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本音たるもの向き合うべし
しおりを挟む「…なんの、お話でしょう。」
「僕、これでも次期公爵なんだ。」
「存じております。」
「うん。だからね、人の好意には敏感なの。これは僕の勘違い?」
「…いいえ。」
「良かった。」
わたくしの髪に指を絡めて楽しげなファウスト様から目を逸らせば、その手が離れ代わりに頬へと当てられました。促されるままに視線はファウスト様へと移されます。
今回ばかりは逃がしてはくれない模様です。
「ティアも同じでしょう。僕、結構アピールしてきたんだけど。」
「ファウスト様は、本気か冗談か分かりにくいんですのよ。」
「嘘つき。」
目を伏せれば肯定と同じ。
ですからじっとファウスト様を見つめれば、彼は首を傾けます。
「何が怖い?何を恐れてる?ティアが頷けば、それだけでいいのに。」
「何も。」
「ティア。」
「…わたくしは、ファウスト様が思うような女ではございません。」
「どうして?」
幼い時分のようなその言葉にわたくしが目を瞬かせると、ファウスト様は目を細めて言葉を続けます。
「僕の知ってるティアは、真面目で一生懸命で優しい、可愛い人だよ。でも、そうだね。君は僕の知らない世界を知ってる。」
「…………。」
「沈黙も肯定だよティア。…少し意地悪だったかな。ごめんね、でも別にそれでもいいんだよ。」
「わたくしは、」
あの日からずっと、わたくしは彼を騙してきたというのに、その口で、何を。今更何を言おうというのでしょう。
今までずっと、見ないふりをして下さっていたのに。
「ティア。」
「ファウスト様…?」
徐に立ち上がったファウスト様は、わたくしの足元に跪き、わたくしを見上げました。
「僕は君が好きだよ。」
その言葉に、痛い程高鳴った胸に、涙が零れ落ちて視界が不鮮明に揺れます。
嬉しいのに、けれど頭の中に浮かぶのは、言わせてしまったという罪の意識。
「ティアナ・ローズ侯爵令嬢。どうか、僕の妻になってくれませんか。」
「わ、たくし、は、」
「うんって言って。僕のティア。僕の世界。僕の全て。」
「ファウストさま。」
「涙さえも愛おしいんだ。君が母様の為に、僕の代わりに、泣いてくれたあの日から、ずっと。」
わたくしは、ずっとずっと泣けばいいと思っていました。けれどファウスト様は涙を流すことはなくて、だから繋いだ手からファウスト様の悲しみが少しでもわたくしに流れればいいと、そう願って、わたくしは離さなかった。離したくなかった。
あの時確かにわたくし達はひとつであったと、そう思っても良いのでしょうか。
わたくしの独りよがりを、ファウスト様は…。
「ティア。」
そっと繋がれた手は、あの頃よりも大きくて冷たくて。
下を向いたらすべてが零れ落ちてしまいそうだから上を向きたいのに、それすら許してくれない、酷い人。
「はい。わたくしも、ファウストさまをお慕いしております。ずっと。」
そう告げれば、ファウスト様は、ホッとしたように脱力されて、それから、
「~~~っ良かったぁ。やっと、言ってくれた!」
あぁ、ファウスト様。やっと、笑ってくださいましたね。
ファウスト様、わたくし、ファウスト様の笑顔が大好きだったのです。
良かった。
本当に、良かった。
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