死が二人を分かたない世界

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魔界編:第12章

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 あの後はユキに照れ隠しでいじわるされて、僕はユキに抱かれるのが好きなんだって、思い知らされてしまった……。

 今は僕からギブアップして、ようやく解放されたところだ。
 体は繋がっていないけど、ユキと向かい合って抱き合ったまま、ユキの重さを感じるのは心地いい。

 疲れ果てて体は動ける気がしないんだけど、ユキはずっと首元の匂いを嗅いだり、スリスリと顔を擦り付けたりして、なにやら可愛い事をしている。

 くすぐったいのと、可愛いのと、もう愛してくてたまらなくて、思わずクスクスと笑ってしまった。
「なにしてるの? 可愛いんだけど」
 ベッドに投げ出していた腕をユキの背中に回して、ポンポンとあやすようにすると、ユキも嬉しそうに笑い出した。

「真里の匂いつけてる」
 なにそれ、ますます可愛いんですけど!?
「僕もする!」
 ユキにしがみついて、僕からも顔をスリスリすると、ユキが心底嬉しそうにニヤけてくる。

「最近、本当に強くなったな……」
 ユキがなんだか感慨深そうに言うから、今日のアイツとの殴り合いを見られてたのか……と思った。

「ユキを守らなくちゃって必死だったから」
「いや、最近エッチの後気絶したみたいに寝なくなったなーって、感心してたんだが」
「えっ……!」
 性的に強くなったって意味!? 勘違いしたのも、ユキにそんな褒められ方したのも恥ずかしい!

「俺は真里と一緒に過ごせる時間が増えて、嬉しい」
 心底嬉しそうな声で言われたら、恥ずかしいはずなのに、良いことのような気がしてくるから不思議だ。
「うっ……僕も嬉しい」
 抱きしめてくるユキの腕の中にいると、まるで今日起こったことがウソみたいだ。

「真里は覇戸部とやり合ったんだからな、間違いなく強くなってるよ……ただ、気を失ってからの記憶が曖昧なんだ……すまない」
「いいよ、ユキが今こうして僕の隣に居てくれるんだから……よかった、本当に無事で」
 体に触れられた事を無事として良いのか分からないけど、少なくとも最悪の事態には至らなかった。

 アイツが気を失ってるユキを輪廻門に落とす可能性だってあった。そんな事になってたら、僕はもうユキとは二度と……どうしよう、急に怖くなってきた。

「俺、そんなにヤバい状況だった?」
 僕の匂いをつけるのをやめたユキが、体を起こしてベッドに座った。
 少し青ざめたように聞いてきたところを見ると、僕の感情を感じとったんだろう。

 不安になった心を安定させたくて、ユキの太ももに触れると手を握ってくれる。
 温かい……かなり減っていたユキの魔力が満ちているのを感じて、心が落ち着いてきた。

「僕があの建物に飛び込んだ時は、ユキは抱えられてて……アイツは転移陣の準備をしているとこだった」
「なっ!?」
「ユキが連れて行かれちゃうかと思って、本当に必死だったんだ」

 頭に血が昇ってて、必死過ぎて、僕も正直ちゃんと覚えていない。
「真里は俺のこと守りたいって言ったけど、守られてるな……真里に」
 ギュッと手を握られてユキを見上げれば、すごく穏やかで優しい表情だった。

 あんな事があった後だから、ユキが優しい表情をすると涙が出そうになった。
 もう大丈夫って事だよね? そう思いたいけど、無理してないかって事も心配で……。

「何度だって守るよ、僕の全てをかけて」
 ユキの手を頬に当てて、心から誓った。
「……っ、今カッコいいこと言われると困るな」
「抱かれたくなる?」
「真里は最近、初々しさも減ったな」
 ユキが少し頬を赤らめてムッとしていて、初々しいのはどっちだろうかと思った。

 他人には、特にユキを襲ったアイツには……絶対こんな顔見せないんだろうと思ったら、優越感と嬉しさでつい口元がにやけてしまう。
 ユキの手を引き寄せようとしたら、ユキの方から僕に覆いかぶさってきて、キスされて無理矢理口を唇で開けられた。

 それはもう一瞬の出来事で、あっという間に上顎や歯列を舐められて、舌を絡ませてきて翻弄される……!
「ンッ……んぅ!! ンンッ! ……っは!」
 やっと解放されたと思ったら、ユキは意地悪くニヤッと笑っていた。
「やっぱり、まだ可愛い真里だな」
 唇を離すと銀の糸を引いて、それをユキが指で拭った。

 なんだか負けたみたいで、少し……。

「悔しい」
「ハハッ、次は俺を翻弄してくれ」
 ユキはすっかりご機嫌になって、ベッドから降りて着替え始めた。
 僕も着替えようかと思って体を起こそうとすると、ユキから寝ていていいと言われてしまった。

 ユキはタフだ……あんなにした後なのに、魔力もかなり減らして今日は大変だったはずなのに、もうケロッとしている。

「せっかくだから真里が格好よく俺を守ってる姿、ちゃんと見たかったな」
「うぅん、カッコよかったかはちょっと自信がないな」
 ボッコボコにやられた記憶ならある……。

 ユキが着替えを着々と進めながら、一緒に落ちている僕の服を手に取った。
 その服を畳もうとしていて、ユキのこういうところは細かいと言うか……几帳面だなって思う。

「血ッ!!!!」
「えっ!?」
 急にそんな事を叫ぶからびっくりして、思わず飛び起きてしまった。
「真里……血が……!」
 ユキが僕の服を握りしめて、ワナワナと震えていた。

 びっくりした、ユキがどこかケガでもしてたのかと思った。
「ただの鼻血だよ」
「鼻血って、殴られたのか!?」
 ユキが僕に迫ってきて、頬や頭を撫でたり確かめたりしてくる。
「えっ……あっ、うん……だからあまりカッコよくなかったなぁって」
 鼻血より、全身の骨が折れた方が痛かったけど。

 壁や床に叩きつけられた時の状況を思い出したタイミングで、一瞬ユキの魔力が頭を過った気がした。何した? と思ってユキを見てみれば、顔面蒼白だった。
「叩きつけ……られ……」
「待って! もしかして、頭の中読んだ!?」
「アイツ、絶対に許さない」
 ユキのプレッシャーがズドンと重くなって、それは周囲にいる一般悪魔達を、行動不能にするんじゃないかって程の怒りで、僕は慌ててユキの頬を両手で掴んだ。

「大丈夫! 見て、もう何ともない!」
「……真里は俺が傷付くのを嫌だと言うが、俺だって真里が傷付けられたら嫌だ、それが俺のせいだったなら尚更」
「そんな事言わないでよ、僕はユキを助けられた事誇らしいと思ってるのに……それに、僕一人じゃあっという間にやられてたんだ、菖寿丸が……」
 菖寿丸の名前を口にすると、ユキがハッとする様に僕を見た。

「菖寿……そうだ、アイツの気配を感じた……! 確かに菖寿だった」
 ユキには菖寿丸の意識がまだ残っているって事、ハッキリとは伝えてなかったけど……これはもう、言わざるを得ないだろう。

「変な液体をかけられて動けなくなった時、菖寿丸の声が聞こえたんだ……そしたら動けるようになって、僕の疑問にも答えてくれて」
「答えて……そんなにも、ハッキリと……?」
「うん、ハッキリと僕は彼と会話した」
 ユキが不安そうな顔になる。きっと、僕が菖寿丸に乗っ取られないか心配しているんだ……不安にさせたいわけじゃないんだけど。

「僕が知らない魔力の使い方や、構造式が流れ込んできて、体が自然に動いて……すごく強くなった気分だったよ! 弓なんてやった事もなかったのに! もしかして、菖寿丸って弓が得意だった?」
「あ、あぁ……そんな事も言っていた気がするが、そんな危ない事」
「体が勝手に動いたりしたけど、意識はちゃんと僕だったし! 話してみても乗っ取られるなんて感じはなかったよ」
 安心してほしくて言っているのに、僕が話すほどユキは不安そうな顔になっていく。

「ユキを助けたいって気持ちは、僕も菖寿丸も同じだったんだ……無意識だったかもしれないけど、ユキが菖寿丸の名前を呼んだ時すごく嬉しそうにしていたのも、伝わってきたから」
 ユキを守りたいって、同じ気持ちで協力したせいか、僕は菖寿丸を好意的に見てしまっているところはあるかもしれない。
 それを踏まえても彼の気持ちを考えたら、怖がらないであげてほしいと思ってしまった。

「そうか、菖寿が……二人で俺を守ってくれたんだな」
 優しく頭を撫でられて、ユキの不安な様子が和らいでホッとした。

 そのままユキはその手をこめかみの辺りに当てて、ヨシッと気合を入れて窓の外を見た。
「ユキ……?」
「真里の魔力もたっぷり付けたしな、魔王様のところに行ってくる」
「えっ!!」
「真里は寝てていいぞ」
 いつもの調子で報告に行くみたいに軽く言うユキに、急いでベッドから出てその手を掴んだ。

「待ってよ、僕も行くから!!」
 アイツは、覇戸部はたぶん魔王様のところにいる。魔王様の魔力で移動したのを、僕はあの場でハッキリと感じたんだから。
 大変な状況だったけど、ユキがそれをわかっていないわけなんてなくて……つまり、魔王様のところに行くと言うことは、アイツと話をするって事だ!

 そんなの、一人で行かせられるわけないよ!
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