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魔界編:第14章
許諾
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「水は嫌いだ、全てを壊して全てを奪う」
夢の中のユキは十歳くらいだろうか。池の傍に二人で座って、悲しそうなその横顔を眺めていた。
この記憶が自分の記憶なのか、それとも菖寿丸のものなのかわからない。
ただ見守る事しかできなくて、触れて慰めたいと思った気持ちを押し殺しているのが印象的な夢だった。
「おはよう、真里」
声をかけられて目を覚ますと、先程まで泣いていた顔が、愛おしそうに僕を見下ろしていた。
「おはよう……ユキ」
抱きしめると体を預けてくれるのが愛おしい。ぎゅうっと腕に力を込めて抱き合っていると、ユキがぐりぐりと顔を押し付けてくる。
「うぅ、離れたくない……このまま真里と一緒に居たい」
「僕も、三日間あっという間だったね」
長い髪を梳くように撫でて、ユキの頬やおでこにキスするとくすぐったそうな、嬉しそうな反応をするのが可愛い。
あんな夢を見ていたからか、こうして遠慮なく触れられる事に感動してしまう。
「俺がしようと思ってたのに」
仕返しとばかりにユキから頭を掴まれて、頬や耳にキスの猛攻を受けるのもたまらなく好きだ。
ただ、ユキとこうした触れ合いをしてる時は、このままで済むわけもなくて……。耳から首に移動して、舐められて、握った両手を布団に押さえつけられて口内を貪られたら、どうしようもなくもっと深くまで触れ合いたくなる。
「もう起きなきゃいけないのに」
「真里も離れ難くなったか?」
こんな事しなくても十分離れ難かったのに、それどころかもっとって気持ちにさせられてしまった。
もっと触りたい、触って欲しい、でも我慢しなきゃって瀬戸際でもじもじしていると、ユキが体を擦り付けてくる。そんなことされたら我慢しなきゃって気持ちがボロボロ崩れる。
「今日は少し遅くなるって言ってあるから、もう少し」
そんなダメ押しされたら……!
「本当に? いいのかな?」
「いいさ」
甘言に流されたくなって、ユキの首に腕を回したところで。
ピリリリリと、遠くに置いていた僕の通信用インカムが鳴った……またか。
これはもう、ちゃんと出勤しなさいって事だな……なんて思って、僕が体を起こそうと動いたところで、ユキに肩を押されて布団に戻された。
「放っておけ」
「そういうわけには……」
だって、ユキ宛じゃなくて僕のインカムが鳴ってる。つまり、維持部隊からの連絡じゃない何かだ。
出なきゃって思ってるのに、ユキからは行かせないって感じで抱きつかれてキスされている。そんなユキを抱きしめ返して、キスに応えると、ユキの口角が上がって腕の力が緩んだ。
そのまま抱きしめて、くるりと上下を逆転させるとユキは驚いた顔をした。そんなキョトン顔が愛しくて軽く口にキスしてから、そのまま僕はユキの上から離れて、棚に置いているインカムを取りに立ち上がる。
「ま~さ~とぉ」
駄々をこねるように名前を呼ばれたら、それだけでもう可愛くてニヤけてしまう!
火急の連絡かもしれないのに、場違いにもニヤニヤしながら通信をオンにした。
「はい、真里です」
「真里様、おはようございますハルキです」
通信相手はハルキさんだった。
僕に通信が来る時点で、ハルキさんか、管理課だろうなって予想はしていた。
「例のお手伝い頂く件、今日お話ができればと思うのですが、こちらに来ていただけますか?」
お手伝い……? と一瞬疑問に思ったが、恐らくハルキさんに相談していた例の件の着手についてだ。
ユキが近くにいることを見越して、濁して話してくれたんだろう。
ハルキさんの読みは正解で、ユキは後ろにピッタリとくっついて、両腕で僕を抱きしめている。はぼ間違いなく、聞き耳を立てているだろう。
「わかりました、何時くらいがいいでしょうか……っ!?」
あやうく声が出そうになった。
ユキの手が腹の位置から下に……直接僕の弱いところを前と後ろ同時に触りはじめた。ハルキさんと話してるのに、こんな……!
「出来るだけ早い方が……ですが、中途半端になるなら部隊のお仕事が終わってからで結構ですよ」
「……っ、はい……わかりました」
ハルキさんの話の内容より、触られてるところに意識が持っていかれる……! 特に後ろの指が中に入ろうとしてくるのを、必死で力を入れて阻止しようと試みる。
「特に準備するものはありません、ユキ様の同行も不要ですから」
「っはい……!」
ユキの手をやめさせようと後ろにある手を掴んだのに、抵抗虚しく中にぐっっと入ってくる指の感触。
声が出そうなのを堪えて、返事の声が震えた。こんなの、バレちゃう!
「わからないことがあれば、また連絡してください」
「はい!」
指が……中の指が、僕の一番弱いところを触ろうとして、位置取りしてる……! ダメダメダメ!!
「ごゆっくり」
そう言ってハルキさんから通信を切られて、頭の中からカァーッと熱くなった。今の、絶対バレてる!!!!
通信が切れた途端、どっちの手も動き始めて……!
「あぁっ! やめ……!」
通信を切るためのボタンを連打して、インカムを棚に戻したら、つけていた場所を執拗に舐めてくる。
「バレたな」
「……っ! ユキのバカぁっ! あっ、あ゛っ!」
「そんな可愛い罵り方されると、もっといじめたくなるな」
熱のこもった声で囁かれたら、抵抗していたはずの力が抜けていくようだった。
-----
結局そのまま流されてしまった……!
お互い興奮していたから、いつもより早く終わったのが唯一の救いだ。
余韻でもたもた着替える僕を、ユキが手伝って手早く着せてくれる。
「このままハルキの所に行くのか?」
「うん、そのつもり」
「俺も行くからな」
ユキの反応は想定通りだ。
しかし今回の件、ユキには秘密にしたまま準備したいので、付いてこられると困る。ここで説得するしかないな。
「今回のハルキさんの手伝いについては、僕からお願いしたことだから付いてこなくていいよ」
ユキに被せられた服から頭を出しながら伝えると、驚いた顔をしたユキと目が合った。いや、驚いているというより、ショックを受けてるのかも。
「真里……俺たちは恐らく狙われている、そんな状況でお前を一人には」
「わかってる、ハルキさんの手伝いをする時は一人にならないように話し合ってくる」
僕の肩を掴んだユキの手を引っぺがして、そのまま両手を繋いで強く握った。
まっすぐユキを見れば、ユキは困ったように耳と眉尻を下げた。真面目な話をしているのに、すごく可愛いな! なんて僕は内心ニヤけている。
「僕はユキの横に並んでいたいから、もっと視野を広げていろんな経験がしてみたいんだ」
これは嘘じゃない本当の気持ち。ユキには嘘を言ってもすぐにバレてしまうから、本当にハルキさんの仕事も学ばせてもらいたいと思ってる。
ただ、僕が何か隠そうとしている事はバレてるんだろうけど……。
「はぁ……わかった、そういう顔をしている真里は俺の言う事を聞かないからな」
ユキは諦めたって顔で困ったように僕に微笑んだ。
「やりたいことがあるんだろう? 隠し事をするな~なんて、俺の言えた義理じゃないし」
「そうだね、三日間この場所でユキもなにかやってたもんね」
気まずそうな顔をしたユキに、三日間見て見ぬふりをしていた事を打ち明けた。
「気づいてたか」
「あれだけ頻繁に周囲を探ってたら……さすがにね」
はじめは警戒をしているんだろう程度の認識だったけど、どんなに細かい情報も逃さないってばかりに精密な魔力探索を何度も行っていた。
「もしかして、罠をはってたのかなって」
「すまない……もし相手がキョウだとしたら、魔王様の関与が薄い郊外で狙ってくるだろうと思っていたんだ……でも、真里とここで過ごしたかったのは嘘じゃない」
「うん、わかってる」
本当は僕にバレないようにやりたかったんだっていうのも分かってるから、見て見ぬふりをしていた。
今回はユキが僕の単独行動を許容する要因にもなってくれたし、むしろ感謝したいくらいだ。
「せめて真里に対する警護体制の確認だけはさせてくれ」
「うん、ありがとう」
それは僕の意思を尊重してくれた言葉で、またひとつユキに認めてもらえたような気がして嬉しかった。
夢の中のユキは十歳くらいだろうか。池の傍に二人で座って、悲しそうなその横顔を眺めていた。
この記憶が自分の記憶なのか、それとも菖寿丸のものなのかわからない。
ただ見守る事しかできなくて、触れて慰めたいと思った気持ちを押し殺しているのが印象的な夢だった。
「おはよう、真里」
声をかけられて目を覚ますと、先程まで泣いていた顔が、愛おしそうに僕を見下ろしていた。
「おはよう……ユキ」
抱きしめると体を預けてくれるのが愛おしい。ぎゅうっと腕に力を込めて抱き合っていると、ユキがぐりぐりと顔を押し付けてくる。
「うぅ、離れたくない……このまま真里と一緒に居たい」
「僕も、三日間あっという間だったね」
長い髪を梳くように撫でて、ユキの頬やおでこにキスするとくすぐったそうな、嬉しそうな反応をするのが可愛い。
あんな夢を見ていたからか、こうして遠慮なく触れられる事に感動してしまう。
「俺がしようと思ってたのに」
仕返しとばかりにユキから頭を掴まれて、頬や耳にキスの猛攻を受けるのもたまらなく好きだ。
ただ、ユキとこうした触れ合いをしてる時は、このままで済むわけもなくて……。耳から首に移動して、舐められて、握った両手を布団に押さえつけられて口内を貪られたら、どうしようもなくもっと深くまで触れ合いたくなる。
「もう起きなきゃいけないのに」
「真里も離れ難くなったか?」
こんな事しなくても十分離れ難かったのに、それどころかもっとって気持ちにさせられてしまった。
もっと触りたい、触って欲しい、でも我慢しなきゃって瀬戸際でもじもじしていると、ユキが体を擦り付けてくる。そんなことされたら我慢しなきゃって気持ちがボロボロ崩れる。
「今日は少し遅くなるって言ってあるから、もう少し」
そんなダメ押しされたら……!
「本当に? いいのかな?」
「いいさ」
甘言に流されたくなって、ユキの首に腕を回したところで。
ピリリリリと、遠くに置いていた僕の通信用インカムが鳴った……またか。
これはもう、ちゃんと出勤しなさいって事だな……なんて思って、僕が体を起こそうと動いたところで、ユキに肩を押されて布団に戻された。
「放っておけ」
「そういうわけには……」
だって、ユキ宛じゃなくて僕のインカムが鳴ってる。つまり、維持部隊からの連絡じゃない何かだ。
出なきゃって思ってるのに、ユキからは行かせないって感じで抱きつかれてキスされている。そんなユキを抱きしめ返して、キスに応えると、ユキの口角が上がって腕の力が緩んだ。
そのまま抱きしめて、くるりと上下を逆転させるとユキは驚いた顔をした。そんなキョトン顔が愛しくて軽く口にキスしてから、そのまま僕はユキの上から離れて、棚に置いているインカムを取りに立ち上がる。
「ま~さ~とぉ」
駄々をこねるように名前を呼ばれたら、それだけでもう可愛くてニヤけてしまう!
火急の連絡かもしれないのに、場違いにもニヤニヤしながら通信をオンにした。
「はい、真里です」
「真里様、おはようございますハルキです」
通信相手はハルキさんだった。
僕に通信が来る時点で、ハルキさんか、管理課だろうなって予想はしていた。
「例のお手伝い頂く件、今日お話ができればと思うのですが、こちらに来ていただけますか?」
お手伝い……? と一瞬疑問に思ったが、恐らくハルキさんに相談していた例の件の着手についてだ。
ユキが近くにいることを見越して、濁して話してくれたんだろう。
ハルキさんの読みは正解で、ユキは後ろにピッタリとくっついて、両腕で僕を抱きしめている。はぼ間違いなく、聞き耳を立てているだろう。
「わかりました、何時くらいがいいでしょうか……っ!?」
あやうく声が出そうになった。
ユキの手が腹の位置から下に……直接僕の弱いところを前と後ろ同時に触りはじめた。ハルキさんと話してるのに、こんな……!
「出来るだけ早い方が……ですが、中途半端になるなら部隊のお仕事が終わってからで結構ですよ」
「……っ、はい……わかりました」
ハルキさんの話の内容より、触られてるところに意識が持っていかれる……! 特に後ろの指が中に入ろうとしてくるのを、必死で力を入れて阻止しようと試みる。
「特に準備するものはありません、ユキ様の同行も不要ですから」
「っはい……!」
ユキの手をやめさせようと後ろにある手を掴んだのに、抵抗虚しく中にぐっっと入ってくる指の感触。
声が出そうなのを堪えて、返事の声が震えた。こんなの、バレちゃう!
「わからないことがあれば、また連絡してください」
「はい!」
指が……中の指が、僕の一番弱いところを触ろうとして、位置取りしてる……! ダメダメダメ!!
「ごゆっくり」
そう言ってハルキさんから通信を切られて、頭の中からカァーッと熱くなった。今の、絶対バレてる!!!!
通信が切れた途端、どっちの手も動き始めて……!
「あぁっ! やめ……!」
通信を切るためのボタンを連打して、インカムを棚に戻したら、つけていた場所を執拗に舐めてくる。
「バレたな」
「……っ! ユキのバカぁっ! あっ、あ゛っ!」
「そんな可愛い罵り方されると、もっといじめたくなるな」
熱のこもった声で囁かれたら、抵抗していたはずの力が抜けていくようだった。
-----
結局そのまま流されてしまった……!
お互い興奮していたから、いつもより早く終わったのが唯一の救いだ。
余韻でもたもた着替える僕を、ユキが手伝って手早く着せてくれる。
「このままハルキの所に行くのか?」
「うん、そのつもり」
「俺も行くからな」
ユキの反応は想定通りだ。
しかし今回の件、ユキには秘密にしたまま準備したいので、付いてこられると困る。ここで説得するしかないな。
「今回のハルキさんの手伝いについては、僕からお願いしたことだから付いてこなくていいよ」
ユキに被せられた服から頭を出しながら伝えると、驚いた顔をしたユキと目が合った。いや、驚いているというより、ショックを受けてるのかも。
「真里……俺たちは恐らく狙われている、そんな状況でお前を一人には」
「わかってる、ハルキさんの手伝いをする時は一人にならないように話し合ってくる」
僕の肩を掴んだユキの手を引っぺがして、そのまま両手を繋いで強く握った。
まっすぐユキを見れば、ユキは困ったように耳と眉尻を下げた。真面目な話をしているのに、すごく可愛いな! なんて僕は内心ニヤけている。
「僕はユキの横に並んでいたいから、もっと視野を広げていろんな経験がしてみたいんだ」
これは嘘じゃない本当の気持ち。ユキには嘘を言ってもすぐにバレてしまうから、本当にハルキさんの仕事も学ばせてもらいたいと思ってる。
ただ、僕が何か隠そうとしている事はバレてるんだろうけど……。
「はぁ……わかった、そういう顔をしている真里は俺の言う事を聞かないからな」
ユキは諦めたって顔で困ったように僕に微笑んだ。
「やりたいことがあるんだろう? 隠し事をするな~なんて、俺の言えた義理じゃないし」
「そうだね、三日間この場所でユキもなにかやってたもんね」
気まずそうな顔をしたユキに、三日間見て見ぬふりをしていた事を打ち明けた。
「気づいてたか」
「あれだけ頻繁に周囲を探ってたら……さすがにね」
はじめは警戒をしているんだろう程度の認識だったけど、どんなに細かい情報も逃さないってばかりに精密な魔力探索を何度も行っていた。
「もしかして、罠をはってたのかなって」
「すまない……もし相手がキョウだとしたら、魔王様の関与が薄い郊外で狙ってくるだろうと思っていたんだ……でも、真里とここで過ごしたかったのは嘘じゃない」
「うん、わかってる」
本当は僕にバレないようにやりたかったんだっていうのも分かってるから、見て見ぬふりをしていた。
今回はユキが僕の単独行動を許容する要因にもなってくれたし、むしろ感謝したいくらいだ。
「せめて真里に対する警護体制の確認だけはさせてくれ」
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