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魔界編:第14章
ままならない
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その日、僕は巡回に行かなかった。
カズヤさん、ルイさん、飛翔さんが顔を見合わせて、僕は事務所に残るように言われたからだ。
さすがに所属部隊に迷惑をかけるわけにはいかないので、自分も一緒に巡回に出ると申し出たのだけど、僕が来る前は三人でやっていた事だしと固辞された。
僕が最近隙あらばどこかに行っている事は、もちろん全員把握済みだ。もしかして気を使わせてしまっただろうか?
水族館作成計画は順調で、今は一番大きな水槽を作り上げたので、水槽の中を練っているところだった。
試案という意味でも、魔力を使う意味としても、両方。
せっかく気を使ってくれたのだから、それなら水族館の方に行こうと思った。
ユキの誕生日まであと半月を切っていて時間がないのと、今まさに一番楽しい所をやっているというのも大きかった。
「じゃあ、僕も行こうかな」
そう言って立ち上がろうとしたら、ソファの隣に座っていたユキから、服の裾を引っ張り下ろされてソファに戻された。
「ユキ?」
ユキは膝に片ひじをついて、面白くなさそうに前を見ながら、ただ無言でムスッとしていた。あからさまに機嫌が悪い。
この状態のユキを置いて、この場を去るなんて絶対にありえない。ユキの誕生日に向けて準備している事ではあるけど、本人を差し置いてまで優先する事じゃないと思う。
事務所で恋人同士のような事をするのは好ましくない僕を気遣って、ソファに戻すだけに留めてくれたのかもしれない。
そう思ったらなんだかすごく愛しくなってしまって、我慢しなきゃとは思いつつも構わず抱きしめたくなるような衝動に駆られる。
僕だって時と場所を選ばなきゃいけないと思っているだけで、触れ合いたいって気持ちは同じだ。
だから、どうしても触れたくて……正面をまっすぐ見ているユキの頬を撫でた、その顔はまるでふてくされているみたいだった。
「どうしたの?」
「……」
チラッと目線だけ僕に向けて、少しだけ困ったように、悩んでいるように眉をひそめてから、ユキは僕の肩に寄りかかった。
「本当は真里がやりたいことをやらせてやりたい、行って来いって快く送り出したいと思っている」
ユキが絞り出すように話し始めたので、ユキの重みを感じながら静かに頷いた。やっぱり警備面に不安があったり、まだ僕がハルキさんの手伝いをしている事(と称している水族館計画)を快く思っていないのだろうか。
「思っているんだが……寂しい」
「えっ……!」
それは予想外だった言葉で、僕はなんとも間抜けな声を出してしまった。
「自分でも子供みたいなことを言っていると思うが、この感情はどうしようもない」
さっきまで拗ねているように見えていたユキの態度は、一転恥ずかしそうに、照れくさそうにしているように見えた。
なんて可愛い事を言うんだろうか! ユキの素直なデレは、僕に対してとんでもない衝撃を与えてくる。
最近素直に甘えてきてくれるのはすごく、すっごく嬉しいのだけど、心臓がキューッと締まりすぎていくつあっても足りない気がする!
思わず胸に両手を当てて、今の言葉を噛みしめていると、ユキは僕に預けていた体を起こして、どうした? と心配してきた。
「ごめん、嬉しくて」
ユキとは毎日しっかり愛し合っているし、それなのに寂しいなんて感情を抱いているなんて思いもしなかった。
確かに事務所にいない時間も増えたし、ユキより遅く帰る日もあるから、前より一緒に居る時間は減っているかもしれない。
「教えてくれてありがとう、今日は手伝いには行かないことにするよ」
三人が僕を置いて事務所を出た理由は、多分ユキのこの不機嫌顔を察知したからだろうな。
恋人である僕だけが気付かなかったなんて、本当に情けない話だ。
「困らせたいわけじゃないんだが」
「わかってる、僕がそうしたいんだ」
本当に口に出して言ってくれてよかった。ユキを喜ばせたくてやってる事なのに、寂しくさせてしまったら本末転倒だ。
せめていつでも、どこにいても、君の事を想ってるって事を証明できたらいいのに……。
そんな事を思っていると、ユキはソファに背中を預けた。
軽くのけぞる胸に、僕に対して伸ばされる手。誘われてる……そう感じて、吸い寄せられるようにユキに覆いかぶさって、上からキスしようとした。
「真里ー! あのねちょっと……聞いてほし……」
グワラッと勢いよく無遠慮に開かれた扉と、あざとく甘えるような声。言わずもがな聖華だ。
反射でユキの上から飛びのいてその場を取り繕おうとしたけど、ユキがギロリと強く睨みつけたせいで、聖華はお邪魔しましたーと叫んで、逃げるようにこの場から走り去ってしまった。
今の絶対、僕がユキを押し倒しているように見えたよね!?
「追いかけなきゃ!」
「ほっとけ」
ユキから抱きしめられて、容易に抜け出せない状況になってしまった。
「でも、聖華が勘違いしてるかも! それはユキだって不本意じゃ?」
聖華の事だからあんな状況を見れば、いらぬ邪推をすると思う。
特に以前聖華の目の前で、ユキが僕の初めてを貰うなんて話をしたから……!
もしかして僕とユキは、もうそういう間柄になってるんじゃないかって、そう勘違いするに違いなかった。
「俺は気にしない、勘違いでも何でもさせておけば」
「僕は嫌だ! 勘違いでもなんでも、僕に甘えている君を想像する事だって許したくない」
僕が真剣にユキの瞳を見て伝えると、ユキは一瞬迷ってから腕の力を緩めてくれた。
「すぐ戻るね」
周りに近づこうとする気配がないか確認してから、ユキの口に軽くキスして聖華を追いかけた。
ユキの機嫌は悪くないみたいで、フフンと笑いながら意外にもすんなりと行かせてくれた。
「聖華!」
聖華は足が遅いので、あっさりと僕に捕まる。
「ごめんごめん、まさかいい所にお邪魔しちゃうなんて思わなくってー!」
ケラケラと可笑しそうに笑う聖華に、僕は誤解があるかもーなんて言おうとして、そう切り出すのもおかしくないか? と思いとどまる。
聖華が勘違いしてるかもしれないなんて、僕の想像に過ぎなくて、いきなりそんな事を言われても聖華も困るだろう。
追いかけてきたはいいけど、取り繕い方なんて全く考えていなかった。
僕が言葉に詰まっていると、聖華はニヤニヤしながら僕の耳元に顔を寄せてくる。
「ユキさん、真里相手だとあんな誘うみたいな……」
その声色はからかうようで、でも探りを入れてくるみたいに、そして少し興奮したような感じで……。
やっぱり……と僕の予想は確信に変わった。
あの時僕の背中に回していたユキの手や、覆いかぶさった時の少し嬉しそうに緩む口元、キス待ちして目を瞑るかわいらしさを思い出してついカッとなった。
「なにを見たのかな? 何か見たなら全て忘れて欲しいし、勘違いもやめて欲しいんだけど」
背中にゾワッとしたものを感じたけど、構わず言葉に出してしまった。そして自分でも気づく、今のは威圧を込めすぎたんじゃないかと。
案の定周囲が一瞬怖いほどに静かになり、その後に騒然とするのが分かった、これはやってしまったかもしれない。
「なっ、ななっ……なによ! ちょっとからかっただけじゃないっ!」
聖華が声を振るわせながら、いつぞやのように腰に手を当ててふんぞり返っている。
聖華まで怖がらせてしまうなんて、調節が甘いにも程がある。もっと練習しないと……なんて思い至って、自分が今やりたいことが多すぎて頭を抱えたくなった。
少し話してすぐに戻るつもりだったのに、あまりにも注目を集めてしまったので、仕方なく聖華とよく話をする休憩所兼、会議室まで行く事にした。
カズヤさん、ルイさん、飛翔さんが顔を見合わせて、僕は事務所に残るように言われたからだ。
さすがに所属部隊に迷惑をかけるわけにはいかないので、自分も一緒に巡回に出ると申し出たのだけど、僕が来る前は三人でやっていた事だしと固辞された。
僕が最近隙あらばどこかに行っている事は、もちろん全員把握済みだ。もしかして気を使わせてしまっただろうか?
水族館作成計画は順調で、今は一番大きな水槽を作り上げたので、水槽の中を練っているところだった。
試案という意味でも、魔力を使う意味としても、両方。
せっかく気を使ってくれたのだから、それなら水族館の方に行こうと思った。
ユキの誕生日まであと半月を切っていて時間がないのと、今まさに一番楽しい所をやっているというのも大きかった。
「じゃあ、僕も行こうかな」
そう言って立ち上がろうとしたら、ソファの隣に座っていたユキから、服の裾を引っ張り下ろされてソファに戻された。
「ユキ?」
ユキは膝に片ひじをついて、面白くなさそうに前を見ながら、ただ無言でムスッとしていた。あからさまに機嫌が悪い。
この状態のユキを置いて、この場を去るなんて絶対にありえない。ユキの誕生日に向けて準備している事ではあるけど、本人を差し置いてまで優先する事じゃないと思う。
事務所で恋人同士のような事をするのは好ましくない僕を気遣って、ソファに戻すだけに留めてくれたのかもしれない。
そう思ったらなんだかすごく愛しくなってしまって、我慢しなきゃとは思いつつも構わず抱きしめたくなるような衝動に駆られる。
僕だって時と場所を選ばなきゃいけないと思っているだけで、触れ合いたいって気持ちは同じだ。
だから、どうしても触れたくて……正面をまっすぐ見ているユキの頬を撫でた、その顔はまるでふてくされているみたいだった。
「どうしたの?」
「……」
チラッと目線だけ僕に向けて、少しだけ困ったように、悩んでいるように眉をひそめてから、ユキは僕の肩に寄りかかった。
「本当は真里がやりたいことをやらせてやりたい、行って来いって快く送り出したいと思っている」
ユキが絞り出すように話し始めたので、ユキの重みを感じながら静かに頷いた。やっぱり警備面に不安があったり、まだ僕がハルキさんの手伝いをしている事(と称している水族館計画)を快く思っていないのだろうか。
「思っているんだが……寂しい」
「えっ……!」
それは予想外だった言葉で、僕はなんとも間抜けな声を出してしまった。
「自分でも子供みたいなことを言っていると思うが、この感情はどうしようもない」
さっきまで拗ねているように見えていたユキの態度は、一転恥ずかしそうに、照れくさそうにしているように見えた。
なんて可愛い事を言うんだろうか! ユキの素直なデレは、僕に対してとんでもない衝撃を与えてくる。
最近素直に甘えてきてくれるのはすごく、すっごく嬉しいのだけど、心臓がキューッと締まりすぎていくつあっても足りない気がする!
思わず胸に両手を当てて、今の言葉を噛みしめていると、ユキは僕に預けていた体を起こして、どうした? と心配してきた。
「ごめん、嬉しくて」
ユキとは毎日しっかり愛し合っているし、それなのに寂しいなんて感情を抱いているなんて思いもしなかった。
確かに事務所にいない時間も増えたし、ユキより遅く帰る日もあるから、前より一緒に居る時間は減っているかもしれない。
「教えてくれてありがとう、今日は手伝いには行かないことにするよ」
三人が僕を置いて事務所を出た理由は、多分ユキのこの不機嫌顔を察知したからだろうな。
恋人である僕だけが気付かなかったなんて、本当に情けない話だ。
「困らせたいわけじゃないんだが」
「わかってる、僕がそうしたいんだ」
本当に口に出して言ってくれてよかった。ユキを喜ばせたくてやってる事なのに、寂しくさせてしまったら本末転倒だ。
せめていつでも、どこにいても、君の事を想ってるって事を証明できたらいいのに……。
そんな事を思っていると、ユキはソファに背中を預けた。
軽くのけぞる胸に、僕に対して伸ばされる手。誘われてる……そう感じて、吸い寄せられるようにユキに覆いかぶさって、上からキスしようとした。
「真里ー! あのねちょっと……聞いてほし……」
グワラッと勢いよく無遠慮に開かれた扉と、あざとく甘えるような声。言わずもがな聖華だ。
反射でユキの上から飛びのいてその場を取り繕おうとしたけど、ユキがギロリと強く睨みつけたせいで、聖華はお邪魔しましたーと叫んで、逃げるようにこの場から走り去ってしまった。
今の絶対、僕がユキを押し倒しているように見えたよね!?
「追いかけなきゃ!」
「ほっとけ」
ユキから抱きしめられて、容易に抜け出せない状況になってしまった。
「でも、聖華が勘違いしてるかも! それはユキだって不本意じゃ?」
聖華の事だからあんな状況を見れば、いらぬ邪推をすると思う。
特に以前聖華の目の前で、ユキが僕の初めてを貰うなんて話をしたから……!
もしかして僕とユキは、もうそういう間柄になってるんじゃないかって、そう勘違いするに違いなかった。
「俺は気にしない、勘違いでも何でもさせておけば」
「僕は嫌だ! 勘違いでもなんでも、僕に甘えている君を想像する事だって許したくない」
僕が真剣にユキの瞳を見て伝えると、ユキは一瞬迷ってから腕の力を緩めてくれた。
「すぐ戻るね」
周りに近づこうとする気配がないか確認してから、ユキの口に軽くキスして聖華を追いかけた。
ユキの機嫌は悪くないみたいで、フフンと笑いながら意外にもすんなりと行かせてくれた。
「聖華!」
聖華は足が遅いので、あっさりと僕に捕まる。
「ごめんごめん、まさかいい所にお邪魔しちゃうなんて思わなくってー!」
ケラケラと可笑しそうに笑う聖華に、僕は誤解があるかもーなんて言おうとして、そう切り出すのもおかしくないか? と思いとどまる。
聖華が勘違いしてるかもしれないなんて、僕の想像に過ぎなくて、いきなりそんな事を言われても聖華も困るだろう。
追いかけてきたはいいけど、取り繕い方なんて全く考えていなかった。
僕が言葉に詰まっていると、聖華はニヤニヤしながら僕の耳元に顔を寄せてくる。
「ユキさん、真里相手だとあんな誘うみたいな……」
その声色はからかうようで、でも探りを入れてくるみたいに、そして少し興奮したような感じで……。
やっぱり……と僕の予想は確信に変わった。
あの時僕の背中に回していたユキの手や、覆いかぶさった時の少し嬉しそうに緩む口元、キス待ちして目を瞑るかわいらしさを思い出してついカッとなった。
「なにを見たのかな? 何か見たなら全て忘れて欲しいし、勘違いもやめて欲しいんだけど」
背中にゾワッとしたものを感じたけど、構わず言葉に出してしまった。そして自分でも気づく、今のは威圧を込めすぎたんじゃないかと。
案の定周囲が一瞬怖いほどに静かになり、その後に騒然とするのが分かった、これはやってしまったかもしれない。
「なっ、ななっ……なによ! ちょっとからかっただけじゃないっ!」
聖華が声を振るわせながら、いつぞやのように腰に手を当ててふんぞり返っている。
聖華まで怖がらせてしまうなんて、調節が甘いにも程がある。もっと練習しないと……なんて思い至って、自分が今やりたいことが多すぎて頭を抱えたくなった。
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