死が二人を分かたない世界

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魔界編:第3章 お仕事

独占欲

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 ユキとの温泉街の散策は楽しかった、まるで本物みたいな香りがする街中、知らない道を二人で歩くのは、ちょっとした旅行気分だ。
 さっきまで命を狙われるような仕事をしてたのに、相変わらずの切り替えの速さに、自分でも笑ってしまう。

「ユキとこうしてゆっくり歩けるの、楽しいな」
 少し前まで人前で手を繋ぐのも恥ずかしかったのに、今はすれ違う人たちがそんな僕たちを見ているのが少し嬉しい。
「デートだな」
「デートだね……へへっ」
 顔が思わず緩んで、なんとも気の抜けた声を出してしまったけど、ユキはそんな僕を愛しそうに目を細めて見るから、幸せ過ぎて少し照れてしまう。

 今はお祭りをやっていた商店街みたいなところから離れて、木造の立派な建物が並ぶ区画を歩いている。塀が途切れたところの門には、〇〇亭、〇〇の宿……なんて看板が掲げられていて、もしかしなくてもこの辺は旅館が並んでいるんだろうか?

「せっかくここまで来たんだし、寄っていくか?」
 ユキが軽いノリで、一際立派で大きなお宿の門を親指で指した。
「そ、そんな……ファミレスにでも寄るみたいに!?」
 若干及び腰になった僕の肩を抱いて、ユキがそのまま入り口へと突き進む。
「お祭りもあったし、予約でいっぱいなんじゃ!?」
「大丈夫、大丈夫」
 僕の心配を軽く受け流したユキは、なんの躊躇もなくその旅館の入り口をくぐった。

「いらっしゃいませー……ユキ様! お待ちしておりました!」
 僕たちが入ってくるのを見つけ、受付の男性がハッとして駆け寄ってきた。
 ちょっと待って! お待ちしてましたってどういう事!?

「思っていたより早くお越し頂き、有難うございます」
「なんだ? 残念の間違いじゃないのか?」
「滅相もございません」
 うやうやしく二人分のスリッパを差し出され、僕は困惑するばかりだった。
「お履き物は脱いでいただいても、そのままでも構いません。お部屋へご案内いたします」

 そのツルツルに磨き上げられて光る木の床を、靴のまま上がるのは憚られた……ユキが手を繋いで支えてくれながら靴を脱ぐ。
 視線を上げると、いつの間にやら沢山の従業員らしき人達が並んで深々とお辞儀していた。
 何これ……こんなの現実で本当にあるんだ。

 ユキは無遠慮にゴツくて黒いブーツのまま進む、もちろん汚れないこの世界では、ユキの足跡がついたりはしない、床は磨かれたままの輝きだ。
 従業員はみんな男性だった、やっぱりこの世界は女性が少ない。深々と頭を下げる人達に萎縮ながら広間を抜ける。

 風情ある廊下を進んでいくと、枯山水がライトアップされて映し出されている。ほとんど夜のこの世界では、光の使い方がとても上手い。淡い光で優しく照らし出される庭は、思わずため息が出そうなほど綺麗だった。

「ユキ……もしかして予約してたの?」
「あぁ、真里がこっちにきてからすぐな」
「へぇ~……へっ!?」
 庭の綺麗さに見惚れて、危うく聞き流すところだった!
「いつでも連れてこれるように毎日部屋を整えて貰ってたんだが、こんなに早く来れるとはなぁ」
「そんな事したら旅館の人に迷惑なんじゃ……」
「宿泊料は毎日正規の金額を支払ってたぞ?」
 少し後ろをついていってた僕を振り返り、ユキがニヤッと笑った、金持ちだ……セレブだ……! 普段のユキからは想像もできないVIP対応を時折目にして、僕はいつも驚くばかりだ。

 案内された部屋は広い畳の部屋が二部屋、間のふすまは全て開け放たれていて、かなり開放感のある上品な部屋だった。
 部屋の向こう側は全面ガラス張りで、その奥には庭と露天風呂が二つ。部屋の左側には檜風呂がガラス越しに見えた、こっちも屋根はあるけど露天だ……部屋にお風呂が三つもあるんですけど!?

 右側の部屋の奥には床の間……一枝、季節外れの綺麗な梅の花が……。

「ご夕食は如何なさいますか?」
「俺は必要ないが……真里は?」
「あ……僕もさっき沢山食べたから、でもこんな素敵なお宿のご飯は気になる」
「じゃあ、朝飯は二人で食べようか」
 ユキも一緒に食べてくれるんだ! 嬉しい!

 ユキは部屋の案内役の人を早々に帰して、そこでやっと靴を脱いだ。黒くて長くてゴツくて、ベルトがいっぱいついてる靴は脱ぎにくそうなんだけど、ユキの足はすり抜けるようにブーツを脱ぐので一瞬だ。
 先に部屋に上がった僕は、露天風呂や、湯気を上げながら落ちる庭の滝よりも、床の間の梅の花に吸い寄せられた。

 僕の好きな花……雪景の花だ。

「1番気になったのは梅の花か?」
「梅の花、昔から好きだったんだ……君がそこに居るみたいに感じられたから……」
「そうか」
 ユキが僕の頭を撫でる、見上げるとまた優しく微笑みかけてくれた。胸がギュッと締め付けられるみたいだ、僕はユキの事が好きすぎて、どうしようもないらしい。

「俺としてはこっちを気にして欲しかったんだが」
 そう言ってユキが僕に見えるように体を退かすと、そこには1組の大きな布団が既に敷かれてて!
「な、なんでもう布団が!?」
「そりゃあ、そういうことする為だろ?」

 ユキが僕を軽々と抱き上げたかと思うと、ふかふかのその布団へと寝かされて、これから起きる事が分かって体が強張る。
「な、なんで……だって!」
「旅館に連れ込んだんだから、するに決まってる」
「——っ! でも……!」
 ユキが僕の首元に顔を埋めて、唇が触れて、チュッと吸いつかれて……もしかしてキスマーク付けてる!?

「嫌か?」
「あっ……いやじゃない、けど」
「……けど?」
「お、温泉とか……入ってから……そういう雰囲気になるのかと……思ってたから」
 少し恥ずかしくて、目線を逸らして吐露した。ユキの額が僕の肩口に埋まって、はぁ……と甘いため息が聞こえる。

「そうか、真里もちゃんとそのつもりで付いてきてくれたんだな」
「それは、そうだよ!」
「嬉しい」
 ユキの顔が上がって、目が合って……見つめ合いながら距離が近づいて、ゆっくり唇が触れ合う。
 何度か優しく触れるだけのキスをされると、気持ちよさと、愛しさと……ほんのちょっとの物足りなさを自覚した。

「本当はちゃんと休みを合わせてから、ここに来るつもりだったんだ」
「そう、なんだ?」
「でも我慢できなくなった」
 またユキが触れるだけのキスを落とす、もっと気持ちいいキスもしたい……けど、ユキの話も聞きたい。

「今日、輪廻門開いたから? 魔力使いすぎた?」
「それもあるが……」
 今度は僕の口を割って舌が差し込まれて……待っていた刺激に嬉しい半分、でもさっきよりユキの話が気になってて、でも気持ち良くて……。
「真里、キス好きだな? 嬉しそう」
「ユキとしてるんだから……好きに、決まってる」
「もっと俺を感じて、俺で魔力回復して」
「んぅ……」
 ユキが何度も角度を変えるように深くキスして、ただ何か焦っているような、貪欲に、貪るようにされて……少し心配になる。

「……どうしたの?」
 一瞬口を離した隙に、ユキの頬を撫でてその目を覗き込んだ。
「真里が……俺以外の魔力で回復してるから」
「……え?」
 少し拗ねたような顔をしたユキが、身に覚えのない事を言う。
「俺は真里でしか回復できないのに、他人の魔力で満たされてる真里を見たら、我慢できなくなった」
「……もしかして、屋台の食べ物に妬いてるの!?」
 それには答えないユキが、バツの悪そうな顔をして額に額を当ててグリグリとしてきた。
 そっか人が作った食べ物は、つまりは作った人の魔力の塊なわけで……。

「嫌なら嫌って言ってくれて良かったのに」
「嫌じゃない、幸せそうに食べてる真里は好きだ……でも、俺で満たしたいんだ」
 ユキの指がお腹を撫でて、下へ降りてきて……僕の下腹部まで到達する。
「さっき回復した分、全部上書きするくらい……ここを俺ので満たしたい」
「……っぁ」
「愛させて」
 そんな色っぽい声で囁かれたら、腰が砕ける……!

 耳を舐められて、甘く噛まれて……下腹部の手はそのままに、もう片方の手が今度はお腹から上がってきて、服がめくれ上がっていく。ユキを見ると、視線が絡んで目が離せなくなった。
「いい?」
「ん……」
 僕は頷くのが精一杯で、甘える様にユキの胸に縋り付いた。
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