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悪役令嬢たるもの駆け引きも大事にするべし!

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殿下に付き従い、辿り着いたのはサロンでございました。人払いは済んでいたようで、いつもは密やかに賑わうここも今は冷たい静寂が広がっております。

「呼ばれた理由は分かっているのか。」
「いいえ、皆目見当もつきませんわ。」
「そうか。」
「はい。」
「…………。」
「…………。」

見つめ合うこと10秒。根負けしたのはわたくしでございました。

「あの、テオドール様?」
「なんだ。」
「いえ、その、本当に何も聞かないんですの?」
「知らないのならば仕方ないだろう。元より事実確認の為に呼んだに過ぎない。」
「はい?」
「昨日の夕方、メリルが何者かによって誘拐、暴行されそうになった。…やはり驚かないか。」

殿下は目を細めてそう言うと椅子に座り、わたくしに向かいの席を勧められました。
言われるがままに座ったわたくしをじっと見つめるお顔は、何かを見極めようとしていらっしゃるように感じます。

「これでも充分驚いておりますわ。」
「そうか。路地裏に連れていかれそうになっていたメリルを見た住民が通報し、メリルは無事救出。特に大きな怪我は無く、事なきを得た訳だが。妙なのはこの住民だ。」
「怪しい方を見かけたら通報するのは義務ですわ。」
「その通りではあるが、あの辺りは人通りが少なく、加えて見通しが悪い場所だ。だからこそ誘拐犯もそこを狙ったのだろうが…どういう訳かすぐに発覚したようだった。始めからそこで起こることを分かっていたかのようにな。」
「迅速な対応がされたということですわね。喜ばしいことですわ。」
「あぁ。喜ばしいことだ。其方の名が出ていなければな。」
「なんのお話ですの?」

にこりと微笑み首を傾げれば、殿下は溜息をひとつ。

「其方は知らぬ話だろうが誘拐犯らが言うにはティアナ嬢に指示された、と。」
「まぁ!わたくしそんな恐ろしいこと、思い付きもしませんわ!」
「思い付くか否かは別として、身元が割れるような姿かたちで悪事を企てるのはマヌケ以外の何物でもないし、其方はそんな阿呆にも見えん。」
「お褒めに預かり光栄にございます。」
「…なるほど、ファウストが手を焼く訳だな。」
「?それはどういう、」
「メリルは無事ではあったが、犯罪は犯罪だ。故に目下指示した人物を探している。何か手がかりを掴めればと思ったのだが、ふむ。」

扉の方へと視線を向けた殿下は、そのまま立ち上がるとそちらへ歩き出しました。

「テオドール様?」
「そもそも、其方を疑ってはいない。…メリルを助けてくれてありがとう。感謝する。」
「!テオ…」
「ティア!!!」
「ファウスト様!?」

入れ違いに入ってこられたのはファウスト様でございました。
その表情を見て、わたくしは悟りました。全て、バレていると。
慌てて逃げようとするも、無事を確かめるかのように抱き締められて、身動きがとれなくなってしまいました。

「ファウスト、裏は。」
「ばっちりだよ。僕を誰だと思ってるの。」
「感謝する。」
「どういたしまして。こっちこそ、ティアの保護ありがとう。」
「わたくしの保護?」

どういうことかと見上げれば、にこりと笑ったファウスト様が。あ、久しぶりに本気で怒っておられますわ。これは本当に、とても不味い展開です。

「ティア。あんまりひとりで危ないことしちゃダメだってお義父様に言われてたよね?」
「な、なんのお話でしょう?」
「街に遊びに行くのは良いよ。護衛と従者も居るし。でも大通りから一本逸れれば別世界だって分かってる?」
「…存じておりますわ。」
「分かった上で、行ったんだ。そう。」

ますます強くなる怒りの雰囲気に、しかしわたくしだって負けてはいられません。だって悪いことはしていないんですもの!それに、メリルが酷い目に遭うのを黙って見ていられるわけもありませんでしょう!対策するのは当たり前ですわ!誘拐されたという事実さえあれば物語は進むのですから!

「ファウスト様、わたくしは、」
「ティア。」
「っはい。」
「僕は時々君を僕しか知らない屋敷に閉じ込めておきたくなるよ。」

ファウスト様から発せられた言葉の色に、わたくしは咄嗟に声が出ませんでした。

「ファウスト。」
「はいはい。…ティア。」
「ファウスト様…。」
「あんまり心配させないで、ね?」
「は、い。」

こくりと頷けば、ファウスト様は優しく頭を撫でてくださいました。




あぁ、こんなに心労をかけたというのに、嬉しく思うなんて、ファウスト様になら閉じ込められてもいい、だなんて、わたくしは………、
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