16 / 44
悪役令嬢たるもの駆け引きも大事にするべし!
しおりを挟む
殿下に付き従い、辿り着いたのはサロンでございました。人払いは済んでいたようで、いつもは密やかに賑わうここも今は冷たい静寂が広がっております。
「呼ばれた理由は分かっているのか。」
「いいえ、皆目見当もつきませんわ。」
「そうか。」
「はい。」
「…………。」
「…………。」
見つめ合うこと10秒。根負けしたのはわたくしでございました。
「あの、テオドール様?」
「なんだ。」
「いえ、その、本当に何も聞かないんですの?」
「知らないのならば仕方ないだろう。元より事実確認の為に呼んだに過ぎない。」
「はい?」
「昨日の夕方、メリルが何者かによって誘拐、暴行されそうになった。…やはり驚かないか。」
殿下は目を細めてそう言うと椅子に座り、わたくしに向かいの席を勧められました。
言われるがままに座ったわたくしをじっと見つめるお顔は、何かを見極めようとしていらっしゃるように感じます。
「これでも充分驚いておりますわ。」
「そうか。路地裏に連れていかれそうになっていたメリルを見た住民が通報し、メリルは無事救出。特に大きな怪我は無く、事なきを得た訳だが。妙なのはこの住民だ。」
「怪しい方を見かけたら通報するのは義務ですわ。」
「その通りではあるが、あの辺りは人通りが少なく、加えて見通しが悪い場所だ。だからこそ誘拐犯もそこを狙ったのだろうが…どういう訳かすぐに発覚したようだった。始めからそこで起こることを分かっていたかのようにな。」
「迅速な対応がされたということですわね。喜ばしいことですわ。」
「あぁ。喜ばしいことだ。其方の名が出ていなければな。」
「なんのお話ですの?」
にこりと微笑み首を傾げれば、殿下は溜息をひとつ。
「其方は知らぬ話だろうが誘拐犯らが言うにはティアナ嬢に指示された、と。」
「まぁ!わたくしそんな恐ろしいこと、思い付きもしませんわ!」
「思い付くか否かは別として、身元が割れるような姿かたちで悪事を企てるのはマヌケ以外の何物でもないし、其方はそんな阿呆にも見えん。」
「お褒めに預かり光栄にございます。」
「…なるほど、ファウストが手を焼く訳だな。」
「?それはどういう、」
「メリルは無事ではあったが、犯罪は犯罪だ。故に目下指示した人物を探している。何か手がかりを掴めればと思ったのだが、ふむ。」
扉の方へと視線を向けた殿下は、そのまま立ち上がるとそちらへ歩き出しました。
「テオドール様?」
「そもそも、其方を疑ってはいない。…メリルを助けてくれてありがとう。感謝する。」
「!テオ…」
「ティア!!!」
「ファウスト様!?」
入れ違いに入ってこられたのはファウスト様でございました。
その表情を見て、わたくしは悟りました。全て、バレていると。
慌てて逃げようとするも、無事を確かめるかのように抱き締められて、身動きがとれなくなってしまいました。
「ファウスト、裏は。」
「ばっちりだよ。僕を誰だと思ってるの。」
「感謝する。」
「どういたしまして。こっちこそ、ティアの保護ありがとう。」
「わたくしの保護?」
どういうことかと見上げれば、にこりと笑ったファウスト様が。あ、久しぶりに本気で怒っておられますわ。これは本当に、とても不味い展開です。
「ティア。あんまりひとりで危ないことしちゃダメだってお義父様に言われてたよね?」
「な、なんのお話でしょう?」
「街に遊びに行くのは良いよ。護衛と従者も居るし。でも大通りから一本逸れれば別世界だって分かってる?」
「…存じておりますわ。」
「分かった上で、行ったんだ。そう。」
ますます強くなる怒りの雰囲気に、しかしわたくしだって負けてはいられません。だって悪いことはしていないんですもの!それに、メリルが酷い目に遭うのを黙って見ていられるわけもありませんでしょう!対策するのは当たり前ですわ!誘拐されたという事実さえあれば物語は進むのですから!
「ファウスト様、わたくしは、」
「ティア。」
「っはい。」
「僕は時々君を僕しか知らない屋敷に閉じ込めておきたくなるよ。」
ファウスト様から発せられた言葉の色に、わたくしは咄嗟に声が出ませんでした。
「ファウスト。」
「はいはい。…ティア。」
「ファウスト様…。」
「あんまり心配させないで、ね?」
「は、い。」
こくりと頷けば、ファウスト様は優しく頭を撫でてくださいました。
あぁ、こんなに心労をかけたというのに、嬉しく思うなんて、ファウスト様になら閉じ込められてもいい、だなんて、わたくしは………、
「呼ばれた理由は分かっているのか。」
「いいえ、皆目見当もつきませんわ。」
「そうか。」
「はい。」
「…………。」
「…………。」
見つめ合うこと10秒。根負けしたのはわたくしでございました。
「あの、テオドール様?」
「なんだ。」
「いえ、その、本当に何も聞かないんですの?」
「知らないのならば仕方ないだろう。元より事実確認の為に呼んだに過ぎない。」
「はい?」
「昨日の夕方、メリルが何者かによって誘拐、暴行されそうになった。…やはり驚かないか。」
殿下は目を細めてそう言うと椅子に座り、わたくしに向かいの席を勧められました。
言われるがままに座ったわたくしをじっと見つめるお顔は、何かを見極めようとしていらっしゃるように感じます。
「これでも充分驚いておりますわ。」
「そうか。路地裏に連れていかれそうになっていたメリルを見た住民が通報し、メリルは無事救出。特に大きな怪我は無く、事なきを得た訳だが。妙なのはこの住民だ。」
「怪しい方を見かけたら通報するのは義務ですわ。」
「その通りではあるが、あの辺りは人通りが少なく、加えて見通しが悪い場所だ。だからこそ誘拐犯もそこを狙ったのだろうが…どういう訳かすぐに発覚したようだった。始めからそこで起こることを分かっていたかのようにな。」
「迅速な対応がされたということですわね。喜ばしいことですわ。」
「あぁ。喜ばしいことだ。其方の名が出ていなければな。」
「なんのお話ですの?」
にこりと微笑み首を傾げれば、殿下は溜息をひとつ。
「其方は知らぬ話だろうが誘拐犯らが言うにはティアナ嬢に指示された、と。」
「まぁ!わたくしそんな恐ろしいこと、思い付きもしませんわ!」
「思い付くか否かは別として、身元が割れるような姿かたちで悪事を企てるのはマヌケ以外の何物でもないし、其方はそんな阿呆にも見えん。」
「お褒めに預かり光栄にございます。」
「…なるほど、ファウストが手を焼く訳だな。」
「?それはどういう、」
「メリルは無事ではあったが、犯罪は犯罪だ。故に目下指示した人物を探している。何か手がかりを掴めればと思ったのだが、ふむ。」
扉の方へと視線を向けた殿下は、そのまま立ち上がるとそちらへ歩き出しました。
「テオドール様?」
「そもそも、其方を疑ってはいない。…メリルを助けてくれてありがとう。感謝する。」
「!テオ…」
「ティア!!!」
「ファウスト様!?」
入れ違いに入ってこられたのはファウスト様でございました。
その表情を見て、わたくしは悟りました。全て、バレていると。
慌てて逃げようとするも、無事を確かめるかのように抱き締められて、身動きがとれなくなってしまいました。
「ファウスト、裏は。」
「ばっちりだよ。僕を誰だと思ってるの。」
「感謝する。」
「どういたしまして。こっちこそ、ティアの保護ありがとう。」
「わたくしの保護?」
どういうことかと見上げれば、にこりと笑ったファウスト様が。あ、久しぶりに本気で怒っておられますわ。これは本当に、とても不味い展開です。
「ティア。あんまりひとりで危ないことしちゃダメだってお義父様に言われてたよね?」
「な、なんのお話でしょう?」
「街に遊びに行くのは良いよ。護衛と従者も居るし。でも大通りから一本逸れれば別世界だって分かってる?」
「…存じておりますわ。」
「分かった上で、行ったんだ。そう。」
ますます強くなる怒りの雰囲気に、しかしわたくしだって負けてはいられません。だって悪いことはしていないんですもの!それに、メリルが酷い目に遭うのを黙って見ていられるわけもありませんでしょう!対策するのは当たり前ですわ!誘拐されたという事実さえあれば物語は進むのですから!
「ファウスト様、わたくしは、」
「ティア。」
「っはい。」
「僕は時々君を僕しか知らない屋敷に閉じ込めておきたくなるよ。」
ファウスト様から発せられた言葉の色に、わたくしは咄嗟に声が出ませんでした。
「ファウスト。」
「はいはい。…ティア。」
「ファウスト様…。」
「あんまり心配させないで、ね?」
「は、い。」
こくりと頷けば、ファウスト様は優しく頭を撫でてくださいました。
あぁ、こんなに心労をかけたというのに、嬉しく思うなんて、ファウスト様になら閉じ込められてもいい、だなんて、わたくしは………、
5
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!
夕立悠理
恋愛
シアノ・メルシャン公爵令嬢には、前世の記憶がある。前世の記憶によると、この世界はロマンス小説の世界で、シアノは悪役令嬢だった。
そんなシアノは、婚約者兼、最推しの負けヒーローであるイグニス殿下を勝ちヒーローにするべく、奮闘するが……。
※心の声がうるさい転生悪役令嬢×彼女に恋した王子様
※小説家になろう様にも掲載しています
見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!
すな子
恋愛
ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。
現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!
それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。
───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの?
********
できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。
また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。
☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!
アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。
その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。
絶対火あぶりは回避します!
そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる