死が二人を分かたない世界

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魔界編:第9章 真里

秘密計画

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 現世で擬態を解除してから、ユキの転移で魔界へ戻ってきた。出た先は魔王様の直轄領前、厳つい黒い門の目の前だった。

「あっ、帰ってきた報告?」
 ユキを見上げると、いつもの犬耳がピクンと動く。耳が無いと寂しいと思うくらい見慣れてしまったこの姿に、帰ってきたんだなぁなんて実感する。
「あぁ、報告とちょっと話を……」
 そう言いながらユキが一つに結んだ髪を解いて、窮屈そうにしていた長い髪が、サラリと降ってきた。
 今日はいろんなユキを見れたけど、やっぱりいつものユキが落ち着くな。

「どうした?」
「なんでもないよ……なんでもないけど、後で耳触らせて」
「なんだそれ」
 フッと笑ったユキに、なんだか少し違和感があった。さっきまで僕と海岸デートしてて、楽しそうにしてたのに……。

「話って、魔王様と話すって言ってた僕の事?」
 二人で黒門をくぐりながら、なんとなく感じ取った違和感を確認する。
「……あぁ」
「からかわれるくらい平気だよ」
「いや、魔王様とは一度話しをしないといけないと……思っていたから」
 はぁ……と、憂鬱そうにため息を吐くから、無理しなくてもいいのになんて、僕は考えてしまうけど……。

「もしかして、それが嫌だから帰ってきたくなかった?」
「いや、そんなことはない」
 フイッと顔を逸らすから、そんな事ありすぎだろって笑ってしまいそうだ。
 ユキも魔王様に対して苦手だと思う時があるなんて、少し安心してしまうな。

「ケンカしないでね?」
「それは流石に……いや、どうかな」
 予想外の反応に驚いた、ふぅと息を吐いたユキは何かを決心したようにも見えて……。

「ダメだよ!? 確かに僕は魔王様に妬いてるところはあるよ? 一番ユキと長く過ごした人だし、ユキに信頼されてるのも羨ましいと思ってるけど……僕はユキと魔王様の仲を悪くしたいわけじゃ」
「分かった分かった、そうか……魔王様に妬いているのか」
 フフフフッと機嫌を取り戻したユキが、可笑しそうに口元を押さえて笑っている。
 僕が嫉妬心を口に出すと、ユキは決まって喜んでいる気がする。

「そんなに嬉しそうにするなら、もっとヤキモチ妬くけど……」
 どうにもユキにからかわれている気がして、ムッと口を尖らせた。ユキにからかわれるのは好きだから、べつに良いんだけど。
「真里……」
「ん?」
「愛してる、ずっとそのままでいてくれ」
「――なっ!」

 直轄領で人気がないとはいえ、外でそんな!!
 顔が急に熱くなって、耳が熱くて、頭が煮えたぎりそうだけど……真正面から愛してるなんて言われたら、それは嬉しいに決まってて。
「あっ、僕も……あぃ……」
「いつもイチャついてますね、あなた方は」

 相変わらず、直轄領内を神出鬼没に現れる狐面が、僕とユキの間で三角形になる様に立っている。
「ハルキ、邪魔するなよ」
「続きは帰ってからにして下さい、魔王様の元まで案内します」
「すみません……」
 直轄領内って直血以外の人を見ることが無いから、つい油断してしまうんだよな。

 魔王様は今日は執務室に居るらしく、前に謁見で来た建物に案内された。
 横幅の異様に広い階段を登って、謁見の間の前を通り過ぎて、横道を進んだ先にある重厚感のある両開きの扉。

「じゃあ、行ってくる……ハルキは外してくれ」
「承知しました」
「ユキ、ケンカはダメだよ!」
「分かってるよ」
 苦笑いしながら執務室に入っていくユキは、さっきよりは顔色が良くなっている気がした。

「――ユキ様は魔王様と喧嘩しに来られたんですか? それなら私は止めなければならないのですが」
 口ではそう言いつつも、ユキの魔王様への忠誠を信じて疑っていないのか、ハルキさんは部屋に入る気配を見せない。
「さすがにしないと思うんですけど……ところで今日は覇戸部さんは……?」
 いつも阿修羅みたいな顔で睨みつけてくるあの人が、今日は扉の前にも中にも居ない気配だ。

「魔王様にお使いを頼まれて、今は不在にしていますよ」
「お使い……そんな事もあるんですね」
「えぇ、そんな事もあります」
 一瞬シン……と間が空いて、若干の気まずさが漂う。

 そうだ、僕のあの計画……ハルキさんに相談しよう! ユキも一緒に居ない今は、最大のチャンスだ。
「あの、ハルキさん……ご相談が」
「はい、私でお応えできるものでしたら」
 ダメって言われるだろうか……言われてしまったら家の中でこじんまりと作るしかないのだけど……。

「……実は、この世界に水族館を作りたいと思うんですけど」
「ほぅ」
 抑揚のないその返答と、上半分の狐面で見えない目元から、感触が掴めない。

「ダメですか……?」
 口元に手を当てて、少し考える様な素振りをしたハルキさんを、ドキドキしながら見つめた。

「面白いですね、その計画乗らせてください」
「!!」
 その口元はニコッと笑いかけてきた。許可を貰うだけのつもりだったけど、この口ぶりからするとガッツリ協力もしてもらえそうな感触だ!

「いつまでになど、考えはありますか?」
「はいっ! できればユキの誕生日……十月十日までに」
「水族館をプレゼントするんですか? 派手ですね……楽しそうです」
 そっか……ゆっくりユキが安心して見て回れる水族館をって思ってたけど、水族館をプレゼントって事になるのか……どっかのセレブみたいだ。

「今日現世で魚の図鑑と、全国の水族館の特集本を手配してて……あと魔力量だけは無駄に多いので、自分で作ろうかと思ってるんですけど」
 転生院を再生させた時に、建物の造り方も覚えたし。

「自力で作るって考えがまず異常です、でもできると思います。困っているのは場所ですね?」
「はいっ……!」
 さすがハルキさん、困った時はハルキ様頼りだ。

 「郊外にスペースを設けましょう、そして門内から転移陣で繋げは行き来できます……作ってる最中は転移陣の札をお渡ししておきますので」
「はいっ!」
 すごい、話がトントン拍子に進む!

「将来的には入場料を取って、集客しますか?」
「いえ、ちょっとそこまでは、まだ考えてない……です」
「しましょう、私はこの世界にもっとエンターテイメントを増やしたいので、ぜひしましょう」
 なるほど……ハルキさんにもメリットがあるから、この話にノリノリなのか。

「私のお手伝いをしてもらう理由で、抜け出てもらうなんてどうでしょう? 問題は作業時間ですね……毎日終業前一時間で足りますか?」
「やってみないと分からないので、今はなんとも」
「そうですね、ではその辺はスタートしてから詰めていきましょう、人員は必要ですか?」
「それは必要ないです、出来るだけ自分の手で作りたいので……間に合いそうになかったら、お願いするとか……出来ますか?」
「大丈夫ですよ……これは、楽しみですね」
「そうですね」
 フフッと二人で顔を見合わせて笑い合ってしまう。

「他にも必要なものがあれば言ってください、魔力は……まぁ、帰ればユキ様と回復されるでしょうから、問題ないですね」
「ハルキさんって、その辺恥ずかしげもなくツッコんできますよね」
「この世界では魔力回復の為の行為ですから、食事などとなんら変わりありませんよ、恥ずかしく思わなくて大丈夫です」
「いえ、僕は……ちょっと、恥ずかしいので……」
「では、あまり言わない様にしますね」
 クスッと笑ったハルキさんからは、全く悪意を感じなかった。

 いつも思うけれど、あの魔王様と四六時中一緒にいるというのに、ハルキさんは本当に良い人だ……!

 それからハルキさんと詳しく話をした。中に直接入れる様にすれば、外観は気にしなくていいとか、郊外だから規定は特になく、高さも気にしなくていいとか……色々アドバイスをもらった。

「では例の本が届いたら、私の手伝いという事でお呼び出ししますので」
「ありがとうございます」
 話は盛り上がって、あっという間に時間は過ぎた。
 キィ……と執務室の扉が開く音がして、ユキに内緒にするために僕らはハッと口をつぐんだ。

「お疲れ様、どうだっ……」
 笑顔でユキを迎えようと思ったら、出てきたユキは顔面蒼白で……笑顔なんて作れる状況じゃなかった。ハルキさんも驚いた様子で、戸惑っている。

「なにがあったの?」
 今にも倒れ込みそうなユキを、両手で支えようと駆け寄る。僕を見たユキが今にも泣き出しそうな顔をして、今すぐ抱きしめてあげないといけないと思った。

 両手を広げたら、飛び込んでくる様にユキが僕を抱きしめた。ぎゅうううっ……と強く抱かれて、それこそ苦しいくらいで……負けないくらい、僕からもギュッと抱きしめ返す。
 大丈夫、君がどんなに傷ついたって……僕がそばで支えるから!

「真里ッ……!」
「大丈夫だよ」
 何がなんて必要ない、根拠も必要ない、ただ僕はユキが安心できる場所を作る。

 落ち着いたのかユキが腕を緩めて、僕も力を緩めると、ユキの体から頭を離した。
「真里……」
 また名前を呼ばれて、帰ろって声をかけようとしたその時。
 僕とユキの間に黒い物体が……いや、黒地に浮き出す様な強烈な赤いバツ印!!!!
 まるで相手を否定する事を目的とした様な、その独特なグローブは、僕の手にも着いている魔王様のッ……!

 頭を掴まれた感触と同時に、僕の視界は真っ暗になった。
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