死が二人を分かたない世界

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魔界編:第6章 拠り所

ギスギス直血会議

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 二人で報告書なんかを作っていると、部隊のみんなが事務所に出勤してきて、次に僕らは魔王様の元へ報告の為に直轄地まで赴いた。

 謁見の間の側面に位置する会議室のような部屋……前にユキを探しに来た時に案内された場所だ。中には魔王様、ハルキさん、覇戸部さんが待っていて……まぁ、いつも通りのメンバーだ。

 塗装のない無垢な木材で作られた床が高いこの建物は、不思議な事に新築の木のいい匂いがする。
 生前ならば……もしくは部隊のみんなとここにいたならば、それこそ胸いっぱいに空気を吸い込んで楽しんだところだ。けど、この面子でそんな行動ができるほどの神経は持ち合わせていない。

 部屋にはしっかりと僕のイスも準備されていて、左奥から魔王様、その隣に覇戸部さん、右奥にハルキさん……そして僕たちは手前のお誕生日席だ。

 促されるまま座ると覇戸部さんの近くにユキが座ることになってしまって、色々と失敗した……なんて内心舌打ちでもしたくなる気分だ。

「報告書の提出ありがとうございます、私も調べた事を一通り……ご存知かとは思いますが、実行犯の"鬼もどき"化した男は輪廻門へ飛び込みましたので、捕まえる事は不可能となりました」
 ハルキさんと目が合ったので、思わずうんうんと頷く。

「それと真里様の報告にあった特殊な髪色の協力者ですが、データ上には記録がありませんでした」
「……とすると、事件前に非公認の方法で染めたってことだな」
「わざわざ目立つ色にしているところを考えると、捜査の撹乱が目的かもしれませんね……」
 ハルキさんとユキが会話を進めているんだけど、僕としてはそこは少し違う様な気がした。

「……真里、何か気になる事があるなら言った方がいい」
「えっ! あ……うん」
 僕の匂いか態度からかユキに発言を促されて、全員の視線が自分に向いてうろたえてしまう。
 この中で発言するってなかなか緊張すると言うか、萎縮すると言うか……魔王様と直血の集まりだから、プレッシャーがすごい!

「あの、二人の髪色がすごく似ていて……撹乱っていうより、同志っていうか、もっと絆みたいなものを感じたと言うか」
「なるほど、真里様は二人に何かしらの縁があるとお考えなのですね」
 ハルキさんにそうはっきり言い切られると不安になるんだけど……。
「……はい、確信はないんですけど」
「動機を特定するために必要な情報です、ありがとうございます」

 反応が怖くてチラッと魔王様を見ると、口元だけ微笑を称えたほぼ無表情で正面のハルキさんを見ている……正直怖い。
「他にも何か気づいた点はありませんか? 真里様は唯一個人として狙われていますから……可能性は低いと思いますが怨恨の可能性も含めて」
「面識はなかったと思いますけど……」
 密かにユキの事を想い続けてたとか、ファンクラブ会員だって言うなら恨まれててもおかしく無いけど。

 ユキが足を組み替えながら、イスの背もたれに寄りかかる。
「転生院での件でも真里の顔は割れてたみたいだしな……俺は真里が狙われているんだと思ってるがな」
「ユキ様は少し、真里様の事に思考が傾倒しているような気がしますがね」
「いいんだよ、俺は真里の事以外はどうでもいい」
 ハルキさんのもっともな意見に、ユキはびっくりするような回答をした。そんな事魔王様の前で言っても大丈夫なの!?

 魔王様は相変わらず表情は変える事なく、口元だけ微笑みながらユキを見ていた。
 いや全然分からない、何を考えてるのかさっぱり読めない! そしてその隣の人は、相変わらず不愉快そうに僕を睨んでくる。

 ハルキさんは一瞬こちらのピリついた空気に視線を向けたが、興味が無さそうに書類に視線を戻した。

「実行犯の二人の確保は出来ませんでしたが、人物の特定はもうすぐ出来るかと思います……ただ、今のところ主義主張などの話が一切無いので、動機の解明が難しいですね」
「そういえば一言も声を聞かなかったな」
「ユキ様の耳で聞こえなかったのであれば、喋らなかったのでしょう」

 あれだけ大掛かりな事件を起こして、最後には自分の魂を転生させてまで逃げきった。それなのに主張することが何もないなんて、違和感でしかない。
「まぁどんな理由であれ、こちらとしては被害者は0ですし、ユキ様の権威が上がりましたので、申し訳ないことに良いことしかありませんでしたけどね」

 それはどう考えても結果論だけど……。
 またしても原因究明に至らなかった事がよほど悔しいのか、ハルキさんの言い分はまるで負け惜しみのようだ。

 幸か不幸か昨日の件で、ユキは多くの人からの感謝や尊敬の念を集めている。恐らく今日発刊の新聞辺りも、大々的に取り上げている事だろう……。

「最近ユキ様は緩んでいるようでしたから、おあつらえ向きでしたね」
「あぁ? 言うようになったじゃねぇか」
 ユキは足を組み替えながら、頬杖をついて挑発するようにハルキさんを煽った。
 怒っているわけじゃないんだろうけど、ズンと重いプレッシャーをハルキさんに向けて放っている……。

 それは流石に怖いんじゃないかとハルキさんを窺うと、仮面の下が少し戸惑うような反応を見せた。
「——っ、最近は言ってもいいと思えるくらいの雰囲気でしたよ」
「……そうか、気を付ける」

 僕が初めて参加した直血会議は、こんな感じで非常にぎくしゃくしたまま終わったのだった。
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