主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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私は、独り、流される

そのへいわに、かのじょはいない

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「今日はここで休みましょう。」

「分かりました。」

日が沈む頃、半日ぶりに土を踏んだ。よろけてしまった私を、侍女さんが支えてくれる。

「すみません。」

「…いいえ。」

相変わらず無表情だけれど少し心配そうな雰囲気でこちらを見遣る侍女さんに、少し驚く。

急にどうしたのだろうか。よく分からないけれど、馬車を降りてきた姫様の後に続く。

旅の最中、特に後半は野宿が多かった。今回もそうなのかと思っていたけれど、どうやら宿で1泊するようだ。

旅に出た時には曇り顔ばかりだったけれど、驚異が去ったのが空気で分かるのか、この町の人の顔は明るい。

それを横目に荷物をよたよたと運ぶ。まだ片腕のない状態で何かを持つことに慣れていないのだ。こちらを気遣うような視線が申し訳なくて、なるべく目立たないようにしていたけれど、話しかけられてしまった。

「何かお手伝いしましょうか?」

「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。」

「そうですか、何か困ったことがあったら言ってくださいね。」

「はい。すみません、ありがとうございます。」

心に余裕が出ると視野が広がる。優しくしてくれるのは嬉しい事だ。けれど、今それが辛くてイライラして仕方ない。

そういえばヴィーが前に言っていた。相手の厚意を受け止められない時は、心が疲れている印なんだと。そういう時には好きなことして思い切り笑って、心を休ませてあげないといけないんだって。

疲れているのだろうか。そんな気はしないけど、なんだか心にぽっかりと穴が空いたようで、その穴が怖くて切なくて寂しい。でもそれを何処か遠くから眺めているようにも感じる。矛盾。もうぐちゃぐちゃで分からない。

1人になりたくて部屋に籠ると声をかけて歩き出す。心配気な姫様が何か言いたげにしていたけれど知らないフリをして、部屋に籠った。このままずっと眠っていたくて、ベッドに横たわる。そのくせ目を閉じるとヴィーの最後が思い浮かんで喉が震えた。

「ヴィー。」

呼んでも応えなんてこないのに、応えが無い事に泣きたくなるのに、私はヴィーの名前を呼ばずにはいられない。頭の良くない私には、それ以外の術が分からなかった。

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