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魔界編:第2章 繋がる
捜索
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ユキがあの人と二人でいるかもしれない……それは僕にとって危機感を抱くには十分だった。
魔王様の護衛である覇戸部という人が、僕をあからさまに目の敵にしていて、そしてその理由がユキへの恋慕の情である事が明白だからだ。
僕は焦っていた、焦ってはいたがさすがに証拠も確証もなく、魔王様の直轄領へ乗り込む様な無謀は出来ない。まず向かったのは魔王様直轄領内ではなく、反対方向にある維持部隊事務所だった。
もしかしたら事務所に戻っているかもしれないなんて、殆ど薄い可能性に少しの期待をして……。
息を切らしながら維持部隊の事務所の引き戸を開くと、ルイさんが普段開かない目を見開いて僕を見た。
「真里っ!? どうした!?」
「ユキっ……戻って来てないですか?」
「まだ帰って来てないのか?」
やっぱり、こっちには帰って来ていない……魔王様のところに乗り込むしかないのか。
「もしかしたら、魔力補給に付き合わされてるのかも」
ルイさんの発言に目を見張る、一瞬頭が真っ白になった。
「……それってあの、覇戸部って人のですか!?」
「うん、そうなんだけど……なんで」
「ありがとうございます!」
「真里っ……!?」
嫌な予感は的中したのか……僕は来た道を同じように全速力で戻り、自宅も通り過ぎて、人気が少なくなった大通りをそのまま走り抜けた。
自分の足で走るとこんなにも時間がかかる、ユキみたいに転移陣で移動出来ればいいのに! ユキから教えてもらっておけばよかった……自分が出来ないことの多さに、不甲斐なさに、涙が出てきそうだ……。
今まさに、ユキが他の誰かに触れられているかもしれないのに! 嫌だ……絶対嫌だ!
もっと速く! 自分にできることは何かないのか? もっと……そうだ、足を強化すれば速く走れる! 一度立ち止まってユキからの言いつけ通りフードを被って足に強化をかけた。
強化した足で走り出すと、スピードは倍に跳ね上がった。道は曲がることなくまっすぐ進むだけ、人さえ避ければいいだけだ、制御できないほどじゃない。
深夜とはいえ寝なくてもいい悪魔達は、昼間よりは少ないがこの時間も行動している。まばらに大通りを歩く人々が僕を見ているが、そんな事に構っている余裕は無かった。
松林の道を走り抜けながら、自分の呼吸が荒くない事に気づいた。無意識に肺を強化していたみたいだった、内臓にも強化は施せるのか……それでも相変わらず心臓はドクドクとうるさい音を立てている、店もなくなったこの辺りは人も居らず、暗い松林の夜道をポツポツと街灯が照らすだけだ。
ユキと歩いた時は何の不安もなかったのに、一人でここを走り抜けている今は、この暗い夜道が怖い……色んな不安で押し潰されそうだ。
目の前には黒々とした仰々しい魔王様の直轄領へ入る門、ここまでたどり着いて一抹の不安が過ぎる。魔王様もグルだった場合、僕はここから先は通れないだろう。
下唇を噛む様に、恐る恐る門へと手を入れると……思いの外何の抵抗もなく、僕の肘まで門の中へと入っていった。よかった……魔王様が僕を領内へ受け入れてくれるのならば、何もできないまま帰るという最悪の事態は避けられる。
門は大丈夫だ、ここから先は走ったり暴れたりするような場所ではない。本当は大声でユキを呼んで探したい、しかし厳かな空気を纏うこの場所は、大声どころか声を出す事も憚られるような雰囲気だ。自分の心臓だけがひどく煩く、緊張している事が嫌でも分かる。
もしユキがここにいない場合、居てもユキに会わせてもらえない場合、一人で魔王様と対峙する事になる……気に障るような事をしてしまえば、僕は消されてしまうのだろうか。
白い玉砂利を両脇に従える石畳を進んで行くと、木製の大きな門が見え始めた、ただでさえバカうるさかった心臓の音が、緊張からかどんどん大きくなってる気がする。
この先に魔王様が……。
ドクン、ドクン、ドクン……
「真里様、どうしました?」
「わぁっ!」
突然目の前に現れた狐面に、心臓が四散するかと思った! 大きく打ち付けていた心臓の音が、今は早鐘のように打ち鳴らされている。
びっ……びっくりしたぁ……! そんな感想が、今やっと出て来たくらいに、僕の頭は混乱していた。
「魔王様から真里様がいらっしゃったと聞きましたので、お迎えにあがりました」
「あ、あのっ……」
「ユキ様のお迎えに来られたのでしょう? こちらです」
「え? あ、はいっ!」
拍子抜けする程あっさりと、ハルキさんは僕をユキの元に案内してくれるようだった。もしかしてあの人と二人っきりに見えたあの悪夢はただの夢で、勘違いで……一人走り回って……いたと……したら。
そう一瞬でも考えたら、急に恥ずかしくなって来た! 頭から蒸気が吹き出そうだ! よく考えたら夢で見た出来事を信じ込んでここまで来たわけで……寝ぼけているのか僕は!?
それでもあの夢の光景は、本物だったと勘違いするほどリアルだったんだ……。僕にとって夢とは特別なものだ、ただ見るだけの虚構ではない、現実だと思った。あの直感は本当に勘違いだろうか。
ハルキさんが案内してくれた場所は、石畳をまっすぐ進んだ門の先ではなく、道も敷かれていない砂利の上を歩いて行った先に見えてきた。
領地内の他の建屋同様、日本の建造物を模した建物……新しい木で作られたような、何も着色の塗装を施されていない、無垢で綺麗な木造建築。床が少し高いのか、出入口には階段が設置してある。
「ハルキさんすみません、お邪魔してしまいましたか?」
「いいえ、そろそろユキ様にはお帰りいただくつもりでしたから……それに真里様にもお願いしたい事がありましたので、ちょうど良かったです」
前を歩くハルキさんが振り向いて、面に隠れていない口元で笑顔を作った。
「今日はユキ様の魔力を、満タンにしておいて下さいね」
「へっ……!?」
ハルキさんはすぐに前を向いて歩き始めたが、言い逃げされた僕としては、心中穏やかではない! だってそれって……これからユキと仲良くそういう事しなさいって事じゃないか!
何でそんなプライベートな事に言及されなくてはいけないのかとか、まるで今日の僕の気持ちを見透かされてる様な気がした事とか、色々な意味で感情が乱れて、目が回りそうだった。
目的の建屋のすぐ側まで来ると、中からユキの声が聞こえてきた。"帰る!"となんだか少し怒った口調で、ドスドスと床をブーツで踏み鳴らす様な音が聞こえてきた。
扉の無いその建物の開け放たれた出入り口から、会いたいと焦がれた姿が見えた、やっと見つけた。
「真里っ……!」
こっちを見つけたユキが慌てる様に階段を降りてきて、僕を抱きしめる。声が少し疲れているような気がする、迎えにきてよかった……。
魔王様の護衛である覇戸部という人が、僕をあからさまに目の敵にしていて、そしてその理由がユキへの恋慕の情である事が明白だからだ。
僕は焦っていた、焦ってはいたがさすがに証拠も確証もなく、魔王様の直轄領へ乗り込む様な無謀は出来ない。まず向かったのは魔王様直轄領内ではなく、反対方向にある維持部隊事務所だった。
もしかしたら事務所に戻っているかもしれないなんて、殆ど薄い可能性に少しの期待をして……。
息を切らしながら維持部隊の事務所の引き戸を開くと、ルイさんが普段開かない目を見開いて僕を見た。
「真里っ!? どうした!?」
「ユキっ……戻って来てないですか?」
「まだ帰って来てないのか?」
やっぱり、こっちには帰って来ていない……魔王様のところに乗り込むしかないのか。
「もしかしたら、魔力補給に付き合わされてるのかも」
ルイさんの発言に目を見張る、一瞬頭が真っ白になった。
「……それってあの、覇戸部って人のですか!?」
「うん、そうなんだけど……なんで」
「ありがとうございます!」
「真里っ……!?」
嫌な予感は的中したのか……僕は来た道を同じように全速力で戻り、自宅も通り過ぎて、人気が少なくなった大通りをそのまま走り抜けた。
自分の足で走るとこんなにも時間がかかる、ユキみたいに転移陣で移動出来ればいいのに! ユキから教えてもらっておけばよかった……自分が出来ないことの多さに、不甲斐なさに、涙が出てきそうだ……。
今まさに、ユキが他の誰かに触れられているかもしれないのに! 嫌だ……絶対嫌だ!
もっと速く! 自分にできることは何かないのか? もっと……そうだ、足を強化すれば速く走れる! 一度立ち止まってユキからの言いつけ通りフードを被って足に強化をかけた。
強化した足で走り出すと、スピードは倍に跳ね上がった。道は曲がることなくまっすぐ進むだけ、人さえ避ければいいだけだ、制御できないほどじゃない。
深夜とはいえ寝なくてもいい悪魔達は、昼間よりは少ないがこの時間も行動している。まばらに大通りを歩く人々が僕を見ているが、そんな事に構っている余裕は無かった。
松林の道を走り抜けながら、自分の呼吸が荒くない事に気づいた。無意識に肺を強化していたみたいだった、内臓にも強化は施せるのか……それでも相変わらず心臓はドクドクとうるさい音を立てている、店もなくなったこの辺りは人も居らず、暗い松林の夜道をポツポツと街灯が照らすだけだ。
ユキと歩いた時は何の不安もなかったのに、一人でここを走り抜けている今は、この暗い夜道が怖い……色んな不安で押し潰されそうだ。
目の前には黒々とした仰々しい魔王様の直轄領へ入る門、ここまでたどり着いて一抹の不安が過ぎる。魔王様もグルだった場合、僕はここから先は通れないだろう。
下唇を噛む様に、恐る恐る門へと手を入れると……思いの外何の抵抗もなく、僕の肘まで門の中へと入っていった。よかった……魔王様が僕を領内へ受け入れてくれるのならば、何もできないまま帰るという最悪の事態は避けられる。
門は大丈夫だ、ここから先は走ったり暴れたりするような場所ではない。本当は大声でユキを呼んで探したい、しかし厳かな空気を纏うこの場所は、大声どころか声を出す事も憚られるような雰囲気だ。自分の心臓だけがひどく煩く、緊張している事が嫌でも分かる。
もしユキがここにいない場合、居てもユキに会わせてもらえない場合、一人で魔王様と対峙する事になる……気に障るような事をしてしまえば、僕は消されてしまうのだろうか。
白い玉砂利を両脇に従える石畳を進んで行くと、木製の大きな門が見え始めた、ただでさえバカうるさかった心臓の音が、緊張からかどんどん大きくなってる気がする。
この先に魔王様が……。
ドクン、ドクン、ドクン……
「真里様、どうしました?」
「わぁっ!」
突然目の前に現れた狐面に、心臓が四散するかと思った! 大きく打ち付けていた心臓の音が、今は早鐘のように打ち鳴らされている。
びっ……びっくりしたぁ……! そんな感想が、今やっと出て来たくらいに、僕の頭は混乱していた。
「魔王様から真里様がいらっしゃったと聞きましたので、お迎えにあがりました」
「あ、あのっ……」
「ユキ様のお迎えに来られたのでしょう? こちらです」
「え? あ、はいっ!」
拍子抜けする程あっさりと、ハルキさんは僕をユキの元に案内してくれるようだった。もしかしてあの人と二人っきりに見えたあの悪夢はただの夢で、勘違いで……一人走り回って……いたと……したら。
そう一瞬でも考えたら、急に恥ずかしくなって来た! 頭から蒸気が吹き出そうだ! よく考えたら夢で見た出来事を信じ込んでここまで来たわけで……寝ぼけているのか僕は!?
それでもあの夢の光景は、本物だったと勘違いするほどリアルだったんだ……。僕にとって夢とは特別なものだ、ただ見るだけの虚構ではない、現実だと思った。あの直感は本当に勘違いだろうか。
ハルキさんが案内してくれた場所は、石畳をまっすぐ進んだ門の先ではなく、道も敷かれていない砂利の上を歩いて行った先に見えてきた。
領地内の他の建屋同様、日本の建造物を模した建物……新しい木で作られたような、何も着色の塗装を施されていない、無垢で綺麗な木造建築。床が少し高いのか、出入口には階段が設置してある。
「ハルキさんすみません、お邪魔してしまいましたか?」
「いいえ、そろそろユキ様にはお帰りいただくつもりでしたから……それに真里様にもお願いしたい事がありましたので、ちょうど良かったです」
前を歩くハルキさんが振り向いて、面に隠れていない口元で笑顔を作った。
「今日はユキ様の魔力を、満タンにしておいて下さいね」
「へっ……!?」
ハルキさんはすぐに前を向いて歩き始めたが、言い逃げされた僕としては、心中穏やかではない! だってそれって……これからユキと仲良くそういう事しなさいって事じゃないか!
何でそんなプライベートな事に言及されなくてはいけないのかとか、まるで今日の僕の気持ちを見透かされてる様な気がした事とか、色々な意味で感情が乱れて、目が回りそうだった。
目的の建屋のすぐ側まで来ると、中からユキの声が聞こえてきた。"帰る!"となんだか少し怒った口調で、ドスドスと床をブーツで踏み鳴らす様な音が聞こえてきた。
扉の無いその建物の開け放たれた出入り口から、会いたいと焦がれた姿が見えた、やっと見つけた。
「真里っ……!」
こっちを見つけたユキが慌てる様に階段を降りてきて、僕を抱きしめる。声が少し疲れているような気がする、迎えにきてよかった……。
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