、凶暴化している訳ではないから、獣と対して変わらないだろうと、肩の力を抜く。

大丈夫。

ホーンラビットぐらいなら、私1人で、大丈夫。

深呼吸して集中する。辺りに魔力を流し、魔物を探す。

「…いた。」

大きな反応が4つ、小さい反応が2つ。あちらも気付いたのか、動き出した。茂みを見つめてじっとしていると、ザワザワと葉を揺らす音が聞こえてくる。現れたのは思った通りホーンラビットだ。先の尖った角を額に生やした兎の魔物。草食寄りの雑食で、凶暴化していなければランクはE。素早い動きで頭突きしてくるから角には注意。

ヴィーと勉強した知識を思い出す。
大丈夫。
最低ランクの魔物なら、大丈夫。

ホーンラビットは威嚇するように土を蹴り、歯を剥き出しにしている。数は、3。残りの1匹は小さく反応のあった辺りにいるようだ。

警戒したまま動かないホーンラビットから目を離さないようにしながら杖を構え、詠唱する。

「天の怒りよ、ここに。«サンダー»」

杖から放たれた光が1匹の体に突き刺さり、崩れ落ちる。劈く悲鳴が響き渡った。その声に反応するように、2匹のホーンラビットが私目掛けて走り出す。大丈夫。ホーンラビットは真っ直ぐしか走れない。

「っ、天の怒りよ、我が望むは完全なる静寂なり。全てを焦がせ«ライトニングサンダー»」

ギリギリまで引き付け、横に飛ぶ。詠唱を終えるとさっきより強い光が、2匹へと放たれた。

悲鳴と共に、倒れ伏す。ピクリピクリと痙攣していた2匹はやがて動かなくなった。3匹に近付き死んだことを確認する。次は、茂みの中だ。

もう一度魔力を流す。動かないのか動けないのか、変わらず反応があった場所に向かう。茂みを掻き分けた先には、成体のホーンラビット1匹と幼体のホーンラビットが2匹。幼体を庇うようにして、成体が唸り声をあげる。小さくか細い鳴き声が、訴えるかのように騒ぎ出す。悲痛な声。

「…天の怒りよ、我が望むは完全なる静寂なり。全てを焦がせ«ライトニングサンダー»」

倒さなければならない。子供でも、親でも、人型でも。相手が魔物なら、倒さなければならない。

惑わされてはいけない。獣の姿でも人間の姿でも、魔物は生き物ではないのだから。

揺らいではいけない。私達の使命は平和のために魔物を倒すこと。それだけなのだから。









宿に戻ると、騎士様が食堂にいた。姫様の姿は見えない。

「終わったか。随分時間がかかったな。あんな雑魚、直ぐに倒せるだろう。これだからノロマは。あぁ、その姿で姫の前に出るなよ、汚い。報告は私がする。部屋に戻れ。薄汚れた下民如きが、姫の為に仕事をもらえるだけ有難いと思えよ。」

騎士様はまた言うだけ言って去っていく。

身体が重い。自然と溜息が零れる。

部屋に戻らなければ。無理やり足を動かし、ベッドまで歩く。




光が貫く刹那、成体の前に躍り出た幼体の姿が、声が、焼き付いて離れない。

魔物の方がよっぽど、美しく思えた。
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