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淑女たるもの常に微笑みを絶やさずいたいんですのよ!
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保健室にてメリルの処置をしていただいた後、会議があるため席を外すという保健医から鍵を預かったわたくし達は、そのまま保健室で休むことに致しました。
色々言いたいことはございますが、ひとまずはなぜか機嫌の良いこの方からはっきりさせていきましょう。
「ファウスト様、さっきのことについて説明してくださいまし!」
手慰みにわたくしの手で遊んでいたファウスト様は、不思議そうな顔で首を傾げました。
そんな仕草には騙されませんわよ。
「え?僕が無様にティアを転ばせると思う?」
「そこは心配しておりません!」
「じゃあいいでしょう?ティアの細い足首に痕が付くより全然マシ。」
「やはり…。」
あの時、わたくしの代わりにそう振る舞ったことはすぐにわかりました。メリルをあまり快く思っておられない令嬢が傍で踊っていたあのタイミングで事を起こしたのは、わたくしに疑惑の目が向かないようにということだったのでしょう。
あの場ではメリルが自ら転んだと思われた方が3割、あの令嬢が転ばせたと思われた方が5割、他2割は何も分からない方や興味無い方といった感じだったと推測致します。
わたくしではこうは行かなかったであろうことも、分かりました。
「やりたいことも目的も分かったから、僕でも出来るなって。あ、ちなみにこれは妨害じゃなくってアシストだからね。何事にもコツがいるんだよ、ティア。君は優しいけど、もう少し周りを頼ることを覚えてほしいなぁ。」
「…はい。ありがとうございます。」
「ん。どういたしまして。まぁでもまさかああなるとは思わなかったから、お詫びはきちんと贈るよ。安心してね。」
「では後ほどリストを届けさせますわ。」
「うん。ありがとう。にしても、テオドールのリード下手すぎない?今までどうしてたの?」
「私相手だと皆緊張するらしい。」
「いや緊張抜きにしてもあれはなしでしょ。そんなんじゃ幻滅されちゃうよ?」
「ファウスト様!」
ファウスト様から飛び出しました発言にわたくしは驚いてしまって思わず名前を呼んでしまいました。ファウスト様はわたくしに微笑むとまた話を始めます。
「そもそもの話、ダンスフロアでは女性が主役なの、わかってる?」
「あぁ。」
「彼女たちは華。如何に楽しませるか、美しく魅せるかを考えなくちゃ。自分のステップばかり気にしてたら駄目だよ。僕だったらそんな相手と一緒に踊りたくない。」
「ファウスト様…!」
「別に良くない?本当のことだし。」
「ご友人だからと言って、そのような物言いはよろしくありませんわ。」
「でもティアもテオドールとのダンスは踊りにくそうだったじゃない。僕の誕生日なのにそれ目の前で見せられた僕の気持ち分かる?ちょっと面白かったけど。」
「お呼びしたのはファウスト様でしょう。テオドール様のダンスは模範的でしたわ。」
「模範的ね。つまりつまんなかったってことだ。僕の方がいいでしょう?」
「それは当たり前ですわ。わたくしだって楽しく踊りたいですもの。そうではなくてわたくしが言いたいのは、」
「ティ、ティアナ様、あの、それ以上は…。」
ヒートアップしそうになった言葉を止めてくれたのはメリル。あわあわと少し慌てた様子は小動物のようで可愛らしいのですけれど、淑女としては失格ですわ。仕草についてはあとで伝えましょう。
ですが、そうですわね。わたくし、殿下の前ですのにオブラートに包むことを忘れてしまっておりました。ファウスト様との会話はどうにも気安さが先行してしまいます。反省しなければ。
「あらごめんあそばせ。」
コホン、と咳をひとつ。
あぁもう仕切り直しの為ですのでファウスト様は飴をしまってくださいまし!わたくしの従者に蜂蜜を持ってこさせようとしない!
メリル?なんなんですのその目は…。
「なにもテオドール様側の問題だけではございませんわ。メリル。貴女も貴女よ。きちんと身体を預けないと、リードする側も難易度が上がってしまいますのよ?」
「なるほど、そうなんですね。」
「一応先生の指導通りのポジションではあったが、たしかに身長差等も考慮にいれないとだな。というか逆にお前達はだいぶ距離が近かったがよくそれで踊れるな。」
「?あのくらいが1番リードしやすいとファウスト様が。他の方と踊る時は先生に習った通りにしておりますわ。」
隙あらば飴を与えようとしてくるファウスト様の手をお断りしながらそう回答しましたところ、なんだか生温い空気が流れました。
なんなんですのさっきから。
「…あぁ、なるほど。」
「テオドール、余計なこと言わないでよね。ティア、あーん。」
「要りませんわ。」
「其方も苦労するな。」
「何のお話ですの?」
「ティアナ様、頑張ってください!」
「???」
「ティアはそのままでいいよ。」
「はぁ…。」
話の流れがよく分からなくて困惑するわたくしに飴をお与えになられたファウスト様はご満悦のご様子。
口にものが入っている以上口を噤むしかないわたくしを見つめるファウスト様はやっぱりいつもより柔らかな笑みを浮かべておいででした。
「それより、今回のことでリリーさんの現状がどういったものなのかが詳らかにされたけど、テオドールはどうするの?」
「っクレマチス様!」
「君の発言は許可してない。」
「も、申し訳ありません。」
「ファウスト。」
「そうやって君が甘やかすからいつまで経っても仔犬ちゃんなんじゃない?」
「甘やかしているつもりはないのだが。」
「へー。まぁ僕にはどうでもいいけど。」
ファウスト様の整ったお顔立ちは冷たく見えてしまうのだから、そう言った言動は控えた方がよろしいのではと進言致しましたのに。
とんとんとファウスト様の腕を叩けば青い瞳が緩まり、鋭さが消えたように見えました。
「なぁに、ティア。」
飴をお与えになられたのはファウスト様ですのに、なぜ口を開かせるようなことをお言いになるのでしょう?
「噛んじゃえばいいのに。真面目だよねぇティアは。」
わたくしの心情に気付いたらしいファウスト様は、わたくしの頬をつつきながらそう仰いました。
その手を掴み首を振れば、笑みを深めて頷かれます。
「分かった分かった。仕方ないなぁティアは。リリーさん、好きに喋っていいよ。どうせテオドールの許可はもらってるんでしょう?」
そう問いかけましたファウスト様に、メリルは困った様子で殿下へと視線を向けました。
即答せずに殿下にお伺いをたてた点はよろしい。ですが、ファウスト様の質問を無視した形になってしまったのはいただけないですわ。
この場合は、曖昧に微笑むか、わたくしの口からは、と濁しませんといけませんわね。これもあとで伝えなければ。
「あぁ。私が許可を与えた。」
「テオドール様…。」
「僕に宣言したってことは、もういいってことだよね。」
「…あぁ。」
「陛下からの許可は?」
「いただいている。」
「ふーん。そっか。…ティア。」
話の途中でわたくしを呼んだファウスト様へと視線を向けましたら、未だかつて無いほどの満面の笑みが!
ファウスト様そんな顔出来たんですのね!?
「っ、けほ!」
「ティア!」
「ティアナ様!?」
「だ、大丈夫ですわ。」
思わず飴を飲み込んでしまったわたくしの背を撫でてくださるファウスト様はいつも通りの表情に戻ってしまわれました。あぁ、惜しい事をしてしまいました…。
「本当に大丈夫?口開けて。」
「口を開ける…?まさか!そんなはしたないことは出来ません!」
「?さっきも開けたでしょ。」
「度合いが違いますのよ!本当に大丈夫ですから!」
口元を押さえて後退ればファウスト様が追って来られました。
淑女教育では口を大きく開けることははしたないこととされておりまして、郷に入っては郷に従え、わたくしもその精神が身に付いております。
風邪などを引いてしまってお医者様に見せる時くらいしか口を大きく開くことはしませんのよ。彼等はお仕事ですから少し恥ずかしいですけれど、耐えられます。ですがこんな公共の場でしかも好きな方に口内をお見せするなんてそんなこと出来ませんわよ!
「でも飴がティアの喉を傷付けてるかもしれないでしょう?」
「痛みもありませんし、問題ないですわ!もし何かあったとしたらお医者様に見せます!」
「医者には見せられるのに僕には見せられないの?」
「お医者様はお仕事ですのよ!お仕事の妨げになることはしませんわ。」
「ティアの健康状態をきちんと確認するのも僕の仕事だよ。」
「何を仰っていらっしゃるの!?」
じりじりと壁へ追い詰められたわたくしが逃げ道を探していますと、天使の声が!
「ク、クレマチス様…!」
「んー、好きに喋っていいとは言ったけどさぁ…。」
「申し訳ございません。ですが、淑女が大きく口を開いて殿方に口内をお見せするというのは…。」
メリル…!
なんて優しい子なんでしょう。先程この方に足を引っ掛けられたというのに果敢に立ち向かうその度胸、とても素晴らしいですわ!
「どうしてダメなの?だってもう、」
「ファウスト。」
「はぁ、分かった。ティア、本当に痛くないんだね?」
「は、はい。」
わたくしも言葉に嘘がないかをじっと確認しましたファウスト様は、ホッとした様子で頷き、わたくしを抱き上げました。…抱き上げました?いえあの、待ってくださいましどういうことですの!?
「ファウスト様!?」
「やっぱり喉が心配だからちょっと黙ってね。」
本当に心配そうなファウスト様にわたくしは口を噤むことしか出来ません。
そうですわよね、ファウスト様がわたくしに飴をお与えになられたわけですから、罪悪感を感じてしまうのも無理ありません。恥を忍んで口内をお見せするべきだったかしら?
「じゃあ僕はこれからティアの家に行くから。そっちもちゃんと話し合ったら?」
「心配性ですわね。ですがまだ授業が残っておりますし、わたくし帰りませんわよ。」
「帰るよー。」
「帰りませんわ!降ろしてくださいまし、ファウスト様!」
わたくしの無言タイムは秒で終了致しました。
「はいはい。危ないから大人しくしてて。またね、テオドール、メリルさん。」
「あぁ、また。」
「! はい!ごきげんよう、ファウスト様。」
「せめてご挨拶を…!」
「僕がしたからいいでしょ。」
「よくありませんわ!ちょっと!あぁ、もう、テオドール様ごきげんよう!メリル、ちゃんと話すんですのよ!」
「わ、わかりました!」
校舎を出れば蜂蜜を持った従者がにこやかに馬車の傍で待っておりました。まぁなんて優秀な従者ですこと!!!わたくし頼んでおりませんことよ!!!
色々言いたいことはございますが、ひとまずはなぜか機嫌の良いこの方からはっきりさせていきましょう。
「ファウスト様、さっきのことについて説明してくださいまし!」
手慰みにわたくしの手で遊んでいたファウスト様は、不思議そうな顔で首を傾げました。
そんな仕草には騙されませんわよ。
「え?僕が無様にティアを転ばせると思う?」
「そこは心配しておりません!」
「じゃあいいでしょう?ティアの細い足首に痕が付くより全然マシ。」
「やはり…。」
あの時、わたくしの代わりにそう振る舞ったことはすぐにわかりました。メリルをあまり快く思っておられない令嬢が傍で踊っていたあのタイミングで事を起こしたのは、わたくしに疑惑の目が向かないようにということだったのでしょう。
あの場ではメリルが自ら転んだと思われた方が3割、あの令嬢が転ばせたと思われた方が5割、他2割は何も分からない方や興味無い方といった感じだったと推測致します。
わたくしではこうは行かなかったであろうことも、分かりました。
「やりたいことも目的も分かったから、僕でも出来るなって。あ、ちなみにこれは妨害じゃなくってアシストだからね。何事にもコツがいるんだよ、ティア。君は優しいけど、もう少し周りを頼ることを覚えてほしいなぁ。」
「…はい。ありがとうございます。」
「ん。どういたしまして。まぁでもまさかああなるとは思わなかったから、お詫びはきちんと贈るよ。安心してね。」
「では後ほどリストを届けさせますわ。」
「うん。ありがとう。にしても、テオドールのリード下手すぎない?今までどうしてたの?」
「私相手だと皆緊張するらしい。」
「いや緊張抜きにしてもあれはなしでしょ。そんなんじゃ幻滅されちゃうよ?」
「ファウスト様!」
ファウスト様から飛び出しました発言にわたくしは驚いてしまって思わず名前を呼んでしまいました。ファウスト様はわたくしに微笑むとまた話を始めます。
「そもそもの話、ダンスフロアでは女性が主役なの、わかってる?」
「あぁ。」
「彼女たちは華。如何に楽しませるか、美しく魅せるかを考えなくちゃ。自分のステップばかり気にしてたら駄目だよ。僕だったらそんな相手と一緒に踊りたくない。」
「ファウスト様…!」
「別に良くない?本当のことだし。」
「ご友人だからと言って、そのような物言いはよろしくありませんわ。」
「でもティアもテオドールとのダンスは踊りにくそうだったじゃない。僕の誕生日なのにそれ目の前で見せられた僕の気持ち分かる?ちょっと面白かったけど。」
「お呼びしたのはファウスト様でしょう。テオドール様のダンスは模範的でしたわ。」
「模範的ね。つまりつまんなかったってことだ。僕の方がいいでしょう?」
「それは当たり前ですわ。わたくしだって楽しく踊りたいですもの。そうではなくてわたくしが言いたいのは、」
「ティ、ティアナ様、あの、それ以上は…。」
ヒートアップしそうになった言葉を止めてくれたのはメリル。あわあわと少し慌てた様子は小動物のようで可愛らしいのですけれど、淑女としては失格ですわ。仕草についてはあとで伝えましょう。
ですが、そうですわね。わたくし、殿下の前ですのにオブラートに包むことを忘れてしまっておりました。ファウスト様との会話はどうにも気安さが先行してしまいます。反省しなければ。
「あらごめんあそばせ。」
コホン、と咳をひとつ。
あぁもう仕切り直しの為ですのでファウスト様は飴をしまってくださいまし!わたくしの従者に蜂蜜を持ってこさせようとしない!
メリル?なんなんですのその目は…。
「なにもテオドール様側の問題だけではございませんわ。メリル。貴女も貴女よ。きちんと身体を預けないと、リードする側も難易度が上がってしまいますのよ?」
「なるほど、そうなんですね。」
「一応先生の指導通りのポジションではあったが、たしかに身長差等も考慮にいれないとだな。というか逆にお前達はだいぶ距離が近かったがよくそれで踊れるな。」
「?あのくらいが1番リードしやすいとファウスト様が。他の方と踊る時は先生に習った通りにしておりますわ。」
隙あらば飴を与えようとしてくるファウスト様の手をお断りしながらそう回答しましたところ、なんだか生温い空気が流れました。
なんなんですのさっきから。
「…あぁ、なるほど。」
「テオドール、余計なこと言わないでよね。ティア、あーん。」
「要りませんわ。」
「其方も苦労するな。」
「何のお話ですの?」
「ティアナ様、頑張ってください!」
「???」
「ティアはそのままでいいよ。」
「はぁ…。」
話の流れがよく分からなくて困惑するわたくしに飴をお与えになられたファウスト様はご満悦のご様子。
口にものが入っている以上口を噤むしかないわたくしを見つめるファウスト様はやっぱりいつもより柔らかな笑みを浮かべておいででした。
「それより、今回のことでリリーさんの現状がどういったものなのかが詳らかにされたけど、テオドールはどうするの?」
「っクレマチス様!」
「君の発言は許可してない。」
「も、申し訳ありません。」
「ファウスト。」
「そうやって君が甘やかすからいつまで経っても仔犬ちゃんなんじゃない?」
「甘やかしているつもりはないのだが。」
「へー。まぁ僕にはどうでもいいけど。」
ファウスト様の整ったお顔立ちは冷たく見えてしまうのだから、そう言った言動は控えた方がよろしいのではと進言致しましたのに。
とんとんとファウスト様の腕を叩けば青い瞳が緩まり、鋭さが消えたように見えました。
「なぁに、ティア。」
飴をお与えになられたのはファウスト様ですのに、なぜ口を開かせるようなことをお言いになるのでしょう?
「噛んじゃえばいいのに。真面目だよねぇティアは。」
わたくしの心情に気付いたらしいファウスト様は、わたくしの頬をつつきながらそう仰いました。
その手を掴み首を振れば、笑みを深めて頷かれます。
「分かった分かった。仕方ないなぁティアは。リリーさん、好きに喋っていいよ。どうせテオドールの許可はもらってるんでしょう?」
そう問いかけましたファウスト様に、メリルは困った様子で殿下へと視線を向けました。
即答せずに殿下にお伺いをたてた点はよろしい。ですが、ファウスト様の質問を無視した形になってしまったのはいただけないですわ。
この場合は、曖昧に微笑むか、わたくしの口からは、と濁しませんといけませんわね。これもあとで伝えなければ。
「あぁ。私が許可を与えた。」
「テオドール様…。」
「僕に宣言したってことは、もういいってことだよね。」
「…あぁ。」
「陛下からの許可は?」
「いただいている。」
「ふーん。そっか。…ティア。」
話の途中でわたくしを呼んだファウスト様へと視線を向けましたら、未だかつて無いほどの満面の笑みが!
ファウスト様そんな顔出来たんですのね!?
「っ、けほ!」
「ティア!」
「ティアナ様!?」
「だ、大丈夫ですわ。」
思わず飴を飲み込んでしまったわたくしの背を撫でてくださるファウスト様はいつも通りの表情に戻ってしまわれました。あぁ、惜しい事をしてしまいました…。
「本当に大丈夫?口開けて。」
「口を開ける…?まさか!そんなはしたないことは出来ません!」
「?さっきも開けたでしょ。」
「度合いが違いますのよ!本当に大丈夫ですから!」
口元を押さえて後退ればファウスト様が追って来られました。
淑女教育では口を大きく開けることははしたないこととされておりまして、郷に入っては郷に従え、わたくしもその精神が身に付いております。
風邪などを引いてしまってお医者様に見せる時くらいしか口を大きく開くことはしませんのよ。彼等はお仕事ですから少し恥ずかしいですけれど、耐えられます。ですがこんな公共の場でしかも好きな方に口内をお見せするなんてそんなこと出来ませんわよ!
「でも飴がティアの喉を傷付けてるかもしれないでしょう?」
「痛みもありませんし、問題ないですわ!もし何かあったとしたらお医者様に見せます!」
「医者には見せられるのに僕には見せられないの?」
「お医者様はお仕事ですのよ!お仕事の妨げになることはしませんわ。」
「ティアの健康状態をきちんと確認するのも僕の仕事だよ。」
「何を仰っていらっしゃるの!?」
じりじりと壁へ追い詰められたわたくしが逃げ道を探していますと、天使の声が!
「ク、クレマチス様…!」
「んー、好きに喋っていいとは言ったけどさぁ…。」
「申し訳ございません。ですが、淑女が大きく口を開いて殿方に口内をお見せするというのは…。」
メリル…!
なんて優しい子なんでしょう。先程この方に足を引っ掛けられたというのに果敢に立ち向かうその度胸、とても素晴らしいですわ!
「どうしてダメなの?だってもう、」
「ファウスト。」
「はぁ、分かった。ティア、本当に痛くないんだね?」
「は、はい。」
わたくしも言葉に嘘がないかをじっと確認しましたファウスト様は、ホッとした様子で頷き、わたくしを抱き上げました。…抱き上げました?いえあの、待ってくださいましどういうことですの!?
「ファウスト様!?」
「やっぱり喉が心配だからちょっと黙ってね。」
本当に心配そうなファウスト様にわたくしは口を噤むことしか出来ません。
そうですわよね、ファウスト様がわたくしに飴をお与えになられたわけですから、罪悪感を感じてしまうのも無理ありません。恥を忍んで口内をお見せするべきだったかしら?
「じゃあ僕はこれからティアの家に行くから。そっちもちゃんと話し合ったら?」
「心配性ですわね。ですがまだ授業が残っておりますし、わたくし帰りませんわよ。」
「帰るよー。」
「帰りませんわ!降ろしてくださいまし、ファウスト様!」
わたくしの無言タイムは秒で終了致しました。
「はいはい。危ないから大人しくしてて。またね、テオドール、メリルさん。」
「あぁ、また。」
「! はい!ごきげんよう、ファウスト様。」
「せめてご挨拶を…!」
「僕がしたからいいでしょ。」
「よくありませんわ!ちょっと!あぁ、もう、テオドール様ごきげんよう!メリル、ちゃんと話すんですのよ!」
「わ、わかりました!」
校舎を出れば蜂蜜を持った従者がにこやかに馬車の傍で待っておりました。まぁなんて優秀な従者ですこと!!!わたくし頼んでおりませんことよ!!!
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