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魔界編:第11章
甘酸っぱい
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覇戸部を連れて目的地の最寄りに転移したユキは、甘味屋の多く集まる通りへと歩き出した。
歩きながらも自分の斜め後ろから、熱い視線と強烈な好意のにおいがしてきて、ユキは辟易した。
しかし後ろを振り返れば、ただ真顔でジッと自分を見てくる覇戸部が居るだけだ。
いくらユキが相手のにおいで感情を察することができたとしても、何も喋らない相手の思考まではわからない。わからないから、気持ち悪い。
もう五百年もそんな感じだったが、ユキが気にしなければただの無害な男だった。
それが最近では実害が出てきてしまった。
しかも被害に遭っているのは、ユキが何よりも守りたいと思っている真里だ。
ユキは自分のせいで、真里の人生をめちゃくちゃにしてしまったという負い目がある。
これ以上嫌な思いをさせたくない、幸せにしたい、守りたい……。だから今まで放っておいた覇戸部との因縁は、ここで自分が処理するしかないと重い腰を上げたのだ。
「気付かれないんだな……」
「あ!? あぁ、そうだな」
思考を遮られるように突然覇戸部に話しかけられて、ユキは一瞬返事が遅れた。
「俺は耳を隠すだけでバレなくなるからな……お前もバレないもんだな、こんな大男そう居ないだろうに」
厚底ブーツを履いて、身長180センチを超えるユキだが……それでも軽く見上げる背丈の覇戸部は、190センチを超えている。
「普段のお前から、その格好は想像できないからな」
普段、ワイシャツ、ベスト、緩いネクタイで魔王様の横に険しい顔で並ぶ覇戸部を思い出して、今の服装とのギャップに思わず笑いが込み上げる。
そして自分も人の事が言えないくらい、いつもの装いとは反対の服装をしている事を思い出した。
ガラの悪そうな格好をした、長身の男が二人、甘味屋の通りを練り歩く……バレなかったとしても、目立ってしまうんじゃないかという不安がよぎった。
「あっ……」
ユキの不安なんてお構いなしに、覇戸部が立ち止まり、フラフラと近くの店へと吸い寄せられて行った。
「はっ……!? おい勝手に……!」
覇戸部が吸い込まれていったのは花屋だった。昼間も太陽光もなく、死者の世界にある花は、もちろん精巧に作られた偽物の花だ。
白い一輪の花を手にして、嬉しそうな空気をまといながら、覇戸部はユキの元へと戻ってきた。
「これ……」
目の前に差し出された花に、ユキは絶句した。
「は……?」
「ユキみたい……キレイだったから」
「……はっ?」
突然の覇戸部の行動に、ユキはただただ顔をひきつらせて覇戸部を見上げた。
目が合った途端、恥ずかしそうに視線を逸らすが、ユキは呆れを通り越して怒りさえ感じていた。
「俺みたい……だと?」
普段から全身真っ黒の装いで、今日だってインナーが珍しく白いこと以外ほぼ黒だ。
サングラスまでして、いつもよりガラが悪いような自分に……こんな白くて愛らしい花を渡してくるなんて、頭が沸いているとしか思えない。
「受け取って……ほし」
「バカか? 俺が花なんて欲しがるように見えるか?」
サングラスを少し下にさげて、その隙間から睨みつければ、覇戸部は一瞬たじろいだ。
覇戸部は今日のこの場を甘い雰囲気にでもしたいのだろうか? そんなことまでしてやる義理も、付き合ってやる気も毛頭ないと、ユキは顔に出た嫌悪感を隠さなかった。
「俺は女じゃない、お前の疑似恋愛に付き合う気もない、お前にとって俺がその花の様に見えるのは、お前が俺に勘違いした理想を抱いているからだ」
差し出してきた覇戸部の手を押し戻して、ユキはそのまま歩き出した。
本当は叩き落してやりたいほど腹が立っていた。
誰かに理想を押し付けられるのは、反吐が出るほど嫌いだった。
しかし、その花も誰かが想いを込めて作ったもので……この世界はそういった人の想いで作られている世界だから、ユキは無下に扱うことができなかった。
お互い何を話すわけでもなく無言で歩き続ければ、甘味屋の立ち並ぶ通りにきていた。
この通りは和洋の区別はなく、団子屋の隣には平気でクレープ屋が並んでいたりする。
ぷぅんとどこからともなく、甘い卵の香りが漂ってきて、ユキはますます眉をしかめた。
長身の男二人が、険悪な雰囲気で歩いている……。
いつもは元気に客を呼び込んでいる、店番や店主も思わず声をかけ辛く、二人が通ったところはシンと静かになった。
目立っている、間違いなく注目されている。
せめて険悪な雰囲気だけでも是正しなければ、悪目立ちしてそのうち正体がバレかねない。
しかし先ほどキツく言った手前、ユキはなんと声をかけるべきか答えが見つからなかった。
「おーい、兄さん達! ちょっと試食してくれませんか!」
「……なんだ?」
「感想くれたらタダでいいですよ!」
いたたまれない気持ちになっているところに、こっちこっちと店の中から手招きされた。
ユキがチラリと覇戸部を見ると、特に否定はなさそうだったので店の中へと入った。
店の中は甘味屋なのに甘いのと酸っぱい匂いがしていて、ユキは耐えかねて嗅覚を遮断した。
「ウチはピクルスでスイーツ作ってるんですよ、ひとつ食べてもらえませんかね」
「ピクルス……? ってキュウリの酢漬けだろ!?」
「そんな浅漬けみたいな言い方しないでくださいよ!」
ユキが疑いの目で見ると、店主は奥の冷蔵ショーケースから手のひらサイズのタルトを持ってくる。
元々食べること自体好きではないし、聞く限り美味しそうだとは思えず、ユキは断りを入れようとした。
が、覇戸部はなんだか食べてみたそうな顔をして、店主をジッと見ているのだ。
「欲しいなら自分で受け取ればいいだろ」
多少呆れながらも、ふぅと息を吐いてイライラした気持ちを吐き出したユキは、店主の手から一つ受け取って覇戸部へと渡した。
覇戸部という男は、基本命令待ちなのだ。
命令遂行のために臨機応変に立ち回りはするが、自分から欲しがったり、願望をぶつけることは滅多にない。
だからこそ、さっきの花は覇戸部にとっては勇気を振り絞ったものだったし、ユキもそれは分かっていた。
ユキは店主から自分用に差し出されたものを断って、店の椅子に腰かけた。
「今日は偵察か何かですか?」
そう小声で店主に声をかけられて、ユキは背もたれに預けた背中を起こした。
「気づいていたのか、そんなに分かりやすいか!?」
「いえ、私は昔お二人に助けられて……近くで魔力を感じましたのでそれで」
近くにいるだけで魔力の質が分かるのは、それなりに年と経験を積んだ証拠でもある。
にこやかに笑った店主は、名前をあえて出してこない辺り、周囲に気を使ってくれているようだった。
「特にお連れ様には百年前……暴徒に押しつぶされていたところを引っ張り上げて頂いて、それ以来すっかりファンになってしまって」
ユキが覇戸部を見れば、少し驚いた顔のまま、覚えていないとでも言うように首を横に振った。
「そうでしょうとも、あの時は大勢の人を助けていましたから」
「あぁ、あの暴動は酷いものだったからな……」
二人が話している間に、覇戸部はヨーグルトタルトの上に、細かく刻んだフルーツが乗ったものをパクリと食べた。
手のひらサイズのタルトは、大きな口に一口で入り切った。
覇戸部の容貌と、かわいらしいタルトのミスマッチさに違和感を覚えながらも、感想を聞きたそうにワクワクしている店主にユキ毒気を抜かれていた。
「ん……うまい」
そうボソリと呟いただけだったが、覇戸部の目つきの悪い三白眼は嬉しそうにキラッと光った。
「本当ですか! 嬉しい! この店はあなたの為に開いたんです!」
カウンターから飛び出しそうな勢いで喜んだ店主は、ユキの想像の斜め上の発言をした。
「数年前にピクルスにハマったと雑誌に書いてあったので、いつか食べに来てくださらないかとこの店を作ったんです!」
「マジかよ、お前ピクルス好きなのか? 待て、これのどこにピクルスが!?」
「上のこれはフルーツピクルスなんです」
張本人を差し置いてユキと店主で盛り上がれば、噛みしめるようにタルトを味わう覇戸部は、じわっと魔力を回復させていた。
それに気づいたユキは、お店のタルトを全て買い占め、直轄領へ送るように店主に依頼した。
いきなり本命を当てたお陰で、今日のノルマを達成してしまった。
あとは時間をつぶすだけになり、ユキは幾分気が楽になって、機嫌もそこそこに戻ってきていた。
-----
ユキ達と同じタイミングで、この甘味屋通りをウロウロしている人物がいた。
伊澄に美味しいお茶を手に入れたから、ウチで飲まないかと誘われて、ウキウキしながら団子を買いにきた聖華だった。
絶賛就業時間中なので、完全にサボりだ。
本命の男との逢瀬を楽しみにしながら、聖華は視線の先に見つけた好みの男に目星をつけていた。
(あっ、あの人ユキさんに似てるかも……! 連れが居るけど声掛けてもいいよね!?)
そんな事を考えて、ハンターのようにサササッと近づいて気付いた。
(あれ、本物では……?)
少し近づけばよく知る魔力の性質に、聖華は目の前の人物が本物のユキである事を確信した。
(あんな格好してるユキさんも好き♡ 一緒にいるのは……覇戸部さんじゃない!?)
聖華は少し離れた位置から、コソコソ隠れるように二人を観察していた。
聖華は覇戸部に嫌われているので、声をかけるのは諦める事にした。何より二人して変装しているようなので、声をかけてはいけない事くらいは言われなくても分かっている。
二人が通りから細い路地へと入っていくのが見えて、その先は治安の悪い地域である事を知っていたので、やっぱり何かの任務遂行中なのだと確信した。
確信したけれども……聖華はユキの後ろについて行く覇戸部の顔付きに、あまり良くない感情を感じ取っていた。
(あれは、盛っているのを必死で隠す男の顔だ……)
歩きながらも自分の斜め後ろから、熱い視線と強烈な好意のにおいがしてきて、ユキは辟易した。
しかし後ろを振り返れば、ただ真顔でジッと自分を見てくる覇戸部が居るだけだ。
いくらユキが相手のにおいで感情を察することができたとしても、何も喋らない相手の思考まではわからない。わからないから、気持ち悪い。
もう五百年もそんな感じだったが、ユキが気にしなければただの無害な男だった。
それが最近では実害が出てきてしまった。
しかも被害に遭っているのは、ユキが何よりも守りたいと思っている真里だ。
ユキは自分のせいで、真里の人生をめちゃくちゃにしてしまったという負い目がある。
これ以上嫌な思いをさせたくない、幸せにしたい、守りたい……。だから今まで放っておいた覇戸部との因縁は、ここで自分が処理するしかないと重い腰を上げたのだ。
「気付かれないんだな……」
「あ!? あぁ、そうだな」
思考を遮られるように突然覇戸部に話しかけられて、ユキは一瞬返事が遅れた。
「俺は耳を隠すだけでバレなくなるからな……お前もバレないもんだな、こんな大男そう居ないだろうに」
厚底ブーツを履いて、身長180センチを超えるユキだが……それでも軽く見上げる背丈の覇戸部は、190センチを超えている。
「普段のお前から、その格好は想像できないからな」
普段、ワイシャツ、ベスト、緩いネクタイで魔王様の横に険しい顔で並ぶ覇戸部を思い出して、今の服装とのギャップに思わず笑いが込み上げる。
そして自分も人の事が言えないくらい、いつもの装いとは反対の服装をしている事を思い出した。
ガラの悪そうな格好をした、長身の男が二人、甘味屋の通りを練り歩く……バレなかったとしても、目立ってしまうんじゃないかという不安がよぎった。
「あっ……」
ユキの不安なんてお構いなしに、覇戸部が立ち止まり、フラフラと近くの店へと吸い寄せられて行った。
「はっ……!? おい勝手に……!」
覇戸部が吸い込まれていったのは花屋だった。昼間も太陽光もなく、死者の世界にある花は、もちろん精巧に作られた偽物の花だ。
白い一輪の花を手にして、嬉しそうな空気をまといながら、覇戸部はユキの元へと戻ってきた。
「これ……」
目の前に差し出された花に、ユキは絶句した。
「は……?」
「ユキみたい……キレイだったから」
「……はっ?」
突然の覇戸部の行動に、ユキはただただ顔をひきつらせて覇戸部を見上げた。
目が合った途端、恥ずかしそうに視線を逸らすが、ユキは呆れを通り越して怒りさえ感じていた。
「俺みたい……だと?」
普段から全身真っ黒の装いで、今日だってインナーが珍しく白いこと以外ほぼ黒だ。
サングラスまでして、いつもよりガラが悪いような自分に……こんな白くて愛らしい花を渡してくるなんて、頭が沸いているとしか思えない。
「受け取って……ほし」
「バカか? 俺が花なんて欲しがるように見えるか?」
サングラスを少し下にさげて、その隙間から睨みつければ、覇戸部は一瞬たじろいだ。
覇戸部は今日のこの場を甘い雰囲気にでもしたいのだろうか? そんなことまでしてやる義理も、付き合ってやる気も毛頭ないと、ユキは顔に出た嫌悪感を隠さなかった。
「俺は女じゃない、お前の疑似恋愛に付き合う気もない、お前にとって俺がその花の様に見えるのは、お前が俺に勘違いした理想を抱いているからだ」
差し出してきた覇戸部の手を押し戻して、ユキはそのまま歩き出した。
本当は叩き落してやりたいほど腹が立っていた。
誰かに理想を押し付けられるのは、反吐が出るほど嫌いだった。
しかし、その花も誰かが想いを込めて作ったもので……この世界はそういった人の想いで作られている世界だから、ユキは無下に扱うことができなかった。
お互い何を話すわけでもなく無言で歩き続ければ、甘味屋の立ち並ぶ通りにきていた。
この通りは和洋の区別はなく、団子屋の隣には平気でクレープ屋が並んでいたりする。
ぷぅんとどこからともなく、甘い卵の香りが漂ってきて、ユキはますます眉をしかめた。
長身の男二人が、険悪な雰囲気で歩いている……。
いつもは元気に客を呼び込んでいる、店番や店主も思わず声をかけ辛く、二人が通ったところはシンと静かになった。
目立っている、間違いなく注目されている。
せめて険悪な雰囲気だけでも是正しなければ、悪目立ちしてそのうち正体がバレかねない。
しかし先ほどキツく言った手前、ユキはなんと声をかけるべきか答えが見つからなかった。
「おーい、兄さん達! ちょっと試食してくれませんか!」
「……なんだ?」
「感想くれたらタダでいいですよ!」
いたたまれない気持ちになっているところに、こっちこっちと店の中から手招きされた。
ユキがチラリと覇戸部を見ると、特に否定はなさそうだったので店の中へと入った。
店の中は甘味屋なのに甘いのと酸っぱい匂いがしていて、ユキは耐えかねて嗅覚を遮断した。
「ウチはピクルスでスイーツ作ってるんですよ、ひとつ食べてもらえませんかね」
「ピクルス……? ってキュウリの酢漬けだろ!?」
「そんな浅漬けみたいな言い方しないでくださいよ!」
ユキが疑いの目で見ると、店主は奥の冷蔵ショーケースから手のひらサイズのタルトを持ってくる。
元々食べること自体好きではないし、聞く限り美味しそうだとは思えず、ユキは断りを入れようとした。
が、覇戸部はなんだか食べてみたそうな顔をして、店主をジッと見ているのだ。
「欲しいなら自分で受け取ればいいだろ」
多少呆れながらも、ふぅと息を吐いてイライラした気持ちを吐き出したユキは、店主の手から一つ受け取って覇戸部へと渡した。
覇戸部という男は、基本命令待ちなのだ。
命令遂行のために臨機応変に立ち回りはするが、自分から欲しがったり、願望をぶつけることは滅多にない。
だからこそ、さっきの花は覇戸部にとっては勇気を振り絞ったものだったし、ユキもそれは分かっていた。
ユキは店主から自分用に差し出されたものを断って、店の椅子に腰かけた。
「今日は偵察か何かですか?」
そう小声で店主に声をかけられて、ユキは背もたれに預けた背中を起こした。
「気づいていたのか、そんなに分かりやすいか!?」
「いえ、私は昔お二人に助けられて……近くで魔力を感じましたのでそれで」
近くにいるだけで魔力の質が分かるのは、それなりに年と経験を積んだ証拠でもある。
にこやかに笑った店主は、名前をあえて出してこない辺り、周囲に気を使ってくれているようだった。
「特にお連れ様には百年前……暴徒に押しつぶされていたところを引っ張り上げて頂いて、それ以来すっかりファンになってしまって」
ユキが覇戸部を見れば、少し驚いた顔のまま、覚えていないとでも言うように首を横に振った。
「そうでしょうとも、あの時は大勢の人を助けていましたから」
「あぁ、あの暴動は酷いものだったからな……」
二人が話している間に、覇戸部はヨーグルトタルトの上に、細かく刻んだフルーツが乗ったものをパクリと食べた。
手のひらサイズのタルトは、大きな口に一口で入り切った。
覇戸部の容貌と、かわいらしいタルトのミスマッチさに違和感を覚えながらも、感想を聞きたそうにワクワクしている店主にユキ毒気を抜かれていた。
「ん……うまい」
そうボソリと呟いただけだったが、覇戸部の目つきの悪い三白眼は嬉しそうにキラッと光った。
「本当ですか! 嬉しい! この店はあなたの為に開いたんです!」
カウンターから飛び出しそうな勢いで喜んだ店主は、ユキの想像の斜め上の発言をした。
「数年前にピクルスにハマったと雑誌に書いてあったので、いつか食べに来てくださらないかとこの店を作ったんです!」
「マジかよ、お前ピクルス好きなのか? 待て、これのどこにピクルスが!?」
「上のこれはフルーツピクルスなんです」
張本人を差し置いてユキと店主で盛り上がれば、噛みしめるようにタルトを味わう覇戸部は、じわっと魔力を回復させていた。
それに気づいたユキは、お店のタルトを全て買い占め、直轄領へ送るように店主に依頼した。
いきなり本命を当てたお陰で、今日のノルマを達成してしまった。
あとは時間をつぶすだけになり、ユキは幾分気が楽になって、機嫌もそこそこに戻ってきていた。
-----
ユキ達と同じタイミングで、この甘味屋通りをウロウロしている人物がいた。
伊澄に美味しいお茶を手に入れたから、ウチで飲まないかと誘われて、ウキウキしながら団子を買いにきた聖華だった。
絶賛就業時間中なので、完全にサボりだ。
本命の男との逢瀬を楽しみにしながら、聖華は視線の先に見つけた好みの男に目星をつけていた。
(あっ、あの人ユキさんに似てるかも……! 連れが居るけど声掛けてもいいよね!?)
そんな事を考えて、ハンターのようにサササッと近づいて気付いた。
(あれ、本物では……?)
少し近づけばよく知る魔力の性質に、聖華は目の前の人物が本物のユキである事を確信した。
(あんな格好してるユキさんも好き♡ 一緒にいるのは……覇戸部さんじゃない!?)
聖華は少し離れた位置から、コソコソ隠れるように二人を観察していた。
聖華は覇戸部に嫌われているので、声をかけるのは諦める事にした。何より二人して変装しているようなので、声をかけてはいけない事くらいは言われなくても分かっている。
二人が通りから細い路地へと入っていくのが見えて、その先は治安の悪い地域である事を知っていたので、やっぱり何かの任務遂行中なのだと確信した。
確信したけれども……聖華はユキの後ろについて行く覇戸部の顔付きに、あまり良くない感情を感じ取っていた。
(あれは、盛っているのを必死で隠す男の顔だ……)
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