死が二人を分かたない世界

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魔界編:第6章 拠り所

夜空に煌めく

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 普段自分が使っている側だから……絡まった瞬間にそれが自分を拘束するものだと分かってしまった。
 しかも僕たちがいつも使っているのと同じタイプ、対象を捕まえた時に、一番近い壁か床へと固定して動きを制限するものだ。

 両手首に絡まったかと思うと、それはお互いを引き寄せてくっつき手錠の様になる。そのまま地面へ吸いよせられるように倒れる感覚に、顔面を強打する覚悟をしてギュッと目を瞑った。
 けれど僕の頬に当たったのはやわらかいクッションで、そこから香るユキの魔力に思わずホッとしてしまう。

 右足と両手首を地面に固定されてしまい、うまく動けない……必死に顔を上げて見まわすと、大通りに集まっていた周りの人たちも、次々と動けなくなっていた。
 僕の足に刺さっているのと同じ、青白く淡く光る槍の形をした捕縛具が、七夕祭りに集まった人達を拘束していく。

「なにこの状況!?」
 さすがにお祭りのイベント……ってわけじゃないよね!?
「クソッ、外れないな」
 ユキがしゃがんで僕の手首の拘束を解こうと試みるのだけど、半分くらい解除しては再度リセットされるような感覚があった。

 中の仕組みを自分なりに解析してみたけど、あまりにも複雑で頭が痛くなった。僕なりに分かったことは、すごい数のカギが内蔵されていて……絶対に解除させるものかという、製作者の意地が込められているという事だけだ。

 ユキが解除に集中しているのを危うく感じて、せめて視界だけでもと周囲を警戒した。こうしている間にも、槍が刺さって地面へ倒れていく人は後をたたない。
 助けようと駆け寄ってきた人達まで巻き込まれて、二次被害まで発生している! 早く対処しないと、時間をかければかけるほど被害が広がりそうだ。

 見渡すとちょうど被害が発生しはじめた辺り、僕たちから7、8軒ほど先の商店の瓦屋根の上に、明らかに怪しい人影を見つけた!
「上に誰かいる!」
 僕の声にユキが解除を止めて視線の先を確認する。タイミングよくその人影は下を確認するように、暗がりから明るいところへ歩み出てきた。

 金髪に白ジャージと、黒い屋根には目立ち過ぎる色合いに……その額には遠目でわかるほどハッキリと角があるのが見えてしまった。

「鬼もどきだ」
「ハッ、緘口令もクソもねぇな」
 見た目からしても異形なその存在に、周囲がざわつきはじめる。とうとう大勢の人を巻き込んで事件を起こした、これ以上この存在を隠すことはきっと難しいだろう……。

 見つけてしまったからには、ユキはこの枷の解除に集中するわけにはいかない……それでもユキは"鬼もどき"へと視線を向けたまま、僕の手首の解析を進めているようだった。
 "鬼もどき"が捕縛具を使用しているような素振りはない……どこからともなく現れる光る槍に、この場にいる人たちは戸惑うばかりだった。

 周囲を確認した限り、僕の手首に着いているような特殊なものは他にないみたいだ……どう考えても特別に作られたであろうこの手枷は、もしかして僕を狙ったもの……?
 しかしその理由がわからない、ユキでさえ解除に手間取るほどのものを用意しておきながら、ユキをフリーにしているのは一体なぜなのか……犯人の意図が読めなくて気持ち悪さが増した気がした。

「屋根の上からにしては軌道が平面的すぎるな」
「協力者が居るってこと!?」
「恐らく……」
 そうユキが口に出すと、わざと狙ったかのように僕らの方へと槍が飛んでくる。普通の人ならどこに触れようと拘束される仕組みだけど、ユキはそれを難なく手の甲で弾き返した。

「ユキ、屋根のアイツだけでも捕まえて!」
「ダメだ、真里が狙われている可能性が高い」
 ユキも僕と同じ考えか……そう考えるのが普通だけど、どうしても違和感がある。僕が捕まった事で二人とも身動きが取れない……もしかして犯人はそれが狙いなのか?

 ユキが近くに飛んできた槍を何度か打ち落としていると、注意が逸れた隙に屋根の上の"鬼もどき"が動きを見せた。
「ユキ!」
 声をかけたけど間に合わなくて、"鬼もどき"は屋根の上から、袋に入った大量の紙切れをばら撒いた。
 しかもその紙切れはまるで意思でもあるかのように、フワフワと風もないこの通りの上空を埋め尽くしていく。

「転移陣……か?」
 ユキの声に見上げれば、僕たちの真上にもその紙は流れてきていた。ユキがしているように魔力で視力を上げると、小さな紙切れ一つ一つに魔法陣のような模様が確かに見えた。

 瞬間、屋根の上の"鬼もどき"の前からと、僕らの後ろから……波紋が広がるように全ての紙きれが青白く光っていく。一面を埋め尽くすそれはあまりにも綺麗で……周りの人と一緒に思わず目を奪われた。

 しかしそんな幻想的な光景は一瞬で打ち壊された。紙切れの数だけ転移してきたものは、長さもバラバラな、鋭利な刃物だった。
 この場にいる全員がこれから起こる惨劇に青ざめた……動けない状態で落下してくる事が予想される大量の刃物。いくら治癒力が高い悪魔とはいえ、痛さは生きていた時とそう変わらない……血だって出るし、ここが血の海になることは誰だって想像できた。

 そして悪魔の治癒力には限界がある……魔力の量が少ない人や、今回復できていない人たちは……もしかしたら魂ごと消滅してしまうかもしれない!

「ユキ、僕はいいからみんなを……!」
「その願い叶えてやろう」
 自信ありげにニヤリと笑ったユキは、左手で長さが2メートルはありそうな大太刀を一瞬で作り上げた。
 その大きさと長さに呆気に取られていると、頭上に転移してきた大量の刃物が落下をはじめた。
 周辺の人たちは頭や体を庇って、これから起こる出来事に少しでも対処しようとしていた。なのに僕は見惚れてしまった……ユキのそのあまりにも綺麗で無駄のない、鮮やかな動きに目が離せなかったんだ。

 ユキは左手に持った鞘を投げ捨てるように、衝撃が起きるほどの速度で刀を振り抜いた。
 強烈な風を起こしながら斬られた空気は、刃のように大通りの上空を走る。人々の上に落ちるはずだった凶器を打ち砕きながら、その空気の刃は"鬼もどき"のいる屋根を破壊した。

 粉々になった金属が上空から降り注いで天の川のようにキラキラと光った。まるで七夕のイルミネーションのような光景に、絶望と恐怖の悲鳴に満ちたこの場から、感嘆の声が漏れはじめた。
 
 本当に全員を救ってしまった……!

 キラキラと光る景色の中、それをやってのけた人物があまりにも凛々しく綺麗で、鳥肌が立つほど背筋が震えた。
「……転移陣で逃げられた」
「えっ!」
 まるでお伽話のような幻想的な光景から、いっきに現実に引き戻された気分だ。今のシーン、写真に収めて何度でも見返したいくらいだったのに……。

 ユキがしゃがんで再び僕の手首へと集中する……けど、協力者がいるってユキは言ってた! 僕にだけ構っているような状況じゃないはずだ。
「ユキ、僕はこのままでも大丈夫だから! もう一人……」
 そう言いかけたところで、背中にゾクリと視線を感じた。拘束されたままできる範囲で後ろを振り返ると、建物の影からジッとこちらを見つめる人影があった。
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