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私は、独り、帰ってきた

めをさます

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ゆっくりと目を開ける。
小さな窓から暖かい春の陽が差し込み、部屋を照らしている。少し眩しいくらいだ。今日は天気がいいらしい。馬や羊の鳴き声が遠くから聞こえてくる。

上半身を起こし、ぐるりと視線を巡らせる。
机と椅子とクローゼット、全身を写せる鏡、それから私の寝ていたベッド。代わり映えのしないこの狭い部屋で私はずっと過ごして来た。…1年前までは。
また戻って来れた事に喜んでいいものか、それとも嘆き悲しむべきなのか、私には分からない。

ベッドの上でぼんやりとしていると、ノックの音が響く。それに応えるとドアがあき、女性が何人かを引き連れ部屋へと入ってきた。
この部屋に凡そ似つかわしくない煌びやかな彼女は、ホッとした様子で私に声をかけてくる。

「目が覚められて、良かったです。」

「…そうですね。」

「マリーゴールド様のお母様のご好意で、お泊まりさせていただきました。ありがとうございます。」

「いえ、私は何も。むしろ小さな家ですみません。感謝は母に。」

笑みを浮かべて言う彼女に私がそう返すと彼女は困った様に眉を下げた。彼女の背後にいる人の空気がザワりと動く。それを彼女は小さく手を上げる事で止めると、また話し始める。

「後ほどお母様にも感謝の気持ちを伝えたいと思います。…マリーゴールド様、お加減はいかがでしょうか?どこか痛むところはありませんか?」

「大丈夫です。特に不調は感じてません。」

「少し触れさせていただいても?」

私が頷くと、彼女はゆっくりと私に手を伸ばし、頭へと手を置いた。それから肩へと降りる。触れられた所からじんわりと暖かな光が広がっていく。
しばらくすると、彼女は手を離しホッと安堵の息をついた。

「診たところ問題ない様ですね。良かったです。」

「……。」

「あの、マリーゴールド様、ヴィオレット様の事は「すみません、まだ少し眠たいので、寝ます。退出していただいてもいいですか?」…分かりました。実家に帰られたばかりですものね。起きたらお知らせください。話さなければならない事がありますので。」

私に言葉を遮られたというのに、困った顔をするだけで、彼女は頷き部屋を出ていく。彼女の背後の人達から突き刺さる視線を無視して、私は横たわり毛布を被った。

「…ヴィー。」

小さく呟き、そっと目を閉じる。そうしないと、涙が零れてしまいそうだった。呼んでももう応えてはくれないのに、口は勝手に彼女を呼ぶ。

「ヴィー。」

悲しい時、嬉しい時、悩んでいる時、面白いものを見つけた時、いつだって名前を呼べば傍に来て話を聞いてくれた。一緒に悲しんで、一緒に喜んで、一緒に考えて、一緒に笑ってくれた彼女は、もういない。
世界の平和と引き換えに、彼女は消えてしまった。

「ヴィー、」

名前を呼べば、どうしたのと尋ねてくれるあの優しい声が聞こえやしないかと、勝手に期待をしては勝手に絶望する。これでは彼女達と変わらないではないか。

ねぇ、私の優しい幼馴染。一つだけ言わせてほしい。八つ当たりしても許してくれる貴女なら、きっと今度も許してくれるでしょう?

「主人公なんかに、なってほしくはなかったよ、ヴィー。」

瞼の裏にいるヴィーは眉を下げて笑うと、首を振って、それから消えた。
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