死が二人を分かたない世界

ASK.R

文字の大きさ
上 下
133 / 191
魔界編:第9章 真里

与えるもの、求めるもの

しおりを挟む
 ユキがずっと僕に罪悪感や、後ろめたさを感じていたのは、その声を聞けばわかる。
 でも、僕はユキにそんな感情を持って、接してほしいなんて思っていない。

「あのね、僕はきっとユキが思ってるより、自分の人生を幸せだったと思ってるよ」
 ユキが顔を隠す手を握ると、恐る恐るその手を握り返してきて、こちらに顔を見せてくれる。
 どうにも僕は君の泣いてる顔に弱いみたいだ、他の人には絶対に見せない表情だと思うと、余計に愛しく思う。

「僕は両親と出会えて、愛されて、すごく幸せだったし……今も、ユキと一緒に過ごせる毎日が幸せだよ? 菖寿丸には感謝しないとだね」
「……真里」
「だから、ユキが僕に謝ることなんて何もないよ」
 涙で濡れる目頭にキスすると、少ししょっぱい。

「真里はどこまで俺を甘やかすつもりなんだ?」
「僕ができる全力で、甘やかしたいと思っているけど」
「俺の事を恨めしいとは思わないのか?」
「僕がユキにそんな事思うわけないよ」
 ユキが僕の頬を撫でてから、頭の後ろに手を回して引き寄せられた。

「ごめんな……本当に、ごめんな」
「ずっと気にしてたんだね、大丈夫だよ、大好き」
 ユキを安心させたくて今度は僕からキスすると、ユキの瞳からポロッと涙が溢れた。
 本当に君はすぐに泣いてしまうから、そんなところが可愛いんだ。

「今日魔王様に、俺は真里の事を信じていないと言われてショックだった……」
「図星だったから?」
「真里の気持ちを信じてる……でも、真里が俺のために犠牲になったりするんじゃないかって、そんな不安がずっとあった……俺は真里を信じてなかった」

 ユキがすごく自己犠牲を嫌がったのを思い出した。自分のために全てを捨てた人が居ると言っていたけど、あれは菖寿丸の事?
 僕も同じようになるんじゃないかって、心配させていたんだろうか。

「それは仕方がないよ、だって僕は本当に君を不安にさせるようなことをしてきたから」
 ユキの心の内を知らなかったとはいえ、自分を大事にしてほしいと言ってきたユキの気持ちを、僕は何度も裏切ったような気がする。

「違うんだ、真里のせいじゃなくて……もし、まだ真里の魂に菖寿の意識が残っていたとしたら、自分を犠牲にしてきた菖寿に、真里はその意識を譲ってしまうんじゃないかって……不安だったんだ」
「えっ……」
「俺は魔王様に菖寿と真里はもう関係ないと言いながら、内心ずっと怖がっていた……俺は菖寿の事も、真里の事も信じていなかったんだ」
 ユキは合わせていた視線を、逃げるように外した。
 なにも、全部自分が悪いなんて思わなくたっていいのに……不安になったり、信じられなくなったりなんて、ユキじゃなくたってよくある事じゃないか。

「じゃぁ今から信じてくれればいいよ、僕の事を」
 あんまり上から見つめていると責めているみたいで、ユキの上から体を起こして、僕はその横に座った。
 本当はもっと触れていたいけど……。

「僕だって菖寿丸の話を聞いた時は怖いと思ったよ、だって何十代にも渡ってこの魂の意識として宿っているんだから……ユキの不安は当たり前だと思う」
 ユキも体を起こして、僕たちは同じくらいの目線になった。ちゃんと対等に話せているみたいで、こっちの方がずっといい。
 座ったユキの右手を握って、まっすぐにその目を見れば、今度はユキは目を逸らさず僕を見てくれる。
「確かに僕は、自分の記憶を疑ったりなんてしたけど……不安にはなったけど、でもそれで菖寿丸の意識が出てきた方がいいなんて、少しも思わなかったよ」

 空いた僕の左手で、ユキの綺麗な髪に触れれば……決意はより一層固くなる。
 強い意志は、感情を読み取る能力の高いユキには、絶対に伝わるはずだから。

「ユキを幸せにするのは僕だから、他の人になんて任せたりしない、僕が幸せにする」

 目を逸らさずにユキに伝えれば、その頬はだんだん赤く色づいていく。

「――っっ!」
「僕を信じてくれる?」
 ユキの照れくさそうな顔を下から覗き込むと、ユキの表情はますます火照った。

「ズルいだろ……なんでそんなカッコいいこと言うんだ!?」
「ユキがもう不安にならないように、言っておかなきゃいけないと思って……どう?」
「信じる」
「うん」
 ユキに体を近づければ、その腕で抱き寄せてくれる。ユキはいつも僕がしてほしい事をしてくれるから、次は顔が近くなって、柔らかい唇同士が触れた。

「真里を幸せにするのも俺だから」
「うん」
「好きだ、真里……本当に、心から愛してる。ずっと、ずっと待ってたんだ、恋しかった……もう離れたくない」
「大丈夫、絶対に離さないから」
 ユキに甘えるように両腕で抱きついて、その懐に潜り込めばギュッと抱きしめ返してくれる。
 僕の記憶が僕の物でよかった、ユキが待っていてくれたのが僕でよかった、僕が愛した人がユキでよかった……僕は君じゃなきゃ幸せになれないよ。

 確かに僕はユキのためなら、なんだってしたいと思う。
 ユキと一緒に居るために、この魂に居る前世の意識が邪魔だというなら……僕はあの人を消し去る事も厭わない。
 千年間、ユキの事を想い続けていようと……僕とユキをこうして会わせてくれた恩人だとしても。

 僕の意識を譲る気なんて微塵もない、ましてやユキを譲る気なんてもっとない。
 独占欲と、ユキを想う気持ちをむき出しにしてその体を抱きしめたら、ユキに体重をかけられて……。
 背中が着いた先は、座っていたソファーではなく、ベッドの上だった。

 見上げれば、愛しそうに頬に触れてくるユキの黒い瞳が、僕だけを映してる。
 ゆっくりと距離をつめてきて、何度か触れるだけのキスの後、様子を窺うように口づけが深くなる。

「もっと触れたい……いいか?」
「僕もだよ」
 僕からもユキの頬に触れると、甘えるように頬を押し付けられて、胸の奥が苦しいくらいにキュンとした。
 美人でかっこよくて、可愛くて甘え上手なんて……僕の大好きな人は本当にハイスペックが過ぎる。

 好きって気持ちが止められなくて、ユキに触れたくて、触れられたくて……ユキの頬に触れた手で引き寄せた。
 唇が触れると腕を首に回して、口元を緩めて中に誘った。
 絡められた舌に、僕からも絡めて……お互いを貪るように激しく唇を合わせれば、ユキの手が服の中で僕のお腹から上へと撫で上げていく。

「んっ!」
 体が待ちわびた手の感触にビクッとすると、合わせている口元が少し笑った気がする。
 僕からも触れたくて、ユキの服の中に手を入れて、直接その背中に触れた。温かい……僕のユキの肌だ。
 お互いの体を撫でまわしながら、息を荒げて舌を絡めた。

 求め合って、触れ合っているこの瞬間は本当に幸せだ……ずっとこうしていたい、こんな時間をずっと過ごしていたい、そう思えるほどに。
 お互い服は乱れて、もうはだけているなんて可愛いものじゃなくなっている。
 なのに、ユキはキスをして僕の体を撫でるだけで……ズボンの中に手を入れられて、内腿を撫でられたら……もう、我慢できない!

「ユキッ……もっと」
 痺れを切らして、自分が触ってほしい場所でもあるユキのそこに触れると、熱さと硬さに急に恥ずかしくなった。
 そうなっているのは、お互い視認できる状態ではあったのだけど……。
「今夜は……寝かせたくないから、このまま」
 切ない声で言われて、頭が沸騰しそうなほど熱い。

「それって……」
『今夜は寝かさないぜ』的なセリフ!? 恥ずかしさと期待で、ユキの顔を見上げると、ユキは瞳に熱を宿したまま予想外な事を言った。

「真里は中でイッったら気を飛ばすから……今夜はずっと触れ合っていたいんだ」
「!!??」

 それって、一晩中寝かさないためにソフトタッチでいくって事!? そんなの生殺しだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【R18】【Bl】R18乙女ゲームの世界に入ってしまいました。全員の好感度をあげて友情エンド目指します。

ペーパーナイフ
BL
僕の世界では異世界に転生、転移することなんてよくあることだった。 でもR18乙女ゲームの世界なんて想定外だ!!しかも登場人物は重いやつばかり…。元の世界に戻るには複数人の好感度を上げて友情エンドを目指さなければならない。え、推しがでてくるなんて聞いてないけど! 監禁、婚約を回避して無事元の世界に戻れるか?! アホエロストーリーです。攻めは数人でできます。 主人公はクリアのために浮気しまくりクズ。嫌な方は気をつけてください。 ヤンデレ、ワンコ系でてきます。 注意 総受け 総愛され アホエロ ビッチ主人公 妊娠なし リバなし

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...