これでわたくしも立派な悪役令嬢に…ってちょっとそこの貴方、勝手にわたくしの役目を担わないでくださいまし!

onyx

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元第二王子婚約者候補たるもの資料を思い出すべし

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「…未来?」
「はい。」
「それはとても曖昧な担保ね。無名では誰も欲しがらないわ。」
「はい。」
「けれども貴女はそれを対価と?このわたくしに?」
「はい。」

じっと王妃様だけを見据えてそう頷くメリルに、王妃様はただ小さく息を吐かれました。

「…貴女が学年一位の頭脳を持っていようとも、所詮学生の物差しなの。長年王子妃としての勉強をしてきたティアナちゃんの価値とは比べ物にならない。分かるかしら。」
「はい。」
「では貴女の言う未来は、なんの価値を齎すというの?」
「私には、地位も、お金も、教養もありません。王子妃としての資質なんて考えるまでもないでしょう。でも、それでも、私にはテオドール様を愛し、支え、守る覚悟があります。この世界中の誰よりも。」
「愛も献身も目に見えないものよ。全てを賭けるには残念だけど程遠いわね。」

期待外れだと言うように小首を傾げられた王妃様は視線を外し、カップを手に取りました。
つまり、これで話は終わり。
ヒロインの言葉は美しく尊いものでしたが、現実を変えるには淡すぎたようです。

「王妃様。」
「なにかしら、ティアナちゃん。」
「テオドール殿下は、第二王子として大変素晴らしい方であらせられます。もちろん、王族としても手本となるよう日々努力していらっしゃることと存じます。」
「そうね。」
「彼は優秀でした。求められるだけの力と応えられる技量。第二王子として、完璧と言っても過言ではありません。ですが、それだけなのです。」
「とても良い事ではなくて?無駄な諍いは避けられるのだもの。」
「えぇ、そうでしょう。王太子はガブリエル殿下ですから。将来は安泰ですわ。…彼は、優秀過ぎたのですよ、王妃様。だからこそ、わたくしは驚きました。」

目を細められた王妃様は、そのまま先を促します。

「あのテオドール殿下が、自ら指揮をとりメリルの誘拐事件の犯人を捕らえようとしたんですもの。」
「確かに担ったのはテオね。」
「はい。そして今、路地裏の整備とパトロールがなされていますね。犯罪率がとても下がったと聞きました。」 
「えぇ、そうね。」
「他にも、些細なことで言えば勉強会を開いたり、ダンスの練習を積極的に行ったりと、かなりアクティブに動いておられますわ。全てはメリルと出会ってからのことでございます。」
「だから認めろと?」
「現状維持は下降するのみ。緩やかな死になりうることでしょう。」
「可能性と未来。それでも不確定要素が多いわね。」
「王妃様。」
「王妃様。」
「…………いいわ。分かりました。今回は見送りましょう。あの子たち、何かをするようだし。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます!!!」

王妃様がカップをソーサーに戻したのを確認して帰りの時間だと気付き、再び腰を落とします。

「王妃様におかれましてはどうぞご自愛ください。」
「ごきげんよう!」



















「王妃様。」
「なによ。」
「老いましたねぇ。」
「口が過ぎるわよジェマ。」
「ふふ、失礼致しました。」
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