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次期当主たるもの万全の体制で事を進めていくべきだよね

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この世は理不尽だ。
最初から全てが決められているような不快感と閉塞感。
神童だの天才だのと持ち上げられたところで何も楽しいことなんか無くて、ただひたすらに日々を消費していくだけ。
そんな中でも、父さまと母さまと、それからちょっと変わった幼馴染は僕を普通の子供のように扱ってくれた。愛してくれていた。だから、この何もかもが空虚なこの世界に耐えられていたのに。

「ごめんなさい。」

どうして君が謝るの。

「大丈夫だと、思ってましたの。」

君のおかげで、母さまの体調が良くなったんだよ。

「こんな、こんな風になるなんて、わたくし…!」

君の大きな瞳から涙が零れ落ちる。
綺麗だなと、そう思った。

「ティア。」

誰が悪いわけでもない。ただただ不幸な事故だった。
慈善活動のために孤児院への訪問の帰り道、運悪く車輪が道の溝に嵌り横転したらしい。当たりどころが悪かったのか、即死だったという。
傷を隠すために化粧を施された母さまはただ眠っているだけのようにも見えて。

「母さま。」

返事は無い。当然だ。もう死んでいるのだから。
僕の喉を何かが塞ぐ。苦しくて仕方ない。気持ち悪い。
縋るようにティアの手を握る。

「ファウストさま。」
「ティア、僕は…。」

言葉が続かない。
ただ揺れるティアの瞳を見つめた。次から次へと雫は落ちていく。少しだけ息が楽になった。

「ファウストさま。」

濡れた声が僕を呼ぶ。悲しいのだと、寂しいのだと、辛いのだと、声が告げていた。
僕の手が握り返される。柔らかな手だ。

「苦しい。」
「はい。」
「…苦しいんだ、ティア。」
「はい。」
「ティア。」
「はい。」
「…………………………かあさま。」

繋いだ手から体温が混ざっていく。また少しだけ息が楽になる。だからきっと僕の分の涙もティアの瞳から流れていってるんだと思った。それはつまり、ティアは僕の悲しみさえも受け取っているということで。

「ファウストさま。」

離そうとした僕の手をギュッと握り締めて、ティアは泣いた。大きな声で、体力の続く限り泣き続けた。ティアの瞳が溶けてしまいそうなほど大粒の涙を零しながら、けれど決して僕の手を離そうとしなかった。

「ティア。」

結局ティアの瞳は溶けなかったし、僕の苦しみも消えはしなかった。

「ありがとう。」

けれど、この柔らかな手が僕を繋ぎ止めてくれるのならば、もう少しだけ、この世界で生きてみようと思ったのだ。

不思議な僕の幼馴染。僕のティア。
君が何を知っていて、何をしたいのか、僕にだって分からない。
でも、その涙は本物だってことは分かるから。
君と同じように、この世界を愛していたいと思うんだ。
君の隣で、いきたいと、そう思うんだ。

















だからね、もう我慢はおしまい。
しがらみも何もかもが無くなった今、僕は君を、本当に僕のものにするよ。
そう決めたから、よろしくね、ティア。
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