死が二人を分かたない世界

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魔界編:第6章 拠り所

緩む頬

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「わーお、真里って意外と情熱的なんだねー」

 僕は事務所に出勤して、開口一番にルイさんから言われた言葉に首を傾げた。

 意味がわからず隣のユキを見上げると、その顔はニヤリと意地悪く笑った。
「いいだろ? これ」
 そう言って指でトントンと示した先は、ユキの左側の首筋……って、忘れてたっ!
 思わず自分の首を手で隠して、そういえば伊澄さんもそんな事してたな……なんて思い出して苦笑いした。

「忘れてた……どうしよう」
 勢いで付けたとはいえ、後先考えなさ過ぎだ。お互い同じ場所につけたキスマーク……流石にこれは恥ずかしい。
 心から困った顔をしてユキを見れば、可笑しそうに笑いながら僕を追い抜いて、いつものソファーに腰を下ろした。

「なんだ、もう後悔してるのか? あんなに嬉しそうに……」
「わーっ! ここでそういう話やめて!」
 周りの視線が痛い! これじゃあ僕らは職場でイチャつくバカップルだ! いや、その通りなんだけど……。

「消せんこともないが……消すか?」
 ユキは少し寂しそうな声色で、僕もそれには賛同しかねた。以前ユキは旅館に泊まった時のキスマークを綺麗に消してくれけど、今回はお互い特別な気持ちを込めたから、僕としても消したくはなくて……。

「絆創膏でも貼っとけばー?」
「そうします……」
 ルイさんがいつものニコニコ笑顔で提案してくれたので、それに乗ることにした。
「俺は隠さないけどな!」
 ドヤッと効果音がつきそうな顔で、両腕を組んだユキが言い放つのだけど、一番恥ずかしいのは毎日視界に入れる僕だった……ユキは僕のものだと主張できるのは、正直少し優越感があったりするんだけど。

 そんなやり取りをした首筋の痕も、一週間もすれば綺麗に消えてしまった。ユキの事を自力で調べようと意気込んだはいいものの、部隊に配属されたばかりの僕にそんな時間も余裕もなかった。

 この一週間で得た情報といえば、思ってる以上に僕の顔はユキの眷属として知れ渡っている事だった。巡回して顔を出すいろんな場所で、いろんな人にユキとの事を聞かれたり、ご機嫌取りをされる事もあった。
 なんだか自分がユキの評判を一緒に背負っているようで、下手な事は出来ないなぁと身の引き締まる思いだ。

「あの……ここでは常識なのかもしれないですけど、なんで僕の顔ってこんなに広まってるんですかね?」
 事務所に戻って治安維持部隊のみんなに問いかけると、一同の視線は僕に集まった。
 ユキの眷属って唯一の存在らしいから、噂として広まってるのは理解できるんだけど、なぜ顔まで割れてしまっているのか……。

「あぁ……そう言えば誰も真里に言いませんでしたね」
 カズヤさんがルイさんを見て、ルイさんは自分の仕事デスクの引き出しを開けて戻ってくる。
 手には1冊の雑誌を持っていて、それは漫画雑誌ではなく表紙に目立つ色の活字の並ぶ、ゴシップ系の週刊誌のように見えた。

「真里がここに配属される前日に、これが発売されたからだろうねー」
 ルイさんが開いたページに目を見張った。
"No.2ユキの眷属、その実力に迫る!"
 そんな大きなタイトルに、僕の写真がバーンっと掲載されているのである……ちょっと待って! こんな写真撮られた記憶ない!

「なっ……こういうのって本人の許可とか無しで発行されちゃうんですか!?」
「発行されちゃうんだよねー! 特にユキはここでは有名人だしー! 今後真里も狙われるかもね」
 ケラケラと楽しそうに笑うルイさんの手から、そのページを開いたまま雑誌を受け取る。この写真も記事内容も……どうやら転生院の"鬼もどき"事件の内容みたいだ。

「こんな写真どこから……」
 不思議そうにした僕の後ろからユキが覗き込んできて、あぁ……と一人納得したように笑った。
「これは転生院の防犯カメラの映像だろうな」
「防犯カメラ……」
 そういえば建物を修理してる時に何台か見かけたかも……。

「つまりこの情報をリークしたのは……」
「吉助だな、あいつ金になるならなんでも売るからな」
 吉助さんんんっ……! 今度会ったら絶対クレーム入れてやる!
「ははっ、真里が不満そうな顔してるぞ! ルイ、この雑誌俺にくれないか?」
「別にいいけどー、ファイリングでもすんの?」
 そんなユキとルイさんの会話が聞こえる中、雑誌の内容を読み進める。

 転生院の事件のことが書かれているのに、記事内容は"鬼もどき"について触れていない。転生院で勤務していた二人組の暴走として、内容は書かれていた。

「これ……なんで"鬼もどき"について触れてないのかな?」
「あの現象についてはハルキから緘口令が敷かれている……って、俺真里に言わなかったっけ?」
「……聞いてないよ」
 誰にも言ってない筈だけど、ちょっと自信ないかも……。

「他に何か伝え漏れてることってない……?」
 ユキは割と大事な事を伝え忘れるから、こっちから積極的に聞いていくようにした方が良い気がする。
「あぁ、さっき伊澄から一度管理課の様子を見に来て欲しいって連絡があったぞ」
 聞いたらなんか出てきた……まぁ、これに関しては僕が巡回から帰ってきたばかりだから、言い忘れてたわけではないと思うけど。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」
 ここ一週間調べ物をする機会なんてなかったから、これはチャンスかも知れない……そんな気持ちもあってすぐに事務所を出た。
 事務所を出てすぐにユキに引き止められて、振り返ろうとしたところで背中が温かい体温に包まれた。

「ちょ、ユキ!?」
「寂しくて俺が不機嫌になる前に帰ってこい」
 予定としては、ちょっと行ってすぐ帰ってくるだけなのに……! 
 誰かに見られてやしないか見回して、周りに誰もいない事を確認してからユキの胸に頭を預けた。
「すぐ帰ってくるよ、行ってきます」
 ユキを見上げながら言うと、嬉しそうにしてから顔を寄せてくるユキに、僕も思わず顔が緩んでしまう。

 管理課の事務所に向かいながら、最近ユキはデレ度が増してるなぁ……なんて、一人ニヤニヤしていた。人前でイチャつくのは僕が嫌がるから、最近は人目を気にしてくれるようになっているけど。
 ユキは千年待っていた分を取り戻すように触れてくるから、僕もまぁ、いっか……と流されていた。

 一週間ぶりに顔を出した管理課では、特に変わった事は起きていないようだった。伊澄さんや他のメンバーには声をかけられるが、聖華の反応はない。
 伊澄さんに手招きされて、近くに寄ると耳打ちされた。
「最近またサボってるから、喝入れてくれ」
 そう言って指差された先は聖華のデスクで、当人は机に背を向けてガサガサとなにかを漁っていて、こちらには気付いてないようだ。
 よくみるとデスク周りは書類が溜まってきている……これはほぼ仕事をしてないんじゃないか?

「こら、またサボってるだろ!」
「わっ! 真里!?」
 飛び上がるように驚いて、聖華は漁っていたものをあからさまに隠した……が、その拍子に中身がこぼれ落ちて隠した意味は全く無かった。

 こぼれ落ちているのは、ユキと僕で作った魔力飴だ。チラッと見えた様子から、以前吉助さんから買っていた時よりも増えている気がする……コレクションでもしているんだろうか。

「別に隠さなくても……」
「だって、取り上げられたらヤなんだもん」
「今更そんなことしないよ」
 飴の入った袋を大事そうに両手で抱える聖華に、極力優しく笑って見せた。聖華がそれを性的に消費する宣言をしていたので、多少苦笑いだったかもしれない。

 床に散らばった飴を聖華が拾い集める。ユキの作った紫をメインにした七色の飴と、僕が作った赤ベースの飴……そこに赤黒い見覚えのない飴が1つ混じっている。
「その飴、なに……?」
「あ、これでしょ?」
 聖華がその飴を回して見る、包装紙は僕達が作ったものに類似している。けれど、ユキも僕もこんな色の飴を作った記憶はない。

「魔力の含有量的に、類似品だと思うんだけどぉ……やっぱこれ、真里が作ったんじゃないのよね?」
「うん、それは見覚えないかな」
「そうよね、真里が作ったにしてはちょっと邪悪な感じの魔力だもの」
 魔力に邪悪とかあるのか……悪魔の魔力なんだからみんなどっちかというと悪寄りなんじゃないの? なんて少し思ったけど。

「そんで、真里は何しに来たの?」
「伊澄さんに頼まれて、最近サボってる聖華に小言を言いに来たんだよ」
 揶揄うように言うと、聖華はオーバーに目を見開いて顔芸をするので、冗談だと笑い飛ばした。

「伊澄さんに呼ばれたのは本当だけど、僕の目的としては調べ物なんだ」
 管理課に在籍中にダメ元でユキの情報を調べたこともあるけど、そもそもデータベースに登録されていなかった。

 あとの可能性としてはアナログベースの書類情報だ、そしてそれについて一番見識が深いのは恐らく聖華。ユキの書類が閲覧制限で見れないのは分かってるけど……。

「ねぇ、閲覧制限を破る裏技って無いかな?」
 小声で聖華に打ち明けると、聖華が僕の方を見て意味ありげにニヤリと笑った。
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