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真里編:第5章 約束
《小話》あの後の伊澄と聖華
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静かな畳の部屋に、はぁはぁと荒い二人の息遣いが際立って響いていた。
聖華は黒く染めた髪と瞳を元の色へと戻していた、綺麗に結い上げられた髪が崩れるほど、伊澄の手が聖華を離さなかった。
何故こんなことになったかと言えば、伊澄が聖華を見つけたあの時にまで遡る。
「お前、これから管理課帰るのか?」
そう切り出したのは聖華からだった。
「……いや、もう家に帰る。すぐそこだしな、今日はお前のせいで散々だよ全く」
「じゃあ、ちょっと付き合え」
そう言って聖華は伊澄の手首を掴んで、ぐいぐいと来た道を引き返した。
「真里のせいで部屋が大惨事だ、手伝え」
「なっ! なんで俺が!? 自業自得だろーがっ!」
「黙れ童貞野郎」
「だから!!」
伊澄は聖華のイジりに、いつも通り返そうとしたが……少し聖華の様子がおかしい事に気付いた。
「どうした?」
「……」
聖華が真里を連れ込んだ家に、伊澄を招き入れる。伊澄は聖華の家に入る事自体が初めてだった。普段派手な格好をしている割に、落ち着いた綺麗な日本家屋の部屋を見て、実に聖華らしいという感想を持った。
部屋に入ると本当にひどい有様で、部屋中の小物が散乱してしまっている。
「こりゃ酷いな、一体どんだけ大暴れしたんだ?」
そう言って聖華を振り返ると、自分より背が高くなっている聖華の顔が間近にあった。髪と瞳は彼の生まれ持った色に戻っている。
「手伝ってくれるんだよな?」
「……か、片付けを……?」
「魔力が枯渇しそうなんだ」
そう縋ってきた聖華の顔は真っ青で、息も絶え絶えだった。なんでこんな状態になっているのに気づかなかった! と伊澄は慌てた。
「——っ! ユキを呼んでくる!」
「呼べるわけないだろ! 俺は今あの人にフラれたんだぞ! 分かれよ! このクソ童貞っ!」
「違うって言って……」
「童貞野郎だよお前は! なんでわかんねぇんだよ!」
聖華が涙目で伊澄の胸ぐらに掴みかかった、伊澄はユキから言われた言葉を反芻する。
「な……何をしたら……いい?」
恐る恐る聞いてきた伊澄に聖華は、こいつ本当クソ童貞だな……という感想を心から抱いたが、その慣れていないところが、聖華にとっては魔力が回復するほど嬉しい事なのだ。
「キス……して」
聖華の懇願を聞いてからの伊澄は早かった、聖華を抱きしめて口付けて、聖華はあっという間に畳に転がっていた。
頭を乱暴に、それでも愛しそうに乱されながら、執拗に絡んでくる伊澄の舌に、聖華は涙が出るほど嬉しかった。
枯渇しかけていた魔力が驚くほどの速さで満たされた、こんな経験初めてだった。
「聖華……」
伊澄の目に欲情の色が浮かんでいた、自分に真っ直ぐに向けられたその感情に、また胸が高なった。
「はぁ、満足したわ!」
「……え!?」
ドンっと伊澄を突き飛ばして、聖華は伊澄の下から抜け出た。
「助かったわ、死ぬかと思った!」
聖華は乱れた髪を一度解いて、くるくると器用に結い直す。呆気に取られた伊澄はその様を、口をポカンと開けて眺めていた。
意地悪そうに聖華がニヤリと笑って、伊澄の首筋のホクロへと、チュッと口付けた。
悪魔は治癒能力が高い、軽く吸い付いたくらいのキスマークでは瞬間的に治癒して無くなる。ただし、そこに所有欲をたっぷり含ませれば話は別だ、つけた人の気持ちが強いほど、その跡はくっきりと残る。
「これ、お礼♡」
「はっ!?」
「じゃ! 片付けよろしくー! あ、その昂ってるブツの処理もこの部屋でやっちゃっていいからねー?」
「おっ……おまっ! お前!!」
伊澄はワナワナと震えていたが、聖華は一度も振り返る事なく部屋を出た。振り返れるわけがなかった、顔が耳まで熱くて仕方ない! こんなみっともない顔を伊澄に見せるわけにはいかなかった。
「あぁ、どうしよう……すっごいカッコ良かった……!」
聖華は本当に今ので満足してしまったのだ、それでもその先は伊澄が自分の気持ちを伝えてくるまで、進みたくなかった。
ヘタレの伊澄が聖華に気持ちを伝えるのはいつになるのか……まだまだ時間がかかりそうだった。
聖華は黒く染めた髪と瞳を元の色へと戻していた、綺麗に結い上げられた髪が崩れるほど、伊澄の手が聖華を離さなかった。
何故こんなことになったかと言えば、伊澄が聖華を見つけたあの時にまで遡る。
「お前、これから管理課帰るのか?」
そう切り出したのは聖華からだった。
「……いや、もう家に帰る。すぐそこだしな、今日はお前のせいで散々だよ全く」
「じゃあ、ちょっと付き合え」
そう言って聖華は伊澄の手首を掴んで、ぐいぐいと来た道を引き返した。
「真里のせいで部屋が大惨事だ、手伝え」
「なっ! なんで俺が!? 自業自得だろーがっ!」
「黙れ童貞野郎」
「だから!!」
伊澄は聖華のイジりに、いつも通り返そうとしたが……少し聖華の様子がおかしい事に気付いた。
「どうした?」
「……」
聖華が真里を連れ込んだ家に、伊澄を招き入れる。伊澄は聖華の家に入る事自体が初めてだった。普段派手な格好をしている割に、落ち着いた綺麗な日本家屋の部屋を見て、実に聖華らしいという感想を持った。
部屋に入ると本当にひどい有様で、部屋中の小物が散乱してしまっている。
「こりゃ酷いな、一体どんだけ大暴れしたんだ?」
そう言って聖華を振り返ると、自分より背が高くなっている聖華の顔が間近にあった。髪と瞳は彼の生まれ持った色に戻っている。
「手伝ってくれるんだよな?」
「……か、片付けを……?」
「魔力が枯渇しそうなんだ」
そう縋ってきた聖華の顔は真っ青で、息も絶え絶えだった。なんでこんな状態になっているのに気づかなかった! と伊澄は慌てた。
「——っ! ユキを呼んでくる!」
「呼べるわけないだろ! 俺は今あの人にフラれたんだぞ! 分かれよ! このクソ童貞っ!」
「違うって言って……」
「童貞野郎だよお前は! なんでわかんねぇんだよ!」
聖華が涙目で伊澄の胸ぐらに掴みかかった、伊澄はユキから言われた言葉を反芻する。
「な……何をしたら……いい?」
恐る恐る聞いてきた伊澄に聖華は、こいつ本当クソ童貞だな……という感想を心から抱いたが、その慣れていないところが、聖華にとっては魔力が回復するほど嬉しい事なのだ。
「キス……して」
聖華の懇願を聞いてからの伊澄は早かった、聖華を抱きしめて口付けて、聖華はあっという間に畳に転がっていた。
頭を乱暴に、それでも愛しそうに乱されながら、執拗に絡んでくる伊澄の舌に、聖華は涙が出るほど嬉しかった。
枯渇しかけていた魔力が驚くほどの速さで満たされた、こんな経験初めてだった。
「聖華……」
伊澄の目に欲情の色が浮かんでいた、自分に真っ直ぐに向けられたその感情に、また胸が高なった。
「はぁ、満足したわ!」
「……え!?」
ドンっと伊澄を突き飛ばして、聖華は伊澄の下から抜け出た。
「助かったわ、死ぬかと思った!」
聖華は乱れた髪を一度解いて、くるくると器用に結い直す。呆気に取られた伊澄はその様を、口をポカンと開けて眺めていた。
意地悪そうに聖華がニヤリと笑って、伊澄の首筋のホクロへと、チュッと口付けた。
悪魔は治癒能力が高い、軽く吸い付いたくらいのキスマークでは瞬間的に治癒して無くなる。ただし、そこに所有欲をたっぷり含ませれば話は別だ、つけた人の気持ちが強いほど、その跡はくっきりと残る。
「これ、お礼♡」
「はっ!?」
「じゃ! 片付けよろしくー! あ、その昂ってるブツの処理もこの部屋でやっちゃっていいからねー?」
「おっ……おまっ! お前!!」
伊澄はワナワナと震えていたが、聖華は一度も振り返る事なく部屋を出た。振り返れるわけがなかった、顔が耳まで熱くて仕方ない! こんなみっともない顔を伊澄に見せるわけにはいかなかった。
「あぁ、どうしよう……すっごいカッコ良かった……!」
聖華は本当に今ので満足してしまったのだ、それでもその先は伊澄が自分の気持ちを伝えてくるまで、進みたくなかった。
ヘタレの伊澄が聖華に気持ちを伝えるのはいつになるのか……まだまだ時間がかかりそうだった。
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