死が二人を分かたない世界

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魔界編:第11章

スイッチ

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 どんな傷でも魔力さえあれば修復してしまうのが、僕たち悪魔の体だ……。
 腕を失おうと、体が真っ二つに分かれようと、頭が上半分飛んだとしても、魔力さえ十分であれば回復できるらしい。

 そんな悪魔の体でも消せない傷跡は、僕たちが人として生きてきた証。死ぬ時に負った傷や、心を深く傷つける傷跡は、絶対に消せないものとして残る。

 悪魔の傷跡は弱点になる。
 弱点であるが故に敏感で、少し触れただけでも快感を伴ってしまう。

 だからユキの首元の大きな傷跡に、アイツが触れたことが許せなかった。
 ここは僕だけが触れていいって、許された場所なのに。

 傷跡を優しく撫でてそこに舌を這わせると、ユキの体がビクッと反応する。
「っ……! は……!」
 はぁ……と色っぽい吐息が漏れて、ユキの体が赤く、熱くなっていく。
 アイツに飲まされた媚薬が、まだ抜けていないみたいだ。ぎこちない僕の愛撫でさえこうして感じていて、震えながら下から抱きつかれると、いつもとは違う欲求が込み上げてくるような気がした。

「真里にされると気持ちいい……俺も」
 左手のグローブを外されて、左手の甲にある傷跡にキスされるとゾク……とした。
 熱い吐息がかかって、そこを愛しそうに舐められたら、声が出そうなほどピリピリと甘い快感が体を走る。

 そうやってお互いの傷を舐め合えば、気持ち良くてどうしたって気分が盛り上がってくる。部屋の中にお互いの吐息だけが響いて、また繋がりたいって気持ちが高まってきて……。

「真里……」
 ユキが僕の腕を掴んで体を起こそうとした。その動作から、また僕を組み敷きたいのだと分かったけど、それを遮るようにユキの背中をベッドに押し戻した。

「まだ消えてないところがある、全部きれいにするから」
 そのままユキの胸に顔を下ろして、さっき触れただけじゃ消せなかったアイツの魔力の痕跡を、きれいにしていくように舐めた。

 胸元まで触れられてはいたけど、感じてピンッと立った胸の突起に痕跡はない。
 安心するのと同時に、そこに触れたいって衝動に駆られるけれど、名目上はユキの体をきれいにするって言ってしまった手前、今そこに触れるのはダメな気がした。

 お腹は僕ので濡れていて、ユキの体を汚していることにも、ちょっとクるものがある。
 その下は……やっぱり僕の魔力痕でほとんど覆われていたけど、ユキの勃ち上がったその根本には、アイツの触れた痕跡がまだ残っていた。

 頭に血が昇るような強い感情を必死で抑え込んで、ユキの足の付け根に顔を埋めてそこを舐めた。
 この体に触れていいのは、僕だけなのに……!

「――ッ! 真里……したい」
「もう少し」
 我慢できない様子でユキが自分のものに手を伸ばすから、遮って僕の手で包んだ。

 残ってしまった付け根の痕跡を表側から舐めて、裏も……。こうしていると匂いと雰囲気に当てられて、ユキともういっかいって気分が高まってくる。

 ユキがしたいなら、このまま身を任せても……なんて思っていると、見つけてしまった。

 ユキの体の奥へと続く、アイツが触れた痕跡を……!

「――っ、触られたの……?」
「ッ!!! 見るな!」
 ユキが急いで手で隠したけれど、その行動は肯定を意味していた。
 顔を上げて表情を確認すれば、泣きそうな顔をして僕から目を逸らす。
 胸がギュッと締め付けられて、息ができない……。怒りや悔しさと、ユキへの感情がぐちゃぐちゃになって、涙が溢れそうだった。

「……どこまで?」
「言いたくない」
「中は……触られたの……? まさか最後まで」
「されてない!」
 僕の声は怒りで震えていて、ユキの声は怯えるように震えていた。

 アイツ……絶対に許さない!

「お願い、確認させて」
「嫌だ……!」
「アイツに触られたところ全部、僕で上書きしたいんだ……」
 頭にきて震える感情を必死で抑え込んで、ユキの胸に懇願するように頭をつけた。

「君が気を失ってる間に、見えないところも触られてるかもしれない……ユキの体にアイツの痕跡を残していたくない」
「……また、吐く……から、真里に心配させてしまう」
 か細く聞こえたユキの返事は、確認することへの拒否ではなかった。

「ここで……吐いたの?」
「気持ち悪かった、そこは……あの時の事を思い出して……」
 ユキの雰囲気がズンッと暗くなって、顔が真っ青になって、声が体が震えていた。
 そんなユキの様子を見てしまったら、怒りよりもユキの心が心配で、安心させたくて思わず抱きしめていた。

 こっちは初めてじゃないって言ってたけど、こんな様子は普通じゃない。千年以上経っても忘れられないような心の傷が、ユキの中にまだ残っているんだ。

 情けなくて悔しい、もう誰にもユキを傷つけさせたくないのに……!

「ごめん、ユキ……昔も今も……ずっと、ずっと君を守りたいって思ってるのに……!」
 ずっとそう思い続けてきたのに、僕はユキに何もしてあげられてない。

 ユキの首元に顔を埋めて、不甲斐なくて、情けなくて、悔しくて溢れてくる涙を隠した。
「……真里、泣いているのか?」
 ユキの声は少し困惑していて、僕の顔を確認しようと体を持ち上げられそうになった。

 それを遮るよういっそう強く抱きしめると、ユキは僕の背中に手を回して、優しく抱き止めてくれた。
「どうしたら、君の心を癒せるんだろう」
「こうして、真里の匂いに包まれてるだけで落ち着く、もっと俺の事好きだって想ってくれ」

 今度はユキから僕の首元に擦り寄ってきて、匂いを嗅ごうとしてくるから……胸のわだかまりを考えないようにして、ユキの事だけを想った。
「ユキ……好き、大好き……!」
「うん、俺も真里が好きだ」
 お互いギュッと抱き合っていると、ユキが何か言いたそうにして一瞬躊躇してから、僕の耳元に唇を寄せた。

「アイツにヤられるくらいなら、早く真里に抱かれればよかったと……思った」
「――ッッ!!!!」
「ふふっ、いい匂いがするな」
 思わず体を起こしてユキの顔を見れば、いつもの余裕そうな雰囲気じゃなくて、少し照れているような……でも悪戯っぽい表情で僕を見上げてきて……。

 そんな表情反則だ!

 心臓を鷲掴みにされてるみたいに、キューッと縮んでいるのが分かる。これはさっきのとは違って、好きで好きでたまらないって感情からだ。
 こんな表情、僕にしか見せてくれないっていうのも分かるから、余計に可愛いくて……!

「真里、いい匂いだ……もっと嗅がせてくれ」
 起こしていた体を引き寄せられて、そのままユキの唇を塞いだ。
 奥まで繋がりたくて、ユキの唇を自分の口で開いてから、深く舌を絡ませた。
 ユキ、可愛い……好き、大好き……!

「ユキに触りたい」
「真里に触られて、俺が嫌がると思うか?」
 煽られて、また吸い寄せられるようにユキに口付けて、中指で首筋を撫でて、親指で首元の傷跡に触れた。
「――ッ! でも、真里の初めては……まだ」
「わかってる、ユキが嫌なことは絶対にしない」
 今度は首筋に顔を埋めて、ユキの傷跡を舐めながら、白い肌に指を這わせた。
 僕ので濡れたお腹を撫でて、硬くしているそこに触れれば、もっとして欲しそうに擦り付けてきて……。

 正直、頭の中が真っ白になりそうなほど、今の僕は欲情している。でも、抑えなきゃ……ユキが嫌がる事はしたくない!

 ユキの男の部分を握って愛撫すれば、いつもより強くビクッと体が跳ねた。
「ぁっ……ダメだ、気持ち良すぎる」
「解毒する?」
 もっと乱れるユキが見たいけど、アイツに飲まされた媚薬の効果だと思うと気持ちは複雑で、解毒を提案した。
 でもユキは首を横に振って、それを否定する。

「今は、興奮剤がないと動けなくなる」
「あっ……もしかして、体が動かなくなる効果が!?」
 全く意識してなかったけど、僕もあの謎の液体の効果はまだ続いているみたいだった。
 菖寿丸が魔力を調整してくれてるから気にならなかっただけで、ユキは自分でそれを行わなきゃいけないんだ!

「ごめん、気づかなくて……! 解毒して寝てよう!?」
 体を起こそうとしたらユキに上の服を掴まれて、スポンと簡単に脱がされてしまった。
「ユキ……!?」
「……俺のこと、綺麗にしてくれるんだろう」
 そうやって自分の上の服を脱ぐユキを見て、その白い肌にさっき僕がつけた赤がくっきりと残っていて、胸がドクンと高鳴った。

 そんな誘い方されたら、我慢できなくなる……!
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