死が二人を分かたない世界

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魔界編:第1章 薬

雪代

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 やっぱり僕は、無意識にユキを探そうとしていたらしい。ただ僕達が生きた時代が、千年も違っていたけど……。

「そっか……それなら見つかる筈もないね」
「何故、俺を探してると思ったんだ?」
 聞いてもいいだろうか、また困った顔をしてはぐらされるかもしれないけど。

「黒い……大きな犬が、君の近くに居たのを思い出したんだ、それが神様だって教えてもらった気がして」
「そうか、真里は会っていたな……"雪代ゆきしろ"に」

 "雪代"……雪代! そうだ、黒い犬の名前!
「ユキの耳だけ犬の形なのは、雪代が一緒に居るからなんだね」
 繋いでいない方の手でユキの耳に触れると、ピクッと耳が動いた……そうか、ユキが死んでからもずっと一緒に居たんだね。
「雪代は、まだ君を守っているんだね」
「——っ!」

 ユキが顔を隠すように僕の肩に顔を埋めた、いつものように背中をトントンすると、ユキが僕を両腕で強く抱きしめた。
「本当に君の事が大切なんだね、ちょっと妬けちゃうな」
「犬にか?」
「うん、でも夢の中で何度も君のところまで案内してもらったから……感謝してるんだ」

 一つ思い出すと、繋がった記憶がポロポロと溢れてくる。雪景が酷く傷ついて心を閉ざしている時、僕は彼の夢には入れてもらえなかったんだ。

 会いたいと強く願っていると、いつもどこからとも無く黒い大きな犬が現れて、僕を彼のところまで連れて行ってくれた。そんな時の雪景はいつも泣いてたから……雪代には本当に感謝していたんだ、何で忘れていられたんだろう。

「ねぇユキ……"祟り神"ってどういう事?」
「……そのままの意味だ、崇めなければ祟るのさ」
 ユキが顔を上げた、今日ははぐらかさないで話してくれるみたいだ。

「人の願いを叶える神でも、優しく受け入れてくれる神でもない、災いを起こさないように……鎮魂の意味で祀られた神だ、元々祀られていたのは雪代の主人である巫女だった」
「……そんな激しい神様が、何でユキを?」
「元主人の巫女と俺が似ているらしい、お陰で俺は"神憑き"扱いだ……すまない、これ以上は」
「ごめん、嫌な事思い出させたよね……ごめんね、ありがとう」
 話す度に伏せていく顔と表情に、辛い事を思い出させてしまったと胸が痛む。ユキをぎゅっと抱きしめると、ユキも抱きしめ返してくれた。

「真里……俺との記憶をあまり思い出さないでくれ、俺はこれからの記憶を共にできればそれでいいんだ」
「うん……僕もこれからの君との思い出を大事にしたいと思ってるよ」
 でも僕は、君の事全てを思い出したい……全部思い出したって、全部知ってしまったって、僕は絶対に君を離したりしない、君に安心して欲しいんだ。
 なぜユキは、僕に思い出して欲しくないなんて言うのだろう。

「……それで、その喧嘩した友達とは仲直りしたのか?」
 そういえば、僕が喧嘩した話をしてたんだった、僕としてはその話はどうでも良くなってしまっていた。
「結局、お寺と神社を半分ずつ回るって事で決着したよ」
「そうか、平和的だな」
 クスッとユキが耳元で笑った。

「……その寺と神社好きの友達は、お前の祖父では無いんだよな?」
「祖父を友達とは呼ばなくない?」
「そうか、そうだよな」
「そうだよ! 大体僕は義理のおじーちゃんしか知らないし!」
 顔が見えないからどんな表情をしているのか分からないけど、どういう意図の質問だろう……今度はおじーちゃんの話が聞きたかったのかな?

「急にどうしたの?」
「……いや、真里の事が色々知りたかっただけだ」
 謎質問が気になったが、ユキが頬を寄せて来たので少しスリスリと感触を楽しんでから、頬にチュッとキスをした。

「僕もユキの事、たくさん知りたい」
「そうか、何が知りたい?」
 ユキの体に押されて、ソファーに倒れる形になった、少し体を起こして僕を見下ろしてくるユキ……何度同じ状況になってもドキドキする。

「あー……維持部隊で一番速いのって誰なの? やっぱりユキ?」
「なんだ、この状況で色気のない質問だな」
 何となく、今日湧いた疑問をぶつけてみた。
 大体色気のある質問ってどんなだろう……僕がそんな質問するなんて、ユキは元々想定してないとは思うけど。

「本気で動けば多分俺だと思うが、カズヤもかなり速いからな……もしかしたら負けるかもしれないな」
 ユキは部隊の話をする時とても楽しそうだ、ユキが作ったあの暖かいアットホームな空間は、きっととても居心地が良いんだろう。

「じゃあ、パワー系も本気出したら一番強い?」
 ユキはちょこちょこ腕の筋力強化を使っているようだけど(主に僕を抱えるのに)、ユキが今日みたいなマッチョと組み合ってる姿は想像できない。
「いや、最高点まで強化して一番強いのは飛翔だな」
「そうなんだ! 魔力量をたくさん使える方が強いのかと思ってた」
「向き不向きは人それぞれだからな、向いてない事に必死に力を使ったとしても、望んだ結果にはならないもんだ」
 良い事を言ってる風な雰囲気を出しながら、ユキが僕のグローブを外していく。

「……何でグローブを外されてるんでしょうか」
「俺の得意分野に持ち込もうと思って」
 左手の傷跡を舌で愛撫されると、背中がゾワゾワする。やっぱりここは他の場所より少し敏感で、ユキ以外の人には触られたくない場所だ。

「んっ……」
「手の甲で感じるなんて、真里はえっちだなぁ」
「ユキだって」
 僕の目の前に晒されているユキの首輪を右手で持ち上げて、ユキの首の傷にキスするとくすぐったそうにする。
「そこ、真里にしか触らせた事ないからな」
「そうなの?」
「そうだよ、真里だけ」

 今度は口にキスする、何度も触れるだけのキスを繰り返すと、だんだん物足りなくなってきた。でも、今日はもう……。

「さっきも……したよ?」
「アレはつまみ食い」
「つまみ食い……」
 そんなレベルじゃなく、イかされた気がするんだけど……。

「早く真里にここで気持ち良くなってほしいな」
「ひっ……!」
 ユキがズボンの上から、僕のお尻の割れ目を指でなぞる。布越しで直接的な刺激じゃなくても、1週間毎日解されたそこは敏感になっている。

「飴、また使うか?」
 飴!? あれは感じ過ぎてしまう! 何も考えられなくなって、自分が自分じゃいられなくなるような感覚になる。頭を横に振って拒否だ! あんなの1日に2回もできない!

「そうか、まぁ無くても気持ちよくさせてやるけどな」
 ニヤっと目を細めて、舌舐めずりをしているユキに、僕は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
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