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魔界編:第2章 繋がる
応戦
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「真里、回復させてくれ」
ユキが抱きしめた腕に力を込めて、更にギュッと強く抱かれた。
普段なら人前で抱き合ったりするのは好きでは無いのだけど……今日は僕も不安だったから、特に抵抗はしなかった。むしろ抱きしめ返したい……ハルキさんの前だけどいいだろうか。
「ユキ様、明日はお願いしますね」
ハルキさんの声で、ユキの背中までまわしかけた手が止まった。
「あぁ、分かっている」
顔をムッとさせたユキがハルキさんにつっけんどんに返事をする、明日……何かあるのだろうか、もしかしてその打ち合わせだった……とか? 話からするとそう考えるのが妥当だ、やっぱり僕は思い込みで突っ走ってしまったんだろうな……。
「明日は真里様もご同行ください、管理課の方へは私の方から連絡しておきますので」
「はい……」
なんの話か分からないまま、ただユキと一緒に居られるならそれでいいと思って返事した。
ユキが抱きしめた僕の肩を掴んで、少し離して顔を覗き込んでくる。ホッと安心した様な顔をするから、僕もつられて笑顔を返した。
「少し回復した……精神を削られてる気分だった」
そこまで言うなんて何があったのか気になるところだけど、建屋の中から重いプレッシャーが放たれて、僕の注意と視線はそちらに傾いた。
視線の先には出入口から出て来る大柄な人物、薄い髪色に全体的に茶色いスーツ、三白眼の鋭い目つきで、相変わらず僕のことを睨みつけて来る。
聖華の言っていた、"握り潰されるようなプレッシャー"の意味が分かった、それは息苦しささえ感じる程の重厚感だった。しかしユキの放つプレッシャーほど重くはない、ましてや魔王様のように恐怖を感じたりもしない。
あの夢のせいか、それともあからさまな敵意のせいか……いいや、そのどちらもだ。負けるわけにはいかないと思った、ユキを引き寄せて思念を込めて睨み返した。
"お前なんかに触れさせない"
「真里……?」
ユキとハルキさんが反応したのが分かった、僕がプレッシャーを送り返したその当人も、元々しかめていた眉間を更に寄せて不快感をあらわにする。
「二人ともやめなさい」
その声と同時に、到底太刀打ちできないような重さの圧が、上からのしかかってきた。
その場にいる全員が直血悪魔にもかかわらず青ざめた、そんな膨大な魔力の持ち主は一人しかいない、魔王様だ。
僕が睨み返したあの人は、魔王様に道を譲るように避けて頭を下げた。僕も謝罪するように頭を下げたが、言葉は出せなかった……出て来たのは恐怖からの冷や汗だ。
フッと体が軽くなったと錯覚した、魔王様のプレッシャーが止んだんだ……一瞬の出来事なのに、酷く長く感じた。
「ついこの間までおどおどとしていたのに、いい顔をするようになったじゃないか」
クスクスと楽しそうな声が聞こえる、実際の魔王様の顔は確認していない、顔を上げるのが恐ろしかった。
「真里が来てから、停滞していた物事が動き出している……実に愉快だよ。私は不変なものが嫌いだ、面白くないからね」
階段を降りてきた魔王様が、僕の肩に手を乗せた。
「これからも期待しているよ」
僕はやっとの思いで顔を上げた、魔王様の目線は僕より高く今日は大人の姿だったらしい。目が合うとニコッと微笑まれて、全然安心できない笑顔に、生唾を呑み込んだ。
返事は必要なかったのか、そのまま魔王様は玉砂利の上を音を鳴らしながら歩いていった……すぐ後ろにハルキさんが付いて、それを追うようにしてあの人が降りて来る。
魔王様から止められたにも関わらず、変わらず僕を睨んできたので、正直面白くない。一瞬再発しかけた睨み合いは、ユキが僕を胸に抱きしめることで不発となった。
「ほら、早く行かないと置いていかれるぞ」
ユキが片手でシッシッと払っている感じがする、僕の顔はユキの薄い胸に埋まっているので視認はできていない。ユキの暖かさと臭いに落ち着いてきた、あんな悪夢を見たから……過敏になりすぎてたんだ。
玉砂利を踏む足音が遠ざかったところで、ようやくユキは僕を解放した。
「真里、遅くなってすまなかった、帰ろう」
「ごめん、こんなところまで来て」
「来てくれなかったら帰れなかった、助かったよ」
ユキが足元に転移陣を発現させて、周りが真っ白になる……やっと帰ってきた、僕たちの家に。
「明日何かあるの?」
「あぁ……ちょっとした仕事だよ」
「じゃあ、その打ち合わせだった?」
「それもあるが、他にも色々……引き止められてしまってな」
ユキが上に伸びをしながら、そのまま後ろに倒れるようにソファーに沈んだ。疲れてるみたいだなぁと見ていると、ユキが両手を広げて"おいで"と僕を誘う。
誘われるままユキの側まで行くと、膝の上に乗せるように抱きしめられた。今度はユキが僕の胸辺りに顔を埋めている、労うようにユキの頭を抱えて、撫でて……綺麗な髪に指を通す。もう正直に言ってもいいかな……あれは僕の夢ではあったけど、心配だったのは本当だから。
「遅いから心配したよ? ルイさんから、あの人の魔力補給に付き合わされてるんじゃないかって……聞いて」
ユキがあぁーと面倒くさそうな声をあげて、背もたれに背中を預けて天井を仰いだ、目の前に晒された首筋とあごにキスしたくなる。
「なんで俺が覇戸部の魔力補給を手伝わなくちゃいけないのか、一人でやれってんだ……」
…………え?
「したの……? あの人の魔力補給を、ユキが」
「え? あぁ……したけど」
それってあの人と……うそだ、うそ……なんで!?
ユキが抱きしめた腕に力を込めて、更にギュッと強く抱かれた。
普段なら人前で抱き合ったりするのは好きでは無いのだけど……今日は僕も不安だったから、特に抵抗はしなかった。むしろ抱きしめ返したい……ハルキさんの前だけどいいだろうか。
「ユキ様、明日はお願いしますね」
ハルキさんの声で、ユキの背中までまわしかけた手が止まった。
「あぁ、分かっている」
顔をムッとさせたユキがハルキさんにつっけんどんに返事をする、明日……何かあるのだろうか、もしかしてその打ち合わせだった……とか? 話からするとそう考えるのが妥当だ、やっぱり僕は思い込みで突っ走ってしまったんだろうな……。
「明日は真里様もご同行ください、管理課の方へは私の方から連絡しておきますので」
「はい……」
なんの話か分からないまま、ただユキと一緒に居られるならそれでいいと思って返事した。
ユキが抱きしめた僕の肩を掴んで、少し離して顔を覗き込んでくる。ホッと安心した様な顔をするから、僕もつられて笑顔を返した。
「少し回復した……精神を削られてる気分だった」
そこまで言うなんて何があったのか気になるところだけど、建屋の中から重いプレッシャーが放たれて、僕の注意と視線はそちらに傾いた。
視線の先には出入口から出て来る大柄な人物、薄い髪色に全体的に茶色いスーツ、三白眼の鋭い目つきで、相変わらず僕のことを睨みつけて来る。
聖華の言っていた、"握り潰されるようなプレッシャー"の意味が分かった、それは息苦しささえ感じる程の重厚感だった。しかしユキの放つプレッシャーほど重くはない、ましてや魔王様のように恐怖を感じたりもしない。
あの夢のせいか、それともあからさまな敵意のせいか……いいや、そのどちらもだ。負けるわけにはいかないと思った、ユキを引き寄せて思念を込めて睨み返した。
"お前なんかに触れさせない"
「真里……?」
ユキとハルキさんが反応したのが分かった、僕がプレッシャーを送り返したその当人も、元々しかめていた眉間を更に寄せて不快感をあらわにする。
「二人ともやめなさい」
その声と同時に、到底太刀打ちできないような重さの圧が、上からのしかかってきた。
その場にいる全員が直血悪魔にもかかわらず青ざめた、そんな膨大な魔力の持ち主は一人しかいない、魔王様だ。
僕が睨み返したあの人は、魔王様に道を譲るように避けて頭を下げた。僕も謝罪するように頭を下げたが、言葉は出せなかった……出て来たのは恐怖からの冷や汗だ。
フッと体が軽くなったと錯覚した、魔王様のプレッシャーが止んだんだ……一瞬の出来事なのに、酷く長く感じた。
「ついこの間までおどおどとしていたのに、いい顔をするようになったじゃないか」
クスクスと楽しそうな声が聞こえる、実際の魔王様の顔は確認していない、顔を上げるのが恐ろしかった。
「真里が来てから、停滞していた物事が動き出している……実に愉快だよ。私は不変なものが嫌いだ、面白くないからね」
階段を降りてきた魔王様が、僕の肩に手を乗せた。
「これからも期待しているよ」
僕はやっとの思いで顔を上げた、魔王様の目線は僕より高く今日は大人の姿だったらしい。目が合うとニコッと微笑まれて、全然安心できない笑顔に、生唾を呑み込んだ。
返事は必要なかったのか、そのまま魔王様は玉砂利の上を音を鳴らしながら歩いていった……すぐ後ろにハルキさんが付いて、それを追うようにしてあの人が降りて来る。
魔王様から止められたにも関わらず、変わらず僕を睨んできたので、正直面白くない。一瞬再発しかけた睨み合いは、ユキが僕を胸に抱きしめることで不発となった。
「ほら、早く行かないと置いていかれるぞ」
ユキが片手でシッシッと払っている感じがする、僕の顔はユキの薄い胸に埋まっているので視認はできていない。ユキの暖かさと臭いに落ち着いてきた、あんな悪夢を見たから……過敏になりすぎてたんだ。
玉砂利を踏む足音が遠ざかったところで、ようやくユキは僕を解放した。
「真里、遅くなってすまなかった、帰ろう」
「ごめん、こんなところまで来て」
「来てくれなかったら帰れなかった、助かったよ」
ユキが足元に転移陣を発現させて、周りが真っ白になる……やっと帰ってきた、僕たちの家に。
「明日何かあるの?」
「あぁ……ちょっとした仕事だよ」
「じゃあ、その打ち合わせだった?」
「それもあるが、他にも色々……引き止められてしまってな」
ユキが上に伸びをしながら、そのまま後ろに倒れるようにソファーに沈んだ。疲れてるみたいだなぁと見ていると、ユキが両手を広げて"おいで"と僕を誘う。
誘われるままユキの側まで行くと、膝の上に乗せるように抱きしめられた。今度はユキが僕の胸辺りに顔を埋めている、労うようにユキの頭を抱えて、撫でて……綺麗な髪に指を通す。もう正直に言ってもいいかな……あれは僕の夢ではあったけど、心配だったのは本当だから。
「遅いから心配したよ? ルイさんから、あの人の魔力補給に付き合わされてるんじゃないかって……聞いて」
ユキがあぁーと面倒くさそうな声をあげて、背もたれに背中を預けて天井を仰いだ、目の前に晒された首筋とあごにキスしたくなる。
「なんで俺が覇戸部の魔力補給を手伝わなくちゃいけないのか、一人でやれってんだ……」
…………え?
「したの……? あの人の魔力補給を、ユキが」
「え? あぁ……したけど」
それってあの人と……うそだ、うそ……なんで!?
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