死が二人を分かたない世界

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魔界編:第1章 薬

鬼もどき

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 白くて丸くて、バレーボールサイズの魂たちが、僕達を避けながら次々と逃げていく。
 輪廻門まで転移しようとしたユキが、陣を踏もうとして"そうだ!"と留まった。

 ユキが目線を向けた方角に目をやると、通行人の一人が魂を一つキャッチしているところだった。

「よくやった! これやるよ!」
 魂を捕まえた人に向けてユキが何かを投げると、受け取った人はパァァッと効果音でも出そうなくらい破顔した。

「お前ら全員1魂につき1つご褒美だ! 全部捕まえて輪廻門まで連れて来い」
 ユキがよく通る声で宣言すると、周りの通行人や建物の中から"うおおおおおっ!"と歓喜の声が上がった。

「なに渡したの?」
「飴だ、少し魔力を強めに練ってあるヤツ……中毒性は無いが、俺が作ったのはなかなか気持ち良くなれるらしいぞ」
「はっ!? ちょっ……そんなもの!」
「頭被ってろ、戦闘になるかもしれない」
 ユキに促されてフードを被ると、転移陣を踏んだ。一瞬周りが真っ白になったかと思うと、視界が開けた時には赤く着色された板張りの建物の中に居た。

 建物の中は沢山の赤い板の残骸が落ちていて、もくもくと煙が充満していた。何かが燃えている様な臭いはしない、熱くもないから火事ではなさそうだ。
 周囲を見回すと建物の隅に白い霊魂たちが固まって集まっていた、寄り添う様に集まる様子がまるで怯えているようだ。

 その霊魂達を庇う様に一人の人物が倒れていた、なんとなくその人に見覚えがある気がした、ほぼ毎日のように伊澄さんと書類のやり取りをしてる吉助さんに似ている……。
 いつも和装だし、名前からして古株そうな予感のする、見た目は30代、僕より少し背が高いくらいのタレ目でおっとりした顔つきの人だ。伊澄さんへの取り継ぎくらいでしか会話した事ないけど、あの雰囲気は間違い無いと思う!

「吉助さん? 大丈夫ですか!」
 むくっと起き上がってこっちを見た顔は、やっぱり吉助さんだった。
「真里くん? なんでこんなとこに」
「おい、吉助! 何があった!」
「ふぇっ! ユキ様まで! 申し訳ねぇです~!」 
 吉助さんが頭を下げながら、気の抜けるような声を出して、拝むように頭の上で手をすりすりと合わせている。

「説明しろ」
「はいぃ……ウチに若い二人組が居るんですが、二人して鬼みたいに頭からツノ生やして、突然暴れ出したんですわ」



「角……? なんだそれ聞いた事もないぞ」
「角といえば魔王様だね」
「魔王様以外が角を持つなんてある意味不敬罪だな」
 吉助さんがひえぇっと震え上がった。

「吉助、お前は繋がる部署全てに連絡だ、逃げた霊魂の捕獲を依頼しろ。報酬は俺が作ったコイツだ、1霊魂につき1つ出す」
 ユキが吉助さんに渡したのはさっきの飴だった、中身は紫っぽい虹色に光っていて、透明のフィルムに包まれている。
「そ、そんな! これはウチの部署の失態で……いいんですか!?」
 遠慮が短いっ! もうそれ、してないに等しい!

「構わん、それでその鬼もどきはどっちに行った」
「あっちです! 表には出てないかと」
 吉助さんが指差した方から、またドンっと大きな音がした。
「目立つ奴らだな」
 ユキが舌打ちしながらインカムを起動させる。
「飛翔、まだ二人はいるか? よし、輪廻門まで転移陣で来い」

 ユキが三人に招集をかけながら音のする方へ向かうので後に続いた、止められるかと思ったけど、ユキは無言で頷いて承諾してくれた。

 煙が立ち込め、建物の天井が崩れて赤い板が足元に転がる中に……いた!
 パッと見はその辺を歩いてる悪魔と変わらない、根本は黒くて毛先が茶髪……いわゆるプリン状態の髪色に、Tシャツ、暴れ回ったせいかズボンの裾はほつれていた。
 明らかに異質なのは額から生えた角だ、血管が浮き出していて、皮膚が盛り上がって生えているように見える。白目部分は真っ赤に充血していて、魔界に来て1週間しか経っていないけど、こんな状態は異常だって一目でわかる。

 鬼もどきがこちらを振り向こうとした瞬間、足元を白い霊魂が走り抜けようとした……僕は一瞬で頭に血が上った、そいつは笑いながら蹴ったんだ! 抵抗もできない、小さくて弱々しい霊魂を! 

「お前っ……何してるんだ!」
「あん? なんだぁ?」

 1週間前僕がやられたあの暴力が、嫌でも頭に呼び起こされた。あの時の僕は手も足もあった、喋れたし抵抗だって少しは出来た。でもここにいる霊魂たちは、喋らないし、手足もない、一方的な暴力を快楽的に行っているなんて許せない!

「ほう……意思疎通は出来るのか、しかし考える脳味噌はないらしいな、この惨状は重罪に値するぞ?」
「誰かと思えばホモのユキ様と、腰巾着の眷属様じゃあないですか」
 明らかに侮蔑を含んだ言い様に、僕の中で憤懣が渦巻く。

「若いな……ここに来て十年ってとこか? ここ15、6年は俺も大人しかったから、侮られてるなぁ」
 僕の憤りとは相反して、ユキは顎に手を当てて困ったように眉根を下げている。
「アンタ男を掘る専門って聞いてたけど、女みたいな顔してんな!」
 ……あ、ダメだ。自分が何を言われてもなんとも思わないけど、コレは無理。

「今の俺はアンタより強いぜ! なんでも出来る気分だ!」
「謎の自信と高揚感……新手の薬かもしれんな」
 煽られても分析を続けるユキに痺れを切らしたのか、鬼もどきの悪魔が攻撃の態勢をとる。咄嗟に僕も構えると、僕の感情の動きを察してか、ユキに腕を掴まれてストップをかけられた。

「ここは女が少ねぇからな! アンタでもいいぜ!」
 駄目だ、もう我慢できそうにない。

 鬼もどきが自慢げに鎌鼬の様な風の刃を飛ばしてくる、ユキがやれやれといった具合で魔力相殺の準備に入った。
「泣かせて犯してやるよ!」

 ブチンと血管が弾ける音がした。

 僕を掴むユキの腕を振り解いて前に出た、もう我慢の限界だった、魔力相殺なんて生温い!

 恐ろしく強靭に作られている魔王様のグローブを盾代わりに、飛んできた風の刃を狙いを定めて右手で殴り返した。
 打ち返された刃は狙い通り、相手の肩めがけて飛んでいき片腕を完全に切断した。鬼もどきは叫びながら、後ろに倒れて転げ回る。

 軌道も動きも完全に頭に描ければ、悪魔の体は僕の意志に必ず追従する、一人の時間に何度も練習したんだ。

「真里!?」
「君への侮辱は我慢できない」
 自分でも内側にある黒くてドロドロしたものが、漏れ出てくる感覚があった。
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