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恋愛たるもの駆け引きすべし!
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まぁそうは言っても姫様がいらっしゃるのは隣国。早馬で駆けたとしても片道一週間の距離を勢いだけで進むというのは現実的ではございません。わたくし達は学生でありますし、殿下に至っては公務がございます。
なのでここは、
「手紙?」
「はい。姫様との文通専用の便箋がございますでしょう?そちらに姫様への事実確認と殿下の思いの丈をご記入くださいまし。」
「あるにはあるが…。」
言い淀んだ殿下の仰りたいことは恐らく検閲でしょう。
婚約者とはいえ他国からの手紙。ましてや王族へと渡されるものであるのであればやむを得ないところでございます。
しかしお二人専用の便箋は私信である証でありますから、閲覧者は筆頭侍女か従者になるはずです。
漫画ではそうでしたので。
「えぇ存じております。それを逆に利用するんですのよ。」
「…言わんとしていることは分かる。」
「はい。それで意図が判別出来ます。それによって対応が変わるのも殿下ならばお分かりですわね。」
「そうだな。…二通目は二枚用意せねばならぬな。」
「どちらにせよ一通目次第でございますもの。返答次第でよろしいのでは?」
そうなのです。もし従者の独断であり、尚且つ私欲からの情報であるのならば、姫様からの返信は代筆されたものか返って来ない可能性がございます。この場合は、一度姫様との対話する機会を申し出るのが最善手になりますわね。
そして、そうではなく、独断ではあるものの姫様を思っての情報であった場合。こちらはまた2パターンに分けられます。
ひとつは姫様が本当に恋をしていて、その恋を応援したいと従者が思っている場合。
もうひとつは姫様の恋のお相手が殿下であり、お二人の仲を進めたいと従者が思っている場合です。
前者であるのならば、従者の振る舞いに関する謝罪文が届くか従者自らの謝罪が来るか。
後者の場合も謝罪文が来ることとなるかと思いますが、殿下のお気持ちが書いてあるわけですから、プラスアルファで何かしらのアクションがあるはずなのです。
「それにしても、殿下は意外と…いえ何でもありませんわ。」
「皆まで言うな。私自身思っている。」
「普段の殿下でしたら気付いてすぐに対応出来る内容でしょうに。全く恋とはなんと恐ろしいものでしょう。ねぇ、ティア。」
目を細めてこちらを見遣るファウスト様はわたくしを揶揄したいご様子。
「わたくしに振らないでくださいまし。」
「だってティア、全然気付かないでしょう。」
「あらわたくしベテランでしてよ。」
「ティア?」
「だって、わたくしは」
「10分じゃ。」
「学園長。」
わたくしは言葉を遮るように、退出されていた学園長が戻ってまいりました。
「ティアナ嬢。大事無いか。」
「はい。」
「ガブリエル殿も解決策が見つかったようでなにより。おや、ファウスト殿は…ほっほっ、新たな悩みの種が増えたか。良い良い。大いに悩みなさい。考えなさい。そこに学びがあるのだから。」
「…はい。」
「さて、ガブリエル殿は早に帰城なされよ。補佐が首を長くしてまっておる。」
「あぁ。感謝する、学園長。ティアナ。ファウスト。」
「お役に立てたなら幸いですわ。」
「どういたしまして。願わくば、貴方様の恋がうまくいきますように。」
立ち上がった殿下にカーテシーで答えると、隣から淡々とした言葉が。
もう、そういう言い方はよろしくないとお伝えしましたのに…。
「分かっている。許せ。この話を聞いた時、ティアナの顔が浮かんだのだ。」
「まぁ殿下。そのようなお言葉嬉しく存じます。お爺様もお喜びになられることでしょう。」
苦笑を零した殿下に、正確にはお爺様を思い浮かべましたわねと言葉を贈れば、隣から不機嫌な気配が。
突然どうしたんですの?
「では、失礼する。事の顛末は必ず報告しよう。」
「はい。お待ちしております。」
「道中お気を付けて。」
「またいつでも来るが良い。学びの門はいつでも開かれておる。」
パタリと閉じた扉を見つめること数秒。
「ときめいた?」
「はい?」
「殿下に。」
「? 何故?」
少し拗ねたような様子のファウスト様を見上げれば目を瞬かせた後、小さく首を振られました。
「何故って、まぁいいや。ティア、帰ろう。」
「いえ、わたくしこれから授業を受けますわ。」
「えー絶対疲れたでしょ?帰ろうよ。学園長いいでしょう?」
「まぁ今回は唐突じゃったからの。ティアナ嬢が望むのであれば、公休扱いで良い。」
「ですからわたくしは、」
「ティア。」
お願いとも命令とも取れる声に、わたくしは仕方なく頷きました。恐らく、ファウスト様も傍目には平然とされているように見えますけれどお疲れなのでしょう。
「…帰ります。」
「うむ。あいわかった。ファウスト殿はどうする。」
「僕も帰ります。家の用事があるので。」
「…まぁ良い。これも学びよな。」
「はい。」
「ファウスト様?」
「よし、帰ろっかティア。」
「はいはい、分かりましたわ。」
帰りに甘いものでもテイクアウトしていきましょう。
なのでここは、
「手紙?」
「はい。姫様との文通専用の便箋がございますでしょう?そちらに姫様への事実確認と殿下の思いの丈をご記入くださいまし。」
「あるにはあるが…。」
言い淀んだ殿下の仰りたいことは恐らく検閲でしょう。
婚約者とはいえ他国からの手紙。ましてや王族へと渡されるものであるのであればやむを得ないところでございます。
しかしお二人専用の便箋は私信である証でありますから、閲覧者は筆頭侍女か従者になるはずです。
漫画ではそうでしたので。
「えぇ存じております。それを逆に利用するんですのよ。」
「…言わんとしていることは分かる。」
「はい。それで意図が判別出来ます。それによって対応が変わるのも殿下ならばお分かりですわね。」
「そうだな。…二通目は二枚用意せねばならぬな。」
「どちらにせよ一通目次第でございますもの。返答次第でよろしいのでは?」
そうなのです。もし従者の独断であり、尚且つ私欲からの情報であるのならば、姫様からの返信は代筆されたものか返って来ない可能性がございます。この場合は、一度姫様との対話する機会を申し出るのが最善手になりますわね。
そして、そうではなく、独断ではあるものの姫様を思っての情報であった場合。こちらはまた2パターンに分けられます。
ひとつは姫様が本当に恋をしていて、その恋を応援したいと従者が思っている場合。
もうひとつは姫様の恋のお相手が殿下であり、お二人の仲を進めたいと従者が思っている場合です。
前者であるのならば、従者の振る舞いに関する謝罪文が届くか従者自らの謝罪が来るか。
後者の場合も謝罪文が来ることとなるかと思いますが、殿下のお気持ちが書いてあるわけですから、プラスアルファで何かしらのアクションがあるはずなのです。
「それにしても、殿下は意外と…いえ何でもありませんわ。」
「皆まで言うな。私自身思っている。」
「普段の殿下でしたら気付いてすぐに対応出来る内容でしょうに。全く恋とはなんと恐ろしいものでしょう。ねぇ、ティア。」
目を細めてこちらを見遣るファウスト様はわたくしを揶揄したいご様子。
「わたくしに振らないでくださいまし。」
「だってティア、全然気付かないでしょう。」
「あらわたくしベテランでしてよ。」
「ティア?」
「だって、わたくしは」
「10分じゃ。」
「学園長。」
わたくしは言葉を遮るように、退出されていた学園長が戻ってまいりました。
「ティアナ嬢。大事無いか。」
「はい。」
「ガブリエル殿も解決策が見つかったようでなにより。おや、ファウスト殿は…ほっほっ、新たな悩みの種が増えたか。良い良い。大いに悩みなさい。考えなさい。そこに学びがあるのだから。」
「…はい。」
「さて、ガブリエル殿は早に帰城なされよ。補佐が首を長くしてまっておる。」
「あぁ。感謝する、学園長。ティアナ。ファウスト。」
「お役に立てたなら幸いですわ。」
「どういたしまして。願わくば、貴方様の恋がうまくいきますように。」
立ち上がった殿下にカーテシーで答えると、隣から淡々とした言葉が。
もう、そういう言い方はよろしくないとお伝えしましたのに…。
「分かっている。許せ。この話を聞いた時、ティアナの顔が浮かんだのだ。」
「まぁ殿下。そのようなお言葉嬉しく存じます。お爺様もお喜びになられることでしょう。」
苦笑を零した殿下に、正確にはお爺様を思い浮かべましたわねと言葉を贈れば、隣から不機嫌な気配が。
突然どうしたんですの?
「では、失礼する。事の顛末は必ず報告しよう。」
「はい。お待ちしております。」
「道中お気を付けて。」
「またいつでも来るが良い。学びの門はいつでも開かれておる。」
パタリと閉じた扉を見つめること数秒。
「ときめいた?」
「はい?」
「殿下に。」
「? 何故?」
少し拗ねたような様子のファウスト様を見上げれば目を瞬かせた後、小さく首を振られました。
「何故って、まぁいいや。ティア、帰ろう。」
「いえ、わたくしこれから授業を受けますわ。」
「えー絶対疲れたでしょ?帰ろうよ。学園長いいでしょう?」
「まぁ今回は唐突じゃったからの。ティアナ嬢が望むのであれば、公休扱いで良い。」
「ですからわたくしは、」
「ティア。」
お願いとも命令とも取れる声に、わたくしは仕方なく頷きました。恐らく、ファウスト様も傍目には平然とされているように見えますけれどお疲れなのでしょう。
「…帰ります。」
「うむ。あいわかった。ファウスト殿はどうする。」
「僕も帰ります。家の用事があるので。」
「…まぁ良い。これも学びよな。」
「はい。」
「ファウスト様?」
「よし、帰ろっかティア。」
「はいはい、分かりましたわ。」
帰りに甘いものでもテイクアウトしていきましょう。
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