死が二人を分かたない世界

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魔界編:第5章 維持部隊

首筋に残す赤

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 ルイさんと食事した後の帰宅は20時近くになっていた。それでもユキはまだ帰ってない様で、正直少しホッとした。ユキには何も言わないままの外食だったから、先に帰ってきていたら心配させるところだった。

 支給されてるインカムは常に携帯しているから、何かあれば連絡は取れる。せめて一言連絡を入れたかったけれど、魔王様との会議だから邪魔するわけにもいかないし……。
 こういう時メールがないと不便だ、ユキが使ってないだけでこの世界にも存在してるのかもしれないけど。

 そんな事を考えていると、玄関からただいまって声が聞こえてきた。
「おかえりなさい」
「ん? 出てたのか?」
「うん、ルイさんにご飯に連れていってもらったよ」
「そうか」
 僕は帰宅するといつも上着をクローゼットにかけて、グローブを外す。まだ帰ってきたばかりで外出時の格好のままだったからか、ユキはすぐ分かったみたいだ。

 ユキを出迎えるように近くへ行くと感じる、魔王様とハルキさんと……そして覇戸部さんの残り香。

 香りがするわけではない、そこに残るものがあるんだ。最近魔力の探知制度が上がったせいか、魔力量が多い人の残留魔力を感じる様になった。
 魔王様やハルキさんはまぁ置いておいて、覇戸部さんの魔力がユキにまとわりついているのはなかなか不愉快だ。

 特に思念が乗っているせいなのか、覇戸部さんの魔力はしつこく残る、まるでユキの体を触られている様でイライラする。

「ユキ……」
「ん? なんだ? 寂しかったか?」
 ブーツを脱いで上がってきたユキを抱きしめると、ユキも優しく抱きしめ返してくれる。前側に付いてるものは体で押しつぶして、背中に付いてるのを手で払った。

 シッシッ! 早く消えろ。

「ウッ……くっさ、ルイの煙草の臭いがする」
「えっ! ごめん! 帰ってくる前に消臭したんだけど」
 ルイさんもユキを気遣ってか二人で服を叩いたり、消臭スプレーを振り撒いたりしたんだけど……ユキの鼻の良さを侮ってたみたいだ。

 明らかに不愉快そうな顔をするユキに、ちょっと心が傷つく……うぅ、次があったら煙草は控えてもらおうかな。
「ごめん、お風呂入ってくるね!」
「いや、俺が落とす」
 ユキが僕の耳元で指をくるくる回すと、僕の体に付着していた微かな魔力が集約されていく。
 集約された魔力をユキが圧縮して、ぎゅっと握り込めば手のひらの中に消えていった。

「すごい……それで臭いが落ちたの!?」
「煙草の魔力カスを取ってしまえばいいだけだ」
 そんな微量な魔力を探知するのも大変だし、それをかき集める技術も……ユキは器用すぎる。

 長い髪をかき上げながら、ユキが僕の首元にキスを落とすと……気付いてしまった、幸せな気持ちが一気に醒める。
「ユキ……ここ、首元に覇戸部さんの魔力を感じるんだけど……」
 それはもうユキがいう魔力カスなんて可愛いものではない、執着と意地で自分の痕跡を残そうとした意志がある魔力の残骸。

「……まさか、触られてないよね!?」
「あー……いや、触られたな。手は叩き落としたけどな」
「なっ! 次からは触られる前に気づいてよ! ユキって意外と隙が多いから、次は絶対ついていくか……」
 最後まで言い終わらないうちに、ユキは僕を両腕に抱きしめた。周りが一瞬明るく白くなったかと思ったら、寝室のベッドの上だった。
 ユキがベッドに寝ていて、僕がその上に乗ってる状態で……強く抱きしめられると、ユキの心臓の音が聞こえる。

「また、魔力の無駄遣いしてる……」
「いいんだよ、今から真里と回復するんだから……また俺以外の魔力で回復してる分上書きしないとな」
 ユキが僕の顎を掴んで顔を寄せるけど、僕はその唇を指で止めた。
「あの人の魔力が残ったまましたくないよ」
 下唇を突き出して不服を顔に出すと、ユキは心底嬉しそうに笑う。

「じゃあ、真里が消して」
「えっ……どうやって」
 僕はユキみたいに器用に魔力の操作が出来るわけじゃないから、ユキがして見せたみたいに難しいことは無理だ。
「一番簡単なのは、もっと強い意志で打ち消す事だな」


 ユキがゴツい首輪を下げて、白い首筋を僕の眼前に晒す……。
「好きにしていいぞ」
 その仕草に思わず喉が鳴る……脳裏に浮かんだのは昼間の映像、ユキの赤く染まった唇。ユキの白い肌には赤が映える……それは見惚れるくらいに綺麗で、その首筋に赤く僕の印を残せたら……どんなに……。

 吸い込まれるようにその首に顔を埋めて、舐めて吸い付いた。あの人の痕跡を消すように、ユキが僕だけのものになるように……。
 誰も寄せ付けないで、誰にも触られないで。ユキは僕のものだって、誰が見ても分かるようにしたい。

「熱っ……魔力使ってまで残したいのか?」
 ユキが僕の頭を撫でて、その言葉が思考に入り込むとハッと我に返った。
 唇を離して確認すると、ユキの白い肌に真っ赤に痕が残って……そこをユキが愛しそうに指で撫でる。

「これは当分消えないな……?」
「ごめん! こんな目立つところに……!」
「俺は嬉しいけどな。どうだ、アイツの魔力は消えたか?」
 ユキの首元にまとわりついていた残留物は、綺麗さっぱり無くなっていた。

「消え……てる」
「じゃあ、俺への執着は真里の方が強かったってことだな」
「当たり前だよ! どの世界の誰よりも、僕が一番君を愛してる」
 ユキの両頬を手で包んで、上から覆い被さるようにキスした。誘われるままユキの口内へ舌を入れると、舌を吸われて、撫でられて、絡ませ合って……だめだ、思考が鈍っていく。

「俺を独り占めしたい?」
「……したい」
 ユキが僕の唇を舐めてから、吸い付くようにチュッと音を鳴らした。味わうように再度ユキの唇を貪ると、ユキが僕の手を自分の体を這わせるように移動させていく。

 意識は口元から自分の手へと移る、ユキの体を……触ってる! もっと触りたい、触れ合いたい、服のその下の温かくて白い肌に直接……。

「真里に触られると気持ちいい」
「——っ!!」
 頭が沸騰しそうだ。
 僕が触れるとユキは嬉しい? そうだ、僕だってユキに触れられたら嬉しい、ユキだって同じなんだ。

 筋肉も脂肪もない薄いそのお腹を撫でると、ピクッと反応する。もっと触りたい、ユキの……ユキの……?

 その肌に触れたい、もっと気持ち良くしたいって気持ちはあるのに、どこに触れたらいいのか、どこは嫌がるのか分からない!
 気持ちだけが逸って、思考がぐるぐる巡る。気持ちと一緒に体も興奮していて、自分の荒くなった呼吸が、余計にみっともなさを演出している。

「真里……」
 優しく呼ばれて目が合う、上から見下ろしたそのまつ毛の長さに一瞬見惚れた。
 視線を釘付けにされたかと思ったら、お腹のあたりが動いて……そちらに視線を送ると、ユキが僕を誘うように服を艶かしくたくし上げて……白い肌が……!!

「あわっ、あわわわわっ!」
「なんだその反応」
 まさに動揺して、狼狽した。脳みそが完全にオーバーヒートだ! 僕には刺激が強すぎる!
「もう触ってくれないのか? それなら俺からいくぞ?」
 ユキが僕の背中に腕を回したかと思うと、いとも簡単に上下は逆転した。背中に柔らかいベッドの感触、下半身に感じるユキの体重、サラサラと落ちてくる綺麗な長い髪。いつも見てる光景、何度見ても心臓がドキドキする。

「うん、俺はやっぱりこの眺めがいいな」
 ニヤリと少し意地悪く口の端を上げて、ユキの顔が僕の首元へと埋まった。
 今までで一番ってくらい強く吸われて、すごく熱くて、ユキが僕にも印を残してくれるのが嬉しかった。
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