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魔界編:第8章 現世へ
見ていたい
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「すいぞくかんって何?」
その質問をしたのは、女の子と見間違うほどの愛らしい顔つきに、長いまつ毛、指を思わず通したくなるほどのサラサラの黒髪の愛しい人だ。
「生きてる魚がね、すいそうの中をおよいでるんだよ!」
七歳くらいの君に、同じくらいの歳の僕が答える。
あぁ、これは夢だ……僕はこの夢に干渉できない、ただの記憶の再現なのだから。
夢と分かってはいても、起きたくはなかった。
もう見ることのできない彼の愛らしい姿を、ずっと眺めていたいとさえ思う。
本当は抱きしめて、未来で必ず会えると約束をしたいけど、君に僕の声は届かない。
「君に見せたくて、いっぱい見てきたんだ! 見てて!」
幼い僕が、幼いユキの前でくるくると回る。
すると、ユキの真っ暗で梅の木と池だけの夢の世界の空中に、鮮やかな魚が泳ぎはじめた。
それは幻想的で、十六になった僕でも感動するほどだった。
幼い頃の僕は、こんなことをしていたのか……全く覚えてなかった。
幼いユキの愛らしい瞳が輝いて、でも少し驚いたのか、幼い僕に縋り付くようにして周りを見渡している。
微かに口元が綻んで、笑っているのが見てとれた。
あぁ……僕は、君を笑顔に出来ていたんだ。
「真里、そろそろ起きろ」
愛しい人の優しい声と、体を揺すられたことで目が覚めた。
本音はもう少し見ていたかった……ってところなんだけど、今日は魔王様と地上に行く日だ。
大事な日に寝坊するわけにもいかない。
それになにより、昔の君を見なくても、今一緒に過ごせるこの時間の方が大事……。
そう思って、顔を上げた途端……僕は心臓が止まるかと思った。
「――っ!!!??? ユキ……!? 髪が……」
「あぁ、地上でアレは目立つだろ?」
髪が……髪が無い!!!!
僕の大好きな、ユキの長くて綺麗でサラサラの黒髪がっ!!!!!
震える手でユキの短くなった髪に手を伸ばすと、強いショックに襲われた。
本当に……無い!!! 触れない……あの長い髪に指を通せない!!
引き寄せて、抱きしめて、後ろを確認しても……ない!!! どこにも……僕のユキの髪がッ っ……!
「あぁっ、あぁっ……ウソだ……!」
ユキの背中の服を手繰り寄せるようにして震えた、なんで勝手に切っちゃうんだよ! 僕がどれだけ君の髪を好きなのか……!
そんな風に文句を言ってやりたかったけど、あまりのショックに言葉が出てこなかった。
「あぁぁ……ユキの髪がぁ!! ああっ!」
「落ち着け真里! 戻すから! な? だから泣くな」
ユキがパチンと指を鳴らすと、スラッと元の長い髪に戻った。
「へ? 戻せるの?」
「当たり前だろ」
「よ、よかったぁぁ……」
思わず伸びた髪に指を通して、そこにキスをした。
「まさか泣くとは思わなかった……」
「ごめん、ちょっと感傷的になってたみたい」
よく考えれば分かることだった、聖華があれだけポンポン見た目を変えているんだから、ユキにそれが出来ないはずがない。
寝ぼけて頭が回ってなかった。
「……短いのも似合ってたよ、もうしないの?」
「よく言う、もう泣かれるのは嫌だからな」
戻せるとわかれば、急に勿体無いことをした気分になった。髪が短いユキなんて、すごくレアだったのに……。
戻せるのなら、今度ゆっくり見せてもらおう。
なんなら幼い頃のユキだって、お願いすれば見せてくれるのかも知れない。たしか、若返る分には難しくないって、前に言ってたはず。
ユキが髪を器用に結んで、簡単にポニーテールにする。そんな珍しい仕草を見逃さないように見つめていると、ユキが苦笑した。
「現世に出てもおかしくない格好にするって言っただろ? 真里も着替えろ」
「うん……なんか今日は、珍しいユキをたくさん見れてる気がして」
「まだ家を出てもいないのにな」
ハハッと笑ったユキが、僕の頭をワシワシと撫でたかと思うと、あまりにも自然にチュッとキスされた。
「いつまでも裸でいると悪戯するぞ?」
「着替えます……!」
いつもと違う髪型をしてるユキに迫られると、すごくドキドキする。ちょっと悪戯して欲しい気持ちは、グッと抑え込んだ。
現世は今夏だから、まず僕もユキもいつもの黒い上着は脱がなきゃおかしい。あとは普段とほぼ変わらない格好で家を出たけど、ユキはいつも通りのゴツいロングブーツで、夏場にそれは目立ちそうだな……とちょっと思った。
「俺は真里を連れて直接現世に出れるが、せっかくだから現世門を見ていくか?」
「行きたい! あ、でも、魔王様のところに行かなきゃいけないんじゃ?」
「魔王様は俺たちが行けば、合わせて来るから大丈夫だ」
現地集合なんだ……護衛の仕事なのに!
「一応見に行くが、門はくぐらないからな」
「なんで?」
転移陣と一緒で、本来は門を通るのが正規ルートなんじゃ……?
「俺や魔王様が不在にしている事は、できれば知られたくないからな」
「あっ、そっか!」
今日の現世行きは内密だったもんね!
魔界のトップ不在は、確かに公にできる事じゃ無いな……ユキはよく現世に行ってたみたいだけど。
現世門へ向かう道中も、出来るだけ見られたく無いって事で、ユキは門が見える人気の少ない場所まで転移で飛んだ。
魔王様の直轄領にそびえ立つ黒い門と、対になったかのような……暗い魔界に浮かび上がる、真っ白な門だった。
装飾は殆どなく、それがかえって上品さを引き立ている、白磁のような質感に思わず見惚れた。
「きれい……」
あの門をくぐれないのかと思うと、少し残念に思うくらいに。
「一般悪魔は魔力量が多く無いからな、あの門を通る事で、現世に準備されている魂の入れ物で体を作る事になる」
「……じゃあ、僕たちは?」
「自分で作る」
「僕も!?」
「俺が作っても良いが、自分の魔力で作った方が馴染むぞ?」
わああっ、初めての事ばっかりでなんだか緊張してきた!
「あまりに魔力量が少ないと、現世に行くことさえできないからな……伊澄とか」
「そっか、現世じゃ魔力は回復しないんだったよね」
なのに、ユキは現世で大量の魔力消費をして、僕の願いを叶えてくれたんだよね……。
かなりの危険な事をして、僕の願いを叶えてくれてんだなって、胸の奥がぎゅっと締め付けられる気がした。
「じゃあ、行く前に少し回復しておくか」
「まだ消費してな……」
言い終わる前に唇を塞がれて、こんな外でキスしてる事に、思わず周りを見回してしまう。
「誰も居ない」
ユキにそう言われて、目を瞑った。
現世で何かあったらいけないし……そんな大義名分で、その心地よさを堪能すると、ユキがフッと笑った。
「これは、触りたくなって駄目だな」
「じゃあ抱きしめるだけ」
ユキを両腕で抱きしめると、ユキが抱き返してくれる。
「回復した?」
「もう少し……と、言いたいところだが、時間だな」
ユキが名残惜しそうに、最後にぎゅっと強く抱いて、僕から離れた。大事な仕事の前に、思いっきりイチャついてしまった。
「今の現世は真里の方が詳しいだろうが、あまり目立つことがないようにな」
「うん」
「それと、天界の面子から色々絡まれたりするだろうが、上手くやれ」
「う……緊張する」
「大丈夫だ、失礼がないようにとかは気にしなくて良い」
いや、気にするよ!
「魔王様と一緒なだけでも緊張するのに」
「それこそ気にしなくていい、魔王様は俺たちのことなんか眼中になくなる」
ユキが僕の肩を抱き寄せて、周囲が一瞬白い光に包まれる。
いざ、現世
僕が終わった世界へ。
その質問をしたのは、女の子と見間違うほどの愛らしい顔つきに、長いまつ毛、指を思わず通したくなるほどのサラサラの黒髪の愛しい人だ。
「生きてる魚がね、すいそうの中をおよいでるんだよ!」
七歳くらいの君に、同じくらいの歳の僕が答える。
あぁ、これは夢だ……僕はこの夢に干渉できない、ただの記憶の再現なのだから。
夢と分かってはいても、起きたくはなかった。
もう見ることのできない彼の愛らしい姿を、ずっと眺めていたいとさえ思う。
本当は抱きしめて、未来で必ず会えると約束をしたいけど、君に僕の声は届かない。
「君に見せたくて、いっぱい見てきたんだ! 見てて!」
幼い僕が、幼いユキの前でくるくると回る。
すると、ユキの真っ暗で梅の木と池だけの夢の世界の空中に、鮮やかな魚が泳ぎはじめた。
それは幻想的で、十六になった僕でも感動するほどだった。
幼い頃の僕は、こんなことをしていたのか……全く覚えてなかった。
幼いユキの愛らしい瞳が輝いて、でも少し驚いたのか、幼い僕に縋り付くようにして周りを見渡している。
微かに口元が綻んで、笑っているのが見てとれた。
あぁ……僕は、君を笑顔に出来ていたんだ。
「真里、そろそろ起きろ」
愛しい人の優しい声と、体を揺すられたことで目が覚めた。
本音はもう少し見ていたかった……ってところなんだけど、今日は魔王様と地上に行く日だ。
大事な日に寝坊するわけにもいかない。
それになにより、昔の君を見なくても、今一緒に過ごせるこの時間の方が大事……。
そう思って、顔を上げた途端……僕は心臓が止まるかと思った。
「――っ!!!??? ユキ……!? 髪が……」
「あぁ、地上でアレは目立つだろ?」
髪が……髪が無い!!!!
僕の大好きな、ユキの長くて綺麗でサラサラの黒髪がっ!!!!!
震える手でユキの短くなった髪に手を伸ばすと、強いショックに襲われた。
本当に……無い!!! 触れない……あの長い髪に指を通せない!!
引き寄せて、抱きしめて、後ろを確認しても……ない!!! どこにも……僕のユキの髪がッ っ……!
「あぁっ、あぁっ……ウソだ……!」
ユキの背中の服を手繰り寄せるようにして震えた、なんで勝手に切っちゃうんだよ! 僕がどれだけ君の髪を好きなのか……!
そんな風に文句を言ってやりたかったけど、あまりのショックに言葉が出てこなかった。
「あぁぁ……ユキの髪がぁ!! ああっ!」
「落ち着け真里! 戻すから! な? だから泣くな」
ユキがパチンと指を鳴らすと、スラッと元の長い髪に戻った。
「へ? 戻せるの?」
「当たり前だろ」
「よ、よかったぁぁ……」
思わず伸びた髪に指を通して、そこにキスをした。
「まさか泣くとは思わなかった……」
「ごめん、ちょっと感傷的になってたみたい」
よく考えれば分かることだった、聖華があれだけポンポン見た目を変えているんだから、ユキにそれが出来ないはずがない。
寝ぼけて頭が回ってなかった。
「……短いのも似合ってたよ、もうしないの?」
「よく言う、もう泣かれるのは嫌だからな」
戻せるとわかれば、急に勿体無いことをした気分になった。髪が短いユキなんて、すごくレアだったのに……。
戻せるのなら、今度ゆっくり見せてもらおう。
なんなら幼い頃のユキだって、お願いすれば見せてくれるのかも知れない。たしか、若返る分には難しくないって、前に言ってたはず。
ユキが髪を器用に結んで、簡単にポニーテールにする。そんな珍しい仕草を見逃さないように見つめていると、ユキが苦笑した。
「現世に出てもおかしくない格好にするって言っただろ? 真里も着替えろ」
「うん……なんか今日は、珍しいユキをたくさん見れてる気がして」
「まだ家を出てもいないのにな」
ハハッと笑ったユキが、僕の頭をワシワシと撫でたかと思うと、あまりにも自然にチュッとキスされた。
「いつまでも裸でいると悪戯するぞ?」
「着替えます……!」
いつもと違う髪型をしてるユキに迫られると、すごくドキドキする。ちょっと悪戯して欲しい気持ちは、グッと抑え込んだ。
現世は今夏だから、まず僕もユキもいつもの黒い上着は脱がなきゃおかしい。あとは普段とほぼ変わらない格好で家を出たけど、ユキはいつも通りのゴツいロングブーツで、夏場にそれは目立ちそうだな……とちょっと思った。
「俺は真里を連れて直接現世に出れるが、せっかくだから現世門を見ていくか?」
「行きたい! あ、でも、魔王様のところに行かなきゃいけないんじゃ?」
「魔王様は俺たちが行けば、合わせて来るから大丈夫だ」
現地集合なんだ……護衛の仕事なのに!
「一応見に行くが、門はくぐらないからな」
「なんで?」
転移陣と一緒で、本来は門を通るのが正規ルートなんじゃ……?
「俺や魔王様が不在にしている事は、できれば知られたくないからな」
「あっ、そっか!」
今日の現世行きは内密だったもんね!
魔界のトップ不在は、確かに公にできる事じゃ無いな……ユキはよく現世に行ってたみたいだけど。
現世門へ向かう道中も、出来るだけ見られたく無いって事で、ユキは門が見える人気の少ない場所まで転移で飛んだ。
魔王様の直轄領にそびえ立つ黒い門と、対になったかのような……暗い魔界に浮かび上がる、真っ白な門だった。
装飾は殆どなく、それがかえって上品さを引き立ている、白磁のような質感に思わず見惚れた。
「きれい……」
あの門をくぐれないのかと思うと、少し残念に思うくらいに。
「一般悪魔は魔力量が多く無いからな、あの門を通る事で、現世に準備されている魂の入れ物で体を作る事になる」
「……じゃあ、僕たちは?」
「自分で作る」
「僕も!?」
「俺が作っても良いが、自分の魔力で作った方が馴染むぞ?」
わああっ、初めての事ばっかりでなんだか緊張してきた!
「あまりに魔力量が少ないと、現世に行くことさえできないからな……伊澄とか」
「そっか、現世じゃ魔力は回復しないんだったよね」
なのに、ユキは現世で大量の魔力消費をして、僕の願いを叶えてくれたんだよね……。
かなりの危険な事をして、僕の願いを叶えてくれてんだなって、胸の奥がぎゅっと締め付けられる気がした。
「じゃあ、行く前に少し回復しておくか」
「まだ消費してな……」
言い終わる前に唇を塞がれて、こんな外でキスしてる事に、思わず周りを見回してしまう。
「誰も居ない」
ユキにそう言われて、目を瞑った。
現世で何かあったらいけないし……そんな大義名分で、その心地よさを堪能すると、ユキがフッと笑った。
「これは、触りたくなって駄目だな」
「じゃあ抱きしめるだけ」
ユキを両腕で抱きしめると、ユキが抱き返してくれる。
「回復した?」
「もう少し……と、言いたいところだが、時間だな」
ユキが名残惜しそうに、最後にぎゅっと強く抱いて、僕から離れた。大事な仕事の前に、思いっきりイチャついてしまった。
「今の現世は真里の方が詳しいだろうが、あまり目立つことがないようにな」
「うん」
「それと、天界の面子から色々絡まれたりするだろうが、上手くやれ」
「う……緊張する」
「大丈夫だ、失礼がないようにとかは気にしなくて良い」
いや、気にするよ!
「魔王様と一緒なだけでも緊張するのに」
「それこそ気にしなくていい、魔王様は俺たちのことなんか眼中になくなる」
ユキが僕の肩を抱き寄せて、周囲が一瞬白い光に包まれる。
いざ、現世
僕が終わった世界へ。
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