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王族たるもの国へ尽くすべきである
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「…テオ。」
朝。名前を呼ばれて振り返ると、そこには兄上がこちらへと歩いてくる所だった。
兄上の後ろには書類を持った副官が。どうやら執務室に向かう最中らしい。
「兄上、どうされました。」
兄上は足を止めぬままに話し始める。
私も隣に並び、歩き出す。
「ティアナとファウストの婚約届けについて何か聞いておるか。」
「?いえ。ティアナ嬢にファウストがプロポーズして受け入れられた事は知っていますが。…まさか。」
「あぁ。そのようだ。」
兄上を見遣れば、頷きが返ってくる。
この話を朝食の場で話さなかったのは、なるほどそういうことかと理解する。おそらく母上か父上か、どちらかが関わっているのだろう。
ティアナ嬢はこれまで私の第一婚約者候補として模範的な振る舞いをしてきた。だからこそ、手放すには惜しいと思われていても無理はない。事実、私がメリルと出会わなければ、彼女が王子妃となっていた可能性は多分にあるのだ。
…まぁ、ファウストがそれを良しとするなど微塵も思わないが。
「それは、しかし…両家はそれを?」
「もちろん知っているだろう。両者共に静観の構えではあるが、何かあれば動くことは明白だ。ファウストからは既に問い合わせが来ておる。」
執務室までの距離はあと数十メートル。
足は止めない。
「お前の婚約についても一度確認した方が良いだろう。」
「すぐ教会に連絡します。」
「そうしろ。返答次第では違う策を考えねばならぬ。」
「はい。」
執務室の前。
兄上は溜息を吐き出し、漸く立ち止まる。
副官は何も言わずそのまま中へと入っていった。優秀な男だ。
「どうにもタイミングが悪い。」
「アイーダ姫の件ですか。」
隣国から来た商人の話では、アイーダ姫が病気を患ったのだという。
兄上の耳にも届いていたようだ。
「あぁ。事実であるのならば、ここ最近の手紙について納得出来なくもない、が…。」
「婚約者である兄上に何も連絡が無いというのが不可解です。」
「そうだな。」
「一応こちらでも探りは入れておりますが、なにぶん不明瞭な話です。おそらく姫からの手紙の返答の方が早いかと。」
「だろうな。…さて、どうするか。」
「手が必要な時にはお声掛けください。」
「頼りにしている。」
「ありがとうございます。」
ノックが3回廊下に響く。どうやらタイムオーバーのようだ。
「色々面倒をかけるが、最善となれるよう手は打っていくつもりだ。…全ては国の未来の為に。」
「はい。」
「お前は、好いた相手の手を離すなよ。」
「兄上?」
小さく微笑んだ兄上は何も言わずに執務室の中へと入っていく。
「…………。」
「テオドール殿下。馬車の準備が整いました。」
「分かった。ありがとう。」
何を最善とするか。
私は、考えなければならない。
朝。名前を呼ばれて振り返ると、そこには兄上がこちらへと歩いてくる所だった。
兄上の後ろには書類を持った副官が。どうやら執務室に向かう最中らしい。
「兄上、どうされました。」
兄上は足を止めぬままに話し始める。
私も隣に並び、歩き出す。
「ティアナとファウストの婚約届けについて何か聞いておるか。」
「?いえ。ティアナ嬢にファウストがプロポーズして受け入れられた事は知っていますが。…まさか。」
「あぁ。そのようだ。」
兄上を見遣れば、頷きが返ってくる。
この話を朝食の場で話さなかったのは、なるほどそういうことかと理解する。おそらく母上か父上か、どちらかが関わっているのだろう。
ティアナ嬢はこれまで私の第一婚約者候補として模範的な振る舞いをしてきた。だからこそ、手放すには惜しいと思われていても無理はない。事実、私がメリルと出会わなければ、彼女が王子妃となっていた可能性は多分にあるのだ。
…まぁ、ファウストがそれを良しとするなど微塵も思わないが。
「それは、しかし…両家はそれを?」
「もちろん知っているだろう。両者共に静観の構えではあるが、何かあれば動くことは明白だ。ファウストからは既に問い合わせが来ておる。」
執務室までの距離はあと数十メートル。
足は止めない。
「お前の婚約についても一度確認した方が良いだろう。」
「すぐ教会に連絡します。」
「そうしろ。返答次第では違う策を考えねばならぬ。」
「はい。」
執務室の前。
兄上は溜息を吐き出し、漸く立ち止まる。
副官は何も言わずそのまま中へと入っていった。優秀な男だ。
「どうにもタイミングが悪い。」
「アイーダ姫の件ですか。」
隣国から来た商人の話では、アイーダ姫が病気を患ったのだという。
兄上の耳にも届いていたようだ。
「あぁ。事実であるのならば、ここ最近の手紙について納得出来なくもない、が…。」
「婚約者である兄上に何も連絡が無いというのが不可解です。」
「そうだな。」
「一応こちらでも探りは入れておりますが、なにぶん不明瞭な話です。おそらく姫からの手紙の返答の方が早いかと。」
「だろうな。…さて、どうするか。」
「手が必要な時にはお声掛けください。」
「頼りにしている。」
「ありがとうございます。」
ノックが3回廊下に響く。どうやらタイムオーバーのようだ。
「色々面倒をかけるが、最善となれるよう手は打っていくつもりだ。…全ては国の未来の為に。」
「はい。」
「お前は、好いた相手の手を離すなよ。」
「兄上?」
小さく微笑んだ兄上は何も言わずに執務室の中へと入っていく。
「…………。」
「テオドール殿下。馬車の準備が整いました。」
「分かった。ありがとう。」
何を最善とするか。
私は、考えなければならない。
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