死が二人を分かたない世界

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魔界編:第14章

実行計画

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 魔王様の直轄領でハルキさんと計画を立てた。ハルキさんは役に立てて欲しいと、たくさんの資料を準備してくれていた。
 僕の水族館を作りたいなんて、聞いただけじゃ子供の夢みたいな話なのに、こんなに協力してくれるなんて……ちょっと感動してしまう。

 先日の覇戸部の事件で、ハルキさんに後ろめたい気持ちがあるから? とも思ったけど、現世よりも圧倒的に書籍などの資料が少ない魔界で、これだけの資料を集めるのは短期間では無理だ。
 僕が相談した時から、少しずつ集めてくれていたんだと思う。
 流石に家に持って帰るわけにはいかないので、僕が自由に使っていい部屋なんかも確保してもらった。

 水族館を建てるのは郊外。
 今回ユキと郊外に出てみて、あそこは真っ暗で何もないところだっていうのがよく分かった。
 水族館は基本室内だから関係ないと思ってたけど、窓から見える景色をあの庵のある建物に似せて、海の見える景色に変えるのもいいかもしれない。
 土地の広さだけは無駄に広大なようだから、大きさも高さも気にせず建てられるみたいだ。

 あまり時間がないから、とりあえず大枠の形だけ作って、中央に一番大きな水槽を据えて、それだけでも完成させようという話になった。
 せっかく魔界に作る水族館、ただ現世の物をまねただけじゃ面白くもないし、ここでしか表現できないような仕掛けも取り入れたい。
 そんな話でハルキさんとは盛り上がったけど、できれば一人で作りたいっていう気持ちがあって……言うだけの夢物語になるかもしれない。

 一人で作るにしろ、助力を願うにしろ、はじめてみない事には分からない。
 早速明日から着手できるよう、人員と場所、必要なものを揃えてもらうことになった。

 先にハルキさんのところに来ておいてよかった。今日の部隊の業務終了後に来ていたら、たぶん着手は明後日からになったと思う。
 ひとしきり内容に関する打ち合わせが終わったので、警備体制について説明してほしいと言っていたユキを呼ぶことになった。

「秘密の話は終わったか?」
 なんてからかうように僕たちの居る会議室に入ってくるユキに、思わずドキッとしてしまう。
 別に後ろめたい事はしていないけど、隠し事をしている事がバレているっていうのは心臓に良くない。

 ユキが部屋に入ってきて、その後ろを当然のように覇戸部が付いて入ってくるのに、思わずあからさまに怪訝な顔をしてしまった。
 できればユキの1メートル以内に近寄らないで欲しい。
 そんな僕の表情に気付いたユキが振り返って、冷たい目線で覇戸部を指さした。その指を水平に大きく半円を書くように動かして、僕と向かい側のハルキさんのいる席の方を指さした。
「おすわり」
 まるで犬扱いのようなその物言いに、さすがの覇戸部も屈辱なのでは? と心配したのに……なぜか覇戸部は嬉しそうな顔をして、尻尾でも振るように向かいの席へ移動した。
 聖華といい、覇戸部といい、ユキに邪険に扱われることを喜ぶ層が居るのはなんなんだろうか。

 覇戸部は以前まで事あるごとに僕を睨みつけていたけど、ユキからあの時やめろと言われてからねめつける視線を感じなくなった。
 それどころか視線が合いそうになると、向こうから逸らすようになった。さっきの態度や、目線を逸らす行動がどうにも犬っぽい。
 いくら僕が犬好きだからといっても、全然可愛いとも思わないし、許す気にもなれないけど……少しだけ胸がすくような気がした。

「まずは、三日間こっちのフォローをさせてすまなかったな、お陰で充実した三日間だった」
 隣に座ったユキはハルキさんにお礼を言いつつ、僕の肩を抱き寄せて頬を寄せてくる。文句は言わせないとばかりに目の前でイチャついてるな……。
「それはよかったです、真里様からユキ様の魔力がかなり濃く感じられますから、充実されていたのは言われずとも……」
「ワーッ!! もうそういう、あからさまな話はやめてくださいー!」
 そんなに!? そんなに分かるものなの!? もしかして僕は毎日ユキの魔力をべったりと付けて歩き回ってるの!?
 自分の体臭が分からないように、自分じゃ気付かないようで……周りからどんな風に見られているのか分からない。

「三日間郊外にいたが、俺たちを狙っている何者かの接触はなかった……近くを通ったのはお前の部下だけだな」
「私の部下もかなり隠密行動は得意なはずなのですが、それでもユキ様には敵いませんか」
 え、ハルキさんの部下が近くにいたの!? さすがに建物内にはいなかったよね!? 自分がユキと過ごす事ばかり考えている間に、近くに人がいたなんて想像もしてなかった。

「やはり二人以上で行動している場合、襲ってこない……となると、一人になる時間は作らないようにしたい」
「もっともです、真里様には私の特に信頼している部下三人を付ける予定です」
 そう言って、ハルキさんはユキに三人のプロフィールカードのようなものを提示した。
 ユキはその顔を確認して、少し考えてからうんと頷いた。一応OKはいただけた感じだろうか?

「何かあった場合は迅速に覇戸部さんを派遣しますし」
「待て待て、そんな状況の場合はまず俺だろ!」
「もちろん連絡はすぐに行いますが、恐らく覇戸部さんの方が速いですから」
 僕も内心、え~~っと不満に思わなかったと言えばウソになる。まだこの人の事を信用はしていないし……と思わず覇戸部の顔を見ると、期待に応えたいみたいな顔でユキを見ている。
 確かに、この顔を見れば裏切って僕に危害を加えてくるとは思えない顔だ。
 何か企てていればユキは臭いでわかるだろうから、多分信用しても大丈夫なはず……だ、僕の感情は抜きにしての話だけど。

「真里も、少しでも異常を感じたらすぐに連絡するんだぞ」
「うん、わかってるよ」
 僕は弱い、一般の悪魔たちに比べたら少しは強いかもしれないけど、先日覇戸部とやり合って、自分の力のなさを痛感した。
 過信は無いはずだ、怖いと思ったら迷いなく助けを呼べると思う。

「あとな……真里の事だから、自分から言い出したこと以外も教えて欲しいとか言い出すと思うんだが……」
 これまた心臓がドキッとした、ユキは本当に僕の事をお見通しだ。
「見せる部分は厳選しろよ」
「心得ております」
 その言葉は素直に受け取ると僕の信用がないように聞こえるのだけど、二人からは僕に対するそういった負の感情は感じない。
 以前、表沙汰にはしていないような仕事もあると言っていたので、それ関係だろう……ちょっと気にはなってるんだけどね。

「あまり固定観念を持ってほしくないからな、以前話したキョウの人物像なんかは忘れてくれても構わないんだが……ただ少しでも違和感を感じることがあったら教えて欲しい」
 これはこの場にいる全員に向けて言ったようだった。
 全員が頷いて、僕がハルキさんの元で手伝いをするという体で水族館作成をする計画は、実行されることになった。
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