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魔界編:第11章
もはや上官命令
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不安そうな顔をした真里に後ろ髪を引かれながら、魔王様の直轄領へと転移したユキは、転移先で一言目にげぇっと発した。
普段自分が着ないような服装をと考えて、ルイに見繕わせた服は、ストリートファッションじみていたのだが……それに合わせるかのような服装をした覇戸部が目の前にいたのだ。
「これ、お前がやっただろ……」
ジトッとユキが睨めつけた先はハルキで、上半分の狐面の下で満足そうな笑みを浮かべていた。
ユキの今日の変装をどこで調べたのか、わざとらしく覇戸部のテイストを合わせてきて、ユキはうんざりするようにため息をついた。
「着替えたい……」
「まぁまぁ、全然違う格好の二人が歩いてるのもおかしいじゃないですか」
ユキからすれば勘弁してほしかった。
ただでさえ覇戸部と二人というだけで、真里に嫌な思いをさせているのに、テイストを合わせた服装で出かけているところなんて見られでもしたら……。
そう思うと頭が痛くなった。
「お前、真里と仲良く喋るわりにこういう事するよな」
「私はただ、一番高い効果を得られるよう考えているだけです」
生前の癖なのか、メガネの代わりにクイッと狐面を上げたハルキに、ユキは再びはぁとため息をこぼした。
覇戸部の服装は、フード付きのパーカーにゆったりとしたジーンズ。普段の名残といえばベストくらいだが、ダウンベストになっているから面影はない。
ただでさえ薄めの髪色は、ハルキが染めたのか金髪になっていて……。
「お前……ガラ悪いな」
「ユキ様も大概ですけど」
そう言って、ハルキはユキのサングラスを見つめた。
「真里は似合うって言ってたぞ?」
「恋は盲目ですから」
ガラが悪いと言われた本人は、ユキを直視せずにうつむいたまま黙っている。少しのイラ立ちを感じながら、ユキは眉間にシワを寄せた。
「お前なぁ、少しは会話したらどうなんだ」
「……似合っている」
そうボソッと小さい声で呟かれて、今度はゾワッとした。
「そういう事を言えとは言っていない」
「恋は盲目ですから」
ハルキの横槍に、真里と覇戸部を同列に扱われているようでユキは不愉快でたまらなかった。
「覇戸部さん、髪の色は三時間ほどで戻りますから、それまでには戻ってきてくださいね」
ハルキは覇戸部にそう伝えて、ニット帽を手渡した。できるだけ深めにかぶって、その目つきの悪さを隠すようにと、なかなか失礼な事を言ってから部屋の出口へ歩いて行った。
「あっ、おい!」
「あとはお二人でごゆっくり」
なんて、心の底からやめてほしい言葉を残して、部屋から出て行ってしまった。
ユキはその言動にげんなりしつつも、三時間以内というタイムリミットを仕込んでいたことに内心感心する。
正直それ以上の時間、覇戸部と二人だけというのはしんどい。
後ろを振り向けば、八百歳も年下のハルキから言われた通りに、目深にニット帽をかぶる覇戸部がいた。
素直か……と、ユキは思わず笑ってしまった。この男が素直で純朴であることは、ユキもよく知るところだ。
だからこそ、純粋な恋愛対象として見られる好意がキツかった。
「で、お前はどこに行きたいんだ?」
「……俺は、ユキと一緒なら」
その回答も、ユキは予測済みだった。今回この計画を企てたのは間違いなくハルキだ、覇戸部が自分から言い出したものではないのだから、そういった回答は当然だと思った。
なぜ行きたくもないお出かけプランを練らなければならないのか……ユキは内心そう思いつつ、真里との濃密な三日間のためだと自分を奮い立たせた。
真里にはいろいろと理由をつけて説得していたのだが、ユキの頭の中は真里を思う存分可愛がりたいという下心で満ちていた。
不安にさせた分、それも吹き飛ばすくらい……愛して愛して、たくさん可愛がって、もっと好きになって欲しいなんてことばかり考えているのだ。
その心の奥底には、もっと真里に甘えたいという気持ちがあった。
格好良くなくても、情けなくデレデレしても、呆れられたり愛想を尽かされないくらい、もっと好きになってもらわないとなんていう焦りがあった。
真里からすれば、そんなユキは喜んで迎え入れるし、もっと甘えてほしいと思っているのが本音なのだが、ユキにはまだ自信がなかった。
「俺と一緒なら……なんて言うけどな、お前さっきから魔力回復してないからな」
真里となら、傍にいるだけでもジワジワと魔力を回復し合う。お互いにそれを感じて、それを幸せだと思える。
そういうのが『本当の想い』というものなんだと、ユキは感じていた。
だから、近くにいるだけで魔力を回復しなくなった覇戸部は、心の底では自分の事を諦めているんだろうと考えていた。
今回それを本人に理解させるのも目的だった。いい加減妄想と幻想で作った覇戸部の中の自分への憧憬を、全て消し去りたかったのだ。
「一般的な魔力回復方法は、睡眠、食事、遊び、セックスだが……お前なにかやってんの?」
「――ッ!」
あきらかに『セックス』という単語でビクリと反応して、顔をゆでダコのように赤くする様に、ユキは違うとは知りつつも、心の中で童貞かよとツッコミを入れる。
「……少しだけ、寝る」
「回復方法探せって前に言ったよなー……寝るだけなら変わってねぇだろ」
そうは言っても、覇戸部が魔力回復の睡眠もそこそこに、魔王様の傍にいることも知っている。
「食い物は? 好きなものくらいあるだろう?」
「肉……」
「あー……それはな、魔力回復には効率が悪い、甘いものにしろ」
悪魔の栄養である魔力は、単純に口に含むと甘みとして感じる。しょっぱい、辛いなどの甘みと反対の味付けがされた食品は、味覚変換に無駄な魔力を消費するため完全な嗜好品だ。
「甘味屋が並ぶ通りに連れて行ってやる、そこで一つでも好きなものを見つけろ、いいな」
内容は甘味屋巡りなんていうデートっぽい内容だが、ユキの口調は完全に命令形で、覇戸部もそれに素直に頷いている。
二人の間にはハルキが期待したような、真里が不安がるような雰囲気などは、微塵もありはしなかった。
※しばらく主人公(真里)不在になります
不在なのにイチャついてる感
前話少し編集しております、大筋に変更はありません。
普段自分が着ないような服装をと考えて、ルイに見繕わせた服は、ストリートファッションじみていたのだが……それに合わせるかのような服装をした覇戸部が目の前にいたのだ。
「これ、お前がやっただろ……」
ジトッとユキが睨めつけた先はハルキで、上半分の狐面の下で満足そうな笑みを浮かべていた。
ユキの今日の変装をどこで調べたのか、わざとらしく覇戸部のテイストを合わせてきて、ユキはうんざりするようにため息をついた。
「着替えたい……」
「まぁまぁ、全然違う格好の二人が歩いてるのもおかしいじゃないですか」
ユキからすれば勘弁してほしかった。
ただでさえ覇戸部と二人というだけで、真里に嫌な思いをさせているのに、テイストを合わせた服装で出かけているところなんて見られでもしたら……。
そう思うと頭が痛くなった。
「お前、真里と仲良く喋るわりにこういう事するよな」
「私はただ、一番高い効果を得られるよう考えているだけです」
生前の癖なのか、メガネの代わりにクイッと狐面を上げたハルキに、ユキは再びはぁとため息をこぼした。
覇戸部の服装は、フード付きのパーカーにゆったりとしたジーンズ。普段の名残といえばベストくらいだが、ダウンベストになっているから面影はない。
ただでさえ薄めの髪色は、ハルキが染めたのか金髪になっていて……。
「お前……ガラ悪いな」
「ユキ様も大概ですけど」
そう言って、ハルキはユキのサングラスを見つめた。
「真里は似合うって言ってたぞ?」
「恋は盲目ですから」
ガラが悪いと言われた本人は、ユキを直視せずにうつむいたまま黙っている。少しのイラ立ちを感じながら、ユキは眉間にシワを寄せた。
「お前なぁ、少しは会話したらどうなんだ」
「……似合っている」
そうボソッと小さい声で呟かれて、今度はゾワッとした。
「そういう事を言えとは言っていない」
「恋は盲目ですから」
ハルキの横槍に、真里と覇戸部を同列に扱われているようでユキは不愉快でたまらなかった。
「覇戸部さん、髪の色は三時間ほどで戻りますから、それまでには戻ってきてくださいね」
ハルキは覇戸部にそう伝えて、ニット帽を手渡した。できるだけ深めにかぶって、その目つきの悪さを隠すようにと、なかなか失礼な事を言ってから部屋の出口へ歩いて行った。
「あっ、おい!」
「あとはお二人でごゆっくり」
なんて、心の底からやめてほしい言葉を残して、部屋から出て行ってしまった。
ユキはその言動にげんなりしつつも、三時間以内というタイムリミットを仕込んでいたことに内心感心する。
正直それ以上の時間、覇戸部と二人だけというのはしんどい。
後ろを振り向けば、八百歳も年下のハルキから言われた通りに、目深にニット帽をかぶる覇戸部がいた。
素直か……と、ユキは思わず笑ってしまった。この男が素直で純朴であることは、ユキもよく知るところだ。
だからこそ、純粋な恋愛対象として見られる好意がキツかった。
「で、お前はどこに行きたいんだ?」
「……俺は、ユキと一緒なら」
その回答も、ユキは予測済みだった。今回この計画を企てたのは間違いなくハルキだ、覇戸部が自分から言い出したものではないのだから、そういった回答は当然だと思った。
なぜ行きたくもないお出かけプランを練らなければならないのか……ユキは内心そう思いつつ、真里との濃密な三日間のためだと自分を奮い立たせた。
真里にはいろいろと理由をつけて説得していたのだが、ユキの頭の中は真里を思う存分可愛がりたいという下心で満ちていた。
不安にさせた分、それも吹き飛ばすくらい……愛して愛して、たくさん可愛がって、もっと好きになって欲しいなんてことばかり考えているのだ。
その心の奥底には、もっと真里に甘えたいという気持ちがあった。
格好良くなくても、情けなくデレデレしても、呆れられたり愛想を尽かされないくらい、もっと好きになってもらわないとなんていう焦りがあった。
真里からすれば、そんなユキは喜んで迎え入れるし、もっと甘えてほしいと思っているのが本音なのだが、ユキにはまだ自信がなかった。
「俺と一緒なら……なんて言うけどな、お前さっきから魔力回復してないからな」
真里となら、傍にいるだけでもジワジワと魔力を回復し合う。お互いにそれを感じて、それを幸せだと思える。
そういうのが『本当の想い』というものなんだと、ユキは感じていた。
だから、近くにいるだけで魔力を回復しなくなった覇戸部は、心の底では自分の事を諦めているんだろうと考えていた。
今回それを本人に理解させるのも目的だった。いい加減妄想と幻想で作った覇戸部の中の自分への憧憬を、全て消し去りたかったのだ。
「一般的な魔力回復方法は、睡眠、食事、遊び、セックスだが……お前なにかやってんの?」
「――ッ!」
あきらかに『セックス』という単語でビクリと反応して、顔をゆでダコのように赤くする様に、ユキは違うとは知りつつも、心の中で童貞かよとツッコミを入れる。
「……少しだけ、寝る」
「回復方法探せって前に言ったよなー……寝るだけなら変わってねぇだろ」
そうは言っても、覇戸部が魔力回復の睡眠もそこそこに、魔王様の傍にいることも知っている。
「食い物は? 好きなものくらいあるだろう?」
「肉……」
「あー……それはな、魔力回復には効率が悪い、甘いものにしろ」
悪魔の栄養である魔力は、単純に口に含むと甘みとして感じる。しょっぱい、辛いなどの甘みと反対の味付けがされた食品は、味覚変換に無駄な魔力を消費するため完全な嗜好品だ。
「甘味屋が並ぶ通りに連れて行ってやる、そこで一つでも好きなものを見つけろ、いいな」
内容は甘味屋巡りなんていうデートっぽい内容だが、ユキの口調は完全に命令形で、覇戸部もそれに素直に頷いている。
二人の間にはハルキが期待したような、真里が不安がるような雰囲気などは、微塵もありはしなかった。
※しばらく主人公(真里)不在になります
不在なのにイチャついてる感
前話少し編集しております、大筋に変更はありません。
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