これでわたくしも立派な悪役令嬢に…ってちょっとそこの貴方、勝手にわたくしの役目を担わないでくださいまし!

onyx

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悪役令嬢たるもの足を引っ掛け…ちょっと!

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…おかしいですわね。どうしてわたくしのエスコート役がファウスト様なんですの?
たしかに幼い頃からパートナーとしてパーティーに参加しておりましたが、それはわたくしかファウスト様の身内のみのものばかりでした。
デビュタント前の娘のエスコート役は親族が一般的なのですが、そこはまぁファウスト様の強い意志の元、わたくしも好きな方とパーティーに参加出来ることが嬉しくて毎回お受けしておりましたが、学園でのパーティーとなると話が違います。身内だけではない、公の場でのパートナーはつまり、親しい間柄であることの証左であり、婚約した、もしくは恋人同士である公言したも同然の行いなのですから。

釈然としないながらも現在は卒業パーティーに向けての1年生合同ダンスレッスンの最中。ダンスパートナーは当然、卒業パーティーでのパートナーの方となります。そのため、学年が異なる方がパートナーの場合公休扱いになるのだとか。
踊りながら周りを見回してみても親族でない方々はやはり婚約者同士か恋人同士ばかり。

本当に、どうしてわたくしはファウスト様と踊っているのでしょうか?

「ティア?」
「いつにも増して楽しそうですわね、貴方。」
「楽しいよ。ティアとこうして踊るのも久しぶりだし、何よりティアがしたいことを1番近くで見られるんだもの。」
「…本当に、貴方は。」

わたくしはファウスト様に身体を預けたまま、隣で踊っている2人へと視線を移しました。

「っすみません、テオドール様!」
「問題ない。メリル、それよりもう少し肩の力を抜くといいだろう。」
「は、はい。」

あぁもう、そんな言い方ではますます緊張するに決まっているじゃありませんか。
溜息をつきたい気持ちをグッと堪え、わたくしは誘われるがままにターンをしました。

「今度は何を企んでるの?」
「ファウスト様には教えませんわ。」
「ふーん?」

目を細めたファウスト様からは不機嫌な気配が。わたくしが隠し事するとすぐにこうなるんですもの。こちらも揶揄同様、慣れましたわ。
今はそれより目下の目標であるメリルへの足掛けをわたくしは遂行しなければなりませんのよ。

【作戦5 足を引っ掛けて転ばせる】

本来ならば卒業パーティーでの出来事になるのですが、卒業される先輩方の晴れの舞台でそんなことは出来ませんし、何より1年生にとって卒業パーティーはデビュタント前の最初のパーティー。ハプニングをわざわざ起こすには少し敷居が高いと思いませんこと?

だからこうして練習中にメリルの足を狙っているのですが、中々どうして上手く行きません。というか、普通に難しいですわよ。誰ですの、踊りながら足を引っ掛けるなんて高度な要求をした方は?
あからさまに足を出すなんてしたら周りに気付かれてしまいますし、かといって過度な接触はエスコート役であるファウスト様の技量が問われてしまいます。
ど、どうしたらいいのかしら…。
この一件がきっかけでメリルへの嫌がらせが白日の元に晒されることとなるんですのに!
あの日の教科書の事件のあと、結局メリルは殿下に相談しなかったようなのです。殿下も気付いてはおられるようですが、相談されない事には動くに動けませんし…。噂の件は悪質過ぎると判断されて動かれたようですが、こちらに関しては殿下自身と言うより伯爵家の不正諸々の告発のきっかけとして王家が対処したに過ぎないようでした。そういう家だったからこそ、ファウスト様も唆したんでしょうけれど。

話が逸れましたわね。そのような事情もあり、わたくしは何としてもメリルを転ばせ、嫌がらせを無くさなくてはならないのですわ!

「ティア。」
「なんですの?」
「ダンス中くらい、僕だけを見ていてほしいんだけど?」
「またそんなことお言いになって。ちゃんと見ておりますわよ。」
「足りない。」
「っファウスト様!そのステップはまだわたくし習っておりませ…!」
「きゃっ!」

わたくしを引き寄せたファウスト様を見上げれば、隣から小さな悲鳴とともに倒れる音が聞こえました。
視線を向ければ、受け身をとれないままに転んだらしいメリルの姿が。ターンの最中であったのか、少し離れた位置で殿下が驚いたように目を見開いておいででした。

「!メリル、大丈夫でして?」
「ティアナ様…!」

くすくすとそこかしこから聞こえる嘲笑に知らんぷりをしながら駆け寄れば、顔をあげたメリルの目から涙が零れ落ちました。ハンカチを取り出して顔に押し付けると、その雫はひとつまたひとつと増えていきます。

「人前で泣かないの、はしたない!淑女たるもの人前では常に笑みを浮かべていなければなりませんわ。」
「でも、痛くて…。」
「盛大に転んだものね。お鼻が赤くてよ。まさか顔を床に打ち付けるなんて…せめて手をつきなさいな。」
「びっくりして固まっちゃったんです。」
「もう、どんくさい子ね。ほら立ち上がって。テオドール様もテオドール様ですわ。きちんと受け止めて差し上げるくらいの判断力を見せてくださいまし!」
「本当にねぇ。僕だったら絶対ティアを転ばせたりしないよ?せめて手を引いてあげればよかったのに。」
「ファウスト様。」
「はいはい。」

メリルの手を取り立ち上がらせれば、少しよろけたものの、きちんと骨は繋がっている様子。それにホッとしつつパートナーである殿下へと苦言を呈せば、殿下は深く頷かれました。

「そうだな、どんな時でも行動出来るように努力しよう。」
「それは良いですね。ほらメリル。保健室へ行きましょう。先生、よろしくて?」
「はい、ティアナ様。」
「えぇ。よろしくお願いしますね。」
「私も同行しよう。」
「ティアが行くなら僕も行く。」

あぁ、にこりと笑ってわたくしの手を取るファウスト様を見て溜息をつかなかったわたくしをどなたか褒めてほしいですわ。
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