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悪役令嬢たるもの飲み物をかけ…られましたわ!?
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冷たい濡れた感触とふわりと香るアルコール。
瞬きをひとつ。
その振動で滑り落ちていく雫の色は赤。
困惑のままに手元に目を落とせば、たしかに存在しているわたくしの赤ワイン。
「…………え?」
どうしたらいいか分からず目の前の方を見つめれば、その方の目が吊り上がっていきました。
「調子に乗らないで。貴女、テオドール様の第一候補でしょう。幼馴染だからって馴れ馴れしすぎるのではなくて?」
「えぇ、あの、それは、」
わ、わたくしの台詞ですわーーー!!!それ、わたくしがメリルに言い放つ(予定の)台詞ですわ!!!
『調子に乗らないで。貴女、リリー子爵家の養子でしょう。不慣れだからといって馴れ馴れしすぎるのではなくて?』
卒業パーティで盛大に転んだメリルはそのままテオドール様に抱えられて退場するんですけれど、その後お互いの感情に気付いていい感じの雰囲気になるんですの。
テオドール様はメリルに傷付いて欲しくないと伝え、メリルもまた、今までのイジメの内容を話し辛かったのだと告げます。
そして、これからはテオドール様がメリルを守ると約束して、二人は多くの時間を共有するようになりますの。
そんな中呼ばれたお茶会。
メリルは針のむしろであるにも関わらず、このままではいけないと参加を決めます。
そこでメリルはティアナに紅茶をかけられて先程の台詞を告げられるのです。
メリルが養子であるのは公然の秘密であり、貴族ならば誰でも知っていることではありますが、下位貴族が優秀な平民を養子にとる事は稀にあります。つまり、メリルはとても優秀な子ということなのですわ!あら閑話休題。
子爵、しかも養子の分際で何をと、身の程を弁えなさいとティアナは言うわけですわね。
だというのに…どういうことですの?何故卒業パーティで!わたくしが!ワインを!かけられておりますの!
前倒し!?前倒しですの!?わたくしが練習の段階で足を引っ掛けようとしたから!?先輩方の晴れの舞台ですのよ!?
「ええと、リアトリスさん。」
「キャロルで構いません。同じ侯爵家ですから。」
「では、キャロルさんと。あの、キャロルさん、何か誤解が…」
「ティア?」
「ファウスト様。」
「ファウスト様!」
どうにか穏便に済ませられないか声をかけようとした時、後ろからファウスト様のお声が。
振り返れば料理を持ってきてくださったファウスト様の姿がございました。
「…ティア、これはどういうことか教えてくれる?」
「ええと、あの、」
「ファウスト様、これは、」
「君には聞いてない。ティア答えて。」
「あの、少し余所見をしておりましたらぶつかってしまいまして。おほほほ。」
目を細めたファウスト様はかなり不機嫌なご様子。
これは、かなりまずい状況ですわ。全て気付いておられますわね。
「ぶつかって。ふうん。どれだけ派手にぶつかったら顔にワインがかかるんだろうねぇ、ティア?」
そう言いながらファウスト様はわたくしに掛かったワインを指で拭い口へと含みます。まるでそれは幼い時分わたくしの頬についた生クリームを食べる時と同じで、全く、いつまでこの方はわたくしを子供だと思っていらっしゃるのでしょう?
しかも人前で、わざわざ。
わたくしがファウスト様の庇護下にあると見せたいのは分かりますが、流石に恥ずかしいですわ!わたくしはこの状況で悟らせるような淑女ではございませんけれど!えぇございませんけれども!!!顔が熱いのはワインのせいでしてよ!
「ファウスト様、外でそのようなお振る舞いはおやめくださいまし。」
「家ならいいの?」
「言葉の綾ですわ。」
「照れてる?可愛いね、ティア。」
「お黙りになって。」
「やだ。」
ちらりとキャロルさんを見遣れば、驚きに目を見開いておいででした。あらあら目玉が零れ落ちてしまいそうですわね。
わたくしの視線に気付いたのか、ファウスト様もそちらへ目を向けられました。
「君、まだ居たの?せっかくティアが時間を稼いでくれたのに。」
「あ…。」
無表情のままにキャロルさんを見下ろしたファウスト様は酷く冷たく、キャロルさんの顔色はどんどんと悪くなっていきます。
女性同士のお話し合いに殿方を乱入させるのはあまり推奨されませんけれど、わたくしは使えるものは使っていきましてよ!とはいえやり過ぎはご法度。このくらいが引き時ですわね。…このドレス、お気に入りでしたのに。
「そんなことしておりませんわ。ただ、今は卒業パーティの最中ですの。最後まで楽しみたいなとそう思っただけです。」
「じゃあティア、お色直ししよ。それとどっちにするか迷ったドレスがあるんだよね。」
「あらありがとうございます。エスコートしてくださいませ。」
見せつけるようにファウスト様の手を取れば、キャロルさんの目の色が変わりました。
あらまだやる気ですのね。受けてたちますわよ!
「っ、ファウスト様!」
「もうしつこいなぁ。じゃあ知りたいこと教えてあげるよ。僕とティアは君の思う通りだよ。許可は出た。」
「! それはつまり、」
「そう。ふふ、リアトリス家の意向はきっちり確認したよ。今後は気を付けた方がいいんじゃない?」
「ファウスト様。」
わたくしの淑女スキルを発揮する機会でしたのに!取らないでくださいまし!
「はいはい。行くよティア。」
「分かりました。では、ごきげんよう。」
これ以上は無用とばかりに、ファウスト様はわたくしを促します。
「キャロルさん、あの、時と場合は考えた方がよろしいかと。」
「…申し訳、ございません。ごきげんよう。」
走り去っていくキャロルさんを見届けることなく、わたくしは一度休憩室へと下がることとなりました。
「…染み抜きで落ちるかしら?」
「ちょっと時間経っちゃったから難しいかも。気に入ったの?」
「えぇ。ファウスト様の瞳の色ですもの。」
「…ティアに一番似合う色だもんね。」
「そうお思いになる?嬉しいですわ。」
「あーもう、ティアさぁ、」
「? なんですの?」
「なんでもない。すぐに持ってこさせるからちょっと待ってて。」
「はい。ありがとうございます。」
「どういたしまして。これからも僕から贈られるドレスを着てね、ティア。」
「はぁ。ファウスト様はプレゼント好きですわねぇ。」
「うん。好き。」
瞬きをひとつ。
その振動で滑り落ちていく雫の色は赤。
困惑のままに手元に目を落とせば、たしかに存在しているわたくしの赤ワイン。
「…………え?」
どうしたらいいか分からず目の前の方を見つめれば、その方の目が吊り上がっていきました。
「調子に乗らないで。貴女、テオドール様の第一候補でしょう。幼馴染だからって馴れ馴れしすぎるのではなくて?」
「えぇ、あの、それは、」
わ、わたくしの台詞ですわーーー!!!それ、わたくしがメリルに言い放つ(予定の)台詞ですわ!!!
『調子に乗らないで。貴女、リリー子爵家の養子でしょう。不慣れだからといって馴れ馴れしすぎるのではなくて?』
卒業パーティで盛大に転んだメリルはそのままテオドール様に抱えられて退場するんですけれど、その後お互いの感情に気付いていい感じの雰囲気になるんですの。
テオドール様はメリルに傷付いて欲しくないと伝え、メリルもまた、今までのイジメの内容を話し辛かったのだと告げます。
そして、これからはテオドール様がメリルを守ると約束して、二人は多くの時間を共有するようになりますの。
そんな中呼ばれたお茶会。
メリルは針のむしろであるにも関わらず、このままではいけないと参加を決めます。
そこでメリルはティアナに紅茶をかけられて先程の台詞を告げられるのです。
メリルが養子であるのは公然の秘密であり、貴族ならば誰でも知っていることではありますが、下位貴族が優秀な平民を養子にとる事は稀にあります。つまり、メリルはとても優秀な子ということなのですわ!あら閑話休題。
子爵、しかも養子の分際で何をと、身の程を弁えなさいとティアナは言うわけですわね。
だというのに…どういうことですの?何故卒業パーティで!わたくしが!ワインを!かけられておりますの!
前倒し!?前倒しですの!?わたくしが練習の段階で足を引っ掛けようとしたから!?先輩方の晴れの舞台ですのよ!?
「ええと、リアトリスさん。」
「キャロルで構いません。同じ侯爵家ですから。」
「では、キャロルさんと。あの、キャロルさん、何か誤解が…」
「ティア?」
「ファウスト様。」
「ファウスト様!」
どうにか穏便に済ませられないか声をかけようとした時、後ろからファウスト様のお声が。
振り返れば料理を持ってきてくださったファウスト様の姿がございました。
「…ティア、これはどういうことか教えてくれる?」
「ええと、あの、」
「ファウスト様、これは、」
「君には聞いてない。ティア答えて。」
「あの、少し余所見をしておりましたらぶつかってしまいまして。おほほほ。」
目を細めたファウスト様はかなり不機嫌なご様子。
これは、かなりまずい状況ですわ。全て気付いておられますわね。
「ぶつかって。ふうん。どれだけ派手にぶつかったら顔にワインがかかるんだろうねぇ、ティア?」
そう言いながらファウスト様はわたくしに掛かったワインを指で拭い口へと含みます。まるでそれは幼い時分わたくしの頬についた生クリームを食べる時と同じで、全く、いつまでこの方はわたくしを子供だと思っていらっしゃるのでしょう?
しかも人前で、わざわざ。
わたくしがファウスト様の庇護下にあると見せたいのは分かりますが、流石に恥ずかしいですわ!わたくしはこの状況で悟らせるような淑女ではございませんけれど!えぇございませんけれども!!!顔が熱いのはワインのせいでしてよ!
「ファウスト様、外でそのようなお振る舞いはおやめくださいまし。」
「家ならいいの?」
「言葉の綾ですわ。」
「照れてる?可愛いね、ティア。」
「お黙りになって。」
「やだ。」
ちらりとキャロルさんを見遣れば、驚きに目を見開いておいででした。あらあら目玉が零れ落ちてしまいそうですわね。
わたくしの視線に気付いたのか、ファウスト様もそちらへ目を向けられました。
「君、まだ居たの?せっかくティアが時間を稼いでくれたのに。」
「あ…。」
無表情のままにキャロルさんを見下ろしたファウスト様は酷く冷たく、キャロルさんの顔色はどんどんと悪くなっていきます。
女性同士のお話し合いに殿方を乱入させるのはあまり推奨されませんけれど、わたくしは使えるものは使っていきましてよ!とはいえやり過ぎはご法度。このくらいが引き時ですわね。…このドレス、お気に入りでしたのに。
「そんなことしておりませんわ。ただ、今は卒業パーティの最中ですの。最後まで楽しみたいなとそう思っただけです。」
「じゃあティア、お色直ししよ。それとどっちにするか迷ったドレスがあるんだよね。」
「あらありがとうございます。エスコートしてくださいませ。」
見せつけるようにファウスト様の手を取れば、キャロルさんの目の色が変わりました。
あらまだやる気ですのね。受けてたちますわよ!
「っ、ファウスト様!」
「もうしつこいなぁ。じゃあ知りたいこと教えてあげるよ。僕とティアは君の思う通りだよ。許可は出た。」
「! それはつまり、」
「そう。ふふ、リアトリス家の意向はきっちり確認したよ。今後は気を付けた方がいいんじゃない?」
「ファウスト様。」
わたくしの淑女スキルを発揮する機会でしたのに!取らないでくださいまし!
「はいはい。行くよティア。」
「分かりました。では、ごきげんよう。」
これ以上は無用とばかりに、ファウスト様はわたくしを促します。
「キャロルさん、あの、時と場合は考えた方がよろしいかと。」
「…申し訳、ございません。ごきげんよう。」
走り去っていくキャロルさんを見届けることなく、わたくしは一度休憩室へと下がることとなりました。
「…染み抜きで落ちるかしら?」
「ちょっと時間経っちゃったから難しいかも。気に入ったの?」
「えぇ。ファウスト様の瞳の色ですもの。」
「…ティアに一番似合う色だもんね。」
「そうお思いになる?嬉しいですわ。」
「あーもう、ティアさぁ、」
「? なんですの?」
「なんでもない。すぐに持ってこさせるからちょっと待ってて。」
「はい。ありがとうございます。」
「どういたしまして。これからも僕から贈られるドレスを着てね、ティア。」
「はぁ。ファウスト様はプレゼント好きですわねぇ。」
「うん。好き。」
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