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真里編:第5章 約束
《小話》その頃の維持部隊事務所
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話は遡って真里が聖華を追いかけて行方不明になった頃。
ルイは伊澄を連れて維持部隊の事務所に戻った、カズヤは一足早く真里の捜索へ繰り出し、イラついた様子でユキだけが待ち構えていた。
「い~ず~みぃ~!」
「ひっ!」
伊澄はユキのあまりの剣幕と圧の強さに、自分より小さくて歳も若いルイの後ろに隠れる。サイズ的に全く隠れられていないのだが……。
「そんなにピリピリしてたら説明もできないよー?」
まぁまぁ、とユキをなだめるようにルイが執り成し、ユキは一度周囲に振り撒いていた剣呑な空気を納めた。
「で、何があった?」
ユキに事情説明を促され、伊澄はおずおずとルイの後ろから出てくると、懐に入れていた四つ折りに畳んだ白紙を開いた。
「これを見ながら口論になったと聞いているが、閲覧制限がかかったのか真っさらになっている」
差し出された白紙を手に取り、ユキが眉をひそめながら紙に手をかざすと、更に眉間にシワが寄った。
「真里の情報書類だ……一年前から閲覧制限を掛けているはずだ、なんで管理課に」
(……魔王様のイタズラだろうか、これをやりたいが為に真里を管理課の配属にした?)
「この紙はいい、真里はどこに行った?」
「口論の末、出て行った聖華を追いかけたようだ……」
「お前は何してたんだよ」
「うっ……俺はその、組合会がトラブって呼び出しが」
目玉が右往左往する伊澄をギロッと睨みつけて、ユキは一歩伊澄の方へ近づく。ユキのプレッシャーに慣れているルイでさえも、流石にたじろぐ程の重圧に場の空気が支配されたところ……。
ガラッ
「ただ今戻りゃっしたー! ってなになに!? なんでそんな怖い顔してんの!?」
と、空気を読まない男、飛翔が事務所へ帰ってくる。今回はファインプレーであった、ルイは珍しく飛翔にグーサインを送る。
毒気を抜かれたユキがはぁーとため息を吐いた。
「俺が知ってる聖華の持ち家は全部確認したが居なかった、伊澄は聖華が行きそうな場所に心当たりはないのか?」
「そんなの俺よりお前の方が……」
「お前なぁ、いつまでそうやって卑屈になってるつもりだ! 迎えに行ってやろうとは思わないのか!」
ユキは心底呆れていた、伊澄と聖華を二人まとめて悪魔にしてから二百年……二人はずっと平行線で交わろうとしないのだ。お互いを想いあっているのは見ていればわかる、いつまでたっても素直にならないのは何故なのか。
「俺が行くより……聖華はユキが迎えに来る事を望んでる……アイツはお前がいないとダメなんだよ」
そんな事を言いながら、自嘲するように苦笑いする伊澄にユキは顔をしかめた。
「お前が真里の事を大事にしてるのは分かってる……分かってるが、聖華とも……続けてやってくれないだろうか……アイツにはお前が」
「ふざけんなよ! お前が勝手に諦めた願望を俺に押し付けるな!」
頭にきたユキの剣幕に、伊澄がビクッと反応する。
言い合いを始めた二人に気圧されて、じわじわと事務所の隅に退避したルイと飛翔は、黙ってごくりと息を呑んだ。
「テメーはいつまで逃げるつもりだ! これからも聖華と向き合うつもりがないなら、さっさと輪廻に還れ!」
「……——っ!」
「真里に何かあったら、俺は聖華とお前を消すからな……死ぬ気で探してこい」
ユキがスラっと爪を刃の様に長く変形させて、伊澄の首元に充てがった。伊澄は二歩後退り、顔面を真っ青にして事務所を後にした。
「え、マジで何があったの!? そんな怒ってるなんて珍しいじゃん……」
「……見た目ほど怒ってるわけじゃない、アイツが腹括らないからケツ叩いてやっただけだ」
恐る恐る聞いてきた飛翔に、ユキが手元を元に戻しながら振り返った。
「それでも怒ってないわけじゃないね、プレッシャーがいつもより鋭くて怖いよ、そんなに真里が心配?」
目つきの悪さを隠すためいつもニコニコとした目元を崩さないルイが、一切笑みをたたえない真剣な顔でユキを真っ直ぐに見据えた。ルイがこういう顔をするときは、冗談抜きの話をしようって時だ。
「何か言いたいことがあるのか?」
「ある、もう少し真里を信じてやれよ」
ルイが少しダボつくズボンのポケットに両手を突っ込む。
「ユキは心配しすぎだ、真里はアンタの眷属なんだろ?」
「今どこに居るのかも分からないのに、心配するなっていうのか」
「所在を把握してないと不安なのか? 大切にするのと過保護なのは違うだろ、真里はそんなに弱くないと思うよオレは」
「……」
普段カズヤからの過保護な態度に不満があるらしいルイからの意見だ、ユキはそれを無視するわけにはいかなかった。
話についていけない飛翔は、いつも冗談と悪ノリしてくれる先輩が、真面目な顔して上司に意見しているからオロオロしている。
「オレと飛翔もカズヤと別方向から探すから、ユキは事務所に残っといてねー」
またニコニコとした顔に戻ったルイが、手をヒラヒラとしながら飛翔を連れて事務所から出て行った。
それから暫くして真里からの通信が入り、自力で聖華を制圧したらしい内容に、ユキは安堵しながらも驚いていた。
いくら相手が非戦闘タイプの聖華とはいえ……真里が直血悪魔でも、悪魔になって二日目で齢二百歳の悪魔を制圧するというのは、正直言って出来過ぎである。真里の戦闘センスに脱帽した、ルイの見立ては正しかったのだ。
同時に自分が固定観念に囚われていたことに気づく、真里を護らなければいけない、真里はまだ若い、自分が支えなければいけないと……そう決めつけるのは真里を侮っているに等しいという事に。
「マジか……」
いずれ自分をも凌ぐ悪魔になるかもしれない……と、転移陣を踏みながら、ユキは思わず口元が綻んだ。
ルイは伊澄を連れて維持部隊の事務所に戻った、カズヤは一足早く真里の捜索へ繰り出し、イラついた様子でユキだけが待ち構えていた。
「い~ず~みぃ~!」
「ひっ!」
伊澄はユキのあまりの剣幕と圧の強さに、自分より小さくて歳も若いルイの後ろに隠れる。サイズ的に全く隠れられていないのだが……。
「そんなにピリピリしてたら説明もできないよー?」
まぁまぁ、とユキをなだめるようにルイが執り成し、ユキは一度周囲に振り撒いていた剣呑な空気を納めた。
「で、何があった?」
ユキに事情説明を促され、伊澄はおずおずとルイの後ろから出てくると、懐に入れていた四つ折りに畳んだ白紙を開いた。
「これを見ながら口論になったと聞いているが、閲覧制限がかかったのか真っさらになっている」
差し出された白紙を手に取り、ユキが眉をひそめながら紙に手をかざすと、更に眉間にシワが寄った。
「真里の情報書類だ……一年前から閲覧制限を掛けているはずだ、なんで管理課に」
(……魔王様のイタズラだろうか、これをやりたいが為に真里を管理課の配属にした?)
「この紙はいい、真里はどこに行った?」
「口論の末、出て行った聖華を追いかけたようだ……」
「お前は何してたんだよ」
「うっ……俺はその、組合会がトラブって呼び出しが」
目玉が右往左往する伊澄をギロッと睨みつけて、ユキは一歩伊澄の方へ近づく。ユキのプレッシャーに慣れているルイでさえも、流石にたじろぐ程の重圧に場の空気が支配されたところ……。
ガラッ
「ただ今戻りゃっしたー! ってなになに!? なんでそんな怖い顔してんの!?」
と、空気を読まない男、飛翔が事務所へ帰ってくる。今回はファインプレーであった、ルイは珍しく飛翔にグーサインを送る。
毒気を抜かれたユキがはぁーとため息を吐いた。
「俺が知ってる聖華の持ち家は全部確認したが居なかった、伊澄は聖華が行きそうな場所に心当たりはないのか?」
「そんなの俺よりお前の方が……」
「お前なぁ、いつまでそうやって卑屈になってるつもりだ! 迎えに行ってやろうとは思わないのか!」
ユキは心底呆れていた、伊澄と聖華を二人まとめて悪魔にしてから二百年……二人はずっと平行線で交わろうとしないのだ。お互いを想いあっているのは見ていればわかる、いつまでたっても素直にならないのは何故なのか。
「俺が行くより……聖華はユキが迎えに来る事を望んでる……アイツはお前がいないとダメなんだよ」
そんな事を言いながら、自嘲するように苦笑いする伊澄にユキは顔をしかめた。
「お前が真里の事を大事にしてるのは分かってる……分かってるが、聖華とも……続けてやってくれないだろうか……アイツにはお前が」
「ふざけんなよ! お前が勝手に諦めた願望を俺に押し付けるな!」
頭にきたユキの剣幕に、伊澄がビクッと反応する。
言い合いを始めた二人に気圧されて、じわじわと事務所の隅に退避したルイと飛翔は、黙ってごくりと息を呑んだ。
「テメーはいつまで逃げるつもりだ! これからも聖華と向き合うつもりがないなら、さっさと輪廻に還れ!」
「……——っ!」
「真里に何かあったら、俺は聖華とお前を消すからな……死ぬ気で探してこい」
ユキがスラっと爪を刃の様に長く変形させて、伊澄の首元に充てがった。伊澄は二歩後退り、顔面を真っ青にして事務所を後にした。
「え、マジで何があったの!? そんな怒ってるなんて珍しいじゃん……」
「……見た目ほど怒ってるわけじゃない、アイツが腹括らないからケツ叩いてやっただけだ」
恐る恐る聞いてきた飛翔に、ユキが手元を元に戻しながら振り返った。
「それでも怒ってないわけじゃないね、プレッシャーがいつもより鋭くて怖いよ、そんなに真里が心配?」
目つきの悪さを隠すためいつもニコニコとした目元を崩さないルイが、一切笑みをたたえない真剣な顔でユキを真っ直ぐに見据えた。ルイがこういう顔をするときは、冗談抜きの話をしようって時だ。
「何か言いたいことがあるのか?」
「ある、もう少し真里を信じてやれよ」
ルイが少しダボつくズボンのポケットに両手を突っ込む。
「ユキは心配しすぎだ、真里はアンタの眷属なんだろ?」
「今どこに居るのかも分からないのに、心配するなっていうのか」
「所在を把握してないと不安なのか? 大切にするのと過保護なのは違うだろ、真里はそんなに弱くないと思うよオレは」
「……」
普段カズヤからの過保護な態度に不満があるらしいルイからの意見だ、ユキはそれを無視するわけにはいかなかった。
話についていけない飛翔は、いつも冗談と悪ノリしてくれる先輩が、真面目な顔して上司に意見しているからオロオロしている。
「オレと飛翔もカズヤと別方向から探すから、ユキは事務所に残っといてねー」
またニコニコとした顔に戻ったルイが、手をヒラヒラとしながら飛翔を連れて事務所から出て行った。
それから暫くして真里からの通信が入り、自力で聖華を制圧したらしい内容に、ユキは安堵しながらも驚いていた。
いくら相手が非戦闘タイプの聖華とはいえ……真里が直血悪魔でも、悪魔になって二日目で齢二百歳の悪魔を制圧するというのは、正直言って出来過ぎである。真里の戦闘センスに脱帽した、ルイの見立ては正しかったのだ。
同時に自分が固定観念に囚われていたことに気づく、真里を護らなければいけない、真里はまだ若い、自分が支えなければいけないと……そう決めつけるのは真里を侮っているに等しいという事に。
「マジか……」
いずれ自分をも凌ぐ悪魔になるかもしれない……と、転移陣を踏みながら、ユキは思わず口元が綻んだ。
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